【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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3_ロックオン

「あいつ来てっかな〜……おっ、朝からやってんのか! 偉い偉い! さて、どんなもんか──」

 

 訓練場にレイジがやってきて惨状を目の当たりにした瞬間、ハシュアーも同時にレイジの入室に気付き、お互いに声を荒げた。

 

「遅えよ! どんだけ待たせる気だよ!」

 

「早えよ! いつから来てんだよ!」

 

「もう腹減りすぎて一周回って腹減ってないぐらいやってるわ!」

 

「いや、朝って言ったよな!?」

 

「「…………」」

 

 レイジはドン引きした。

 やる気に満ち溢れているとか、そんな生易しい言葉じゃ表現できないバケモノに出会ってしまった気分だった。

 

「俺は絶対に悪くないからな! ちゃんと朝って言ったし! そもそもお前、筋肉痛とかないのかよ!」

 

「寝たら治った」

 

「んなっ……レベルはどうなってんだレベルは!」

 

「レベルなんて関係ない、こんなの普通だよ」

 

「そんなわけあるか! 人間は──」

 

 グキュルルル、と露骨なほどに主張したハシュアーの腹の虫。

 

「流石にお腹減った……」

 

「さっき腹減ってないって言ってただろ」

 

「嘘」

 

「はあ……まあいいや、さっさと飯食ってこい」

 

「はーい」

 

「──ったく、わからんガキだな…………ん?」

 

 ハシュアーが去った部屋で、妙なものを見つけた。それは先ほどまで武器を叩きつけていただろう的。昨日も同じように酷い目に合わせていたが、今日はそこまで破損が見られなかった。

 

「手加減でもしたのか? だけどこの跡…………盾か」

 

 試しに、先ほどまでハシュアーが握っていた盾を跡に合わせるとピッタリとハマる。

 

「シールドバッシュの練習か? 早えだろ、どう考えても」

 

 盾の本領は守る時に発揮される。そして武器で相手を傷つけるのが想像よりも難しいのと同じく、盾で身を守るというのも容易ではないのだ。

 

「盾は本職じゃねえからなあ」

 

 背負うハルバードが示す通り、彼はパーティー内において遊撃役、あるいは攻撃役に専念する役割を担っていた。そういったことが得意なのは彼のパーティーメンバーであり、今はどこをほっつき歩いているのかわからない。

 

「まあ……役割はしっかりこなしますよっと」

 

 あんな小さな子供が酒場で絡まれず食べられるのかと唐突に気になり、やってきたばかりの廊下を逆戻りして酒場に顔を出す。いつも通りの喧騒──ちょうど探索者たちが依頼を受注する最大ボリュームの時間帯なので座っている人間よりも立っている人間の方が多い。

 

「…………」

 

 ハシュアーはそんな連中を面白そうに見ながら、カウンターの端っこで朝ごはんを食べている。モンスター肉ではなくて人工肉を食べているのは、メニューが異様に高くて、一番安い人工肉ステーキでないと頼めなかったのだ。

 

「世知辛いねえ」

 

 訓練場と酒場の間の通路は職員も利用している。その前に突っ立っていたレイジは案の定、声をかけられた。

 

「レイジさんそこ邪魔なんで退いてください」

 

「あ、めんご」

 

 通りがかったのは出勤してきた方目七緒。

 同僚に仕事の邪魔をされては敵わないと、背中を押した。

 

「今日も別嬪さんだこと」

 

「そうですか〜」

 

「つれねえなあ」

 

 受付嬢という役職の例に漏れず彼女は顔が良い。レイジもソレなりの経験を経てきたが、探索者と比べても彼女は見劣りしなかった。

 しかし、仕事中愚痴る割にはお誘いなど全く乗ってくれない。

 

「おかたいんだか理想が高いんだか」

 

「至極真っ当な希望を持つのは当然の権利です」

 

「さいで」

 

「ふぅ……よし、やるぞ!」

 

 群がる探索者は仕事を求めて彷徨うゾンビだ。放置しては全てが滞る。あれをまた今日も捌くのか……といううんざりとした感情は一瞬だけ。すぐに切り替えると笑顔で受付に向かった。

 

「いい女なのに勿体ねえぜ──ええ……」

 

 さて、と視線を移した先ではハシュアーが探索者に絡まれていた。絡んでいるのは、まだ若い探索者のパーティー。彼の頭をポンポンと叩いて、意地の悪い笑みを浮かべている。

 

「初っ端から運悪いな、あいつ」

 

 しかし、ハシュアーはそんなこと特に気にするそぶりを見せずステーキを口に運ぶ。髪を引っ張られたりするのもお構いなしだ。

 それを見て、レイジは助けようとは思わなかった。

 探索者はああいう連中の集まりだ。ハシュアーの熱量は認めるが、今の状況で1人でも対応できずに折れてしまうようならソレがいい。

 むしろ、そっちの方がいい。

 探索者、モンスターなんて関わってもいい事はないのだ。

 

「……にしてもしつこいなあいつら」

 

 いつまでもハシュアーをイジリ、おそらく大して面白くもないだろうことで大笑いしている。何をそんなに笑っているのかが気になって、コッソリと背後のボックス席に座った。

 今は多くの連中が仕事を受ける時間なので、席も空いている。突発的にでも座る事はできた。

 そば耳立てると、何を話しているのかが聞こえてくる。

 

「あの嘘つきに連れてこられて、お前もかわいそうだな〜!」

 

「お母さんはどこ行ったんでちゅかあ?」

 

「……おい、いい加減なんか言えよつまんねえな!」

 

 男女3人で人数は圧倒的不利、しかも全員体格は上。

 そんなのに囲まれたら、大人だって怖い。

 

「……もぐ」

 

 ハシュアーは何でもないような顔でステーキの最後のひとかけらを食べ終えた。

 

「無視してんなよ!」

 

「っ!」

 

 頬を張られて、流石に視線を返す。

 一瞬止まった咀嚼を思い出したかのようにし直すと、ごくりと飲み込んだ。

 

「……何の用? 食べてるんだけど」

 

「もう食べ終わってんじゃねーか!」

 

 その通り、ハシュアーが返答を寄越したのは全て胃の中におさまってからの話だった。それまでは、巌の如く揺るがずに全てを受け入れていた。しかし、先ほど言われた罵詈雑言の中には聞き逃せないものもあった。

 

「カガミさんが嘘つきって、何の話?」

 

「知らねーの? うわー、だっせー」

 

「?」

 

 内容がうまくつながらず、首を傾げる。

 

「カガミのヤローは嘘ついてレイトくんとかシエルちゃんを連れてんだぜ。みーんな知ってる」

 

「どんな嘘?」

 

「レベル50なんて大嘘こいて、よくヘーキな顔でほっつき歩けるよな。俺だったらダンジョンでモンスターに自分から喰われに行くぜ。恥ずかしくねーのかな」

 

「狡いよな、本当ならシエルちゃんたちはもっとマシなパーティーになってるはずなのによ」

 

「だからよ、カガミには近づかねえ方がいいって言ってんだよ」

 

 ハシュアーは、何も知らない哀れなガキとしてカウントされてしまった。先ほどまでとは随分と対応が違う。

 そのまま無難に頷いていれば何事もなく終わるだろう。

 しかし──

 

「カガミさんは嘘つきなんかじゃない」

 

「……あ?」

 

「お前いまなんつった?」

 

「嘘つきのカガミがなんだって?」

 

「イーヴァ様も言ってた、カガミさんは嘘なんかついてない」

 

「イー……なんだあ?」

 

「こいつ、いかれてんのか?」

 

 おいおいとレイジの額を汗が流れた。

 ──暑いわけではない。こんな真冬の終わりに暑さで汗など流れるわけがない。

 

「おいチビ、もういっぺん言ってみろ」

 

「チビって言うな!」

 

「お・チ・ビ・ちゃ・ん」

 

「…………お前みたいな奴は、神器になんて絶対にたどり着けない!」

 

「はあー?」

 

「カガミさんを悪く言うな!」

 

「……おい、あんま調子乗んなよ」

 

「う゛っ……」

 

 椅子を蹴飛ばされて尻餅をついたハシュアーは首根っこを掴んで持ち上げられた。

 

「らっ!」

 

「がっ──!?」

 

 全力で地面に叩きつけられ、肺の中にあった空気が全て外に出た。

 

「あ……ぐっ……んぶっ!?」

 

 顔面に躊躇なく叩き込まれた爪先。

 すぐ後には赤が地面に散り、3人分の嘲笑が彼を包む。

 

「っ……!」

 

 痛みで地面を転がった少年──当然、ここまでともなれば周囲も彼らのことに気がつく。3人がかりで1人の少年を襲っているのだから、気付くなという方が無理な話だ。

 

「……なんだガキどもの喧嘩か」

 

 しかし、届かない。

 武器を抜いていないのならばそれは死に直結するものではない。つまり、治せるものだ。

 蹴りを入れられたのがガキなら蹴りを入れたのもガキ、低レベルで力も弱い雑魚同士のじゃれ合いだ。バカなガキがまた1人やってきた──そんな程度の反応でしかなく、興味を失って視線を逸らす。

 中にはハシュアーが以前パーティに入れてくれないかと話をした探索者もいたが、そこに首を突っ込もうとまではしない。

 

「しゃあねえな……」

 

 のそりと立ち上がる。

 

「──おい! そこまでだ!」

 

 朝ごはんを食べにきただけでボコボコにされている不甲斐ない生徒の元へ教官がやってきた。

 

「……おい、おい聞いてんのか! 全然聞いてねえな! おい!」

 

「んだよ! ──あ」

 

 殴るのに夢中で全然話を聞かない少年の肩を掴むと、形相を歪めて拳をレイジの方へ向けてきた。しかし、背負っているものを見て顔色が変わる。

 

「俺の言いたいことが分かるな?」

 

 無言で何度も頷く。

 

「よし、行け」

 

 慌ててその場を去った3人。明らかな格上に手出しをする事は避けるだけの知能は持ち合わせていた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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