【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「いってえ……クッソォめっちゃ殴りやがって……いでっ!」
「──意外と大丈夫そうだな」
「あーいって……くっそ、あーもう……いってえよお……」
痛い痛いとうめくハシュアーは、痛みで泣きそうな様子はあるもののその顔つきは負け犬のソレではなかった。地面に座り込んだまま顔をペタペタと、傷に指が触れるたびに手が震える。
「はぁ……」
「おい」
「……え?」
「先行ってろ」
訓練場には2人、中で武器を試している探索者がいた。ハシュアーが傷だらけの顔を晒したまましばらく待っていたところ、レイジは渋い顔でやってきた。他の探索者には目もくれずに回復薬を取り出し、ソレを布に染み込ませるとハシュアーに渡す。
「…………?」
「そこは分かれよ」
「……いてっ」
ちまちまと、怪我をした部分に当てて治していく。
その流れでレイジは口を開いた。
「まあ、あれが──というか、これが探索者だ。思ってたのとは全然違うだろ」
「ちげえ」
「怖くなったか?」
「…………」
むっつりと黙り込む。
やはり、一方的な暴力というのは恐ろしいものだ。
子供にとっては尚更。
「やめるなら今のうちだぜ」
「……やめねえ」
「続けたらまたあいつらに絡まれるかもしれない。その時は俺は止めないし、もっと酷い目に遭うかもしれねえぞ」
「っ……」
「はぁ……悪い事は言わねえからやめとけって。あんだけ何かに打ち込めるんだからよ、探索者じゃなくてちゃんと学校行って、いいところ勤められるようにしろ」
「…………それでもやめない」
「なんで?」
「誓ったから」
「はあ?」
「とにかく、辞めない。辞めないったら辞めない」
頑とした声。
やや顔面は下向きであるものの視線は強かった。
「わーったよ……辞めねえんだな、じゃあこの先どうなっても知らねえからな」
「ちゃんと覚悟してる」
「鼻血垂らしながら言ってもカッコよくないぞ」
「……」
「治し終わったら始めるけど…………スタミナは余ってんだよな?」
「うん」
所詮は死なない程度の力で表皮を殴られただけ。回復薬があるので表皮のダメージはダメージになり得ない。すぐに身体を治し終え、酒場から引きずってきた椅子に座り込んでいたレイジに話しかける。
「もう、大丈夫」
「んじゃあ始めっか」
「はい!」
「──その前に、まず!」
「っ……?」
唐突な大声にびっくりしたのはハシュアーだけではない。数人しかいない訓練場の利用者もビクッと肩を震わせた。利用者は誰もが自信なさげな様子であり、いかにも初心者ですという装備の出立をしている。
そんなひよっこ達の反応をよそに、人差し指をビシッとハシュアーへ。
「朝っつったら朝に来い!」
「わ、わかってるし……」
「分かってないから早く来たんだろ」
「……あ、明日からは同じことはしない」
「当然だ。いいか? 朝に来いっつったらちゃんと夜は寝て、朝ごはんも食べて、準備をきちんと終えてからくるもんなんだよ。それをお前は人が寝ているうちにやってきて、基礎のキの字もなってないような状態で武器を振るうんじゃねえ!」
「はい」
「素直なのはいいけど昨日も返事だけは良かったからな! あんま信用してないぞ! いいか! ただでさえお前は身長が低いんだから、もっと大きくなるために夜はちゃんと寝ろ!」
「…………」
「なんでそこで頷かねえんだよ!」
やたらと反抗的な目つきなったハシュアーにたじろぎつつ、意見は変えない。
「というか聞いたぞ! お前が来た時、アオイちゃんがまだいた時間だったらしいな!」
「アオイ…………ああ、あの子か」
「今度会ったらちゃんとお礼言うんだぞ!」
「はい」
「……ハイじゃあ次、俺が来るまでに何をしていたか正確に教えろ。キリキリ答えろよ〜、時間が勿体無いからな」
「え……武器振ってましたぁ」
ドヤ顔。
鼻っ面を擦りながらのそれに、言われた側のレイジは肩を落とした。
「あのさあ、分かってんだよそれは」
「へへっ」
「褒めてないぞ〜……うん天然だわお前」
改めてハシュアーが行なっていた無意味な練習の内容を聞くと、顔を押さえてしゃがむ。
「昨日それだけやらせたのがまずったのか……?」
「いいだろ別に!」
「あのな? 盾を敵に叩きつけるのは確かに手段としてありだけど、それをメインに据えるなんて何の意味もないんよ」
「なんで?」
「その理由もすぐに分からないんなら尚更そんなことを練習する意味はないってんだよ。まあ一応教えてやる、わかりやすくな」
「…………わっ」
頭を下げると、右の逆手で柄を握り締める。手の中で転がされたハルバードは幾度か回転を見せながらレイジの身体の前まで持ってこられ、その威力を振るわずとも分からせた。
分厚く、よく研がれた刃は松明の火を受けて紅く輝き、軽くハシュアーの首に当てるだけで容易く落ちるだろう。
「…………」
身体を軸に振り回し、振り抜いた風切り音だけでハシュアーの髪が巻き上げられる。舞のようにすら見える動きは、この重くて扱いづらい武器をそれだけ習熟してきた証だった。いつの間にか、ハシュアーだけでなく残りの2人魅入るほどに洗練されている。
「これが武器だ。知っての通り、探索者は武器を使ってモンスターに攻撃をする」
「ほぉん」
当たり前すぎてまともな返事を返す気にならなかった少年は、ボケたような顔だ。
「盾は攻撃する道具じゃない。構えて、相手からの攻撃に耐えるためにある」
何も握っていない左手で盾を持っているが如く構えると、何かの攻撃が飛んできて耐えているかのようなジェスチャーを見せる。
「攻撃に耐えるための道具だから確かに盾は硬い。こいつで殴れば、当たりどころが良ければダメージは入るかもしれない……だけど!」
しかし、両の人差し指でバッテンを作った。
「ダメですっ!」
「「「えー!」」」
「増えてる……まあいいか」
本来ならば金を払って受けてもらうものの筈だがノって来たのでこのまま話してやるか、と今度は盾をしっかりと握った。
「盾は前に向ける、当然だな? だけどその理由を話せる奴はいるか?」
「はい!」
「はい、そこの……嬢ちゃん!」
「硬いからです!」
「次! お前!」
「強いからです!」
「……次!」
「…………」
ハシュアーは答える前に盾をしっかりと見ていた。
「ハシュアー?」
「…………盾は受けるだけ、だ…………盾を持って支えるのは……俺たち……?」
「おっ」
「……正面から振り下ろさないと力が入らないから!」
「何でそこで振り下ろすって話になるんだよ!」
「でも槌はそうだし……」
「いま盾の話してんだろうが! 槌はどこから来たんだよ! 見ろこれ、どこにハンマーの要素があるんだ! どう見ても平べったいだろ!」
「落ち着いて」
「誰のせいだよ! …………はぁ、はぁ……」
探索者にあるまじき、会話のみで息切れをするという稀有な体験。
「いいか! 正面に構えるのは、相手からの攻撃をしっかりと身体で受け止めるためだ!」
「……盾じゃないの?」
「ないの?」
「ないのー?」
「じゃあハシュアー、試しにメイスで殴ってみろ」
適当に、守る気など全くないような構え方で指示を出す。
「え、でも……」
「いいから、お前から何されたって怪我とかしないから」
「ええ……」
「じゃあそっちの、名前分からんけどお前」
もう1人の少年はオーソドックスな直剣を握り締めた。緊張で手が白くなるほどに力がこもっているのを見兼ね、背後に回ると肩を揉む。
「そんな強く持ってちゃ当たるもんも当たらねえよ」
「は、ひい!」
「もっと力抜け! 女を抱くときくらい優しく──いや分からねえか……とにかく、そんなに硬くなってたら盾を殴ったお前の方が怪我すんぞ」
ハシュアーは、彼が面倒見のいい性格をしているということに気が付いた。
「──よし、一旦それでいい。今だけの話だけど、とりあえずそれで振ってみろ」
「……うわあっ!」
半ば悲鳴を上げながら剣を振るった。弱々しく、腰も入っていなかったが盾の端っこを捉え、男の手から離させることに成功した。
「や、やった!」
「……とまあ、適当に盾を持ってるとどうなるかってのが分かったか?」
そこに抗議の声が上がった。
「適当に持ったら落ちるに決まってるじゃん」
ハシュアーだ。
そんな当然のことをさも偉そうに言うなとジト目で主張している。しかし相対するのは熟練の教官、その程度の反論など恐るるに足らぬと舌を打った。
「ちっちっち、分かってねえな」
「なにが」
「じゃあお前、盾をちゃんと持つってどういうことか見せてみろよ」
ポンと投げ渡された盾。
見せてみろと言うなら見せてやると、朝までそうしていたのと同じように構えた。
その姿を見て、レイジは小馬鹿にしたように首を振る。
「やれやれ」
「なんだよ」
「だからダメなんだよ」
ハシュアーは直立に近い体勢で盾を構えていた。身体の前に持ち、一見すると十分に耐えられるようにも見える。そこにツカツカと歩み寄ったレイジは足を上げると、盾に足裏を合わせた。
「うわっ、わっ」
「そら、潰れちまうぞ」
「くっ……!」
足裏から体重が伝わるにつれてハシュアーの身体が崩れ、段々と右足が後ろに下がっていく。
「う、うあ……」
「そーれ」
やや意地の悪い笑み浮かべる成人男性。
残された2人は口をへの字に曲げた。
しかしハシュアーはそれどころではない。重さに耐えるのに精一杯でリアクションを取ることなどとても出来なかった。
「その体勢を保てよ」
「へっ? ──っ!?」
「キャアッ!」
「うわだあっ!」
いきなり解放されたかと思うと、激しい衝撃が襲いかかった。その光景を目にした少年少女は恐怖に顔を逸らし、尻餅をついて無様な姿を晒す。
「…………ゴクリ」
唾を飲み込む音がはっきりと聞こえた。
異様に静かになった訓練場内で、ハシュアーは目を大きく開いて眼前の光景を収めている。
レイジは詰め寄り、ドスの効いた声で囁いた。
「分かったか?」
「……ハイ」
振り下ろされた斧。いつの間に手にしていたのか、その凶悪な一撃を受けても体は揺るがなかった。
「仮にお前がしっかりと防御してなきゃ、腕が飛んでたぜ」
ハシュアーの左腕は衝撃で痺れ、しばらく使い物にならなさそうだった。それでも、盾は固定しているおかげで床に落とすことはない。
「くっ……」
「だ、大丈夫!? ……あの、やりすぎじゃないですか!?」
「ならお前が受けてみるか?」
いまだに握っている斧。ハルバードと比較すればよほど小さいが、人を殺すには十分すぎる凶器だった。そんなものを受けてみるかと言われて頷けるのはマトモではない。
「ハシュアー、盾を使うってどういうことか分かるか?」
「…………」
「よし、それじゃあ今から連続で打ち込むから全部防御しろ」
「え……で、でも腕がまだ痺れて……」
「怪我しなきゃいいな!」
「ちょ、待っ──」
研修生(レベル6〜10)が受けるにはあまりにも厳しく辛いレッスンが始まった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない