【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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5_見なよ、俺/私の師匠を……

「ただいま……」

 

「…………」

 

「あ」

 

「……おかえり」

 

「うん」

 

 気まずさゲージがいきなり跳ね上がった。レイトは何処に消えたのか、ボコボコにされて帰ってきたハシュアーを出迎えたのはシエル。扉の開く音に反応して廊下に出てきた彼女は、帰ってきたのがハシュアーだということに気付くとしばらく無表情で見ていたが、やがて気怠そうにおかえりを言った。

 そのまま部屋に引っ込むかと思えば、部屋の扉を閉めてリビングの方へ歩き出す。

 

「レイト…………さんは?」

 

「買い物」

 

「夕飯?」

 

「多分」

 

「たぶんって……」

 

「だって寝てたから」

 

 この少女、家主が買い物に行くまで寝ていたらしい。ハシュアーは微妙な顔をしたが、自分も1人だけ特訓に行っていたことを思い出した。あまり強く言える立場でもないのだ。

 

「何してきたの」

 

「特訓」

 

「ふーん……どんなこと?」

 

「え?」

 

 しばし見つめる。

 

「なに?」

 

「……そういうの興味あったの?」

 

「どういう意味」

 

「全てに興味なさそうな顔してるから」

 

「…………」

 

「うっ」

 

 絶対零度の視線とはこのこと。

 横目に睨め付けるシエルの表情のなんと寒々しく、1人に向けられるにしてはなんという量の嫌悪感が込められていることか。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「……ふぅ、それで?」

 

「ええと……俺は今日──」

 

 レイジという教官がいかに悪辣で、いかに容赦がなく、いかに意地が悪いか。そして探索者という人種がどれだけ粗野で、どれだけ適当で、どれだけ怠惰か。そして同時に、武器を振ることの楽しさを嬉々として話した。

 

「そんでそんで、俺が盾を構えたら横からパンチが飛んできたんだ! そこにすかさず盾を合わせてこう弾いてやった! あれは痛かっただろうなあ!」

 

「…………」

 

「最終的には三人がかりで盾を持って背中を合わせてたんだけど、そっちにいると思ったらあっち行って、あっち行ったと思ったらこっちきて、耐えるしか出来なかった!」

 

「そう」

 

「楽しかったなあ……」

 

「ヒナタ達は?」

 

「?」

 

「ヒナタ達も教えるの上手いけど、2人には教えてもらわないの」

 

「うーん……」

 

 そう言われても、というのがハシュアーの正直なところだ。相性の話は一旦わきに寄せるとしても、日向とかいう女2人の姉妹は対人? に特化しているという話を聞いた。そもそも人間相手に武具を操る術を鍛えるというのがよく分からなかったが、自分がやりたいのはモンスターと戦うこと。戦って、倒して、強くなって、世界で一番強い男になって──

 とにかく、そうなることだ。人間と戦いたいわけじゃない。

 

「あんまりかなあ」

 

「…………」

 

「……なんか悪い?」

 

 シエルはそれを聞いた途端にブスッとした顔になる。

 

「雑魚のくせに」

 

「シエルだってあんま変わらねえだろ!」

 

「私は2桁、あなたは1桁、その差は圧倒的。普通わかるよね」

 

「あんまり変わらないのは一緒じゃん……まあなんでもいいけどさ、結構ちゃんと教えてくれるっぽいから馬鹿にすんのやめて?」

 

 それは、真顔だった。

 児心ながら、ふざけていいタイミングとふざけてはいけないタイミングを理解している故の表情。

 ──俺の先生、バカにすんじゃねえ! 

 と、関わって2日目ながら信頼のおける相手であると思ったハシュアーの猛攻だ。

 

「……単純すぎ。探索者をすぐに信用するなんて、バカのやること」

 

「レイトさんにもそういう態度で接してんの?」

 

「…………別に、関係ない」

 

「ガキじゃん」

 

「ガキはお前」

 

「なんでカガミさんはアンタみたいな奴を拾ったんだろ」

 

「…………拾われてない」

 

 冷たい雰囲気の漂う2人。

 静かに帰ってきていたレイトは冷や汗が止まらなかった。廊下から片目だけ出して様子を見ているのだが、リビングで立ったまま、どちらも一歩も引かずに睨み合っている。

 

「な、なんであんなに空気悪いんだよ……!」

 

 レイトにとって、仲間はとても大事なものだ。シエルのことは当然だし、まだ出会って間もないハシュアーの事もこれから一緒に強くなっていきたいと思っている。それなのに、2人きりにした途端に喧嘩するようじゃあお互いを任せていられない。

 探索者にとって最も恐ろしいことは、モンスターでもトラップでもなく仲間の裏切りなのだから。

 

「仲良くしてよお……」

 

 切なる願い。

 リーダーとしてこのパーティーを引っ張っていく心づもりのレイトだが、こうも険悪なようではやっていけるか不安になっても仕方がない。おおかたシエルの言い方が悪かったのだろうと当たりをつけてはいるものの、無礼をほぼ全て流してくれるアキヒロと違って、ハシュアーは全てに反逆する。

 

 ──かたり、と扉に買い物があたった。

 

「あ」

 

 グルンと2人の首がこちらを向く。

 

「「…………」」

 

「た、ただいま〜…………あはは…………はは、は」

 

「「…………」」

 

「……んぐ……ご、ご飯でも食べる!?」

 

「お腹空いてない」

 

「あ、俺は食べる」

 

「じゃあ、ハシュアーはご飯作るの手伝ってもらってもいいかな?」

 

「はい」

 

「シエルちゃんは……」

 

「ふん」

 

「あ…………」

 

 シエルは玄関から出て行き、姿が見えなくなった。

 

「──大丈夫かな、シエルちゃん」

 

「竪穴に迷い込んだわけでもないんだから心配いらないよ」

 

 料理をしながらでも、1人で外をほっつき歩くシエルのことが気になっていた。最近はエリュシオンを名乗る謎の団体がそこら中にいるのだ。日向からも注意されているはずなのだが。

 

「ヒナタさん達からあんまり出歩くなって言われてるのに……」

 

「なにそれ」

 

「なんていうか、最近はあんまり治安が良くないんだよね」

 

「ふーん」

 

「…………」

 

 手は止めないが、ソワソワと落ち着きがない。数分に一度は帰ってこないかと外を気にして、鬱陶しくすらあった。

 

「あのさ、そんなに心配なら見てきたら?」

 

「でも……」

 

「俺も、ちょっと言いすぎたし」

 

 ハシュアーとて、母の姿を見て育った。

 料理くらいひとりでできるもん! 

 

 

 ──────

 

 

「シエルちゃん……」

 

 冬の末とはいえ、まだ雪は降っていた。雷季に入ってからも足元にある大量の雪が溶けるまではしばらく時間がかかる。だからこそ、シエルの足跡を追うのは簡単だった。

 

「こっちだ」

 

 中心街の方。

 出かけたところで彼女は金なんか持ってない。何をする事もできないだろう。

 むしろ、シエルのような美少女が街に1人でいたら何をされるかわからない。心配で全力疾走したくなる気持ちを抑えて、着実に足跡を追った。

 

「──シエルちゃん? さっき見たね、あっちの方だよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 一人。

 

「──わたしゃ歩いてくところは見たけど、どこに向かったかまでは……それにしても元気なさそうだったけど、なんかあったのかい?」

 

「大丈夫です! ありがとうございます!」

 

 また1人。

 

「──あっちの店入ってったような気がするぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

「おう! シエルちゃんによろしくな!」

 

 丁寧に聞き込みを続けて辿り着いた先。

 

「ここか……」

 

 とある茶店でシエルはぼんやりと菓子を齧っていた。シエルにこの街を案内した時に入ったのがキッカケで、ときたま訪れる場所だった。チリンと軽い音を鳴らす扉を潜り、1人で座るシエルの後ろに立った。

 レイトが来たのには気付いているだろうに、無反応だ。

 

「……シエルちゃん?」

 

 その瞳の端にはなぜか水滴が一滴ずつ。

 

「ど、どどうしたの?」

 

 慌ててそばに跪く。

 

「どこか痛いの?」

 

 しかし、唇を噛むばかりで答えようとしない。

 もしかして、ハシュアーの言葉がそれほどに堪えていたのだろうか。一から十まで聞いたわけではない彼には、そこの如何をはっきりと突き詰めることはできなかった。

 少なくとも、あの程度のやり取りで泣くというのは、これまで見てきたシエル像と合致しない。

 

「シエルちゃん……」

 

 レイトは幼馴染達のことを思い出した。

 こんな時、昔の自分はどうしていただろう。

 

『ごめんね、ごめんね』

 

『知らない!』

 

 ──そうだ、ひたすら謝るしかできなかった。何か自分が悪いことをしたんじゃないかと思って、何が悪いのか見当をつけることすらせずにただ、ごめんねと言うことしかしなかった。

 

 現在、知恵のついたレイトはこれが自分の謝るようなことじゃないと分かりきっていた。それだけに、どうすればいいかがわからずに困りきりだ。

 

「…………」

 

 とりあえずということで隣に座ったものの、シエルの顔は浮かばない。

 

「レイトくん」

 

「……あ、はい」

 

 声をかけたのは茶店を経営している老人だった。レイトはやわらかく手招きをする彼の導きに従って近くへ。

 趣深く白髭を生やし、さりとて下品でない整った風貌を保つ老翁。優しい目つきで、孫を見るかのような瞳で。

 

「レイトくん」

 

 ゆっくりとした口調は、染み入るように少年の心へ入ってきた。

 

「彼女は、ここに来た時からああして辛そうにしていたんだ。いつもはもっとホンワカとしているのに……何があったんだい」

 

「実は……」

 

 レイトは、最近やってきた同居人と口喧嘩をしているところを見たと老人に伝えた。身内ではない、全くの他人にこんなことを言って何になるのかという自嘲はあったが、アキヒロに言う時のようにすんなりと伝えることができた。老人が自然と言いたいことを汲み取ってくれると言うのも大きかった。

 

「……確かに、聞いた限りではその少年のせいではないようだね」

 

「はい……だからなんでかさっぱり分からなくて……」

 

「──少女というのは、猫のようなものだ。向こうが構って欲しい時はやってくるし、構ってほしくない時は勝手にいなくなる。こちらの都合などお構いなしだ」

 

「あはは……」

 

「だから、落ち着きなさい」

 

 イタズラな笑みを浮かべながら、慣れた手付きで甘いコーヒーを入れる。

 それをレイトへ差し出した。

 

「え……」

 

「飲みなさい」

 

「いや、でも、僕今日はお金が……」

 

「また今度でいいさ」

 

「……僕、探索者ですよ?」

 

「探索者かどうかではない。君がどんな人間かはちゃんとわかっているよ」

 

「…………じゃあ……ありがとうございます」

 

 もらったカップを両手で持って、溢さないように席へ戻る。

 シエルは相変わらず辛気臭い顔をしていた。

 

「……何か、あったんだね?」

 

 やはりレイトには、ハシュアーとのやり取りが彼女の心に傷をつけたとは思えなかった。だから、何かがあったとしたなら外に来てからなのだ。

 着衣に乱れはない。

 顔にも怪我はなく、どこかを庇うような動きもしていない。

 

「放っといて」

 

「放っとかないよ」

 

「……」

 

「行かせない」

 

 立ちあがろうとしたシエルの肩を押さえつける。その行動に、シエルは少々驚いていた。気弱な彼がそんなことをするとは思わなかったのだろう。

 

「どこか行きたいなら、ちゃんと家に帰ろうよ」

 

「…………」

 

「ハシュアーにも謝らないと」

 

「……別に私、悪くない」

 

「またそういうこと言って、ちゃんと仲良くしなきゃダメだからね? 何せ僕たちは、パーティーメンバーなんだから」

 

「…………」

 

「……そんなに嫌?」

 

「別に……あいつのことなんか怒ってもない」

 

「じゃあ、家に帰ろう?」

 

「…………うん」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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