【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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6_もちつもたれつ

 

「ただいくさっ!?」

 

「…………」

 

 2人が帰宅してまず感じたのは家から放たれる異臭だった。そして煙と、物が燃えている際に発される臭気が鼻を貫き、目にしみる。

 

「な、なにこれ火事!?」

 

 慌てて廊下を駆け抜けた。

 

「ハシュアー! 大丈夫?!」

 

「はぁぃ……」

 

「ハシュアー!」

 

 そこに身体をあったのは、涙目で鍋をかき混ぜ続けるハシュアーの姿。

 

「……なにをしてるの?」

 

 本当に意味がわからない光景を目前に、稼働停止しそうになる脳みそを必死に働かせて言葉を搾り出した。

 こうして煙が充満している今も、ハシュアーは何故か手を止めない。こんな臭い空間にいるのでその目には大粒の涙が溜まっているし、声も情けない感じで如何ともし難い。

 

「料理してます……」

 

「これが……料理……!?」

 

 全身に鳥肌が立ち、一歩下がる。

 

「切るところまではなんとなくできたんですけど、火をつけたらなにすればいいかわかんなくなっちゃったぁ……」

 

「と、とりあえず火を消そう! 火!」

 

「わ、分かった……イーヴァ様、どうか火を……」

 

 何故か祈り出した。

 

「いや、祈ってないで消さなきゃ!」

 

 慌てて火を止める。

 なお、鍛治師の工程に神への祈りを捧げるなどというものは基本的に無いし、火を消す程度のことで祈りを捧げることもない。

 

「な、なんか……火を止めたはいいけど変な匂いが鼻の奥に……しかも目がぐにゃぐにゃしてきた……」

 

 目を強く瞑っても耳を抑えても幻覚が収まらない。匂いもきつく、シエルは外に逃げてしまった。

 

「い、一体なにがあったんだ……!」

 

 魔女の工房さながらの様相を呈する室内から一旦脱出した。

 

「すぅーはぁー」

 

「ん゛ん゛っ、ん゛っ、ん゛っ」

 

 深呼吸をして、新鮮で綺麗な空気を肺に送りこむ。ハシュアーは喉につっかえるものがあるのか、しきりに空咳をついている。あのまま室内にいれば喉の調子がさらにおかしくなっていただろう。

 

「……あれっ!? なんかハシュアーの顔色がおかしい!」

 

「あ゛ぁ゛……う゛っ……おろろろろろ」

 

「ハシュアー!?」

 

 すでに室内に長時間いた影響か、顔を青くしたハシュアーは頭を揺らして胃の内容物を戻した。

 どうやらつまみ食いをしていたようだ。

 

「ごべんなざい……」

 

「大丈夫だから。ほら、水で口濯いで」

 

「がらがらがら」

 

 幸いなことに屋外なので、どれだけ吐こうが問題はなかった。

 

「はぁ……なんでこんなことに……」

 

 そう言いたいのはむしろレイトの方だった。何故料理をするというだけの事であんな珍事が巻き起こるのか。シエルを探しに行ってから1時間ほどしか経っていないにも関わらずこれとは、恐るべき才能が垣間見えたような気がした。

 

「…………疲れてたからじゃないかな?」

 

 お前、才能ないよ。

 そうハッキリと伝えるのはやめた。

 もしかしたら本当に疲労で調味料やらなんやら、入れるものを間違えてしまっただけかもしれないし。

 

「そうかな……そうかも……」

 

「とにかく、部屋の中の空気を入れ替えなきゃ」

 

 シエルは絶対に中に入らないと首を振った。具合が悪いハシュアーを行かせるわけにもいかないので、仕方なくレイト自ら窓を開けたり布をパタパタしたりする。

 

「うう、匂いが染み付いちゃうよ……」

 

 悍ましく蠢く鍋の中身。おそらくはモンスターの肉にキノコを入れたものだが、あんな形をしてはいなかった。

 念のために中身は焼却処分し、鍋も綺麗に洗って焦げは落とす。

 

「……戻った?」

 

 室内が綺麗になったところでシエルがひょっこりと戻ってきた。

 

「うん、戻ったよ」

 

「そっか」

 

「なんだかお腹が空いたような気がするな」

 

「私も」

 

 穏やかそのもののやり取り。

 ハシュアーと喧嘩していたことも、喫茶店でメソメソしていたことも忘れたかのような少女然とした表情だ。

 

「ご飯、作って」

 

「手伝ってくれる?」

 

「うん」

 

 ハシュアーがソファーでノックダウンしている中、食材の買い出しに行くとともに再度の料理をする2人。カタカタコトコトという料理音だけが室内で聞こえた。

 

「親指くらいの大きさでね」

 

「こう?」

 

「そうそう」

 

「ふーん」

 

 冬の終わりに食べるものとしてふさわしい、身体を芯から温めるスープを作って食卓に並べる。食材が根菜に偏りがちなのは冬だから仕方ないだろう。

 

「あったけえ……」

 

「なんもしてないくせに」

 

「うっ……ご、ごめんなさい」

 

 食材を無駄にしてしまったという罪悪感が、強く出ることを許さなかった。しかし助け舟も。

 

「シエルちゃん、だめだよ」

 

「…………」

 

「そうやって人を意味もなく悪くいうことはしないって約束したでしょ?」

 

「……意味なくない」

 

「言い訳しない」

 

 すました顔で叱ると、ヒョイパクとスープの具を口に詰め込んでいく。あの悪臭の後でも、美味しそうな匂いを嗅げば食欲というのは十分に湧いてくるのだ。

 

「お腹いっぱい」

 

「シエルちゃん、ここ付いてるよ」

 

「ん」

 

 育ち盛りの3人は多めに作ったはずのスープをあっという間に食べ尽くした。すでに空は暗がり、陽が身体を少しは温めてくれる日中と違って気温もだいぶ下がっている。外に出る雰囲気ではなかった。

 

「──よっす」

 

「ヒナタさん! どうしたんですか、こんな夜遅くに」

 

「私もいるよー」

 

「あ、早苗さんも!」

 

 言った通り、こんな夜遅くに2人がレイトの家を訪れたことはない。どういった事情があるのか聞こうと家の中に入れ、リビングへ。

 

「えーと……ハシュアー君は少し外してもらってもいいかな? ちょっと2人とだけ……」

 

 早苗の若干気まずそうな顔に、そういうことかと理解した。

 

「ごめんハシュアー、ちょっと他の人に聞かれたくない話なんだ」

 

「あ、はーい」

 

 とっとこと寝室へ消えていくハシュアーの背姿に、早苗は感心したように頷く。

 

「子供なのに聞き分けいいねー。あれもドワーフの特徴なのかな」

 

「さあ……でも、いい子なのは確かですよ」

 

 閑話休題。

 

「コマちゃんとの繋がりが消えた……!?」

 

「消えたっていうかすっごい薄まった感じなんだけど……レイト君達はわからない?」

 

「いや、僕はそもそも繋がりってやつを感じたことがなくて……」

 

 コマちゃんとの契約により信仰と力を捧げることになっている山田家。願いを叶えてもらった時から彼女らは身のうちに宿る何かを感じていた。正確な状態は掴めないが、少なくともそれがコマちゃんとの契約を果たすために重要なものだということは察していた彼女らは、それを殊更に嫌なものだとは感じていなかった。

 何せ、恐ろしい神であると同時に紛れもない恩神であり、もう1人の恩人であるアキヒロのペットでもあるのだから。

 そのコマちゃんと自分たちを繋いでいる何かが薄れていた。

 

「なんで繋がりが薄れたのか心配で、姉ちゃんが夜も眠れなくてな」

 

「そ、それはヒナタちゃんだって一緒じゃん! 昨日だって夜遅くまで──」

 

「わああ! バカ! チビ! 一生子供のまんま!」

 

「な、ななななんてこと言うの!?」

 

「姉ちゃんだろ悪いのは!」

 

「先に始めたのはヒナタちゃんでしょ!」

 

 おかしい。

 ここは喧嘩専用のサロンではないはずだ。

 昼間に引き続き勃発した口喧嘩、しかし二度目は流石にやめてくれと介入を決意する。

 

「あのすみません、それでなんですけど……」

 

「「あ、そうだった」」

 

「コマちゃんが、自分で繋がりを薄くしたってことは考えられないですか?」

 

「自分で、だあ? なんの意味があんだよそれに。力を受け取るための繋がりだろ?」

 

「理由はわからないですけど、意味の無いことはしないんじゃないかと思うんです」

 

「わざわざ繋いだパスを弱める意味……」

 

「加賀美さんはドラゴン討伐に行ってるじゃないですか。魔素が濃い場所にいるなら、そういうことも起こるんじゃないかなって…………ま、まあ全然、適当なんで当たってないかもしれないですけど!」

 

「…………」

 

 彼女がなにを心配しているかは分かっていた。コマちゃんのことももちろんだが、彼のことだ。コマちゃんに何かあったということは、すぐそばに居る彼にも何かが起こった可能性が高い。

 

「でも気のせいかもしれないですよ!? ほら、神様との繋がりなんて聞いたこともないし、他に例もないんだから!」

 

「そうかな……」

 

「そうですよ! なんだかんだでカガミさんは無事に帰ってきます! 前回だってそうだったじゃないですか! それこそ、コマちゃんがついてるんだから心配なんて要りませんって!」

 

 強く拳を握って力説する。

 前回はスケールが少々大きすぎた。あれよりひどい目に遭うことなんてこれからの人生で絶対にないだろう。そして、それを一匹で解決した超級の存在がそばに居るのだから彼に万が一なんてありえない。

 

「そう、だよな……」

 

「はい! 信じて待ちましょう!」

 

「うん」

 

 対比的に、早苗は不安な様子を隠せていなかった。

 

「どうしたんですか?」

 

「やっぱり気のせいじゃないと思う」

 

「え」

 

「だってほら、アキヒロ君ってすぐトラブルに巻き込まれるし……」

 

「そ、そうです! だからコマちゃんが──」

 

「コマちゃんが対応できないトラブルだったら?」

 

「コマちゃんが対応できないトラブルって……いやいや、そんなのあるわけ……」

 

 天変地異にも対応しそうなコマちゃんが対応できないものなど、彼の貧弱な知識では想像もできなかった。

 

「戻ってこなかったらどうしよう……」

 

「いっ!?」

 

 わざわざ人の家にまでやってきてしょげている師匠。姿だけならハシュアーと同じくらい幼いので、涙目になられると自分が悪いことをした気分になってしまう。

 

「も、戻ってきますって! ……ヒナタさん、昔も色々あったって言ってましたもんね!?」

 

「…………そうだな、色々あったらしいな」

 

「ら、らしい?」

 

「私も全部に立ち会ったわけじゃないからな」

 

「あ、そうなんですか」 

 

 てっきり、彼女は昔の相棒的な立ち位置だったものだと思っていた。

 

「あいつは昔から1人で突っ走る癖があんだよ。昔っつっても私は高校生の時からのことしか知らねえけど……中学生の時もなんかあったってな」

 

 高校生でそれなら、確かに中学生でも1人で突っ走っていてもおかしくないだろう。

 

「生徒会にいた時は全員振り回されてた」

 

「生徒会……」

 

「レイトは……あー……」

 

「僕は小学校までしか通ってないので、生徒会って見たことないんですよね」

 

「そうか」

 

「でも話だけは聞いたことあります。生徒が集まって何かをするんですよね?」

 

「ざっくり言うとそうだな」

 

「ヒナタさんも生徒会だったんですね」

 

「ああ、アイツに誘われて入った」

 

 ヒナタの過去の話を聞くのは初めてだった。

 

「誘われてっていっても、アキヒロ君にボコボコにされた結果だけどね」

 

「ぼ、ボコボコ……?」

 

 早苗はなぜか爽やかな笑みを浮かべながらそんな事を言った。暗い気分を保つよりも、イジリの方向に切り替えたらしい。

 

「ほら、ヒナタちゃんってガラ悪いじゃん? 昔は不良だったからなんだよね」

 

「ガラ悪くねえよ……」

 

「学校をサボって悪い子ちゃん達とつるんでたところに襲撃をかけられて全員ノックアウト。それでヒナタちゃんは会計やらされてたんだったかな」

 

「……」

 

 頭の中でそのイメージを作ろうとして、どうしても映像が繋がらない。

 女の子を殴って、言う事を聞かせる。

 聞いただけで酷い事をしていると分かる上、文字にするとあまりにも酷い。引き攣った顔で2人を見るレイトに、慌てて早苗が続きを話す。

 

「別にヒナタちゃんだけ殴られたわけじゃないからさ!」

 

「!?」

 

「ちゃんとそれについては謝ってるし、心配してるようなことはないよ!」

 

 闇討ちを返り討ちにしてきたという話はあったものの、探索者になる前からそういう価値観だったとは予想していなかった。

 

「だからさ……」

 

 膝に置いた手をギュッと握り締め、つぶやく。

 

「無事でいて欲しいなって……それだけなんだけど……」

 

 色々と話したが、結局のところ早苗が願っていることはそれだけなのだ。どうしようもなく自分勝手なくせに、全てがどうしようもなくなる前に自分たちを救ってくれたあのコンビが怪我なく帰ってきてくれれば、それでよかった。

 そうすれば、笑顔で迎えてあげられる。

 

「あ、ごめんねなんか暗くしちゃって」

 

「気持ちを伝えるのは大事」

 

「シエルちゃん……そうだね、ありがとう」

 

 黙っていたシエルが、ここにきてやっと口を開いた。

 

「そもそもダンジョンに行ってるんだから、危険なのは当たり前。一々そんなことで不安になって、私たちのところに来るの?」

 

「シ、シエルちゃん……!」

 

「あんな化け物と一緒にいるんだから死ぬわけないじゃん」

 

「シエルちゃん!?」

 

「レイトもさっきそう言ってたよね」

 

「化け物とは言ってないよ!」

 

「同じでしょ」

 

「も〜!」

 

 シエルが話に混ざると途端にややこしいことになる。これからは話し合いの時は口に布を巻いておこうか、本気で悩むところだった。

 

「──ごめんね、邪魔しちゃって」

 

「いえ、変なことがあったら教えてもらえると助かります。カガミさんもそう言ってましたし」

 

『ホウレンソウは大事!』

 

 報告

 連絡

 相談

 口酸っぱく、というほどではないが情報共有の大事さを口にするのが加賀美という男だった。

 

「──レイト」

 

「ん?」

 

 2人が帰ってから、シエルはやや真面目な顔でレイトを呼びとめた。

 

「あの人──アキヒロは、本当に人間なんだよね?」

 

「え、うん」

 

「うまくは言えないけど……私は変に感じる」

 

「…………」

 

「あんまり信用しすぎるのはよくない」

 

「……誰だって隠し事くらいあるよ」

 

「それは、そうだけど」

 

「大丈夫! 加賀美さんはそんな変な人じゃないよ」

 

「そうじゃなくて……そういうことじゃ──」

 

「はい! この話終わり! 陰口は良くないからね!」

 

「レイト…………」

 

「ハシュアー? もう出てきていいよー」

 

 彼女の懸念もわかるけど、あの人のことを信用しないなんてあり得ないのだ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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