【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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7_地味に広がっている交友

レイト達は受付に来ていた。

何をしているかと言うと、ナナオと話している。ダンジョンに行こうという様子ではなかった。

 

「――あ、そういえば……全然一緒にいないから半分くらい忘れてたけど、3人で組んだんだったよね」

 

「はい!」

 

「意外、じゃないか。加賀美くんがパーティー組むとは思えないし、なにより精神性が違いすぎるもんね」

 

「あはは……でも、加賀美さんはいい人ですよ」

 

「良い人だし頼れるけど――『違う』からねえ」

 

「………」

 

彼はつい先日ドラゴン討伐に向けて出発したばかりだが、そのせいでヒナタ達が心配そうにしているが――コマちゃんを仕事に連れていくという、事情を知る者たちからすれば畏れ多すぎて出来ないようなことも、彼にとっては日常の範囲でしかない。

ナナオはそんなつもりで言ったわけではないのだろうが、レイトはつくづく違いというものを実感させられていた。

 

「それで、その……」

 

「ハシュアーね?」

 

「はい!」

 

「奥でやってるわよ。心配で見に来たんでしょ?」

 

「はい!………えへへ、実は僕が見たいだけです」

 

「んぎゅぇっ」

 

ヒナタたちに師事していたレイトにとって、ハシュアーが受けているという訓練はとても気になるものだった。お金が無くて受けられなかった――あったとして、その制度にまで知識が辿り着いたか分からない。しかしハシュアーはその制度を利用して、探索者に必要なことをミッチミチのスケジュールに喘ぎながら学んでいる。

興味が湧かないわけがなかった。

あの時の自分のもしもの姿がハシュアーなのだ。

 

「んひゅぅぅ……いけないいけない……そ、それにしてもあの子、すごい熱心だよね」

 

「はい」

 

このままだと追い抜かれちゃいそうだ、なんて考えながら様子を覗く。ナナオもピークの時間は過ぎたのか、一緒に見に来た。

 

『――はぁぁ!』

 

『おせえなあ!そんなんじゃあ寝ちまうぞ!」

 

走りながらメイスを振り上げているハシュアー。自分よりも小さな男の子があんなに重そうな武器を持ち上げて――と既に負けたような気がしたが、その動きを見て劣等感は霧散した。

 

『うりゃあああっ!』

 

走り方はメチャクチャだし、常にメイスを持ち上げた状態で移動するのも意味がわからない。攻撃の直前に振りかぶればいいのに、あれではスタミナを無駄に消費してしまう。心の中の指示厨が顔を出し始めたレイトの前で、ナナオが手を口横に当てた。

 

「がんばれー!」

 

『どっちへの言葉だそりゃ!』

 

「ハシュアーがんばれー!」

 

『ひでえ……この恨みはお前にぶつけさせてもらうぞ!ハシュアー!』

 

『う、わっ――わぁああっ!』

 

一回転、ハルバードが遠心力に従ってレイジの周囲で加速し、盾の端と脛当てを切り飛ばした。さらにその衝撃たるや、ついでと言わんばかりにハシュアーの体は易々と吹き飛ばされてしまう。

 

『ぐえっ』

 

地面に投げ出された身体。至る所にできた擦り傷は、レイトたちが見に来る以前からハシュアーが激しく動き回っていたということの証左だ。

疲労の溜まった状態で倒れた故か、大の字で寝転がって息を整えている。

 

『…………まだまだ!』

 

しかし、この程度ではへこたれないぞと地面を拳で叩いた。立ち上がり、メイスを拾い直す。

 

『うりやああ………』

 

そこが限界だった。振り上げ、走り出してすぐに足取りがゆっくりになったかと思えば地面に崩れ落ちる。

 

『今日はここまでだな』

 

『も、もううごけにゃい……』

 

「めっちゃ大変そー……」

 

『ほら、お迎えが来てるぞ』

 

『………』

 

爪先で突かれても反応しない。

レイトは手を貸した。

 

「それにしても、まさかあの2人がこんなチミっこいのと組むなんてなあ」

 

「あはは……」

 

初対面である。

 

「カガミとは話したことないんだけど、色々噂ばっか出回っててよくわかんねえんだよな」

 

「そ、そうなんですね」

 

初対面である。

 

「あいつ、実際どんなやつなんだ?」

 

「ええと……」

 

初対面である。

 

「レイジさん、レイトくんを困らせるのやめて」

 

「……よく考えたら俺たちって名前めっちゃ似てね?」

 

「話聞いてます?」

 

「俺も昔はお前ぐらい若くて結構女の子にもモテたんだけど、やっぱ元探索者ってのがダメなんかね。見た目も若いのになあ」

 

馴れ馴れしさの塊。旧知の仲であるかのように話しかけてくる男に辟易しながらも、強い拒絶をすることができずに曖昧な笑いを浮かべるしかない。

ナナオはそこに割り込んだ。

 

「レイジさんの場合は軽薄なところがバレてるだけだと思いますよ」

 

「軽薄かなあ……でもほら、探索者と比べたら割とまともっしょ!?」

 

「マトモならハシュアー君が殴られてた時にすぐ駆け付けるはずですよね」

 

「いやいや、そんな事したらキリがないじゃん」

 

「ほら」

 

「あん?」

 

「マトモな人間ですよ〜ってフリしてズブズブに探索者の脳みそしてるんだもん」

 

「……レイト君慰めて!あの女の人がいじめるの!」

 

御涙頂戴の大根演技でレイトの腰にしがみつく情けない大人の姿に、誰もが白い目を向けていた。

レイトは邪魔そうにしつつも振り解くことはせず、ハシュアーのことを見た。

 

「ハシュアー、お腹減ってない?」

 

「………」

 

無言で頷いたハシュアー、邪魔なレイジ、最初からずっと無言のシエルを伴って、やや遅めの昼飯を食べることに。

 

『あーん!私も行きたいー!』

 

あなたは仕事です。

 

「いつもはあんまりこういうのしないんですけどね」

 

「ハシュアーが頑張ってるから、か?」

 

「それもありますし、偶には良いかなって」

 

「金あんのか?」

 

「はい」

 

金は意外とある。前はカツカツすぎて限界生活365日みたいな感じだったが、アキヒロの仕事(冬遠征)についていったことである程度解消された。少しだけ2人で仕事を受けてみたが、そこで得られた額よりもアキヒロについて行ったときの報酬の方が余程高額で、レベルによってどれだけ格差があるのかということを思い知らされたという予断も。

 

「最近は結構大丈夫なんです」

 

「前は?」

 

「あはは………」

 

「まあ探索者なんて最初の頃は苦しいだけでなんも楽しいことないからな。俺も最初は自殺しようかって何度考えたかわかんねえし、モンスターじゃなくて探索者にボコられることもあったからな」

 

「………」

 

それは微妙に笑えない話だった。

 

「でもあれだぞ――あれ美味そうだな」

 

串焼きを一つ。

 

「うん、味付けは中々………なんだっけ?――あ、そうそう!結局探索者なんて、突っかかってきたら取り敢えず殴っておけば言うこと聞くんだよ」

 

虚空に突き出した拳はきっと、過去に殴った誰かを想起してのものだろう。

 

「でも、殴ったら突っかかってきた人と同じじゃないですか」

 

「同じだろ、探索者なんだから」

 

「………喧嘩は良くないと思います」

 

「お前たちを誑かしたって噂のカガミだって散々探索者のことぶん殴ってるぞ」

 

「それでも、良いとは思えないんです」

 

「良い子ちゃんだなあ………甘ちゃんともいう」

 

ポリポリと軟骨の串焼きを齧りながら、道ゆく人を指差した。

 

「いいか?こいつらはただの人間で、俺たちは探索者。その二つの間には、ぜーーったいに越えられない壁があるだろ?」

 

背中にあるハルバード。

コンコンと鳴らすと、通行人がチラリと彼のことを見て露骨に距離をあけた。

 

「ダンジョンでモンスターと戦うなんてのはコイツらにゃ無理だ。それに素のマンマじゃやってられねえ……見ろよあの目、モンスターなんかよりよっぽど安全な、誰も触らなきゃ動きやしねえこの武器を見ただけでビビってんだぜ」

 

「怖いですから」

 

「いいや嘘だな、お前はこれを怖いとは思ってねえだろ」

 

「………でも普通は思います」

 

「普通ってなんだ?コイツらが普通なのか?モンスターがいるのに、目を逸らしてノウノウと生きてるコイツらが本当に普通なのか?」

 

信じられないと首を振る。

 

「話が逸れたな……お前はまだペーペーだから分かってねえのかもしれないけど、探索者なんてのは切って切られて、殴られて踏み潰されんだよ」

 

首筋に等間隔に生じた白い傷跡。

 

「これはな。身体を脚からほとんど飲み込まれて、首を噛みちぎられるところだった時の傷だ。実際意識はなかったし、半分くらい死んでた」

 

「………」

 

「探索者を続けるつもりなら、普通とかマトモとかという言葉に縋るのはやめておけよ」

 

先ほどまでのカラッとした温かな空気とは違う、冷たく刃物のような鋭さを持った空気が彼から発され、レイトに襲いかかってきたような気がした。

 

「――なーんてな!冗談冗談!あはは、ビビった?そんな怖いこと言うわけないじゃん!あんま暗い顔すんなよ!」

 

軽く肩を叩くと、いままでの話はなかったことにして伸びを一つ。

 

「んー!それにしてもお前らは本当に顔がいいなあ!どんな善行を積んだらそんな顔で生まれてくるんだ?」

 

「さ、さあ……」

 

「俺ももう少し顔が良かったらもっとモテモテだったのかね」

 

「別にモテてはないです……」

 

「うおっ、全然足りてないってか?」

 

「そ、そうじゃないです!本当にモテてなんか――」

 

トントンと、横から細めの腕が伸びてきた。

 

「レイト君、今日はお出かけ?」

 

「――あ、はい!この間はお野菜ありがとうございました!」

 

「ミアの面倒見てもらったんだからそれぐらいは返させて?それに会いたがってたからまた来てよね」

 

「時間があれば……」

 

「うん、じゃあね〜」

 

「あ、はーい!」

 

どうやら通りすがりの知人だったようで、会話はすぐに終了した。小さく手を振って去るのを待ち、改めてレイジに向き直る。

 

「ええと、モテてるとかそんなこと――」

 

「――レイトさんだ!」

 

「ファリアちゃん?どうしたのこんなところで」

 

「見えたから飛んできました!」

 

「そ、そうなの……他のみんなは?」

 

「あっちにいますよ!」

 

「本当だ、みんなー!」

 

顔見知りを見つけ、嬉しそうに手を振る。

 

「………ちょっとレイトさん?」

 

「え?」

 

「私がここにいるんですけど」

 

「うん、見えてるよ」

 

微妙にトンチキな返答をするレイトに少女は頬を膨らませた。

 

「もー!」

 

「………」

 

「うわっ、出た!」

 

そこに身体を差し込んだのはシエル。後頭部しか見えないレイトと違い、前から見ている少女には露骨に不快な顔を向けていた。

 

「……あんなに迷惑かけておいて、よくもそんな堂々と探索者の……よりにもよってレイトさんの近くにいられるよね」

 

開口一番これである。

 

「群れるしか脳がなくて本当は周りの目に怯えてるくせに、口だけは一丁前なんだね。面白い」

 

「アンタこそ、レベルも低くて誰にもつるんでもらえないからって、レイトさんの優しさに甘えて組んでもらってるだけじゃん」

 

「レイトの方がレベル低いから、私が組んであげてるんだよ」

 

「ふーん?アンタじゃキツそうだし、わたしが代わってあげるよ。1人で好きなことやってればいいじゃん、寂しくさ」

 

「無理、どう考えても雑魚すぎて話にならない」

 

「………」

 

「………」

 

ファイッ!

 

「――ぐすっ、ひっく、あ、あいつがぁ……」

 

「ふん」

 

哀れ、シエルのチクチク言葉に勝てるわけがなかった。

 

「びぇぇぇぇぇ!」

 

「き、気をつけてねー……」

 

仲間に背中をさすられながら撤退の道を選んだ。

逃げた雑魚には興味がないのか、シエルは踵を返す。

勝者の振る舞いだった。

 

「……モテてないは無理があるぜ」

 

ハシュアーは激しく同意した。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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