【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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8_刺激されて

「あー……すごいよ疲労が……」

 

 4人は屋台で揃えた食事を、適当に設置されたベンチで食べていた。ハシュアーは項垂れ、顔にも疲労の色は濃い。ここ連日の訓練は確実に彼の身体に疲労を蓄積させているようだ。

 

「なーに言ってんだ、そんなんで疲れてたらダンジョン動き回るなんて無理だぞ」

 

「だって疲れてんだもん……あ」

 

 ぐでーっと背もたれに寄りかかっていたハシュアーは、何かを見つけたのか言葉を漏らす。誰だろうと視線を追っていくと、手を挙げた少女がトコトコと近づいてきた。腕の中には、買ったものがパンパンに入った袋が抱えられている。

 

「アオイちゃんじゃん」

 

「レイジさん、皆さん、こんな場所でなにしてるんですか?」

 

「なにってそりゃあ、昼飯だよ」

 

「…………まさか、さっきまで訓練してたんですか?」

 

「おう」

 

 それを聞くと、苦味が濃すぎて苦笑どころか薄笑いになっているハシュアーの前に立つ。

 

「ハシュアー君、大丈夫?」

 

「もちろん大丈夫」

 

「怪我とかしてないよね?」

 

「大丈夫だって」

 

「うーん……大丈夫そうだね!」

 

「だからそう言ってるじゃん」

 

 疲労はあっても、身体のどこにも怪我らしきものは見られない。そういう意味では嘘などついていないのだろう。大丈夫と答えている間もだらんとした体勢をしているのは省エネモードだった。

 

「まあ大丈夫ならいっか!」

 

「アオイは今日は仕事無いの?」

 

「今日はお休み!」

 

「ふーん……アオイってなんの仕事してるんだっけ」

 

「受付だよ!? ……あれっ、言ってなかった?」

 

「覚えてない。でもそっか、受付なんだっけ」

 

「そう! もう忘れないでね?」

 

「分かった」

 

「よしよし」

 

「……ところで受付ってなにやる仕事なの?」

 

「ええっ!?」

 

 ハシュアーにその場の視線が集中した。

 

「お前そんなことも知らねえのか!?」

 

「うん、アオイが仕事してるところって見たことないから」

 

「あー……」

 

 待ったがかかった。

 

「その言い方だと私が仕事してないみたいだからやめてよ」

 

「言ってないよそんなこと」

 

「そうだけどぉ……その言い方すごい嫌だな」

 

「そしたらなんて言えばいいの?」

 

「──」

 

 

 ──────

 

 

「じゃあまた」

 

「うん! じゃあね!」

 

「…………元気だなあ」

 

 おっさんみたいな事を言ってヘニョヘニョに崩れ落ちる。ひたすら武器を振り続けた腕はかなり来ているし、脚も正直言って今日はもう歩きたくない程度に疲労が溜まっている。

 目を完全に閉じれば、いつでも泥に沈むように眠りに落ちることができるだろう。アオイがいなくなった途端に、それぐらい気が抜けてヤバい。

 しかしこれも訓練。ダンジョンでは眠いからといって眠ることはできないので、白目を剥きながら耐えていた。

 

「ふぅー……! すぅー……!」

 

 わざと荒い呼吸をして眠気を誤魔化す。

 しかしそれも大した効果はなく、やがて意識がフェードアウトしそうになり──

 

「ふんぐぅ!」

 

 自分の額をぶん殴った。

 

「…………あはははは! なにその顔! あははは!」

 

「ふぅ、ふぅ、寝ない、寝ないぞ……」

 

「はははは! ひひひひ! いーひひひひ!」

 

 笑われているのもお構いなし、至って真剣に睡眠と格闘を続けた。

 

 

 ──────

 

 

「」

 

 睡眠欲に耐えられるわけもない。

 ハシュアーはあっけなく落ちた。

 

「これも訓練だったんですか?」

 

「んなわけあるかよ。そもそも探索者ってのは眠さに耐えてるから長時間活動ができるわけじゃない」

 

「僕はまだわかんないですけど、眠くならないんでしたっけ」

 

「そう。長時間活動ができるからしてるだけで、眠さに耐える訓練をした事なんて一度もない!」

 

「最初のうちは不寝番を決めて野営するんですよね?」

 

「そうそう! したことある感じ?」

 

「はい、3人で」

 

「3人ってーと……シエルちゃんと、レイト君と、あとカガミ?」

 

「はい」

 

「ふーん…………いや、カガミはレベル高いんだから寝る必要なくね?」

 

「僕が独り立ちする時のためって言ってました」

 

「あー……スカウトしようかな」

 

「え?」

 

「いやさ、マジで人手不足なんだよ俺たち。商工会に所属して縛られるくらいならダラダラと探索者やってる方がマシってやつだらけで、全然人こねーの」

 

「そうなんですね」

 

 しかし、それがなぜアキヒロをスカウトしようという話につながるのか。

 

「レイト君の話聞いてるとめっちゃマトモそうだから」

 

「すっごいマトモですよ」

 

「マジで? いや、本当にスカウトしようかな……今度会えない?」

 

「会えるとは思いますけど……多分、無理かなあと」

 

「なんで? マトモなんでしょ? 話くらい聞いてくれ──待て、そういえば変な噂もあるよな……牛がどーとかって……」

 

「あ、それです。カガミさんは目的があって活動してるので、商工会に入ってくれるタイプじゃないかなあって」

 

 目的に沿った職業が探索者だからやっているだけで、仮に大学生をやっている方が道のりとして正しかったらそっちに進んでいたんじゃないかという予想をしていた。

 

「でもなあ……もったいねえなあ、食べ物の為なんかに」

 

「本人にそれ言うと結構怒ると思います、ぷんぷんって」

 

「ぷんぷんって怒んの? あの顔で? それは面白いな、やってみよう」

 

 

 ──────

 

 

 夕暮れ、家に戻ってきたレイトは庭に出た。

 

「…………」

 

 自らの獲物である剣を振り上げて、振り下ろす。

 振り上げて、下ろす。

 上げて、下ろす。

 以前使っていたナイフなどよりも、こちらの方が武器として余程しっくりきた。

 瞳に焼き付いているのは、道場で見た幾つもの技。ナイフではなく、剣による術。

 相手を殺し切るための、本気の攻撃。

 ただ武器を振るのではない。

 武器と一体になって、理をもってそれを扱う。

 一ヶ月程度では習得することはできなかったが、辿り着くべき境地は見ることができた。

 

 1秒の100分の1にも満たない時間の中で、意識がブレた瞬間を狙って大気を貫く一撃を放つ観察眼。

 状況に応じて最適な技を選択し、あらゆる体勢から十全に繰り出すための技術。

 攻撃を受けても手を緩めず、痛みを無視して相手を殺そうとする殺意。

 

 今だからこそという正直な感想を抱くと、技の完成度は姉妹達よりも年配の門下生達の方が高かった。年月というものは、才能では容易くひっくり返せないものを積み上げてくれるのだ。

 それでも門下生はそこに言及することなく2人の言うことに従っていた。その理由はわからない。技術以外にあの2人に従う理由があるのかもしれないと、ボンヤリ思うのみだった。

 2人からは間違いなく大事な基礎を教えてもらったけど、門下生からも色々と言われていた。

 ハシュアーの懸命な姿を見たせいか。今にしてそれを思い出し始めたのだ。

 

『技術なんてのは時間をかければついてくるさ。だから今は、基礎の基礎を固めるんだよ』

 

 強い技はないかと聞いた時に言われたことだ。

 

『だいたい、武器を持って振り下ろしたら十分な技じゃないかい』

 

『そうだね! それを極めるのが最強の技だ』

 

 ハシュアーが通っている訓練場と違って、的もなにも置いてない伽藍堂の庭だ。彼自身はメイスを扱うことになったから、レイトは彼が持ってきた剣をもらうことができた。

 いまだ未熟とはいえ、鍛治師謹製の剣。店売りのものと比べてみたらその扱いやすさは歴然だった。

 

 まっすぐに振り上げて下ろす。

 その一つ一つに込められた意味を、思い出す。

 

「ふっ…………ふっ…………」

 

 吸うと同時に振り上げて、吐きながら下ろす。

 

『脇を絞るんだよ』

 

 寒空の下であるにもかかわらず汗が滲み出て、湯気が立ち始める。繰り返し振るうごとに腕が重くなり、余分な力が抜けていく。

 

「…………」

 

 シエルがやってきた。いつまでも戻ってこないのを不思議に思ってのことのようだ。ぼんやりとレイトの様子を見つめていたかと思えば、邪魔をすることなく外の椅子に腰を下ろしてレイトの様子を見ている。

 見られて落ち着かないよ──ということはない。稽古の中でも複数人に見られながら素振りをするという時間はあった。あれに比べたら、近しいシエルに見られるのなんて比較対象にも入らなかった。

 

「少し斜めになってるよ」

 

「!」

 

 言われた事を補正して再開する。

 シエルが寒いと言うまでずっと、一つの事を繰り返していた。

 

「はぁ、疲れた!」

 

「ご飯食べよう」

 

「うん! だけどごめんね、ちょっと休憩したいかな?」

 

「…………じゃあ、私が作るよ」

 

 シエルが用意したのは素朴なスープだった。

 

「おいしいよ」

 

「知ってる」

 

「ハシュアー、食べなくていいのかな……」

 

 帰ってきたら玄関で目を覚まして、シャワーだけ浴びて寝室にフラフラと歩いて行った。恐るべき律儀さだが、それから今まで起きていない。

 

「大丈夫だよ、私たちだってそうだったじゃん」

 

「──確かに!」

 

 道場に通って一週間くらいは終わったら即寝の生活だった。それに比べたらハシュアーはだいぶマシだ。訓練場から家まで少しだけ距離があるという事情も関係しているだろうが、終わってからも街を少しぶらつく余裕くらいはあるということだ。

 

「大丈夫だね」

 

「うん」

 

 2人はのんびりと夕飯を楽しんだ。

 

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