【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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9_実践で学ぼう

 

 訓練開始の時間に間に合うように起きたハシュアーは、冷涼で清純な空気に満ちた外に出る前にレイトに呼び止められた。

 

「──俺がダンジョンに?」

 

「一回潜ってみるのもいいと思うんだ。実際に行ってみなくちゃわからないことも多いし」

 

「あー……でも俺、今日も訓練があって……それにまだ早い気が……」

 

「……そっか!まあそうだよね、そうしたらやっぱり今日は僕とシエルちゃんだけで行くことにするよ」

 

 あっさりと、その主張は認められた。

 

「良いの?」

 

「だって訓練があるんだから、しょうがないよ」

 

 OK OKとジェスチャーをした上で、準備をする為に背を向ける。

 そんなレイトに何かを思ったのか、ハシュアーは控えめに声をかけた。

 

「…………あの」

 

「──なに?」

 

 ニコニコしながら振り返る。まるで、今から言われることがわかっているかのように。

 

「やっぱり……俺も行く」

 

「そうする?」

 

「うん」

 

「分かった、じゃあレイジさんに連絡したら二度寝でもしようか」

 

「えっ」

 

 二度寝。

 その存在を知るものが聞けばなんと甘美な響きであることか。

 フワフワのお布団は、自分の元から離れたバディをそれでも再び優しく包み込んでくれる。

 一度体験してしまえば、次から起きる時に選択肢が入ってしまう。

 

「こんなの良いのかなあ……」

 

 物心ついた時から鍛治師になる為の修行をしていたハシュアーにとって、二度寝などという概念があることすら知らなかった。神のもとで鉄を打つのは名誉であり、それを怠ることは生命として恥だったからだ。

 

「…………ふぁ」

 

 しかし、生体的な反応を否定することはできない。自分の身体を包み込む布団は、自分が本寝の時に与えた熱を十分に保っている。そこに身を落とし込んだハシュアーは、自然とあくびが浮かんでくるのに耐えることができなかった。

 

 そしていつの間にか再び夢の中へ。

 

『ハシュアー、強くあれ』

 

『牙』たるアルスが女神像へ祈っている光景が見えた。その隣には母親もいる。いつも自分に対して鍛治師になれと口やかましく言ってきた。

 鬱陶しく思っていた。

 自分はもっと大きな事をやるんだって、無根拠な確信に満ちていたから。だけど、こうして探索者として活動を開始してみると──笑えないことに、いまだに探索者らしいことが何もできていない。

 訓練は確かに探索者らしいことかもしれないけど、あくまで下積み。自分たちが金槌を磨くのと同じようなことだ。

 

「母さん……」

 

 こうして不意に母親の姿を目にすると──それがたとえ夢の中だとしても、無性に逢いたくなる。

 地下にある故郷を出て、既に一ヶ月程度も経った。顔を見たいと思っても仕方ないだろう。レイト達が持つような端末というものをドワーフは持っていないから、遠距離で連絡する手段が皆無なのだ。

 

 情けないし恥ずかしいから決して言葉に出すことはないけれど、みんなに会いたかった。

 

「ハシュアー、二度寝はどうだった?」

 

「……まあ、悪くなかったかな」

 

 寂しい夢を見ていた気がした。だけど内容は全く覚えていなくて、布団がとても気持ちよかったということだけが感想として浮かんできた。

 

「そうしたらご飯食べよっか」

 

 朝食は既に用意されている。シエルはまだ寝ぼけ眼でレイトにくっついているので、全部レイトがやったのだろう。

 

「そういえば、ハシュアーと一緒に朝ごはん食べるのって久しぶりな気が……」

 

「そうかも」

 

「シエルちゃんは朝に弱いから僕がいつも準備してるんだよ。本当はハシュアーにも食べて欲しかったんだけど」

 

「ごめんなさい」

 

 ペコリと頭を下げる。

 

「いいのいいの、ちゃんと食べてはいるんでしょ?」

 

「うん」

 

「ならそれでいいじゃん、ね?」

 

「…………レイトさんってイケメンだね」

 

「ええっ!? な、なんでいきなりそんなこと……」

 

 ウィンクをして余裕綽々の年上の男の子だったところから、少し誉めただけで顔を真っ赤にしてワタワタと慌て出したレイトの姿を見て、ハシュアーは街の女子達の気持ちが少しだけ分かった。確かにこれは、彼女達の言う通り可愛いかもしれない。

 

「ん、んんっ、とりあえず食べよっか?」

 

「うん」

 

 しばらくはレイトの肩にもたれていたシエルも、時間が経つにつれて瞳の空き具合がどんどん大きくなっていった。

 

「おはよう、シエルちゃん」

 

「ん──なんでこいつがいるの?」

 

 いつもよりも低い声。

 

「コイツって……今日の仕事は一緒に行くからだよ」

 

「…………そう」

 

 特に追求することはせずモソモソと口を動かす。眠いから喉を使うのが嫌なだけかもしれないとハシュアーは思った。

 

「──」

 

 食べ終えると、もはや食卓に用は無いと寝室に戻った。

 

「よくあんなのと一緒に生活できるよね……あ、ごめんなさい」

 

 思わずそんな悪言が出てきた。心の中に浮かんだ言葉が、推敲する前にそのまま口を突いて出てきてしまったので抑えることができなかった。これも朝という時間のせいだろう。

 

「…………」

 

 レイトは微笑んでいた。

 

「シエルちゃんがいたから、僕は頑張れたんだ」

 

 それはきっと辛い過去ってやつの話だろう、とアタリをつせる。細かい内容を聞くところまでは親交を築けていないという自覚があったけど、何かがあったというのはこの伽藍堂の家を見ただけでハシュアーにもわかった。

 

「口が悪いのは確かだし、態度も悪いし、人とすぐ喧嘩するし……悪く言われても仕方ないとは思う」

 

「やっぱり分かってたんだ」

 

「あはは、僕だってそこまで鈍くないからね」

 

 パーティーは解散することもできると、訓練帰りに酒場で軽く食事をとってきた時に知った。疲れ切っていたから話はあんまり聞こえなかったけど、あんなに大仰にパーティーから追い出していたのだから、きっと出来るのだろう。

 もっと良い人材を取り込むことだって出来るはずだ。

 身も蓋もない言い方をすれば、レイトの容姿ならばどこにだって入れるだろう。確かにシエルも容姿はとんでもなく優れているけど、探索者をやるなら実力を重視するべきなんじゃないか。

 

「そうだね、もっと僕の頭がよかったらそうしていたのかも…………でも、僕にはこの道以外見えないんだ」

 

「道?」

 

「シエルちゃんと一緒に──あと、ハシュアーと一緒に進んで行く道」

 

「…………」

 

 小っ恥ずかしい事をどうしてこんなに堂々と言えるのか。道、なんて大袈裟な表現をする必要なんてないのに。

 

「さっ、準備しようか」

 

 そそくさと立ち上がったレイトの耳は赤かった。

 

 

 ──────

 

 

「おー……」

 

 この時間帯はいつも訓練場にいた。仕事の受注のために受付前に並ぶ探索者達の一部に自分もなるのだと思うとワクワクしてしまう。

 実際は並ぶというかごった返しに突っ込むというか、レイトの後ろについていった。

 

「え、ちょ、レイトさ…………前が見えな、ちょっ、なんも見え、あああああ」

 

 背が低すぎて人波の中に埋もれてしまった。

 

「おーい! レイトさーん!」

 

「ハシュアー! 危ないから席で待ってて!」

 

 時間をかけてなんとか抜け出すも2人の姿は見えず、波の中から聞こえたレイトの声に従って席にて待つ。同じように席で待っている探索者が他にもいて、それは主に女性だった。

 違和感を感じながらも、ヒューマンのする事は大抵トンチキなので慣れるしかないかと視線を戻す。

 

「──チビがなんでこんなところにいんの?」

 

 その中の1人がわざわざやってきて、皮肉たっぷりチョコたっぷりに話しかけてきた。

 

「子供は帰りなよ」

 

「……誰?」

 

 本当に誰かさっぱりわからなくて困っていたら、パーティーメンバーらしき男が女を連れて行った。

 

「まあいっか」

 

 暇なので、そこら辺にいる探索者達の武器を見て時間を潰すことにした。そこそこ使えそうな武器を持っているのがほとんどだったけど粗悪品を持っている少年がいたので声をかけて指摘したら、顔を真っ赤にしてぶん殴られかけた。レイジから訓練を受けていなかったら前のようにまともに喰らっていたかもしれない。

 少しだけ感動しながらも、話を聞いてくれなかった事は素直にショックだった。

 

「せっかく教えてあげたのに……」

 

 あれは数回使えば根本からポッキリ折れてしまうような、武器呼びたいとすら思えないモドキだ。あんなのをわざわざ使うなんて、自殺志願者としか思えない──と、まだダンジョンに入ったことすらないくせに思っていた。

 

「──お待たせ〜」

 

「!」

 

 緊張の撞木が心臓を鳴らす。

 これから自分はダンジョンに挑む。レイジからできるだけのことは学んでいるつもりだったけど、いざそこに行くとなるとどんなことが待ち受けているのか妄想が止まらなかった。

 闇の中から布を被った得体の知れない何かが襲ってくるのか、自分の体をムシャムシャと齧り尽くすような怪物がたくさんいるんじゃないか、心配すればするほど、心配の種は増えていった。

 

「ビビってるじゃん」

 

 シエルに指摘されてしまった。

 

「…………」

 

 女にそんなことを言われて言い返せない自分が情けなかったけど、いつか見返してやると今は悔しさを溜め込むことにした。

 

 ──ダンジョンの入り口は街中にあって、そう時間をかけずにたどり着くことができた。辿り着いてしまったと言うべきかもしれない。

 

「こ、これがダンジョン……」

 

 大きく口を開けている暗闇。

 完全な真っ暗闇ではなくて結晶が壁に存在しているのはイルヴァの牙と同じだったけど、低く風が鳴る音は洞窟そのものもが生き物であるかのように感じられた。

 

「僕も、実はそんなに来たことがあるわけじゃないんだ」

 

 それは真剣な顔だった。

 ダンジョンだからか。

 しかしそれにしてはいやに思い詰めたような顔をしているのが印象的だった。

 

「レイト、私がいるから大丈夫」

 

「……そうだね」

 

 そんな気休めをシエルが口にするとは思わなかった。

 

「おチビども〜、ビビってねえで早くはいれ〜」

 

 通り過ぎたパーティーが、揶揄うように口にした。

 レイト達以外の探索者達は多くが続々と入っていく。まだ入っていないのは、彼らと同じく躊躇している若い探索者や、誰かを待っているような素振りを見せる者達だ。先ほどの揶揄いも、レイト達だけに向けたわけではないのだろう。

 

「……行こうか」

 

「うしっ、うっし、よしっ、いくぞっ」

 

 何度も気合を入れ、暗闇の中へ足を進めた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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