【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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12_収まらぬ熱

 

「ん…………はっ!?」

 

 目が覚めると真っ暗──ではなく、結晶達の輝きがほのかに照らす薄闇の中だ。そして思い出す。自分は昨日、唐突な誘いに乗って通称アンダーと呼ばれるダンジョンにやってきたのだ。レイトとシエル、2人の先導のもと、長い道のりを終えて辿り着いたのがこの横穴──と、自分の記憶を追い縋って思い出す。

 

「2人は……」

 

 見回すとレイトは横になっており、シエルも壁にもたれかかって気絶するように眠っていた。どうやら不寝番を完遂することができなかったようだ。

 影は踊らずに沈黙している。

 

「嘘だろ……」

 

 あんなに自信満々だったのに……とドン引きだ。しかしグッスリと眠らせてもらった恩があるので布を被せ、外の様子を見に行く。もしかしたらすぐそこにモンスターがやってきているかもしれない。

 

「──っと、その前に」

 

 焚き火の前に跪き、胸に手を当てた。

 

「イーヴァ様……」

 

 白く燃え尽きた灰が微かな輝きを湛え、赤熱を見せる。ハシュアーはそこに燃料を放り込んだ。

 

「コレでよしっと」

 

 満足げに頷き、今度こそ2人を残して出ていく。

 

「──大丈夫だよな?」

 

 しかし、通路部分を抜けたハシュアーは入り口を塞ぐ蔦から出るまでは至らなかった。蔦が太く絡まっているとか岩が崩落しているとかいうことは無く、純粋に恐怖から外に出ようという気持ちが湧いてこなかった。

 アリンコ一匹倒したところで一気にレベルアップするわけでも無いし、なんなら最初に出会った激ヤバのアイツに出会したら瞬殺は間違いなかった。

 

 恐る恐ると顔を覗かせれば昨日と変わらぬ光景。

 

「右よし、左よし、前よし、後ろよし……よ──っ!?」

 

 ズシンと衝撃が一つ、壁を走ってハシュアーの足元まで及んだ。慌てて蔦の後ろに再び隠れる。

 

「な、なんだ……?」

 

 じっと息を潜めて何が起こっているのか把握しようとしても、衝撃音が繰り返されるだけで状況はまるで伝わってこない。

 やがて1人でその場にいるのが耐えられなくなり、2人の元に戻った。

 

「レイトさん! レイトさん!」

 

「うう……?」

 

「起きてよレイトさん!」

 

「な…………ん……待って……ぐぅ……」

 

「起きろお! なんか揺れがすごいんだって! 」

 

「ユーレー? うーん……うーん…………うーん…………すぅ……」

 

「寝ないでよ!? シエルも起きて!」

 

「…………すぅ」

 

 一向に覚醒しない2人。起こしても起こしても、すぐに目を閉じてしまう。シエルは普段から朝に弱いのでそこまでおかしくないが、レイトはシエルよりずっと早く起きて朝ごはんを作ったりしているから弱いはずがない。

 

「もしかして……思ったよりも早く目覚めちゃった?」

 

 ここにきてハシュアーは、太陽が空を渡ることの便利さというものを思い知った。毎日決まった時間に上り、決まった時間に沈む太陽があるおかげでヒューマンは規則正しい生活を送れているのだ。まだ地上に来て一ヶ月程度のハシュアーも、太陽があることによって平準化された生活に慣れていた。

 

「まだ俺が寝てからそんなに時間が経ってないのか……!?」

 

 しかし、それにしては疲労が取れている。

 

「……レイトさん!」

 

「すぅ……すぅ……」

 

 抱き起こしても、背中を叩いても最早反応しなくなってしまった。

 

「ダメかあ……」

 

 肩を落とす。

 あの振動がなんなのかということを聞きたかった。もっと言えば、状況を共有したかった。しかし2人とも思ったより疲労が溜まっているのか眠りから目覚めない。

 仕方ないので、持ってきた干し肉を焼いて食べることにした。

 

「俺だって炙るくらいはできる……」

 

 料理ではあり得ないほどの大敗を喫したが、火の扱いに関して言えばそんじょそこらのヒューマンに負けはしない。絶妙な炙り加減で最高のおつまみを手に入れた。

 

「酒があればなあ」

 

 ドワーフは酔わない──というのは嘘だが、少なくとも子供だって酒くらい飲む。しかし、ヒューマンの子供は酒を買えない。理由を聞いても誰も知らなかったが、とにかく子供レベルの身長しか持たないハシュアーには買えないというアホみたいな現実がそこにあった。

 

「もうなくなっちゃったよ」

 

 所詮はダンジョンに持ってこられる量。パクパクと食べていれば、昨日の消費も合わせてすぐに無くなってしまった。

 

「うーん、ひまひまひまひまひま〜」

 

 膝を抱えてゴロゴロと転がる。

 ダンジョンで随分と気の抜けたことだが、実際暇だった。メイスの状態は悪くないし、拭き取るべき血脂も無い。レイト達の武器も同様に、今わざわざ手入れをするほどの損耗は無かった。

 

「…………」

 

 手足を解放し、炎熱で僅かに照らされた天井を見る。自然と起き上がり、メイスを手に取った。

 ゆらめく影を見ていると、心の奥から湧き上がるものを抑えることができなかった。

 

 

 ──────

 

 

「──アホ」

 

「はい……」

 

「普通、言わなくてもわかるよね」

 

「はい……」

 

 シエルが起きた時、ハシュアーは一心不乱にメイスを振っていた。盾を構え、何かを受けた前提の体勢──低く押し込められた状態から振り上げる。何度も同じ動作を繰り返すのはまさに練習の本懐だ。

 13歳という若さでその地味な作業を繰り返し続けられるのは賞賛に値した。

 

 ──場所がダンジョンでさえなければ。

 

 その一点さえクリアしていれば、シエルも流石に感心していただろう。いや、ある意味では感心していたかもしれない。但し、感心は感心でも呆れというマイナスの感情によるものだが。

 

「私たちが起きなかったからって、無駄に体力を消費する意味がどこにあるの?」

 

「ごめんなさい……」

 

「これから活動するって時にハシュアーが体力を消耗をしたらどっちかがカバーしなくちゃいけない。そうしたら索敵の精度が下がるし、モンスターと出会った時も最悪は見捨てないといけなくなる。そういうことは考えた? 考えてるわけないよね、だってメイス振ってるだけだもんね」

 

「ごめんなさい……グスッ」

 

「泣いても変わらない」

 

 激詰めだ。

 寝る前は『僕も負けてられないな!』なんて思っていたレイトが『負けてないかも……』となるほどに激詰めされていた。

 

「はぁ……やっぱりガキ」

 

「そこら辺にしよう? 初めてのダンジョンでちょっと張り切りすぎたんだよ」

 

「…………」

 

「う──」

 

「良い顔するのは良いけど、本当はあなたが言うべきことだからね」

 

「…………シ、シエルちゃんも不寝番出来なかったよね」

 

「あれはおかしい」

 

「へ?」

 

「今考えてもおかしい。途中まで全く眠くなかった」

 

「……」

 

 寝る人間は皆そう言うだろう、とレイトの考えが顔に出ていたのかシエルは続けた。

 

「いきなり、すごい眠気が襲ってきたのだけは覚えてる」

 

「…………」

 

 だから、寝る人間はみんなそう言って。

 

「どう考えてもおかしい、私は悪くない」

 

「…………そっか」

 

 そこまで言い切られてしまうと、何も無いという証拠を持たない立場としては受け入れざるを得ない。とにかく、結果的には3人ともが不寝番をする結果になった。

 

「──それで揺れっていうのはなんだったの?」

 

「ズシンって、2人は感じなかった?」

 

 道を確かめ、進みながらハシュアーの感じた揺れについて話す。

 

「まあ寝てたからね……」

 

「でもあんなに大きかったんだよ?」

 

「…………揺れかあ」

 

 寝ていた2人にとっては文字通り意識外のことで、ハシュアーの焦りというのは共感できなかった。それでも、警戒だけは強める。寝たことで回復したし、昨日の戦闘を経て、彼が戦闘力という面において2人と遜色ないどころか優っているということもわかった。

 

「っ! …………ここは要注意だね」

 

「綺麗……」

 

 緑色の絨毯、腿ほどの丈の草が生い茂った場所に出た。一筋だけ、茶けた場所は地面が残っている。

 

「これ、植物だよね?」

 

 冬に来てしまったせいで、生い茂った草というものを見たことがないハシュアーは恐る恐るそれに触ろうとした。

 

「ダメだよ!?」

 

 その手をレイトが掴んで止めた。

 

「植物じゃないからね?」

 

「えっ、でも草ってこんな感じだったような……」

 

「本当に草だとしても、ダンジョンの中にあるモノに何にも考えずに触っちゃダメだよ」

 

「じゃあこれなんなの?」

 

「モンスターの巣だよ」

 

「えっ」

 

「通らないと地底湖には辿り着けないから、道自体は合ってるんだけどね」

 

「モッ、モンスッ、えっ」

 

「足を踏み外さなきゃ大丈夫! ……多分」

 

 まずはシエルが通り、そのすぐ後をレイト、そしてひっつくようにハシュアーが進む。最もバランス感覚に優れ、索敵能力も高いシエルが戦闘を務めるのは当然だった。

 

「…………あっ」

 

 そんなシエルが不穏な言葉を漏らすものだから、レイトとハシュアーは不安で顔を見合わせた。

 

「ど、どうしたの?」

 

「振動……」

 

「え? …………うわっ!」

 

 グラリと、大きな揺れが3人を襲った。レイトが倒れそうになり、圧倒的体幹力のハシュアーがそれを掴んで止める。ひとりでにたなびく草も今の揺れのせいか引っ込み、穴が空いた地面だけが取り残される。

 

「き、きもちわるぅ」

 

 穴の集合体を目にしたハシュアーは、その気持ち悪さに目を逸らした。

 

「早く行こう」

 

 こんな場所でまた揺れがやってくれば、今度こそ謎の草に突っ込んでしまう可能性がある。今は引っ込んでいるが、穴の奥に火を向けると揺らめいているのが見えた。

 

「きんもちわりぃ〜……どんなモンスターがいるの?」

 

 うげぇ、という顔で尋ねる。

 

「僕も見たことはないけど、触ったら全身をあの触手で掴まれて穴に引き摺り込まれるんだってさ」

 

「……あの穴に?」

 

「うん、あの穴」

 

「あの穴?」

 

「あの穴」

 

 直径は20cmほどしかない。そんなところに引き摺り込まれたら肉体は──

 

「絶対触らない」

 

 モンスターの巣を抜けた先。再び見慣れた洞窟が姿を現す。

 

「本当に着くのかな……」

 

 ほんのりとハシュアーの心に浮かぶ不安とは裏腹に、進み続けると目的地らしき場所に辿り着いた。角を抜けたところで、天井からぶら下がった光る棒が見えたのだ。

 

「あっ、光ってる!」

 

「……よかったあ」

 

 モンスターに出くわさなかったとはいえ、常に緊張していた一行は休憩を取ることにした。まだ探索者と呼べるほどに肉体が強化されているわけではない。

 折り返し地点で休息を取るのは判断としてマトモだった。

 

「──あれ、どうやって取るの?」

 

 休憩をとりながらジックリとグロウルートを眺めていたハシュアーのうちに沸いた疑問。この洞窟の高さは10m近くあり、飛行能力を備えているか、上にいくにつれて後ろにそり返る壁を登攀するか、馬鹿げた跳躍能力を持っているかでもしない限りは手を届かせることができない。

 

「石でも投げる?」

 

「やめて、無駄に傷つく」

 

「つってもいっぱい生えてるじゃん」

 

「私がやる」

 

「じゃあ石いる?」

 

「…………」

 

 なぜか嫌そうな顔をする。

 

「一緒にしないで」

 

「一緒にって……何が違うんだよ……」

 

 ブツブツと文句を言いつつも、あんまり反抗すると泣かされると学習したので壁際で座り込む。レイトも隣にやってきた。

 

「もともと、こうしようって決めてたからね」

 

「どうするの?」

 

「まあ、見てたらわかるからさ」

 

 見てろと言われたら見るのが子供だ。

 素直に体育座りでシエルの動向を見守っていると、弓を構えた。

 

「あー」

 

 何をするのかは明らかだった。

 一定程度の間隔で天井からぶら下がるグロウルートを矢で射落とそうというのだ。確かに石よりは狙いがつけやすいし先が細いから傷も最小限になるだろう。

 理想的な腕前があれば、の話ではある。

 

「シエルってそんなに弓上手いの?」

 

 アリを倒す時にシエルの腕前は見たが、あの一回だけではこの状況を完璧に処理し切れる程の腕前かどうか判断することはできなかった。

 

「うん、できるよ」

 

「そうなんだ」

 

 できるなら待っていれば良いかと気楽なハシュアーとは違い、レイトは少しだけ真面目な面持ちだった。

 

 

 ──────

 

 

「大量大量!」

 

 シエルはなんの問題もなく根っこを弾き落とした。百発百中とはいかなかったが高い精度でグロウルートの根本部分に当て、効率よく採取自体は終えることができた。

 それを拾い集め、袋にポイポイと投げ入れる。

 

「──本当に全部持つの?」

 

「うん、これくらい余裕!」

 

 鉱石を運ぶのに比べれば屁でもなかった。いっぱいに石が詰まった籠を背負うと、地面に足が埋まったんじゃないかというくらいに重くて動かない。

 たかが根っこ、しかも籠一杯ですらないので楽勝だ。

 

「ハシュアーって……やっぱり力持ちだよね」

 

「へへ、そうだろ?」

 

 実際のところ故郷でそこまで突出していた記憶はないが、褒められて気分が良くなったので是を返した。あとは警戒を怠らずに帰るだけだ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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