【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「はい、じゃあ報酬は振り込んでおきますからね」
「はーい」
あっさりと、ハシュアーの初めての探索は終わった。帰り道はモンスターに遭遇することもなく、若干の退屈さを感じながらの帰投。グロウルートは受付にて渡し、あとはお金を受け取るだけ。
ビビるくらいすんなりだった。
向かう時の不穏な空気はなんだったのか。
業務自体は終了したので解散となったが、すぐに声を掛けられた。
帰り道は平和だったな……などとボンヤリした感想を抱いて露店通りを歩いていたところだった。
「よう」
「先生!」
「生きて帰ってきたか、まあ心配はしてなかったけど」
「そこは心配して欲しかったかも……」
「割と余裕だったろ?」
「いや全然余裕じゃないから!」
「はいはい」
ブンブンと手を横に振るも、全く取り合わない。
「いや本当に!」
「第一階層とか苦戦する気起きねーわ」
「俺はレベル7なんだっつーの!」
「ふーん、で?」
「で、って……」
「何か学んだか?」
「…………」
気付いたら敵をぶっ殺していたというのは果たして学びなのかという微妙な心持ちがあった。
「……シエルが弓がうまかったかな」
結局、シエルとレイトがどんな感じだったかという話をするにとどまった。
チキったとも言う。
「シエルちゃんは口が悪いみたいな話あったけど実際どうなん? 俺、その場面を実際に見たことがねえからさあ」
「すごく悪い」
「すごく悪いんだ」
「レイトさんにだけはちょっと優しいかも」
「あー……なるほどなあ」
スコスコとものすごく下品なジェスチャーをしながら納得している。
「カガミは?」
「…………知らない」
「知らねえの?」
「だって、2人が喋ってるところほとんど見たことないし」
他人の交友関係がどうとか気にしているほど暇な時間を過ごしていないのだ。地上の常識と探索者の知識を身につけるので精一杯。しかもカガミはドラゴンを討伐しに谷へ向かってしまったので、尚更2人の関係値など測れるはずもない。
そもそもあの2人が仲良いかどうかなど興味なかった。
「そういうのはよお、仲間なんだから把握しとけよ」
「そうなの?」
仲間だと把握するのが普通、というのは初めて聞いたことだ。
「冗談だよ」
「どっちなんだよ!」
「嘘を嘘と見抜けないと探索者やってくのは厳しいぜ」
「先生に嘘つかれたら何信じりゃ良いんだよ!」
「さっきからキレすぎだろ」
「誰のせいだと思ってんだよ……!」
この男は、妙なタイミングでふざける癖があった。しかも唐突にふざけ出すので、今がどっちか分かりづらい。訓練中も、訓練自体が崩壊しない程度にふざけるので、鬱陶しいけど勝てないという微妙にウザったらしいことになったりしていた。
「でもそうか、モンスターと戦ったのか……お前はなんかしたの?」
「一応攻撃はしたけど……」
「一応ってなんだよ。したのかしてないのかしかないだろ」
「……俺のことは良いんだよ!」
「良いわきゃねえだろ。一応教えてる立場なんだから、生徒がどんな感じに戦ったのかをら知っとく権利くらいあるわ」
「ぐっ…………実は──」
ハシュアーは自分の身に起きたことを正直に話した。
「意識がなくなっている間にモンスターを倒してた、か……おおかた異能だろうな」
「異能……寝ている間に勝手に体が動くっていう異能?」
「そりゃ夢遊病ってやつだろ。そういうんじゃなくて、簡単に言うと戦闘の為にお前の身体が強くなったんだよ」
「……そうなのかなあ」
習ったところによれば、レベルが上がっていかないと異能というのが身につくことはないとの事だった。レベル7で異能が発現することが果たしてあるのか、ハシュアーには判断がつかなかった。
「なに浮かない顔してんだよ、喜べ」
「俺なんもしてねえし」
「……そうだ! お前、そのなんとかって状態になれよ。戦ってみたい!」
「無理だよ。俺がなりたくてなったわけじゃないし、どうやってそうなるのかもわかんないもん……あーあ、もっと良い異能がよかったなあ」
「ああん!? お前本当にチンコついてんのか!? 意識がないうちにモンスター倒してるなんてクソカッケェだろうが!」
「や、やめろよ!」
ついてんのか!? ぐらいのタイミングで股間を弄られたハシュアーは流石に殴ろうとしたが、悲しいことに腕の長さが足りない。グルグルと腕を回すだけの滑稽な姿を公衆の面前で晒す羽目になった。
「身長の割に普通だな」
「う、うっせえこのクソ変態!」
「男はな……みーんな変態なんだよ」
「死ねっ!」
「お前も変態だ」
「人のチンコ触っといて何言ってんだよ!」
ザワリ、と周囲に明らかな波が走った。
『チン……を触った?』
『どういうことかしら……』
『子供のあそこ触ったの? あの男……探索者よね』
『通報するか?』
『した方がいいかも』
「ば、ばか! 冗談ですやん! みんな、冗談だから!」
果たして結果は──!?
「罰金です」
善意に満ちた通報により、商工会の職員が一名罰金刑に処された。全く反省していない様子のレイジは通達を聞いて不満げに首を振る。
「なんで俺がこんな目に……」
「複数人から証言が上がってるんですよ、レイジさんがハシュアー君の…………を触ったって」
「……なんて?」
「だ、だから……」
「んー?」
ニヤニヤと、いやらしい笑みを浮かべて受付嬢に詰め寄る。必死に顔を背ける少女の純粋な心を愉しむ気持ち悪い男がそこにいた。
耐えかねた少女は、目を罰にしながら大きく叫んだ。
「…………罰金です!」
「え」
「倍です!」
自分で蒔いた種は手ずから回収された。
周囲の目は冷たい。
受付嬢にセクハラをしているからではない。自分がセクハラをしたかったから睨んでいた。
「レイジさん、いい加減にしてください」
「ナナオちゃん! 俺なんもしてないって!」
「全部見てましたよ、今のやり取り。そういう事してるから結婚できないんですよ」
「別に結婚したいとは思ってないけど……」
「何でもいいですけど、私たちも忙しいのでさっさと金だけ払ってください」
「いや、俺だって忙し──」
「街中で男の子の股間をまさぐる暇があるんだから、私たちよりよっぽど暇でしょ」
「アレはほんのコミュニケーションなのに……」
「気持ちわるいですよ、そのコミュニケーションの取り方」
「っていうか、他の探索者だってアレくらいやってんだろ! なんで俺だけ金払わなきゃならないんだよ!」
「レイジさんが商工会の職員だからですよ?」
「くそっ、こんな事なら風俗にでも行くんだったか……! カネ払うなら、ガキの股間を触るんじゃなくてそっちへ行った方が楽しめたぞ!」
受付嬢たちは救い難いものを見る目で眼前の物体を見ていた。罰金の桁を一つ多くしても元探索者の彼にとっては問題ない金額だ。レベル40、歳もアラフォー、もっと地方のセクターであればエースを張れるくらいには十分なレベルを保有している彼は甲斐性という点だけで考えれば優良物件なのは間違いなかった。
「チキショウ、持ってけ!」
「私たちが持ってくんじゃなくて、あなたが差し出すんですよ」
「この合法ヤクザどもめ!」
「意外と難しい言葉知ってるんですね」
ともあれ、払うものを払ったレイジはその場から解放された。
──────
「反省会をします」
「はんせいかい?」
「3人、で…………3人でちゃんとしたパーティーとしてやっていくためには、失敗があったら次には持ち越さないってことが大事だと私は思います」
「ふぅーん」
座長はシエル、今回の内容についてしっかりとフィードバックを行うことになった。
「同じようなミスを何度も繰り返したらどうなると思う?」
「……すごい喋るね」
ダンジョンのことになると真面目過ぎる……とギャップにクラクラしてしまったハシュアーだが、質問にはしっかりと考える。
「失敗を繰り返したら…………バカになる!」
「…………そう」
「な、なにおう!?」
「レイト」
まともな回答を期待した自分こそがバカだったと言わんばかりの表情。13の少年にこんな不正確な質問をするのがそもそも大袈裟過ぎるのには気づかなかった。
「そうだね……失敗を繰り返すと、死ぬ」
「正解」
「なんで分かるの!?」
「だって、ダンジョンで失敗したらいつかは死ぬよね」
「そうだけど……わかんないよ絶対! なんでレイトさんは分かったの!?」
言われれば分かるが、答えがそれと分かっていない状態でそんな返しをする事はできない。
ハシュアーはあまりの理不尽さに、2人が最初から答えを教え合った上でこんな話をしているのではと訝しんだ。
腰掛けている椅子をなん度も叩いて苛立ちをあらわにする。しかし、レイトは首を傾げた。
「なんでだろ……僕にもわかんないや」
「えー! 絶対ズルしてる!」
「してないよ」
「そこまで」
シエルが止めに入ることで癇癪は止められた。
改めて本題に入る。
「まず私。私はこの中だと一番失敗は少なかったです」
「まあ……そうだね?」
彼女が索敵や地形探査など、マクロな面で最も活躍していたのは間違いなかった。
「でもモンスターに対して有効な攻撃が与えられなくて、ハシュアーがいなければレイトが死んでたと思います」
「……そうだね、それは僕が弱いのも悪い」
「そうしたら……次はそのままレイトね。確認でもあるんだけど、レイトはリーダーとして私たちをまとめている。それは良い?」
「うん、そこに反対はしない」
3人のパーティー、『妖精のとまり木』を商工会に登録するにあたってリーダーが誰かを指名する必要があった。そこで選ばれたのがレイトという訳だ。ハシュアーは来たばかりかつレベルも低いということで辞退し、シエルとレイトのどちらがリーダー役を請け負うかということになり、レイトに決まったという訳だ。
「レイトは正直、モンスターと戦う力は低い」
「…………」
悔しげな、それを言われるのは耐え難いという表情。当たり前だ。どこの世界にお前は弱いと面と向かって言われたい人間がいるのか。
「前に比べたらマシになったけど、まだ圧倒的な格上と直接戦ったことがないからってことでしかない」
「そ、そんなに言わなくても……」
「悪口が言いたいんじゃない。ただの現状確認」
「だからって……」
ハシュアーにはまだ理解しにくいことだった。
「私はレイトよりは戦えてると思う。弓だからっていうのもあるけど、全体をちゃんと見てる自信はある」
「……そりゃあ一番離れてるもんな」
「ちなみにハシュアーは3人の中で一番酷い」
「えっ」
自分はモンスター倒したから一番上かな〜などと余裕ぶっこいてたら、いきなり話の槍玉に上げられた。
「意識がない状態で戦ってたなら、意識がある状態だとものすごく弱いかもしれない」
「……!」
「そもそも、明らかに倒したってタイミングからしばらく殴り続けてた。レイトが止めなかったらいつまでああしてたのかわからない」
「…………!」
「連携も取れてなかった。今回は助かったから良かったけど、あいつはアンダーで最弱のモンスター。たとえばドラゴンと戦うってなったらあんなのは通用しないかもしれない」
「…………きぃぃぃぃ!」
「そんな風にしても私の意見は変わら──ちょっと、や、やめ……」
猿の如く飛びかかったハシュアー。
なんだかんだで、モンスターを倒したということは彼の自尊心を大いに刺激していた。そこに「雑魚相手に無双してるだけじゃん(笑)」と言われてしまったので爆発した。
「──ぐへぇ! ご、ごめんなさいぃ!」
しかしシエルは早苗たちに師事していた身。一ヶ月間みっちりと、人間大の相手との戦い方を必死に体に染み込ませていた。
多少力が強いからと言って、ど素人に負ける事はない。
「やっぱり弱い」
動きに理合い無し。
ハシュアーはふわりと浮いた自分の体に驚く暇もなく、床に打ち付けられていた。
「落ち着いた?」
「あい……」
「……頑丈だね」
「え?」
これは完全にシエルのミスなのだが──家の床は板間だ。受け身という言葉すら知らないハシュアーは硬い木製のそれに頭から落ちたにも関わらず、息が漏れた様子しかなかった。
「痛くないの?」
「いや、これくらいじゃなんとも……」
「…………やっぱり」
グニグニと頬を引っ張ったり髪の毛を抜こうとしたりしてみる。
「あいでで、いでで、いでっ、いででで…………なにしてんの?」
「うん」
「?」
「じゃあ続きなんだけど」
「うぇっ!?」
「戦い方の話はともかく、戦いの適正自体はハシュアーが一番上だね」
「ちょ、まって──どうぞ」
「終わりだよ」
「今のだけ!? あんだけコケにされて、褒められるの今のところだけなの!? もうちょっとなんか欲しいです!」
「褒めるところあんまりないもん。戦いが強いなんて探索者なら当たり前だし、私たちくらいのレベルだと才能の差は大きいってあの人も言ってた」
「……レ、レイトさん!」
縋るような視線に応えて頷く。
「シエルちゃんが不寝番で寝ちゃった時はハシュアーが変わってくれたってところは助かったよ。あと、グロウルートを持って帰るのもやってくれたね」
「ほ、ほら! 褒めるところあるじゃん!」
「そう……じゃあ終わりね」
「えー……」
総括に入り始めた。
「各々の問題は分かりきってる。私は攻撃力」
「僕は……戦うための根本的な才能」
「俺は?」
「気絶しない事と、探索者としての基本全部」
しかし、問題点を明確にしただけでは何も進展しない。シエルは難しい顔をした。
「とにかくレベルを上げなきゃ……」
「でも、モンスターを倒せなきゃレベルは上がらないよ?」
「だから倒すんでしょ」
「倒せないかもって話なのに?」
「…………ハシュアーの先生か、あの人に聞いてみるしかないかな」
3人の頭に思い浮かんだのは、2名。
どちらを選ぶか。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
-
いる
-
いらない