【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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16_意外と良い線

 

「うおおおお!」

 

「……!」

 

 雄叫びを上げながら、やはり先頭で突っ込むハシュアー。その後ろに走るレイトとは歩幅の差があるにも関わらず同じか少し早いぐらいのスピードでの吶喊。

 

「どうくるかな?」

 

 大楯を構え直し、剣の石突きでオモテをガンガンと叩くヒナミ。狙ってこいと言わんばかりだ。

 

「うおりゃあ!」

 

「っ!」

 

 今度はメイスではなく、肉体丸ごと突っ込んだ。

 ライダーキックを食らわせて体勢を崩させることに注力──が、そんなに甘く無い。地面に突き立てた大楯というのは単純に彼女の膂力で支えるのみならず、受けた力を下に流すこともできる。少なくとも攻撃として全くもって効果がないように見受けられた。

 

「人間の体重くらいなら、余裕だね……っ!?」

 

「はぁっ!」

 

 しかし、ハシュアーの背後すぐを走っていたレイトが飛び出した。即席の、連携とすら呼べない流れ──味方を囮にして本命が一撃を加える算段。だが、うまくいけば剣が彼女の首筋へ到達していただろう。

 

「意外と……慣れてるのか?」

 

 それを見逃すわけもないのがディーンだ。一歩後ろに引いて、二人がどのように攻撃をしてくるのかを観察していた。最初の突撃から見て、そして最近探索者になったという事情も考慮するとやることは小細工なしの真っ向勝負。盾に正面から来るのは変わらないだろうと思っていた。多少横にずれようが、雛見の実力なら問題なく抑えてくれるという信頼もある。

 以前はまず突っ込む、一番槍として動いていた。しか最近は、こうして仲間たちと敵の動きを観察してから動き出すというムーブを始めた。そうしたら調子が良くなった。

 

「くっ……」

 

 短めに持った槍で抑えられた剣先。レイトは後ろに下り、盾を押し続けるハシュアーの背中側に再び入る。

 

「こなくそっ!」

 

 ハシュアーの膂力ではまだ大楯を跳ね返すほどの力はない。ガン、ゴン、と硬い音は鳴るもののあくまでそれだけだった。

 しかし、それで十分でもあった。

 盾役同士がお互いを縫い止めているのであれば、あとは近接と遠距離がやり合うだけだ。

 

「……お前、なんか習ってたのか?」

 

「少しだけ」

 

 油断なくディーンの顔を睨みつけ、鋒が地面スレスレを並行移動するような下段の構えを維持する。地の構え、道場ではあくまで軽く触れるだけだったそれをいきなり本番で使用していた。

 

「レイト、ちゃんと勝ってね」

 

「うん!」

 

 地の構え、防御偏重型の構えを取るということは自分から積極的に行く気がないということでもある。相手の攻撃を弾いてのカウンター、先は相手に譲るのが前提のそれを、速度も力も勝っているであろう相手にしようするのはかなりリスクの高い行為だ。

 しかし、弾くことさえできれば勝ちの目はある。

 レイトは今の自分に勢いがないことを自覚していた。それは性格的にもそうだし、この場においてもそうだ。

 勢いという選択肢を掴むのであればもっと早い段階、ハシュアーが最初に飛び出した時点でそうするべきだった。

 だからまずは、この構えを選択した。

 

「…………」

 

 ジリジリと間を狭めていくレイト。

 やはり対人剣に触れたことがあるのだとディーンは理解した。ステータス的な差で自分が負けることはないにせよ、レベルも20程度では圧倒的に突き放すことはできていない。技術体系を学んだ相手の恐ろしさはアキヒロが散々見せてくれたので、レイトが何をしてくるかが気になって軽々しく動き出すことはできなかった。

 その代わりに口を開く。

 

「それはあれか? カガミに教えてもらったのか?」

 

「違います、これは日向さんたちです!」

 

「…………知らねえ」

 

「そうだと思います。探索者じゃないので」

 

「…………探索者じゃない人間に学ぶ意味ってあるのか?」

 

 戦闘の最中ではあったが、ディーンはレイトの口から出てきた言葉に疑問を抱いたようで、それを口に出した。

 

「力とかスピードが全然違う相手からじゃなくて、もっと探索者でちゃんとしたやつから教えてもらったほうが──」

 

「はあっ!」

 

 思考が逸れた一瞬を機敏に読み取ることができたレイトは踏み込み、その瞬間に腕を持ち上げて、鋒を突き出した構えへ変じさせた。

 狙うは一点、喉仏。

 急所だ。

 

「お──らあっ!」

 

「うっ!?」

 

 油断していた。

 意識が逸れた。

 そういった言い訳を思いつくよりも先にディーンは蹴り上げた。賭けに近い、当たっていなくてもおかしくないような咄嗟の反撃は木刀を半ばほどから砕き折った。

 レベル20が咄嗟に出した全力は、木刀ぐらいであらば容易く折れてしまうということだ。

 

「……」

 

 しばしの沈黙。

 やっべー、やっちまったーというディーンの内心と、武器を破壊されたということに単純に面食らったレイトの空白の時間。

 

 ──風切り音。

 

 静寂を切り裂くように、後方で全体を広く見取っていた弓使い二人の一射が標的めがけて飛んだ。

 標的というのは、完全な無防備を晒しているレイトとディーンのことに他ならない。

 探索者の強靭な腕力から放たれる矢というのは、このレベルだと音速まではいかないものの通常の狩りなどで放たれるそれよりもよほど勢いがついている。来ると分かっていてもガードをするのは至難の業だ。それも、数瞬前まで意識に空白があった人間にとっては。

 結果的に──

 

「うげえっ!」

 

「あだっ」

 

 先端に丸い緩衝材が取り付けられた矢は、二人の額を射抜いて転ばせた。

 どちらかというとレイトの方がダメージは大きいようで、当たったところを抑えて悶絶している。

 

「うぐぐぐぐ……!」

 

「いってえ……まあ、死ぬことはねえけど」

 

 とは言いつつ、彼の額にも丸い跡ができていた。

 レイトが正気を取り戻すまで待って全員が戦闘体勢を終了した。

 

「──はぁ、いたた」

 

「咄嗟に蹴っちまったわ」

 

「うーん……結構うまくいくんじゃないかってあの時は思ったんですけど……」

 

「実際悪くはなかったぞ?」

 

「そうですか!?」

 

「うおっ」

 

 びっくりするくらい大きな声でディーンに詰め寄るレイト。

 

「ぼ、僕悪くなかったですか!?」

 

「だからそう言ってるじゃん……」

 

 圧にやや引き気味ながら、感想を繰り返す。

 

「やった!」

 

「ガキじゃねえんだから……」

 

「でも、悪くないんですもんね!?」

 

「ああもうそれでいいよ……」

 

 いつもは大人しいレイトからの感情の発露は、むしろ仲間にこそ驚きを与えた。

 

「レイトさん……?」

 

「…………」

 

 シエルはボーッと様子を眺めているが、心なしか表情が柔らかい。

 しかし、褒めてばかりいては成長につながらない。ダメなところはダメと指摘する事こそが今回の目的だ。

 

「まず、ハシュアー」

 

「はいっ」

 

「連携も取れてないのに飛び出すのは自殺行為だぞ。最初のだって俺が力込めてなかったのと武器が硬くないから死ななかっただけで、本来なら串刺しになってる」

 

「……」

 

「あと、なってなさすぎる」

 

「え?」

 

「真正面からやり合おうとすんじゃねえよ、あれが雛見じゃなくてデカいモンスターだったら叩き潰されて終わりだぞ」

 

「でも盾持ちは前で戦った方がいいんじゃないの?」

 

「もちろんそうだけど、お前の場合盾は盾でも丸盾じゃん」

 

「何がダメなの?」

 

「雛見の大楯と違って、お前の丸盾はちっせえだろ」

 

「確かに?」

 

「だから、重い攻撃とか散弾みたいな攻撃をくらったら防げないんだよ」

 

「でも、先生は何も言わなかったけど」

 

「それは知らない。あとで先生に聞いとけ」

 

「うーん……」

 

「でもあれだ、躊躇なく突っ込めるってのは近接の適性あるな。…………あるよな?」

 

 語気が弱くなる。

 まだレベル20の雑魚がこんな偉そうに物を言って良いのだろうかと不安が芽生えたのだ。

 

「ねえねえ、キミって身体小さいのに速いし力も強いんだね」

 

 雛見は挨拶時は剣呑な感じの目を向けていたのに、もう顔見知りみたいな顔でハシュアーに人懐っこい笑みを見せた。同じ盾使い同士で何か感じるものがあったのかとレイトはやや訝しんだ。

 なお,ハシュアーは

 

「小さいって言うな!」

 

 と憤っている。

 

「あはは、ごめんごめん。でも本当に結構やれそうだね」

 

「ふ、ふんっ……そっちも重い盾をよく使えるね」

 

「これでもレベルは21だからね」

 

 なんと、リーダーよりも上だった。

 

「前で戦う影響かな、ちょっとだけ上がりやすいっぽいんだよね」

 

「俺も前線張ってるんだけどなあ」

 

「まあまあ」

 

 続いてはレイト。

 

「お前はアレだ、なんか色々遅い」

 

「うっ……」

 

「実際はあんな立ち止まって判断してる暇なんかないからな。しかも指示を出す前に仲間が飛び出してった。アレで死んだらお前の責任になるってことだけは覚えとけよ」

 

「は、はい……」

 

「でも剣術は良い感じだったな。レベルが同じだったら俺も……うん」

 

 ディーンは意外と謙虚だった。

 

「その道場とかっての? バカにして悪かったな」

 

「いえ、挑発だとはわかってましたから」

 

「わかった上で隙を狙ったのか……」

 

「いっぱい修行したんです」

 

 手をにぎにぎする。

 思い出すのは辛くとも楽しかった日々。

 

「じゃあ、そこはわかった上で言うぞ」

 

「は、はい」

 

「あれはモンスターと戦う剣じゃない」

 

「…………」

 

「俺は確かに危ない所もあったけど……少なくとも、今のままじゃ格上のモンスターには通用しない、ような気がする。正直俺も剣術には詳しくないからアレなんだけど……あの時の鋭さが常に出せるなら多分良いんじゃないかなあ」

 

 力、速度、頑丈さ、そのどれもが上のモンスターに対して、技を通すことは極めて難しい。相手は自分の良いところを押し付けようとしてくる。自分が相手に押し付けるには、それ相応の練度というものが求められるのだ。

 

「わかってはいるんですけど……」

 

 しかも、レイトはいまだにモンスターを見ると身体が硬直してしまう。あの時の恐怖を完全に克服したわけではなかった。

 

「そんでシエルはあんまり言うことないな。ずっと隙を狙ってたんだろ?」

 

「そう」

 

「あれでいいんじゃね? 近接ももう少しとか何とか言ってたけど、そのために役割分担してるんだから任せりゃ良いじゃん。弓が効かない敵が出たら、別のーー爆弾とか使えば?とりあえず、できることやんなよ」

 

 総括すると、やはり今のままではレイトが一番足を引っ張っているということだった……が、光明も見えた。

 

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