【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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18_痛くなければ覚えませぬ

「でりやあああ!」

 

「ほいっ」

 

「うらあああ!」

 

「へいっ」

 

「わあああああ!」

 

「あいっ」

 

「…………ふざけんなこらああああ!」

 

 レベル8の探索者がレベル40の探索者に攻撃を当てる。

 真面目な話、不可能と言っていい。ただでさえ身体能力の差がある上に、戦闘経験でも明確な差があるのだ。

 だからこそ、やる意味もあるというものだが。

 能力的に底辺なものたちが行き着く先として選ばれることがほとんどの場合の探索業において、勤勉さというもの見ることは稀だ。

 むしろ、勤勉なものほど侮られる。

 何もしてないけど俺つえ〜という振る舞いをするのが普通の風潮の名で生きているからだ。真面目であるほど、所謂『スカしてる』という風に見られる。だから、仲間に入れてもらいたいなら勤勉さというものは裏に隠す必要があった。

 だが時折、そういった風潮などどこ吹く風の者が現れる。

 

「ゼッテーに当てる!」

 

「──来い!」

 

 レイジは、胸の高鳴りを抑えられなかった。

 小さな体躯に見合わぬパワーを保有した少年は、確かに育っている。自分の指導のもとで。

 雷降る中、1ヶ月以上も教官に会いにきて継続的な指導を受ける。

 信じられない継続力だ。

 最初の頃はちょくちょく先輩たちからかわいがりを受けていたが、異様に頑丈な故か受け流してきた結果、それも今ではなくなった。時折、成果を確かめるようにアンダーに潜って逃げ帰ってくるのはレベル的に仕方ないところはある。

 しかし、近辺の低レベルダンジョン──例えば凪草原やお邪魔ガ池などに赴けばいいのになぜアンダーにこだわるのかと聞いたら、リーダー達がそう決めたからだそうだ。

 

『俺はまだ目標とかハッキリしてないから、ハッキリするまではとにかくガムシャラにやるしかないんだ。鉄を打つんだって最初は何をやってってのを一から教えもらえるけど、何を打ちたいかは自分で決めなきゃいけない、だろ?』

 

 後半は何を言ってるかよく分からなかったが、とにかくパーティー仲が良好ならばそれでよかった。

 

「1ヶ月も経つのに、一発も当たんねえ! しかも考え事してるやつに!」

 

 好ましい弟子なことは間違いなかった。しかし、それはそれとして武器の振りが異様に単調だった。

 振り下ろしの真っすぐさときたら熟練の探索者顔負けの精緻さで寸分違わぬところを狙うことができるのに、それが横になると途端にゴミカスみたいなフォームになる。

 明らかに、何かしらの癖が出ていた。

 

「ほらほら、もっと」

 

「ぬぎいいいいああああ! う、腕がああああ!」

 

 振りすぎて攣ったらしい。

 指がピクピクしてる。

 

「──どうです、調子は」

 

「どうって……いきなりだな」

 

 唐突にやってきてハシュアーの様子を見るのが、このカガミという男の特徴だった。

 

「一応親御さんから預かっている大事な子供なんでね」

 

「お前もまだガキだろ」

 

「ええ」

 

 ガキと評しつつ、相対する男を総評した時に感じるのは年下のそれではない。異様に落ち着いていて、弟子のパーティーメンバー全員が『変な人』と言うのもさもありなんといった感じだ。

 

「また、一戦やるか?」

 

「やめておきます」

 

 以前、実力を測るために戦った。

 レベル30くらいから一気に50代にまで上がったとかで、探索者たちはペテンだと噂している。ドラゴンの討伐に失敗したというのもその風評に追い風だった。

 実際のところどうなのかを自分の腕で知りたかったのだ。

 ──剣を交えて得た答えは明確だった。噂などやはり当てにならない。

 

 そしてレイジが彼に対して探索者として抱いた特徴は、1人でやってきたとの言葉通り、全般的な対応能力が発達しているということだ。正直、全く相手にならなかった。それをカガミ自身は『レベルがあれなんで当然の結果だけど、同レベルでやりたかったですね』と言っていた。同感だ。

 

「アキヒロさん、また見にきたんですか?」

 

「あー……なんて?」

 

「また見にきたのかこの暇人、だってよ」

 

「なんだとお!? 悪い言葉を人に向けたのはこの口か!」

 

「い、いっへない! いっへひゃいから!」

 

「また悪口か!?」

 

 くそおもろ。

 なんでも、ハシュアーの言葉がこいつには分からないんだそうだ。大事な子供を,言葉すらわからない男に預けるイカれた親がいるらしい。俺が人に預けるときは最低限の条件として言葉は分かることを付け加えよう。まあ、子どもも嫁もいないけど。

 

「まったく……イーヴァ様が怒るぞ……」

 

「イーヴァ様関係ないだろ! というかいい加減俺の言葉分かれよ!」

 

「また悪口か……?」

 

「うわあやめて!」

 

 わちゃわちゃしている間に一旦の休憩は終わった。

 

「1ヶ月経ったからそろそろ実地でやろうと思ってんだよ」

 

「実地ですか……レベル7……8か、8だと若干不安もあるけど、まあ、多少は無理させた方がいいか」

 

「いつまでも中でやっててもしゃあねえからな。俺ばっか相手しててもモンスターとの戦闘に慣れるわけじゃねえし」

 

「それに関してはちょくちょくアンダー行ってるとは聞いてますけど」

 

「あー……愛しのレイトくん達から?」

 

「いとし? …………ああ愛しね、そうです」

 

「そうなのかよ」

 

「顔がいい子供って尊くないですか?」

 

 なんて純粋な眼差しなんだ……目力つよいなって思ってたけど、子供の話する時はやわらけえんだな。

 

「どうです?」

 

「…………集団戦でしか学べないことがあるように、1人だけでしか伸ばせないところもあるからな。これからはどんどんモンスターと戦わせて、レベル上げと警戒能力の底上げだ」

 

「あ、逃げたな」

 

 何が悲しくて子供の好き嫌い論争をせにゃならんのだ。

 

「お子さんはいらっしゃるんでしたっけ?」

 

「いない」

 

「あ、そうか……そもそもおいくつなんでしたったけ、以前聞いてたら申し訳ないんですが失念してしまいまして」

 

「しつ…………なに?」

 

「歳を聞いたかどうか忘れてしまいまして」

 

「あ、ああ……40だよ」

 

「40か…………やっぱりそうなのか……」

 

 やっぱりってどういうことだ。

 

「探索者って歳取りづらいんですかね〜」

 

 いきなり雑談の雰囲気になった。

 

「俺の周りにもレベル高い人いるんですけど、俺と同世代くらいに見えるんですよね」

 

「…………まあ、そういう話は聞いたことあるな」

 

 こうしている間にもハシュアーは血涙を流しそうな勢いで苦しそうにメイスを振っている。本当に横振りが下手くそで、こんなのじゃ絶対にモンスター倒せ……ないこともないけど、色々不便だ。

 

「懐かしいなあ」

 

 そんなハシュアーの様子を見て、カガミは懐かしさを覚えたらしい。ナイフとメイスでなんの共通点があるのだろうか。

 

「おれも少しだけメイスとか使ったことあるんですよ、そしたら身体が振られるのなんのって。死ぬかと思いました」

 

「死ぬて、大袈裟だな」

 

「ハンマーとか重機構武器は流石に重すぎたんでダンジョンには行けなかったんですけどね。メイスは一応試しましたよ」

 

「ふーん」

 

「レイジ先生はどんな武器を使ってきたんです?」

 

「えー……」

 

 言いたくない様子だった。

 

「そもそもお前の先生じゃないんだけど……」

 

「レイジさんって言うの、なんか違和感があるじゃないですか」

 

「…………確かに!」

 

 想像してみたとき、目の前の若者にさん付けで呼ばれるのはすごく微妙な気分だった。しかし呼び捨てで呼ばれるのもそれはそれでちょっと……という感じがある。仕方がないので先生という呼び方を受け入れることにした。

 

 

 ──────

 

 

「──おっ?」

 

 凪平原に向かうと、早速サンダーグースの幼体が現れた。

 

「この時期特有だな」

 

「サンダーグース……剥製を見たことはあるけど、子供はこんな感じなのか」

 

「剥製? …………っと、ハシュアー」

 

 なんのために来たのか、雑談をしていては果たせない。

 

「あれ? ハシュアー」

 

「…………」

 

 ハシュアーはしゃがみ込んで、岩を見つめていた。それどころか、腰から取り出した小さなピッケルでカツカツと突いている。

 

「……なにしてんの?」

 

「地上に鉱脈が出てきてたから、変だなーって見てました」

 

「鉱脈?」

 

 レイジの目には、ただの岩にしか見えなかった。

 

「なんの鉱脈なんだ?」

 

「ジルコン」

 

「ジルコン……?」

 

「こんなところにあるなんて、地上って凄いんだね」

 

 知らん──2人は顔を見合わせた。アキヒロに関してはジルコンという石の名前だけは聞いたことがあったが、それはそれとしてどんなところにあるのが普通かなど知らない。ただ、モンスターそっちのけでピッケルを岩に叩きつけ始めたら流石に止める。

 

「ハシュアー! 待て!」

 

「はい?」

 

「ジルコンは知らないけど、今はあっちのサンダーグース!」

 

「…………」

 

 顎に手を当てて、岩とサンダーグースを交互に見る。

 

「先にこっちじゃダメ? 誰かに取られたら──」

 

「取らない! 誰も取らないから!」

 

「……わかった」

 

「ったく、いきなりなんなんだ」

 

 ハシュアーはメイスを構え、サンダーグースの背後からこっそりと近寄っていく。しかし草むらで人間が隠密行動をとることは難しい。肉体もそうだし、武装の色や匂いが目立ってしまうのだ。

 あと10mというところで、立ち止まって背筋を伸ばしたサンダーグースが振り返った。

 

『グェェェエエ!』

 

「!」

 

 途端に口元から放たれる光──雷をまとめた球のようなそれに対して丸盾を構えた。

 

「来いっ」

 

 ふわりふわりと時間に余裕を持って直撃すると、丸盾が一瞬青白く光る。

 

「うっ!」

 

 全身に痺れが走り、しっかりと手に持っていたはずのメイスを落とした。力を入れようとしても、奇妙な感覚で腕の力がうまく伝達されない。ハシュアーが身体を動かそうとする意思がどこかでぷつりと途切れてしまったかのようだった。

 

「力が……」

 

「うっ、じゃねえ! なんで喰らってんだ!」

 

『グァッ! グァッ! グエーッ!』

 

 羽ばたきながら走ってくると、勢いそのままに体当たりを敢行したサンダーグース。ほぼ同じ大きさであるハシュアーともみくちゃになって倒れ込むと、嘴を何度も叩きつける。

 

「うあっ、くっ、や、めっ……ろっ!」

 

 ハシュアーもハシュアーで痺れながら、空になった右手を腹に何度も振るう。左の盾はなんとかしてグースの頭に押し付けようと頑張るが、筋肉の塊かつ忖度のない野生動物相手だと上手いようにはいかなかった。

 

『グアッ! グアッ! グアッ!』

 

 サンダーグースは学習したのか、脇腹に何度も嘴を降り始めた。

 

「──ぐっ!?」

 

 モンスターの膂力。いくら幼体とはいえ、容易くハシュアーの脇腹は引き裂かれた。嘴の先に引っ掛かった肉から滴る赤い雫、絶叫が空気をつんざいた。

 

「うああああああ!」

 

 13歳の少年が叫び、もがく。その光景は痛々しく、とても放置していいものではなかった。

 

「頑丈っつってもレベル8か」

 

「そうですね、ただ……1発で裂けない時点で異常です」

 

「まあな? そーいや、あいつの親ってなんなんだ?」

 

「機密事項なので」

 

「んだそりゃ」

 

 だが、2人はそれを日常風景だとでも言うように流した。

 

「ハシュアー! そこからが探索者だ!」

 

「うああああ! た、たすけっ……!」

 

 サンダーグースの攻撃はそれで終いではない。さらに肉を啄もうと嘴を振り上げた。少年は涙を浮かべながら、必死の形相で押し除けようとする。

 

「あああああ!」

 

 痛いのか、怖いのか、もはや涙の真相はわからぬままに盾を何度も叩きつけた。

 

『グェッ!?』

 

 盾とて金属の塊ではある。単純に円盤をぶつけたと考えれば、それが攻撃として機能することは当然だった。足の骨をへし折られたサンダーグースは悲鳴をあげ、びっこを引きながら抜け出す。

 期せずしてハシュアーは解放された。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ──あああああ……!」

 

 肩で息をしていたが、必死の緊張感が途切れた瞬間から激痛が腹から全身へ染み渡りはじめる。

 膝をつき、震える手で傷口を押さえれば手のひらがべっとりと汚れた。まるで意味のない行動、むしろ少年の目に映った痛みの象徴は意識をパニックの中へ陥れようとしていく。

 

「うああ……」

 

『グェェェ……!』

 

「っ!?」

 

 絞り出すような怨嗟の声に、顔を即座に上げる。また、口が開かれていた。

 

「うぁっ──」

 

 怒りに満ちた瞳。

 口腔に高まる電子の蠢きが、再びハシュアーめがけて放たれそうな直前。

 

「ああああああ!」

 

 がむしゃら。

 そう表現するしかない走り方でハシュアーが走り出した。転びそうになり、その拍子に手に触れたものをしっかりと掴む。

 

『──!』

 

 放った雷球はハシュアーの横を掠め、モンスターが最後に瞳に収めたのは、自分の眼前に迫る歪な形の鉄塊だった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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