【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「はっ!?」
ハシュアーは土臭さに包まれて目覚めた。
「ああ……」
うめき声。
腹を抉られた痛みでピクリとも体を動かせないが、なんとか顔を動かす。メイスを振り下ろしながら倒れたと記憶していたため、あの攻撃が当たったか覚えていない。
今意識が覚醒したのだって、倒れてしばらくしてから……のような気がした。そこらへんも前後不覚だ。
「う……んしょ……っと……あ」
顎を地面につけ、やっとこさ前を向いたハシュアーの視界にそれが入る。
「やった……」
メイスは取り落とされる直前、ベッコリとモンスターの顔に穴を開けていた。グロテスクさはかなりのものだが、それはつまり討伐が完了したことを意味しているのだ。
「やったよ俺……アルス様……母さん」
「ああ、よくやった」
「大丈夫かー」
レイジとアキヒロは、ハシュアーが起きるまで何もしないことを選んでいた。気絶した少年の身体の脇腹は痛々しく抉れているが、その程度で死ぬわけがないというのは探索者である2人にとって当然の事実だ。
それよりも大事なのは、ハシュアーがきちんと自分で倒したという体験を掴むことだった。痛みと苦しみの中で掴んだ勝利ほど自信をつけるものはない。
「いでえよー……」
「まあなあ、脇腹抉られるの痛えよなあ」
「痛みって全然慣れないんですけど、先生はどうです?」
「昔に比べたら耐えられるようになった気はする。痛いのに変わりはないけど」
「腹貫かれるのとか動けなくなりますもんね!」
「そうそう」
ハシュアーの苦しみを目にして、腹を攻撃された時あるあるで盛り上がり始めた。
肝心の少年が置いてけぼりだ。
「あ゛ー……う゛ー……」
大きな声を発するとき、自然と腹筋に力が入る。体を動かそうとしても腹筋に力が入る。繋がる部分が動けば、抉られた部位も当然頑張ろうとするのだ。
結果として、掠れた呻き声がハシュアーの口から垂れ流されていた。
「なんつーか、よくあそこから勝ったなお前」
「あ゛……」
「回復薬、自分でかけられるか?」
「う゛……」
回復薬を使うということは、まず回復薬を取り出す必要がある。そして取り出した回復薬を振りかけるという作業が必要になる。
ただそれだけのことが、今のハシュアーにとっては途方もないことのように思えて仕方がなかった。
目で懇願する。
──どうか、めちゃくちゃ頑張った俺の脇腹におくしゅりを!
「はいぶしゅー」
「!!?!?!!?」
やってきたのは救いではなく新たな地獄でした。
脇腹が激しく蠢き、断続的に盛り上がる傷が干渉しあって更なる痛みを呼び込む。傷口に嘴を突っ込まれた時のような痛みが、傷がある程度塞がるまでの間ずっとハシュアーを襲い続けた。
「──はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
息も絶え絶えで地面に転がっている半死体もといハシュアーは脇腹をすりすりと撫でた。肉の抉れや変な凹みはなく、完全に元通りだ。
「な、治った……!」
「じゃあ今度はこいつを解体しようか」
サンダーグースの身体は溶け消えることなくそこに残っていたが、放置すればいずれ腐るのは間違いない。冬から切り替わったばかりで気温が低い時期なので1時間くらいは放置しても何もないとしても、やらなければならないことはさっさとやるに限った。
──体力が万全ならば、だが。
モンスターの解体を行うのは、モンスターが死んでいることが話の前提にある。
モンスターが死んでいるということは、探索者がモンスターと戦闘を行った後ということだ。
どういうことかというと……
「疲れたあ……」
情けない顔でサンダーグースの死体に寄りかかると、ふわふわの毛並みを叩く。死後硬直で筋肉が固まっているにも関わらず、毛量が柔らかさをカバーしていた。
「このまま眠れそう……」
「はい起きる!」
「ああ……」
「起きろ! 起きろ! 起きろ! 起きろ!」
「う、るさい……」
「お前が起きるまで続けるからな! 血の臭いを放置したら他のモンスターが近寄ってくることまでは考えたか!」
「はっ!?」
半開きだった目が完全に開かれ、レイジの方を向く。
「よし、ナイフを握りなおせ」
「はいっ」
「解体の仕方は分かるな?」
「一応教えてはもらったけど……」
商工会の講習で一度習ったからできます! なんていうのは、完全記憶能力でも持っていない限りは不可能な話だ。うろ覚えの記憶でナイフを首筋に突き立てる。
「血抜きだよな……」
「まあな。だけど時間が経つと首を切ってもうまくいかないから、殺したらなるべく早く太い動脈を切るとか、なんなら殺す前に太い動脈を切っておくってのも一つの手だ」
ちなみに今回はメイスが頸動脈を千切れさせていたので、たまたま放血できていた。
「次はなんだっけ、骨を抜くんだっけ……」
「水の異能を持ってればそれで洗うってのが一番だな。まあこれは基本無いから忘れるとして、鱗や爪を剥いでいけ」
「サンダーグースの使える場所……嘴?」
「そうだな、嘴みたいな硬い部分は真っ先にとるべきだ。勿論いらないなら取らなくてもいいし、売っちまうって手もある」
「うーん……」
あちこちを触ってハシュアーなりの選別をかける。鍛治師として生半可な素材では対象に選べないのか、安易に爪や羽根には手を出さなかった。
その結果──
「水掻きは何かに使えそうかな」
指と指の間をかき分けて、薄くて黄色い頑丈な膜を切り離していった。
「それを一体何に使うってんだ?」
「何かの保護材とか、板と板の間に挟む緩衝材になりそうだなって」
「なんだそれ。そんなところまで見越して鍛治師に持ってくのか?」
「え? …………あ、うん、そうです」
「なんか歯切れ悪いな……羽根はどうだ? 使えるんじゃねえか?」
「羽根はねえ……俺がやっといてなんだけど、結構荒れちゃってるから多分使えないかな」
「なんなのその鍛治師みたいな目線」
「癖、かな」
「んー……よくわかんねえやつだな」
「次はお肉ですか?」
「食いたいならそうだけど……鳥のモンスターめんどいんだよなぁ。身体中の羽根を全部取ってからじゃないと血とくっついてえらい事になる」
「こんなでかいお肉食べられないし、端っこだけ切るとかダメなの?」
「そこは好きにしろ」
「じゃあそうしよっと」
モンスターは身体が大きい分、希少部位も大きい。可食部の割合もある程度は元の生き物と似通った感じになる。
しかし、そこはモンスターというべきか。特殊な器官や魔石、魔素が多く溜まっている部分などは食べられない。食べられないと言っても、消化できないわけではない。短期間に魔素を詰め込む行為によって起きるリスクを考慮すると、誰だって食べる気にはならないという話だ。ちなみに魔素が濃い部分は美味しくないと言われている。
「お肉はこれくらいで、最後は魔素か!」
「そうだな、魔石だけどな」
「魔石は……心臓の位置?」
「大抵はな」
「たまに違う事があるってのはなんでなの?」
「知らん、そういうこともあるってだけだろ。早く見つけろ」
大抵は心臓の位置にあり、今回はその例に漏れることはなかった。腹を割いて内臓をかき分けていくと、その先にトパーズのような色をした魔石が見つかった。
「あったけど……血塗れだよお……」
「近寄るなよ臭えから」
「…………」
「うわっ! くんじゃねえ!」
「あははははは!」
──────
「やったね! ハシュアー!」
「うん!」
新入りが初めての1人戦闘を無事に終わらせたと聞いて、レイトは素直に喜んだ。
「最初は大抵うまくいくんだよね」
「レイトさんもそうだったの?」
「うん。その後は…………はは……」
「……それよりモンスターの肉取ってきたぜ!」
「──あっ、じゃ、じゃあせっかくだし焼いてみんなで食べよっか!」
「うん!」
肉を焼く音が室内に響き始めると、ちょうどのタイミングでシエルが帰ってきた。今日は早苗たちにお呼ばれしていたのだ。誘われた時点で自分も行こうかとレイトが提案したが、早苗から拒否されてしまった。
そうなると暇で何もすることがない。
1人でダンジョンに行くのも躊躇われたので、家で型の反復練習をし続けた。
女子3人で何をするのかと気になっていた答えがようやく分かる。少しだけウキウキして出迎えた。
「ただいま」
「おかえり〜、今日は何してたのぉぉ…………」
そこにいたのは、綺麗なおべべを着たシエルだった。
いつも通りの無表情に見えて、ほんの僅かだけ、レイト以外には分からないくらい少しだけ頬が赤くなっている。
「…………」
「……あっ、シエッ」
何かを言わなければと焦った結果舌を噛み、悶絶すること10秒。
「シエルちゃん、似合ってるよ」
「……そう」
「本当だよ」
「……わかってる」
鬱陶しそうにしているのはフリでしかないと、ハッキリと読み解くことができた。
「なー、ちょっとー、焼き方わか──失礼しました〜」
そういう情緒は今のところ無いハシュアーだったが、これを邪魔したら命が消え失せると本能が特大の鐘を鳴らしていた。
ハシュアー(お邪魔虫)がいなくなった後、2人の間にはどこか桃色の霞が掛かっているような雰囲気が漂っていた。
「……あ、あのっ……さ……」
「…………うん」
「その……こんど……」
「…………うん」
「…………か、買い物でもいこっか!?」
「…………ん」
なんだこれ。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない