【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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20_どこ見てんだ

 

 時は遡ること数日前。

 シエルが山田家を訪れた。

 

「よう。どうしたんだ、お前が1人で来るなんてよ」

 

「いらっしゃーい! ゆっくりしてってね!」

 

 少々の驚きはありつつも歓迎した2人をよそに、シエルの表情は硬い。リビングに通されてお茶を渡されてからしばらく、時が止まったかのように微動だにしなかった。

 

「なんだあれ」

 

「うーん……何だろうね」

 

 流石に全く表情が無い(ように見える)相手では機微を読み取るのも限界がある。何か話しづらいことを抱えているのは分かっても、その先にまで思考が進まなかった。

 

「なあシエル」

 

 そこで日向は直接聞き出すことにした。

 どうせ選択肢は多くない。このまま固まった氷が溶け出すのを待つよりは手っ取り早いだろう。

 とはいえ、いきなり何の話かと聞いてもこの猫みたいな少女が答えるかはわからなかったので、まずはアイスブレイクがてら雑談から。

 

「最近はアキヒロにキツく当たったりしてねえか?」

 

「…………キツく当たったことなんてないし」

 

 ないし、と言われても側から見てると思春期の父娘ぐらいキツいあたりだ。もしかして、あれが当然の態度なのか……? 

 日向は戦慄した。

 

「でもほら、アイツも目つきは悪いけど聞けば大抵のことはしてくれるし、怖い奴じゃねえだろ?」

 

「そう思うのはあなたが惚れてるからでしょ」

 

「あうっ」

 

「そもそもあの人のことはどうでもいいから……」

 

 シエルがアキヒロに使う脳みそのリソースは全体の1%未満だった。

 

「じゃあレイト君かな?」

 

「っ……」

 

「シエルちゃん、レイト君のこと大好きだもんね」

 

「べ、べつにそういうのじゃない!」

 

「あはは……でも、いつまで一緒にいられるか分からないんだから、言いたいことは言った方がいいよ?」

 

 探索者である以上は知っているだろう、非情な別れの可能性を。だが人は、知ることと理解することを混同してしまう。理解するには体験するほかなく、体験した者と知識として知っている者の間には埋めようのない認識の溝が絶対的に存在するのだ。それは想像力で補えるものではない。

 

「姉ちゃんは人のこと言えないけどな……」

 

 ノックアウトされていた日向が起きざまにストレートを放った。しかも、対戦相手のシエルではなくてまさかの姉に対して。

 当然早苗はいきなりの攻撃に対して反撃するべく立ち上がったが、喉が予想よりも大きく開いてしまった。

 

「わ! わたしは!」

 

「あーもう、分かってるから」

 

 クソデカ大声キャンセルを喰らったので、燃焼不十分のままシエルに矛先を向ける。

 

「で!?」

 

「私はそういうのじゃない」

 

「私はって……私がどういうのだってのさ! 言ってみてよ!」

 

「私は……」

 

「私がどういうのなの!」

 

「うるさい」

 

「ばかー!」

 

「はいはい、姉ちゃんは静かにしててなー」

 

 あえなく強制退場。

 

「レイトはどういう人が好きなのかなって」

 

「いやいや、そういうことじゃないことねえじゃねえかよ」

 

「そうじゃなくて……レイトがどういう人が好きなのか分からなくて」

 

「???」

 

 どう考えてもお前のことが好きだろ。

 そうやって切って捨てることも容易かったが、当人からしてみれば難しい問題であるのも間違いなかった。

 

「日向ならあの人でしょ」

 

「っ…………ま、まあ……普通ぐらいだけど……」

 

「早苗も、ミツキも」

 

「…………四門……」

 

「でも、レイトはよく分からない」

 

「私にはその、よく分からないってのが分からねえんだよ。向こうが自分を好きかどうかわからないってのが不安なのは……理解は出来る、けどよ……」

 

「…………レイトは……多分だけど、3人好きだった子がいた」

 

「へえ?」

 

「とても大事で、私よりも、もっともっと大事で……」

 

 そんなタイミングで、口をつぐむ。これ以上を口にするのは何かを確定させてしまうから怖いのか。

 

「きっと、家族だと思ってたんだと思う」

 

「………孤児って話だったもんな」

 

「うん……」

 

「なあシエル、レイトはお前のことを嫌いだと思うか?」

 

「ううん」

 

「だよな、そんなわけないもんな」

 

 そこは確信を持っているくせに、どうにも煮え切らない。

 

「不安だって思ってるってことは、好きになって欲しいんだろ?」

 

「…………」

 

 小さく首を動かしたシエルは、はっきりと頬を染めた。半ばわかり切っていることとはいえ手のかかるやつだと、自分のことを棚に上げてシエルに対して呆れの感情を強く抱いた。

 

「じゃあ、こうしようぜ」

 

「……は、はずかしい」

 

「まだ何も言ってねえよ……服、ちゃんとしたの選んでみようぜ」

 

「…………」

 

「私たちも手伝うからさ」

 

「…………」

 

 シエルは日向を見た。

 日向の胸を見た。

 持ち上げられてシワになっているのを見た。

 

 見下ろした。

 見下ろした。

 見下ろした。

 

「別に胸なんかなくても困んねえよ。ちゃんとしないと動くとき痛えし、むしろ良いことづくめだろ」

 

「…………」

 

「な、何だよその顔、こえーよ……」

 

「使ってるくせに」

 

「!?」

 

 

 ──────

 

 

「日向さん達と何しに行ったのかなって思ったら……服を買いに行ってたんだね」

 

「うん」

 

「……あ、でも、あれだね! 服とかに興味があるなら行くのはそういう店でも……」

 

「別に服には興味ない」

 

「あれ、そうなの……?」

 

 ならば何のために……と不思議に思ったが、とにかくシエルが可愛くてそれどころではなかった。

 

「帰るとき大丈夫だった? 変な人に後を尾けられたりとかしてない? 

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「本当に?」

 

 一度外に出て、周囲を何度も見てから頷いた。あの可愛さは変な虫が何匹くっついてきてもおかしくない。もしそんなことがあったらアキヒロにも手伝ってもらわないといけなくなる。

 

「大丈夫そうだね」

 

「心配性すぎ」

 

「そんなことないよ! いくら心配しすぎてもしすぎなことないんだから!」

 

 だって、今のシエルは史上最高に可愛いのだから。

 

「…………」

 

 気圧されるように俯いたシエルを見て、レイトは強い衝動に駆られた。なんの衝動かは口にできないが、とにかく我慢ができなかった。

 

「と、となり……いい?」

 

「ん……」

 

 いつもよりも更に近い距離で、2人はいつまでもじっと座っていた。

 

 

 ──────

 

 

「料理とはただ焼けばいいものじゃない! ただ切ればいいものじゃない! 独自性を持って、自分の魂を形にするものなんだ……!」

 

「わふ」

 

「分かってるよコマちゃん! まずは基本通りにってんだろ! でも大丈夫! 鍛治だって同じだからな!」

 

「わふっ」

 

「分かってるつもりになってるだけだって? そんなこと言うなお前! 大丈夫! 俺はアルス様直々に探索者になれるって言われた男だからよ! 料理だって一人前にやれるんだ!見てろよ!」

 

「……わ、わんっ! わうっわうっ!」

 

 レイトが戻ってこないので料理を勝手に始めたハシュアーをサポートするべくコマちゃんが手順などを伝えてみるも、全く話を聞かない。

 

「コマ切り? コマ……コマちゃんってことだな!」

 

「!?」

 

 素晴らしい手捌きで野菜をコマちゃんの形に削り出していく。

 

「よくわかんねえけど、こうすれば美味しくなるってことなんだよな?」

 

「…………」

 

 止める間もなく出来上がった自分の姿に惚れ惚れして、一旦止まれと指示を出すのが遅れた。

 

「でも全部コレだと美味しくないもんな……半分はイルヴァーレ様の形にするか!」

 

 次々と出来ていく、原材料が野菜の女神像。

 

「あれ、こんなもんだっけ……もっと大きかったよな」

 

 何がとは言わないが、大きければ大きいほどいいものがこの世にはある。うろ覚えということも相まって、最初に比べて2割──いや、3割増くらいの状態で出来上がった。

 

「わふぅ……」

 

「コレぐらいでいいよな?」

 

 ウットリと自分の姿に魅入っているコマちゃんの元へ持ってこられたのは、信徒謹製の異教の同類。

 

「──うわわわわうっ!?」

 

 気付いたらえらい事になっていた。

 自分なら異教徒だって操れるはずだ! だって知識があるんだから! と息巻いていたはずなのに、この有様。料理どころか、変な儀式が始まりそうだった。

 まずい、アイツに知られたら煽られる! 

 慌てて軌道修正を図ろうとするも、もう遅い。

 

「これを焼けばいいんだろ? 油をひと匙……ひと匙ってコレくらいだよな?」

 

 ジュオアアア!! と勢いよく焦げつき始めるフライパン。

 

「うわあああ! み、水入れなきゃああああ!」

 

「…………」

 

「次は味付けしなきゃ!」

 

「わうっ!」

 

「う゛っ!?」

 

 どけ! 俺がやるっ! 

 ちょうどいい大きさになったが、口で咥えるのはあまりにもやりづらい。

 しょうがないから人型に近付けて手を形作った。

 

「うわああっ!?」

 

 いきなり目の前にモフモフの人型の犬が現れたのでビビり倒したハシュアーは、床に転がっていた野菜の皮で足を滑らした。

 

「いってえ……って、コマちゃんなのか!?」

 

「……」

 

 黙々と、野菜が焦げないように余計な調味料を掬い出して鍋を振る。

 

「お前、人間だったのか!?」

 

『はぁ……もういいから見ててくれる? あんまり下手すぎて……』

 

「…………メスなのか!?」

 

『あのさあ』

 

「だって見てろって」

 

『誰が僕の股間を見ろなんて言ったんだよ』

 

「え、じゃあメスなの? オスなの?」

 

『…………』

 

「どっちだよ!」

 

『どちらかというとオスだよ、コレで満足かい?』

 

「でもちんこないけど……」

 

『だから股間じゃなくて鍋を見ろっつってんだろ!』

 

 ふわふわの拳骨が落ちた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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