【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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21_背負うということ

 

 シエルとレイトが2人きりの時間を終えて戻ってきたら、ダイニングテーブルの上がすごいことになっていた。

 

「──うわっ!? なんで野菜がこんなエ、エッチなことに!?」

 

「……これ、ハシュアーが?」

 

「うん! イルファーレ様の像だ!」

 

 言っている意味を理解するにはまず、イルファーレいう存在について理解する必要があった。

 

「ドワーフの神様……だったっけ?」

 

「そう! 俺たちを守ってくださっている偉大な神様で、鍛治の神様!」

 

 神様、というところでコマちゃんに2人の視線が集まった。色々とアレなところはあるが、この小さなスコティッシュテリアも偉大な一柱であることに間違いはなかった。

 

「それをなんで野菜で作ったの?」

 

「こうするとおいしくなるってコマちゃんが教えてくれたんだ!」

 

「えっ、コマちゃんが……?」

 

 ブンブンと首をふるコマちゃん。

 しかしすでに2人の視線は野菜に注がれ、ドン引きの顔のまま手に取った。

 

「なんで……こんな……」

 

「頭おかしい」

 

 こんなものを人に食べさせようとするなど、神様はとんだ変態趣味なのかもしれない。あるいは、神様のに姿を人に食べさせるというのは信仰的に意味のあることなのかもしれないと、レイト達は好き勝手に考察していた。

 

「と、とりあえず……食べる?」

 

「そうしよう」

 

「2人がいつまでも来ねえから俺が作ったんだぞ! まずはありがとうだろ!」

 

「あ、うん」

 

「うんってなんだよ!」

 

「これを見せられても感謝はし辛い」

 

「なんでだよ!」

 

「……バカすぎる」

 

「なんだと!」

 

 取っ組み合いを始めた2人を慌てて宥める。シエルに勝てるわけないのだから、無駄なことはさせない。それに自分たちの部屋が汚れる。

 

「あむっ……あれ、美味しい」

 

 恐る恐ると一口目を小さく口の中に入れたら、食べられるどころか美味しかった。前回ハシュアーが作ったダークマターに比べれば味は雲泥の差だ。まさかあの一回で上達したか、少なくとも家で練習しているところを見たことはない。

 

「これが鍛治師の器用力……?」

 

「わふ」

 

 違う、そうじゃない。

 

「あ、コマちゃんがやったんだ……えっ?」

 

 その手でどうやって料理を……? 

 

 疑問に答えることなく黙々と食べるコマちゃんに、しばらく不思議そうな顔をしていたものの結局神様の言うことなんてあんまり深く考えても自分にはわからないかと諦めた。

 なんかすごいパワーを使ったんだろうな、程度の認識だ。

 

「美味しいけど、形がイヤ」

 

「んだよ! コマちゃんに文句言えよ!」

 

「……」

 

「言えよ」

 

 

 ──────

 

 

「シエルちゃん、今度はまたアンダーに行こうか」

 

「うん」

 

「……ごめんね」

 

「ううん、大丈夫」

 

 シエルの優しさが心に染みるようだった。

 いつまでもウジウジと幼馴染達のことが頭から離れない自分のことを分かっているだろうに、そんな態度は全く出さずにただ着いてきてくれる。

 彼女を仲間にしたのは幸運としか言いようがなかった。

 

「……レイト」

 

「うん?」

 

「義手」

 

「うん」

 

「今はどんな感じなの?」

 

「……?」

 

 どんな感じとはなんだろうか。

 義手はあくまで義手で、感じるというのが五感のことを言っているのであればしっかりと感じ取れる。しかし、そんなことを果たしてシエルが聞いてくるのかということが引っかかるところだ。

 

「その……痛くない、よね?」

 

「! ──う、うん、大丈夫だよ! ほら、触ってみる?」

 

「ん」

 

 滑らかに動く左腕を差し出す。元々薄かった機械特有の継ぎ目などはいつのまにか消えて、肌触りももはや腕と同じ。シエルがそっと撫でると、むず痒さが肌を走った。

 

「く、くすぐったいよシエルちゃん……」

 

「……」

 

「シエルちゃん?」

 

「……痛、かった?」

 

「──」

 

 それは、あの時の記憶の話だろう。

 彼と出会って、何か重要なモノが変わってしまったあの日。半年以上経ってもいまだに夢に見るあの日のことを、シエルがついに突っ込んできた。

 

「答えたくないなら……いい」

 

 唇を軽く噛んでいるシエルが、どれだけ悩んでからそれを聞いたのか──そんなことを慮っていられるような余裕は無かった。

 

「みんな……っ」

 

「──レイト?」

 

 小刻みに震え出した少年の肩。

 内心が手に取るようにわかる。

 シエルは悟った。

 ──早過ぎた。

 まだ彼は『その出来事』を完全には乗り越えてなどいなかった。

 

 当たり前の話だ。彼はまだ16で、本来なら親がいて、友達に囲まれている年齢。そんな多感な時期に、幼馴染が全滅というあまりにも絶望的な状況に追いやった自分のことを許すなど、彼には到底できなかった。

 そしてシエルでは、深くにある彼のそんな思いまで読み取ることはできなかった。

 

「僕は…………僕は……」

 

「レイト……ごめん……レイト、ごめんね」

 

 苦しそうに懺悔の言葉を呟くレイトに、シエルは狼狽しながらただただ謝ることしかできなかった。

 

「──ん」

 

 次の日の朝、レイトは身体の痛みに気づいて起きた。

 

「あいてて……首が……えっ?」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「──」

 

 咄嗟に口を手で押さえたのは正解だった。そうでなければ叫ぶところだった。

 

「シ、シエルちゃん? ……あ、そっか。昨日は……」

 

 迷惑をかけてしまったなあと、少女の髪を撫でる。柔らかく細い、どれだけ触れても、いつ触っても心地よい指の通りだった。

 

「シエルちゃん……」

 

 望んだことでは無かった。

 本当はもっとちゃんと昔の話がしたい。

 いつかは必ず──だけど、今の弱い自分ではそれもままならない。

 

 彼に言われたことを一言一句違わず思い出す。

 

『死を胸に抱いて、神に背中を叩かれても歩き続ける覚悟はあるのか?」

 

 あの時は意味が分からなかった。

 だけど今ならわかる。

 みんなの魂は──目に見えぬモノはこんなにも重い。本当に、自分1人では到底抱え切れるわけもなかった。

 いつだって苦しくて、支えてくれるシエルだけが救いだった。

 

「いつもありがとう、シエルちゃん」

 

 面と向かって言うのは少し恥ずかしいけど、堂々と言いたい言葉でもある。

 半年も経ったのに自分のレベルは相変わらず低くて、レベルは11だ。だけど、少しずつ上がってはいる。最初は山田家で修行していたことを思えば、これからというところだと自分でも思っていた。

 

「……よしっ、僕ももっと頑張らなくちゃ」

 

「…………」

 

「──あっ」

 

「…………」

 

 寝ぼけ眼。

 女の子座りでレイトのことをぼんやりと見つめる。

 

「お、おはようシエルちゃん」

 

「……ん」

 

 抱っこの腕伸ばし。

 

「あはは……」

 

 これが恥ずかしくてたまらなかった。

 3人に囲まれていた身として距離の近い女の子を抱きしめるなんてのは慣れっこだけど、シエルはまだ家族判定まで進んでいるわけではなかった。

 

 それでも、抱きしめるのが嫌かと言われるとそうじゃない。

 口には出さないが、こうして日常がダメなシエルの世話をするのは気晴らしにもなるので助かっていた。

 

「んー……」

 

 ボサボサの髪、ヨレヨレの服。

 そういったものをテキパキと整える。

 椅子に座ったまま人形と化したシエルをどうにかするのは慣れたものだ。

 

 

 ──────

 

 

「はい、外行くよ〜」

 

「あー……」

 

 お出かけの日はまだ今日ではない。

 しかし、お出かけ自体はする。

 ダンジョンだ。

 

「ハシュアーも、そろそろいくよー」

 

「おいーっす!」

 

「あはは、何その返事」

 

「ははっ!」

 

 元気に家から飛び出したハシュアーに置いていかれないようにシエルの背中を押す。

 

「ほら、ほら」

 

「分かってるから」

 

「分かってないから突っ立ってたんでしょ〜? もう……」

 

「…………」

 

「はあ……」

 

 反抗するように、立ったまま動かなくなったシエルの背中を押す。

 

『──我々の目指すべきところは、例えるならば人類が最終的に辿り着く終着点なのです! つまり、いずれは必ずあなた方も知ることになる! 真理に少しだけ早く到達したとて、誰がそれを咎めましょうか!』

 

「うわっ、またやってる……」

 

 顔を歪めた。

 以前、よく分からずに話を聞いてしまったらしつこく話をされて、危うくサインをさせられるところだった。コマちゃんがさりげなく間に入って邪魔をしたことでなんとかなったが、あまり近寄りたい相手では無かった。

 女性の隣に立つ男の方もレベルからして自分よりも高そうだし、力尽くとなったら何もできない。

 

「…………」

 

 以前、男から言い寄られた時のことを思い出して顔を顰めるレイトは、シエルの肩を軽く抱いてその場から離れようとした。

 

『──そこのお嬢さん、あなたも興味があるのではないですか?』

 

「…………」

 

 女はシエルに話しかけているようだった。シエルは何故か女の方を向いて、ジッと目を見つめた。

 

『──』

 

 何故か女はウィンクをした。

 

「離れよう、シエルちゃん」

 

「……うん」

 

「だからハシュアー、メイスはしまっていいよ」

 

 既に戦闘準備万端で、周囲の一般住民をドン引きさせているハシュアーを抑えた。このままでは通報されかねない。

 本当ならあの女たちを通報して欲しいけど、既にある程度浸透してしまっていて、不審者とまでは捉えられていなかった。

 

『──厄介な。秩序の敵がノコノコと』

 

 アキヒロは嫌な顔をしているというか、恨んですらいるようだった。

 彼の価値観は少々ズレているので、嫌悪感もおそらく少しズレたところにあるのだろうとレイトは解釈している。

 

「──レイトくん、今日もアンダー?」

 

「はい、そうです」

 

「こんなこと、私が聞くのはどうかとも思うけど……焦ってはないよね?」

 

「……大丈夫、だと、思います」

 

 急がなければという思いはあるものの、だからと言って生き急いでいるという自覚はなかった。

 

「うん……そっか。じゃあ言えることは、気をつけてって事だけだね!」

 

「あはは、ありがとうございます」

 

『いーっす!』

 

『あ、ハシュアーくんおはよう!』

 

『アオイちゃん今日も仕事なんだ、大変だな』

 

『……ハシュアーくんもこれから仕事だよね?』

 

『まあな! でも俺の得意分野というか……ヒューマンには負けねえから大丈夫!』

 

『ヒューマン……?』

 

『はっ!? ……な、なんでもねい!』

 

『変なの』

 

『じゃ、じゃあな!』

 

 近頃、ハシュアーは新入り受付嬢の角田葵(ツノダアオイ)と仲良くしているようだった。年頃も近いので、笑うポイントや苦労するところが何かと似ているせいだろう。

 

「話はもういいの?」

 

「うん! アオイちゃんは多分夕方くらいまでいるはずだからな!」

 

「そっか」

 

 さて、受注した業務は何かといえば。

 

「鉱石の探掘……ハシュアー、任せたよ?」

 

「まっかせろ!」

 

 大張り切りだった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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