【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「さて、市場調査という話でしたけれども……一体どういうことをされるおつもりなんですかね」
「かたいよ……かたすぎ……」
口調が硬いのなんのって、ナナオは今のを聞いただけで心が挫けそうになった。なんやかんやで彼とはそれなりに仲良くなれたという自負があった。それにも関わらずあんなに堅苦しい言葉遣いを初っ端に持ってこられると、今まで過ごしてきた日々はなんだったのかとやるせ無い気持ちにもなろうものだ。
「かたい?」
「かたすぎだよ! ねえ、私たちってそんなに心の距離離れてる? お姉ちゃん寂しい……」
「受付以外でほぼ話さないのに距離を気にしてどうするんですか」
「すごいはっきり言うじゃん! ……あんなところに連れてったくせに」
「あんなところ?」
「やめてって言っても、吐いても奥まで連れて行かれて……最後はあんな目に……」
「あの……わざとですよね?」
「私は所詮、アキヒロくんにとって都合のいい女でしか無いんだ……!」
「いや……いやいや、街中でいきなり何を言い出すんですか。あと唐突に呼び方変えるとびっくりします」
周りがざわついている。
痴情のもつれと完全に勘違いされていた。
このままでは、彼のことを知る住民によってヒナタに悲しい言葉がお届けされるのは間違いない。
──家に帰ったら弁明しよう。
そうなるのも当然のことだった。
「一緒に遠足行った時の話ね! 遠足ね!」
霊領とも言えない。浮気と、一般人を霊領に連れて行った、だと後者の方が周囲の目は厳しい。
『遠足で浮気……?』
まあこうなる。
「もういいや……口調崩せばいいんだろ、崩せば」
「うおー、分かってるじゃん。やればできるじゃん! めっちゃイメージ変わるー! なんかドキドキする!」
「…………」
──市場調査とかいうから真面目にしてただけなのに。
「えっとね。今日は街のことを見て回ろうと思って」
「はあ」
「ほら、加賀美くんも難しいことばっかり考えてると頭パンクしちゃうでしょ?」
「んー……でもまあなんだかんだで楽しいは楽しいよ」
「さっきは言いたいことばっか言って全然整理できてなかったじゃん?」
「……おっしゃる通りですね」
「そう! だからまずは一緒に見て歩きましょ!」
「……仕事は?」
「え? 今日はもう終わりだよ?」
「あ、そうなんだ。珍しいタイプ」
「タイプ?」
「仕事が終わっても仕事の間柄の人と関わりたいなんて──ああでも、こっちはそんなもんだよな。いかんいかん」
「独り言禁止! 禁止だよ!」
「癖です」
「というか、仕事の間柄の人間とか言わないでよ!? 冷たすぎでしょ!」
「文字に起こすとそうなるというか……」
まずやってきたのは古着屋だった。
「古着……」
「私ココよく来るけど、加賀美くんと顔合わせたことないね。別のお店とか?」
基本的に布を作るというのは職人仕事なので高くなる。
当然、誰も彼もが新品をいつも買えるほど裕福なわけではない。古着屋によるサイクルというのが自然な流れだった。ボロ布と化したものから新品同然のものまであり、綺麗であるほど高い。
流石に下着は安価で出回っているが、服とは別枠という事だ。
「普通に売ってるやつって基本的に肩が狭いから、作ってもらってるんだよね」
「作ってもらってるぅ!?」
「ほら、俺筋トレしてるから」
「うわあ……うわあ……」
「全部じゃないって。良いの見つけたらここで買う事もあるし……出会わないのはたまたまでしょ。三船くんとも去年アンダーで会うまではそんな感じだったぞ」
「作ってもらってるって……ず、ずるいよ!」
「探索者なんてそんなもんだって……」
「いつもやけに小綺麗なカッコしてるなと思ったら、そういう事だったんだね……このズル山ズル男め……! 探索者なんてみんなホームレスみたいなカッコしてるじゃん!」
「金持ってるんだから服ぐらい買ってるでしょ。あと、俺は他の探索者のプライベートには突っ込んだ事ないよ」
「女の子よりも良い服着て歩いてたら、嫌われちゃうんだぞ!」
「あー……いや──」
「言い訳無用ですー」
はーやってらんねー、と店の中に吸い込まれ、古着を漁り始める。
「……今から探す感じ?」
「どうせ来たんだから、良いでしょー」
「調査ってそういう意味なの?」
「ほら、加賀美くんも手伝って!」
「手伝うって……服選びを?」
「そうだよー」
結局お眼鏡に適うものはなかった。
やや気落ちした様子のナナオ、そんなに買いたかったのかと励ましを入れる。
「あのスカートとか結構似合いそうだったけど……」
「あんなフリフリの買っても、見せる相手がいないもん……」
良いのが無かったことはともかく、そっちのことで若干落ち込んでいるのだった。
「勿体ないなあ……せっかく綺麗なのに」
「──男の人紹介してよお」
男の人。
「ヴォルフガングとかぐらいしか……」
「なにその厳つい名前!?」
「うーん、後は……三船くんとハシュアー」
「レイトくんにはシエルちゃんがいるでしょうが!」
「いきなり何……」
「え!? あんなに近くにいてわかってないの!?」
「まだ微妙な感じじゃないですかねえ」
こいつダメだ、なんとかしないと……と喫茶店に引っ張り込んだ。さりげなくタルトを頼んで、話の続きに入る。
「あんな2人の間に入る余地なんてあるわけないでしょ!」
「……そ、そうですか?」
「私が間違ってるの? これ…………え? 絶対間違ってないよね?」
「…………」
首を傾げ、よく分からないというような顔をする。彼にしてみれば、明確にかはともかくフリーな相手を無差別に挙げてるだけだ。
「俺の交友範囲って意外と狭いんだよ」
「別に意外じゃないよ」
「あ、そう……」
年中用事で埋まってて、探索者達ともあまり絡みがないなんてのは、受付から見ていればわかる。だからこそ、
「意外じゃないなら逆に気を遣ってほしいというか……ハシュアーどう? いい感じだよハシュアー」
「男なら誰でも良いとか思ってないからね!?」
「でもほら、ハシュアーって他国の要人みたいなものじゃん?」
「タコクのヨージンって何よ……」
国?
そんな概念は地殻の底に置いてきた!
「将来化けるよ、身長はともかく」
「嫌よ! ちっちゃい男なんて!」
ナナオはテーブルに突っ伏した。
「それ聞いたらハシュアー自殺するだろ……」
「だいたい、なんで鍛治師が探索者になんてなるのよ……鍛治師やってりゃいいじゃない」
「まあそこはひと様の事情と言いますか、俺達が深入りするところではないと言いますか」
イルヴァの牙に住んでいるドワーフという種族そのものが抱える問題なので、アキヒロからしても容易に口にすることではない。
「あーん……アキヒロくんと関わってるせいで婚期逃した〜……」
「じゃあ大学生の子達紹介しようか?」
「え!? ホント!? ……いや、大学生の子達って……子って年齢じゃないでしょ」
(アキヒロとの)歳の差がね……
「写真撮ってもいい?」
「えっ、い、今いきなり? というか本当に……?」
端末を見せると、モジモジし始めた。
「へ、変なことに使わない?」
「変なこと? ……アイコラとかしないよ俺」
「アイ……コラ……?」
「知らないならい──」
『──ろ〜!』
「ん?」
「なんか聞こえたね」
喫茶店の外。
通りがガヤガヤとうるさい。
「なんでっしゃろ」
ヒョイと窓から顔を出すと、信じられない光景が。
『探索者は廃止しろ〜!』
『廃止しろ〜!』
『科学技術の使用は禁止しろ〜!』
『禁止しろ〜!』
「な、なにあれ……?」
「…………」
『子供達を大事にしろ〜!』
『大事にしろ〜!』
「──ちょっと失礼」
「えっ」
「あ、すぐ戻ってくるから。金はこれ」
「…………すみません、お金は置いとくんで私もちょっと出てきますね」
街を更新する行列を見た途端、アキヒロは目を細めていた。その理由がわからないナナオではない。例のエリュシオンに関連しているからだろう。科学技術──第一期から受け継がれた奇跡──の禁止や探索者の廃止というのは、彼らが主張していたことと合致する。
それをわざわざこんな大通りに集まって主張しているのを見るのは初体験だったが、それよりもアキヒロがどこに向かうかというのが気になった。
「足……はや……!」
アキヒロは路地裏へ向かっている。身長差があるので、早足でなければ置いて行かれそうだ。
「もー……あっ」
角を曲がって姿が見えなくなった。その先でさらに置いて行かれたら、中心市街地がそこまで広くないとはいえなにをするか確認するという目的が果たせなくなる。というかこんな奥になんの用事が──
「──おい」
「きゃああもごっ…………!?!!??」
視界が真っ白になるほどのパニックに陥ったナナオは、叫ぶよりも先に口を塞がれた。暴れて逃れようとするも、抱きすくめるように拘束されてビクともしない。
冷たくなった臓腑が叫ぶ。
余計なことをしなければよかった。
そうして運ばれた暗闇で解放されるも、身体が弛緩して地面に崩れ落ちる。
震える手足を動かす勇気はなく、下手人がどんな顔をしているのかすら恐怖で見上げることができない。
俯いたまま顔を覗き込まれ──
「一緒に来るなら先に言ってくれません?」
「…………へっ?」
「まだあそこいいると思ったから待っててって言ったのに……あと、叫ぶのはやり過ぎ」
「…………うぁ」
「え」
いつもの調子で説教をし始めたアキヒロの目の前で、ナナオは顔を崩して泣き始めた。恐怖からの解放で涙も鼻水も止まらなくなった彼女の顔を拭きながら話を聞く。
「そういうやつね……ごめん、方目さん」
「そっ……だっ……だっで……! わ、わだっ! ごわっ!」
「いや、本当にごめん」
「いぎなっ! あ、あんなっ……!」
本当に怖かった。
確かに不用意だったかもしれないが、あんな恐怖を味わう羽目になる程悪いことをしたつもりはなかった。人生で一番恐怖を味わった。
モンスターなどよりも、人間の悪意の方がよほど恐ろしいのだと身に沁みていた。
「あーもう……よしよし」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない