【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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24_えー、死刑です

 

「……はあ」

 

 やっとこさ感情が落ち着いた。

 日頃から荒々しい探索者とやり取りしているだけに、大抵のことには動揺しないという自信があった。それを崩された挙句、人前での大号泣。恥ずかしさしかない。

 

「ごめんなあ」

 

 だけど全部、この年下の男の子のせいだ。口を塞ぐだけで良かったはずなのに、人を物陰まで引きずって──挙句の果てには、人が泣いている最中に独り言を呟き始めた。

 

「全部……アキヒロくんのせい、だからね」

 

「本当に申し訳がない──けど、俺の呼び方それで固定なの?」

 

「今、そんな話してないよ」

 

「…………」

 

 デリカシーはどこへ行った。今、1人の女の子が泣いていたのに気にしていたのはそれなのか。

 

「本当に悪いと思ってる?」

 

「思ってるよ」

 

「態度に出てないけど」

 

「……これでどう?」

 

「…………顔だけ変えてもダメ」

 

「そうですか……それにしても、なんでコソコソ着いてきたんだ」

 

「だって普通気になるじゃん」

 

 ──そんな当たり前のことを言わないとわからないほど彼って愚かだっただろうか。

 彼のような人間がいきなりコソコソどこかに行ったら、コソコソ着いて行きたくなるというものだ。

 

「気になるからってそんな……ミツキじゃないんだから」

 

 アキヒロにしてみれば、大の大人が他人の行動を一々気にかけている方が違和感はあった。

 

「他の人に聞かれたくない身内の話かもしれないし、仕事の話かもしれないだろ」

 

「……でも、こんな奥まで連れてく必要ないじゃん」

 

「叫び出したからだろ……」

 

「いきなり掴むからでしょ!」

 

「……ごめん、俺が悪かった」

 

「そうだよ! すごく怖かったんだから!」

 

「うん、そうしたら一旦店に戻っててもらってもいい?」

 

「……人に聞かれたくない?」

 

「積極的には」

 

「でも私、受付嬢だから口硬いよ?」

 

「食い下がるねえ……まあいいか、方目さんなら」

 

 キョロキョロと辺りを見回すと、空を見た。

 雷がゴロゴロしている空だ。

 

「端末は?」

 

「こっちの方が早い」

 

 こっちとは? と尋ねる前にアキヒロは普通のボリュームで空に向けて──

 

「コマー」

 

 と呼びかけた。

 

「?」

 

 コマというのは、彼の飼い犬のコマちゃんのことだろう。建物の屋根上にでも待機しているのか、と見上げていたところ、背後に湿り気の強い息遣いが。

 

「はっはっはっはっ」

 

「──うわっ! えっ!? なに!? いつの間に!?」

 

 そこにいたのは巨大な四足歩行獣。なぜ街中にモンスターが、と二度目のパニックを起こす前に──

 

「コマちゃん、ヒナタ達は家にいるか?」

 

「わふ」

 

「あー、じゃあ見張っといてくれ」

 

「わうっ」

 

「ほら、俺いま方目さんと市場調査? 中だからさ。頼むよ」

 

「……ばふっ」

 

「いやいや浮気じゃねーから」

 

「わふっ……」

 

 呆れたのか、やれやれと首を──まるで人間がそうしているかのように横に振る。そしてナナオへ視線を移すと、ジッと見つめてきた。

 

「っ──」

 

 アキヒロはモンスターを使役していて、それは実はコマちゃんの真の姿なんじゃないかと。噂レベルでは聞いたことがあったが、実際に目にしたのは初めてだった。

 背中までの高さがナナオの鼻ぐらいの高さにある。見え隠れする犬歯はナイフほどもあり、あんなもので噛まれればひとたまりも無い。

 

 そんな巨体がナナオのすぐそばに。

 無理矢理連れて行かれた霊領でなんとかっていうモンスターに匂いを嗅がれた時と同じ。絶対に勝てない捕食者がすぐ近くにいるというのは凄まじい圧迫感だ。

 

「ふん……ふんふん…………ふんふん」

 

 匂いを嗅ぐところまで含めてあの時と一緒。

 

「あ、あの……コマちゃん……?」

 

 コマちゃんとは受付で何回か顔を合わせている。頭のいい犬だとは思いこそすれ、噂を鵜呑みにしてモンスター扱いする必要はないので『あら、コマちゃん1人なの〜?』と挨拶をする程度だ。

 

 しかし、目の前にいるのは通常の犬としてはあまりにも大きすぎる。これを見て人がモンスターと称するのは仕方ない。おそらくはダンジョン内でこの姿を見ていたのだろう、とナナオはと恐る恐る手を伸ばした。

 

「……ぺろっ」

 

「!」

 

 一度優しく手を舐めると、スリスリと首筋をナナオの顔面に擦り付ける。その深い毛並みは、人間など容易く飲み込んだ。

 

「う、うわあああ」

 

 もふもふに飲み込まれてもみくちゃにされたナナオは、メガネも髪の毛もとっ散らかった状態で排出された。

 ウネウネと、毛自体が意思を持っているかのように蠢き、眼鏡を持ち上げてコマちゃんの顔面に装着させた。

 

「むふ〜」

 

 満足げに鼻息を鳴らす。

 しかしすぐにヒョイと取り上げられた。

 

「!」

 

「ほら、遊んでないで日向のとこ行ってきてくれ」

 

「うるるるる……」

 

「眼鏡なら今度買ってやるから、伊達のやつ」

 

「…………ふしゅっ」

 

 軽い足音を立て、壁を駆け上がると姿が見えなくなる。

 慌てて眼鏡を掛け直したナナオは尋ねた。

 

「──ど、どこ行ったの!?」

 

 あんな大きな犬──犬? が街中を走り回っていたらそれこそ噂じゃ済まない。場合によっては討伐依頼が出る可能性だってあった。

 

「日向が出かけてるらしいんで、あの行軍に巻き込まれないようにさせます」

 

「過保護すぎない!? ……そうじゃなくて、コマちゃんあんな大きいの!?」

 

「大きくはなれます。異能でしょうね」

 

「──目立つよね!?」

 

「小さくなれますから」

 

「だからって、あんな姿でここに呼ぶ必要……」

 

「方目さん。だからこそ俺はこの路地裏に来たんですよ」

 

「…………」

 

 言われてみればその通りだ。

 人通りは全くない。

 そして邪魔したのは自分だった。

 

「ど、どっちが本当の姿なの?」

 

「小さい方ですよ。それに、出会ったばかりの頃はこんなちっちゃかったんですから」

 

「いつからあんな風に?」

 

「ダンジョン潜り始めてからですかね」

 

「……あ、そっか。確かに最初の方から一緒には居たもんね」

 

 思い返してみれば、一番最初はともかく探索者になって初期の段階でくっついていた。

 

「強くなったってことだよね」

 

「はい」

 

「ちょっと、口調戻ってるよ」

 

「おっと」

 

「……強くなったから良いけど、死んじゃってたらどうするつもりだったのさ」

 

「ちゃんと供養はするぞ」

 

「そうじゃないでしょ……」

 

「死んでないんだから大丈夫。死んでも来世があるから大丈夫!」

 

「いやいや…………いやいやいやいや!」

 

「さて! 日向と早苗ちゃんの事はコマちゃんに任せて、俺たちはまた喫茶店に戻りますか!」

 

 

 ──────

 

 

「──良いゴミ分だなおい」

 

「な、なんかイントネーションが……」

 

 喫茶店に腰を下ろして談笑していたアキヒロとナナオが気づいた時には、窓の外から死んだ目で見つめる2人がいた。

 

「人に夕飯の買い物させておいて、自分は知らねえ女とデートかよ」

 

「いや、デートじゃなくて市場調査……仕事です……」

 

「…………姉ちゃん、どう思う」

 

 隣に座る小さな姉へバトンタッチ! 

 

「ギルティ〜!」

 

「待ってよ早苗ちゃーん……違うんだよお……この人は方目七緒20歳独身彼氏ナシ絶賛彼氏募集中だけど俺はあくまで仕事で一緒にいるだけなんだよお……」

 

 23歳だが、若く見られる分にはいいのでそこは黙っていた。しかし、それ以外には色々と言いたいところがある。

 

「アキヒロくん! 他の女の人と一緒にいたら浮気だよ!」

 

「厳しすぎる……これが大和撫子の家系……」

 

「罰として今から私とデートしてもらいまーす!」

 

「やったあああ!」

 

 うるさい。

 店内でいきなりテンションがおかしくなった男に目を白黒させながら、ナナオは抗議の言葉を吐いた。

 

「わ、私だって別にアキヒロくんと付き合いたいとか思ってないし……」

 

「じゃあ、商工会の──それも受付嬢がなんの用事でコイツと一緒にお茶なんかしばいてんだよ」

 

「そ、それは……ただ、いつも世話になっているから気でも紛らわせてあげようと思っただけ」

 

「…………それをデートって言うんだろうが」

 

 低い声が発される。

 

「──」

 

 そこに、ビシリと手が挙げられた。

 静かな口調で告げられる、さらに低い声。

 

「異議あり」

 

「んだよ、申し開いてみろ」

 

「この程度なら高校生の時も散々ありました……つまり、日常行動の範囲です!」

 

「てんめえ〜!」

 

「うぐっ……な、なぜぇっ……」

 

 言われてみればこの男は確かに人の相談に乗ったりしていた。生徒会長として君臨していたので、らしいと言えばそうなのだろう。しかし関係が整理され、新しい関係として落ち着いた今、改めて当時のことを思い出すと怒りが込み上げてきたのだ。

 

「いっつもそうだったなアキヒロォ〜」

 

「ま、まっちくり……」

 

 首元をギリギリと締め上げていくが、全く効果がないのは分かりきっている。それなのに気を遣って苦しそうなフリをしているのもまた頭に来た。

 

「た、大抵はミツキだっていたし、そんな変なことはなかったんだよお……」

 

「──」

 

「ぐぇぇぇっ」

 

 全身起爆スイッチだった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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