【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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25_不穏なざわめき

「──まいった」

 

 銃を持った犯罪者に対してそうするように。

 男は手を挙げた。

 女3人よればなんとやら。今、この状況をうまく切り抜ける方法など男は持ち合わせていなかった。

 

「認めるんだな?」

 

「それは認めないけど……ほら、ナナオさんもデートじゃないって言ってるし」

 

「どーだか……コマちゃん」

 

「わふっ」

 

「……そうかよ」

 

 こういったことに関して、アキヒロよりはこのお犬様の方がよほど信頼に値した。何せこの男ときたら、目を離せばすぐにどこかへ走っていって何かをしようとする。

 その原動力はわかっていても、それを止めることは誰にもできない。言葉ではなく行動の積み重ねこそが信頼を作るのだ。

 

「……ちょっと聞きたいんだけどさ、2人って付き合ってるの?」

 

「…………まあ……そう、だけど」

 

「アキヒロくんって、確か関根さんとも良い感じじゃなかったっけ……?」

 

「…………ちっ」

 

「あ、ああ〜……そういう感じなんだね」

 

 そこまで深く突っ込んでは知らなかった為、ここにきて初めて彼が二股をしていることを知った。しかし、飛び級のような形だとしても、二級探索者の後半に踏み入れているので、甲斐性という点においては絶大な信頼がある。

 そういうこともあるのか、と頷いた。

 確かに重婚をしてはいけないという決まりはない。そこまでいるわけではないが、いるのは確かだった。

 

「…………」

 

 腕組み。

 無言で天井を見つめる。裁判の結果を粛々と待つ被告人のような、ある種落ち着いた顔だった。

 誰に対して気まずさを持ち合わせているかと言えば4人に対してだが、それは受け入れるしかない。世界に存在している以上、いつかはこうして身内以外にも知られるのは必定だ。

 

「アキヒロくんってそうなんだあ……ちょっと見る目変わっちゃうかも……」

 

「…………」

 

「い、いつから?」

 

「……数ヶ月前」

 

「全然そんな風には見えないのに……あれだね、アキヒロくんもちゃんと男の子なんだ」

 

「どういうことだそれは」

 

 しかし、いつまでも彼の話をし続けるわけにもいかなかった。

 

『──!』

 

「……しつこいな」

 

 外では今も行進が続いている。

 これだけのエネルギーを持って民衆が集い動くのは、商工会として全くマークしていなかったことだ。そして、これが延々と続くようでは彼の言う通りマズい事態に陥るかもしれない。具体的には分からないが、なんか大変そう(小並感)。

 

「アキヒロくんは、これの事を言ってたの?」

 

「……こんな程度で収まれば良いんですけどね」

 

「え? じゃあどんな?」

 

「言ったところで……意味が無い」

 

「なんでさ。教えてくれればもしかしたらここから本部に話が──」

 

「──人の感情を止められるわけがない」

 

「……」

 

「信仰の本質は救いだ。形がどうあれ、心に柱として一本立つのが信仰を得るって事だよ。人に心があって、肉体があって、願望がある限りは……決して誰にも、コントロールすることなんてできない」

 

 それを聞いて3人ともが彼を見た。

 彼のことを思い出した。

 

 ──誰にもコントロールすることはできない。

 

「況してや、行進しているのはたった1人のイかれた狂信者じゃない。1人の悪党なら英雄が刈り取ることもできるけど、民衆に対して英雄は無力なんだ。なにせ英雄は民衆のために存在するもので、その英雄を刈り取った英雄は怪物になる」

 

 早苗は顎に指を当てる。

 

「でも、英雄って探索者のことでしょ? そんな無力なわけなくない?」

 

「そう、探索者が民衆を倒すことは不可能じゃない。本質的には自分のことしか考えていない探索者は、必要があれば人間を殺せる。だからこそ致命的なんだよ」

 

 ナナオはここにきて、彼が何を危惧していたのかようやく理解した。

 

「民衆と探索者が敵対する……?」

 

 一気に顔から血の気が引いた。

 仮にそんなことが起これば──

 

「きっとまだ間に合う。ギリギリ、誰かすごい人が何かをしてくれれば。高まった熱を奪うか、別のものに移せる──そんな偉業を成し遂げる人間がいるならば」

 

「な、なにそれ……」

 

 彼の言葉は、あまりにも他力本願だった。

 

「でも安心してくれ! こんなのは俺の予想でしかない。なんの証拠もないただの推量だ。シンクタンクやら高性能スパコンやらが弾き出した結果なんかじゃないんだから、俺の言葉はアイツらを見てきた感想でしかない」

 

「…………」

 

「そもそも、こんなデモ行進が起こるなんて全く思ってなかったしな!」

 

 そう、明るく締めくくってナナオと三人は別れた。あの話を聞いてから街へ繰り出す気には、とてもじゃないがならなかったのだ。

 1人で歩く帰り道、ふと思い出した。彼はコマちゃんを日向達の護衛につけるとかいう話をしていたが、今、日向のそばには彼自身がいる。ならば──

 

「コマちゃん?」

 

「──」

 

「っ……」

 

 本当にいた。

 呼びかけた次の瞬間には、足元に。

 小さな犬の姿だが、その気になればこの場にいる誰よりも強靭な姿に変貌する。

 一般的にはそれをモンスターと呼ぶのだけれど、果たしてコマちゃんをモンスターと呼ぶのが正確なのか。

 

「……」

 

「わふ」

 

 持ち上げるとおとなしく腕の中に収まるコマちゃんを見て、人に仇を為す存在であるモンスターと同一視するのは無理がある気がした。

 

「コマちゃん……」

 

「クゥン?」

 

「アキヒロくんって……というか、大学生ってみんなああなの?」

 

 自身が知識層でないことは自覚しているが、それにしても遠い。

 

「って、犬に聞いたところでわかるわけないか……何やってんだろ私」

 

 アキヒロが先ほどコマちゃんと会話していたように見えたのは、長年の付き合いである程度の意思疎通を図れるからだ。

 自分ではそんなことは到底できない。

 

「…………」

 

「それにしても、二股してるなんて……やっぱりモテるんだね」

 

「………?」

 

 結局コマちゃんは家にまで着いてきてしまった。

 

「ごめんね、こんなところまで……結構遠いと思うんだけど、泊まってく?」

 

 本当は彼氏に言いたいセリフを犬に言っている自分が情けなかったが、逆に泊まっていって欲しいくらいだ。

 犬1匹でもいれば寂しさも紛れるだろう。

 

「わふ……」

 

「はーい、じゃあ一名様ごあんなーい!」

 

「…………」

 

 可愛い小物やら置いていて、誰が来ても問題ないように整理されている。それなのに、やってきたのは犬。

 

「はぁ……虚しいよお……」

 

 家事を終えてこまちゃんのお腹に顔を埋めると、太陽の香りがした。

 

「う゛ぉ〜ん……1人はやだよお……」

 

「…………わふ」

 

「わっ……えーい!」

 

 広いスペースに移動するとデカい姿になったコマちゃんの体へダイビングした。

 

「あ……しゅご……お日様……柔らか……」

 

 凄まじいポテンシャルを秘めた肉体がそこにあった。飛び込んだナナオの肉体をふわりと抱き留めるもふもふ具合と、ベッドたる十分な強度。そして先ほども嗅いだ香りが全身を包み込む。

 もう、なんかよかった。

 

「──うあ……?」

 

「…………」

 

 脈動する体の上での目覚めは想像以上に最高だった。コマちゃんの体温は自分のそれよりもやや高く、身体の形も人間が寝るのに最適な形だって気がする。ナナオが起きるまで全く動かずに寝ていたのかと思うと申し訳ない気持ちになったが、それはそれとしてベッドとしてあまりにも完成されていた。

 

「ありがとね、コマちゃん」

 

「……」

 

 返答は無く、尻尾を一振り。

 アキヒロが羨ましかった。

 こんな素晴らしい相棒と一緒に毎回ダンジョンへ潜っているのだ。それは楽しいだろう。

 

 ──実際のところは違うが、それは分かるまい。

 

「良いなあ……私も犬飼おうかな……」

 

 しかし、コマちゃんには敵わないだろうという予感があった。余計虚しくなるだけかと首を振る。

 

「さて、今日もお仕事行こっか」

 

「わふ」

 

「……ところで、いつお家に帰るの?」

 

「わふ」

 

「そっか」

 

 とりあえず仕事までは着いていく──と、そんな風に言ってくれた気がした。誰かと一緒に仕事に行くなんてのは初めてで、いつもと少しだけ違う景色。

 そんな景色の中に。

 

「──っ」

 

 商工会の前にいるのはデモを行っていた彼らと同じなのか。こんな朝早くからわざわざご苦労様、と他人事に言うこともできない。勤め先なのだから。

 彼らはナナオのことを見ていた。

 そして、1人の男性が近付いてくる。

 

「あんた、商工会の人間──」

 

『──』

 

「な、なんだそいつ……やんのか!」

 

 大勢に対して全く怯まない。

 塵芥と変わらないとばかりにコマちゃんは立っている。まだあの大きな身体になる必要はないと判断したのか、スコティッシュテリアのままだ。

 そそくさと中に入ったナナオは、他の職員に話を聞いてみた。すると、昨日デモが始まってしばらくしてからこうなっていたようだ。

 

「何かされた人は……」

 

「今はまだ……でも、難癖をつけられたりしているよ。これから何もされないとは限らないから十分気をつけないとね」

 

「…………」

 

 職員達の間にも不安は広がっていた。どんなことが起きているか、どう対処しているかの情報収集をする為に、もう少しだけ待って他の支部にも連絡を取ってみることに。まだ時間的には稼働前──もちろん仕事をしている人間はいるだろうが、いちおう開始してからということだ。

 

「ところでそのワンちゃんって加賀美さんのところの子だよね」

 

「あ、はい」

 

「……もしかして、同棲してる?」

 

「えっ……いやいや、違いますって! この子が着いてきてくれただけです!」

 

「ワンちゃんの家出ってこと?」

 

「うーん……そんな感じかなあ」

 

「…………」

 

「そ、そんな目で見ないでくださいよ! 本当ですから!」

 

「まあ、いっか」

 

「本当に違いますからね?」

 

「そういうことにしとくわよ」

 

「いや、しとくもなにも……」

 

 受付を開始したらしたで、問題が山積みだった。なにせあの愚か者共ときたら探索者にまでくってかかるのだ。恐怖がどこかへ飛んでいってしまったのか、やってきた探索者に詰め寄り、野蛮なことをするなと根拠も無しに宣う。当然、多くの探索者はそんな話に付き合ってくれるほど優しくはない。

 だが、まだ歳もレベルも低い探索者などは大人に囲まれると不安になるものだ。

 オドオドとした様子の少年がいた。

 

「コマちゃん、お願い。あの子をここまで連れてこられる?」

 

「……はぁ」

 

 普通にため息を吐くと、しばらく沈黙したのち変身して人混みを吹き飛ばし始める。

 

『うわああっ!?』

 

『も、モンスターだ!』

 

 恐れをなした群衆はいなくなった。残されたのは少年と、遠巻きに見ていた探索者だけ。

 

『狩るか?』

 

『……いや、待て』

 

 そんな会話を耳にしつつ、サイズを小さくし直すと少年の足にまとわりつく。少年は驚きながらも、擦り寄ってくる犬を抱きしめて建物の中にやってきた。

 しかし、一つだけおかしなことが。

 

「いつもの姿じゃない……?」

 

 ナナオの呟いた通り、スコティッシュテリアの姿に戻るのではなく豆柴になったのだ。もしや一瞬ですり替わったのか? と訝しむナナオにチラリと視線を送る豆柴は少年に抱き抱えられている。

 少年はそのままテーブル席を選ぶと、隣にコマちゃんを座らせた。

 

「お前、どこからきたんだ?」

 

「わう」

 

「…………とにかく、ありがとな」

 

「わふっ」

 

 仕事が忙しくなり、少年たちから目を離した隙に豆柴はいなくなっていた。

 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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