【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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29_お姉ちゃんは強し

「いやー……」

 

 距離をとった女のナイフは刃こぼれだらけ。半ばまで食い込んだ傷もあり、次の咬合でぽろっといくだろう。本人も分かっているのか、自分からナイフを折って半分にした。最初からそういう前提ならやりようはある。

 

「……ズルくない?」

 

 それが、彼に対する評価だった。

 

「なんで効かないの?」

 

「効く方がズルだと思うんだけど」

 

「そこはほら、多めに見てほしいかな。わたし女の子だし」

 

 軽口を叩きながらも、男の持つ武器をじっくり観察する。

 強度があまりにも違いすぎた。打ちあった際に食い込むというのは、相当な硬度差がなければあり得ないことだ。異能は効かないし、武器でも負けてる。

 しかも相手はいまだに異能を使用したようには見受けられない。

 

「……もしかして、キミも精神系の異能を持ってるの?」

 

 それならば納得感はあった。既に自分が術中にハマっているのなら、自分が異能を使っても全く意味がないということはあり得るだろう。

 

「…………」

 

「口硬いなあ」

 

 しかしこの男、なかなか情報を引き出せない。状況からして確定したようなことだけを口に出すのだ。

 

「…………」

 

 ここまで来ると頭に浮かび上がってくる二文字がある。

 

 ──敗北

 

「……あのさ、提案なんだけど」

 

「…………」

 

「引き分けにしない?」

 

「それはない」

 

「……あ、そう」

 

「悪いけど、子供ですらないただの暗殺者に対して見せてあげられる慈悲は無いんだ」

 

「…………」

 

 それはつまり、彼女が子供だったらまだ芽はあったということだろうか。

 

「なんで子供なら良いの?」

 

 まだ判断基準の未熟な子供なら更正の余地はある。

 しかし彼女は大人だ。レベルが40近いというところからしてもわかる通り、とっくに成人年齢は過ぎている。分別を持った大人が暗殺者という職業をやっているならば、それはもう……彼の価値観としては、責任を持つべきだという結論にしかならなかった。

 

「そもそも、敵なんだから倒して越えるのは当然だろ」

 

「……見逃してくれるなら良いことしてあげちゃうよ?」

 

「間に合ってるってやつだ」

 

「…………!」

 

 無言。

 歯を食いしばっている姿は、どのような感情を抱いているかが明らかだった。抱えたナイフは塗った毒を付着する機会すら与えられずに砕けてしまった。

 ここから逆転することなど、到底出来るわけもない。

 だが、だからと言って諦められるものか。ここで自分の命が終わるなど認められるわけがない。

 

「っ!」

 

 ──握った拳を相手に突きつけた。

 

「……またやる気か?」

 

 視線が拳に集中した瞬間、拳をひらけば蓮の花が道となって相手に伸びていく。

 そうして蓮の花が触れた相手は。

 

『うわっ!? な、なんだこれ!?』

 

 一面が蓮の花。

 美しい池の上で彼女を見失う。

 

『ここは……どこだ!?』

 

 最初の余裕綽々とした顔はどこへやら。さっきまでいた場所とはまるで違う場所に飛ばされて、自分がいる場所もわからなくなる。不安そうに彷徨う彼らを見ながら、彼女はじっくりと標的に近付いていく。音も、光も、彼女を彼らに知らしめるものは失われ、いつの間にやら背後に。

 そうして最後に──

 

『かっ──!?』

 

 首を掻き切られて死ぬのだ。

 レベルなど関係無い。

 そうして殺してきた。

 

「なんで……! なんでよ……!」

 

 だからこそ、こんなのは認められない。

 

「2度がけでもダメか……こうなるといよいよ、何か理由がありそうだな……理由、理由…………3つぐらいか?」

 

 男は彼女の挙動で察したのか、最早脅威とみなすことすらせずに考え始めた。

 

「まあ、あとで考えよう。方目さんなら何か知ってるかもしれないからな」

 

「あんた何なの!」

 

「何なのって……お前が殺しに来た被害者だろ」

 

「そんなこと……聞いてないっ!」

 

 突っ込んできた彼女の腕を掴む。

 10ものレベル差。

 無理やりにナイフを奪われ、捨てられた。

 

「は……なせっ……!」

 

「死が恐ろしいか」

 

「だまれ!」

 

「そんなに怖がる必要はないさ。なにせ死は終わりじゃない。俺がそうであったように、お前もきっと次は幸せな人生を送ることができるはずだ」

 

 言いながら、魔剣を首に当てる。

 

「な、何言って……ひっ!」

 

 果たして彼女は、これまで自分がそうしてきたように、敵の手によって呆気なく終わりを迎えた。持ち物も肉体も全て黒い炎で燃やされ、カスとなって路地裏に残った雪に染みつくばかり。

 

「はぁ……」

 

 (人間)を殺して喜ぶほど、彼の倫理観は終わっていない。しかし、大事なものに塁が及ぶ可能性はどうしても潰さなければならなかった。こんな世界だからこそ、時には倫理観を無視してでも行動する必要がある──彼なりに探索者として活動してきたところから得た答えだ。

 

「やってらんねえなあ……」

 

 たとえ死の先に新たな生があろうとも、今の生を終わらせたという事実に変わりはない。人の首を落として殺すというのはすぐに死ぬというところから考えると慈悲深いが、やっている側からすれば関係無い。

 そもそも彼は生前、人を殺したことなどない。

 

「怖がるんなら最初からあんなことすんなよな」

 

 落とした首に張り付いていたのは、末路を悟った女の恐怖の表情だった。

 

「はあー……」

 

 

 ──────

 

 

「うわー! おかえりー!」

 

「……」

 

「へへーっ、どう? 驚い──」

 

「──ただいま早苗ちゃあああん!!!」

 

「うわああ!?」

 

 合鍵を使って忍び込んでいた早苗を小脇に抱えると、寝室に飛び込んだ。

 

「えっ、えっ、えっ」

 

「すぅぅぅぅぅ」

 

 何が何だかわからないままの彼女を抱きしめ、思いっきり息を吸う。

 

「な、何してるのぉ……」

 

「コマちゃんがいないから、早苗ちゃんでストレス発散します!」

 

「なんでぇぇ……」

 

「ん〜…………はっ!?」

 

 そこで何かに気がつくと、ベッドで固まったままの早苗を残して出て行った。

 

「……え?」

 

 ガタガタと物音が激しいため、扉の向こうでは忙しなく動き回っているのが分かる。しかし、残された身としてはどうすれば良いのかがわからずに動けない。

 

「…………アキヒロくんのベッドに入っちゃった」

 

 とりあえず、ベッドの上でジタバタしたら埃が飛ぶのでジッとしていたが、そうすると今度は匂いが気になる。

 

「アキヒロくんもしてたし……い、いや! そんなことしたらわたしが変態みたいじゃん……!」

 

 下手に動くこともできずに暫く悶々としていたら、湯気を携えた彼が部屋の扉を開けた。

 

「頭冷えたわ」

 

「え?」

 

「ご飯食べよっか」

 

「あ、うん」

 

 ストレスでおかしくなっていただけのようで、お風呂で冷水を浴びたら正気に戻ったらしい。

 

「ごめん、流石にやりすぎた」

 

 食卓で頭を下げる男。

 

「あ、ううん! 全然良いよ!」

 

「そっか……ごめんな?」

 

「だから良いって! ……何ならもう一度やる?」

 

 あわよくば、という思いがなかったとは言えない。しかしそこは苦笑いを浮かべた男が断った。

 

「気遣わせちゃってごめん、ありがとう」

 

「…………」

 

「ご飯用意してくれたんだろ?」

 

「そーですよー」

 

 拗ねちゃった女児にさらなる苦笑を浮かべると、ご機嫌取りのために丁重な扱いを見せる。

 

「食べさせて!」

 

「あーん」

 

「……むぐむぐ……次はそっち!」

 

「へへーっ!」

 

「もぐもぐ……ちゃんとアキヒロくんも食べて!」

 

「ありがたき幸せ!」

 

 どちらかと言えば慇懃無礼の類に思えなくもないが、それくらい大袈裟な方がギクシャクしなくて良かった。

 いつのまにか下がった口角が上がった早苗は、自分でもアキヒロに食べさせ始める。

 

「あーん!」

 

「早苗ちゃんに食べさせてもらえるなんて、俺は幸せだな!」

 

「ふふふ〜」

 

 ふんすと鼻息を立てていると、あっという間に食事など減っていく。

 食器を片付けながら、早苗は改めてアキヒロに問うた。

 

「結局、なんでストレスがたまってたの?」

 

「……あー…………そう、だな……」

 

 説明のしようがなくて口籠もるばかりのアキヒロ。だが、早苗はその顔に見覚えがあった。

 

「……人を殺したの?」

 

「!」

 

「やっぱり、そうなんだね」

 

「早苗ちゃん…………何でわかったんだ?」

 

「──うちの稽古ってさ、本気なんだよ」

 

「本気……」

 

「本当に、全力で、戦っている最中は相手を殺そうと思ってやるの。だからみんな強いし、だからこそ上達する」

 

 レイト達に見せたのはほんの入り口に過ぎないと語った。

 

「だから……稽古でも時折あるんだよね、やり過ぎちゃうことが。私はないけど……殺気に魅入られるって言うのかな。もう、目じゃ追えないような動きで一瞬で相手を殺しちゃうことがあるの。多分、私もアレの相手をすることはできない」

 

「…………」

 

「──アキヒロくん、何があったの?」

 

 大人しく白状する他なかった。

 

「そんなの、アキヒロくんが引き摺る必要ないよ!」

 

 白状し終えての開口一番、アキヒロの額を叩く。そんなことでいちいち悩むな、と。

 

「稽古の話じゃないけど、殺しに来たんなら殺されても文句は言えない! それに、アキヒロくんだって殺したくて殺したわけじゃないんでしょ?」

 

「そりゃね」

 

「じゃあいいの!」

 

「…………」

 

「いいの!」

 

「いやあ……流石に──」

 

「お姉ちゃんが良いって言ってるんだからいいの!」

 

 もはやアキヒロをソファーに押し倒すと、髪を引っ張りながら喚く。

 

「ハゲちゃう……」

 

「じゃあ認めて! アキヒロくんは悪くないって!」

 

「認めます」

 

 認めるというか、彼も最初から自分が悪いとは思っていなかった。ただ、納得がいかずにモヤモヤするだけだ。

 だが、早苗は隙を与えなかった。

 

「ほら、寝るよ!」

 

「え?」

 

 小さな体のどこにそんな力があるのか。

 ズルズルとアキヒロを引っ張ると、寝室に連れて行った。

 

「──ん!」

 

「…………」

 

「ほら! 寝るよ!」

 

「寝るよっつっても……」

 

「お姉ちゃん命令です! 寝ます!」

 

「……お姉ちゃんの命令なら仕方ないか」

 

「ちゃんと抱きしめてね! ──あ、でも優しくね!」

 

 ここに至ってはもはや抗う方がアホらしい。

 アキヒロは先ほどと同じように早苗を抱きしめてベッドに入った。

 

「……もうちょっとだけ強い方が好きかも」

 

「仰せの通りに」

 

 アホらしいことをしていると、嫌なことなど忘れてしまうようだ。

 いつの間にやらアキヒロは夢現に入り込んでいた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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