【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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30_どこまでなら良くて、どこまでからがダメ?

 目が覚めると、天使がそこにいた。

 

「──んゆ」

 

 すみませーん! いきなりで申し訳ないんですけど娘になっていただくことってできますかー? こちらの契約者にサインしていただければすぐにでもなっていただけるんですけども。

 

「うう……」

 

 よく見たら、顔を顰めている。

 抱きしめて寝たは良いけど、人の身体は意外と硬いから早苗ちゃんの方が寝辛かったんだろうな。微妙に変な寝方だ。

 

「よいしょ、と」

 

「ん……」

 

 ベッドの真ん中に仰向けでちゃんと寝かせると、顔に溜まった険しさがすーっと抜けていった。起きるかと思ってしばらく添い寝してたんだけど、暖かい物体に引き寄せられているのか自然と近づいてきて、ぴっとり密着してしまった。

 

「早苗ちゃん、意外と寝相が悪いタイプだったっけ」

 

 もしかしたら起きてるのかもと思ったけど、穏やかな寝息は先ほどとまるで変わらない。

 ──よく考えたら早苗ちゃんは身体がまだ子供だから、むしろ長く寝てくれた方がいいのかもしれない。

 最近は大きくなる・ならないの話はどうなったのかよく分からないけど、とりあえず健康を崩している様子はない。

 

「──ん?」

 

 こんな朝から、誰かが家を訪ねてきた。

 うるさくされたら早苗ちゃんの安眠に関わるので、悪質な勧誘なら追っ払おうと思って外に出ると日向だった。

 姉を迎えにきたのかもしれない。

 

「おはよう」

 

「うん」

 

「早苗ちゃんならベッドで寝てるぞ」

 

「……」

 

「おっ?」

 

 日向は俺と扉を押し除けるようにして中に入ってきた。そのまま寝室まで迷いなく進み、扉を開ける。ベッドの真ん中でスヤスヤ眠るうちのお姫様を見て硬直していた。

 

「…………」

 

「可愛いだろ」

 

「お前さあ……」

 

「え?」

 

「これ、浮気だからな?」

 

「えっ」

 

 今更? という感じが否めない。

 これまでも散々一緒に寝たりしてたのに、今になって浮気とか言われても正直困るというか……

 

「でも妹みたいなもんだし……」

 

「お前妹いるだろうが」

 

「別枠の」

 

「なんだよ別枠の妹って」

 

「血の繋がってない妹……」

 

「それただの他人だよ!」

 

「義理の妹って可能性もあるだろ」

 

「…………そもそも姉ちゃんお前より歳上だし」

 

「そこはほら、雰囲気で。それに見た目より大人びてはいてもやっぱり子供だよ」

 

 それに魂だけ年取ってる云々の話するなら早苗ちゃんなんて目じゃないくらいジジイだぞこっちは。

 

「とにかく! ダメ!」

 

「えー」

 

「私と姉ちゃんとどっち取るんだよ!」

 

「…………日向」

 

 でも、選べねえよ実際……

 

「じゃあ──」

 

「なあ頼む、早苗ちゃんとのふわふわタイムを奪わないでくれ」

 

「な、なんだよそのいかがわしい時間は!」

 

 いかがわしくないやい! 

 

「……わ、私じゃダメなのかよ……そのふわふわ何とかは……」

 

「えっ……むしろいいの?」

 

 日向はああいうの好きじゃなさそうだからやらなかったんだけど。

 

「少なくとも彼女の姉と彼女にやるのだったら彼女にやる方が普通だろ!」

 

「……だってほら、そういうの見て嫌ってたじゃん」

 

 高校生の時。イチャラブカップルを見て『あんなふざけたマネは死んでもしない』って言ってたよ。俺覚えてるもん。

 

「…………っとに…………だけ…………んだよ」

 

 ぶつぶつ言ってる。

 

「なんて?」

 

「……我慢してやるからやってみろって言ってんだよ!」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「っ……!」

 

 しかし、改めて日向で再現しようとするとサイズ感とかボリューム感があまりにも違いすぎた。コマちゃんや早苗ちゃんはこじんまりした小動物タイプ、それに対して日向はなんというか、肉食動物みたいな感じだ。

 はち切れそうというか、凄い。

 これでふわふわタイムしたら違うふわふわタイムになりそう。どうしたものか、どこから行くべきか悩みどころだ

 

「こ、来ないのかよ」

 

「どっちから行こうかなって」

 

「……どっちってなんだ」

 

「頭とお腹」

 

 それ以外だと目的からズレそう。

 

「こいよ……!」

 

「身構えられるとなんか違うような……」

 

 無防備な相手を捕縛してメチャクチャにするのがふわふわタイムの本質だ。

 

「もうちょっと肩の力抜けない?」

 

「…………ふぅ……」

 

「確保っ!」

 

「!?」

 

 言ったとおりにしてくれたので、捕まえてソファーに移動。そこまで言うなら堪能もらおうじゃないか、山田日向のふわふわ具合を。

 

 ──!? 

 

「な、なんだよ……」

 

 俺の視界に広がったのは日向の艶やかな黒髪。

 これが神に仕える一族の髪質ということか……なかなか侮れない! どれだけ梳いても引っ掛かりがなくて、水を触っているような気分になるぞ。

 きっと世の女子が羨むだろう。

 あんな路地裏で駄弁ってた癖にこんな……何度も触ったことあるけど、こうして冷静なタイミングで触ると美術品みたいだ。

 ……美術品か。

 

「最近は神様から干渉とかはないのか?」

 

「…………?」

 

「ほら、土地を離れてしばらく経つけど何か変なこととか……あるならカチコミだなと思って」

 

「……なんもねえよ」

 

「そうなのか?」

 

 伸ばしてきた手を取ると、そのまま日向の身体の前に腕を引かれた。両腕共がその状態で、逆に俺が拘束されてしまったようだ。

 なんというか、強制的に後ろから抱きしめさせられてる感じになってる。

 

「あれから、神様は何も言わねえ」

 

「ふーん……」

 

「アキヒロ」

 

「うん?」

 

「もう、あの神様のことは忘れろ」

 

「…………そうはいかねえな。俺は隙あらば神様を殺したい男だ」

 

 早苗ちゃんに呪いをかけた悪神である以上、たとえ時間はかかったとしても必ず殺してみせる。

 出会えば発狂死か、あるいはもっと酷い目に遭うのか。それは分からない。だけど、人を傷付けるような神様なんて全部滅んでしまえばいい。

 

「というかあの神様って……自分達が信仰してる神様なのにやけに他人みたいな扱いすんだな」

 

 もしかしたら、日向も神様という存在の歪さに気付いて目覚めてくれたのかもしれない。

 

「……もう、いいからさ」

 

「なにがだよ」

 

「私たちもお前も、もうアレのことは考えなくていい」

 

「アレ……!?」

 

 もはや指示語単一で呼ぶようになってしまった。一瞬で呼び方が変わるとか、どういうことだ。

 

「だから──もういいんだよ」

 

「ふうむ」

 

「心配してくれてありがとな」

 

 振り向きながらみせた、とても爽やかな笑顔。

 照れ臭くなるくらいまっすぐな謝意だった。

 

「あ、照れてんな?」

 

「…………」

 

 完全に攻防が逆転していた。

 おかしいな、さっきまではふわふわタイムだったのに……いや、フワフワしてたか?どちらかというとフワトロな方向だったような……というか、神様がどうにかなったって何? 

 改宗したの? 

 

「焼肉のことで一杯一杯のくせに、ほかの人間のことなんて気遣ってんなよな」

 

「──それはちょっと違う」

 

「ん?」

 

 そこまで高尚じゃない。

 

 

 ──────

 

 

「──」

 

 早苗は目を覚ました。アキヒロと一緒に寝ているせいで中々寝付けず、こうして起きてみれば今度は1人だ。

 平時ならばしゃっきりと起きることができる彼女も、緊張しながらでは落ち着いていられない。しかも、いくら自分から言ったこととはいえ、ああも希望通りにされてしまうと自分がお姫様にでなったようで脳が興奮してしまった。

 

 そういうわけで、置かれていたスリッパを履いた早苗はペタペタと歩き出した。部屋の扉を開けると廊下から微妙に冷えた空気が流れ込んでくる。肌寒いとまでは言わないほどの気温で、雷鳴対策の耳当てはそういった寒さからも肌を守ってくれる。むしろ、温まった身体と微妙な空気の冷たさはよくマッチして心地よいとすらいえた。

 このままだと廊下で二度寝してしまいそう──なんて思いながら早苗がリビングの扉を開けると、すでに朝食の匂いが。

 

おあおー(おはよー……)

 

「おっ、早苗ちゃんおはよう!」

 

 男は、目をこすりながら片腕を上げた早苗を抱き上げる。

 

「んー……はっ!?」

 

「…………」

 

 アキヒロの背後からやってくるジトジトの視線で一気に目が覚めた早苗は、しかしやめろとも言えず、半分くらいニヤケながら抱きしめ返した。

 

「おい、アキヒロ」

 

「……あ、そうだった」

 

 しかし、それは束の間の出来事。日向が声をかけると彼は早苗に腕をまわすことをやめてしまった。

 

「え……?」

 

「ごめん、日向がダメだって言うからさ」

 

 そこには勝ち誇った妹がいた。

 確かに2人は付き合っているが、それはそれ、これはこれじゃないのかと早苗は抗議の声をあげる。

 

「そういうのは付き合ってる奴らだけがするんだよ。姉ちゃんも男見つければいいだろ」

 

「っ……」

 

 2人は睨み合った。

 

「ケンカシナイデー」

 

 険悪ムードのまま朝飯を終え、早苗はアキヒロの手を取って廊下へ。睨む日向を置いて、敢えての行動だった。

 

「私、最近少し大きくなったよ」

 

「ええ? ……そうかも?」

 

 アキヒロの目にはよく分からなかった。

 

「日向も言ってたけど、神様のことって俺が知らないうちにどうにかなったのか?」

 

「うん、アキヒロくんが寝ている間に」

 

「そんな感じでどうにかなるものなのか!?」

 

「そうだよ?」

 

「あ、そうなんだ……永井先生がいたら教えたかったな、その情報」

 

 早苗はどこか緊張していた。

 

「それで、何か話があるんだろ?」

 

「うん。その……私ってもう20歳超えてるじゃん?」

 

「そうだな」

 

「それなのにこんな身体だから、ガッコーも通えてないし……就職とか無理じゃん?」

 

「成長してるんだったら……と言いたいところだけど、そうだな」

 

 学校にまともに通っていない彼女が希望の会社に就職できる確率など果てしなく0に近いだろう。そして、風俗嬢やらになる気も絶対にない。

 アキヒロも絶対に許すことはない。

 しかし無意味な慰めをする気はなかった。

 

「一応道場とか畑とかやってはいるけど……安定するか分からないし……」

 

「まあなあ」

 

「だけど、もう少し経てばちゃんと大人のお姉さんになるだろうし……私が育ったら多分、日向ちゃんみたいな感じになると思うの」

 

「……そうかもな」

 

 下手に突っ込むとセクハラみたいになってしまうので、おとなしく頷く。後ろから気配を感じてもいた。

 

「だからさ……私、結構綺麗になるとおもうんだ。ほら、日向ちゃんも綺麗でしょ?」

 

「そうだな、いいお嫁さんになれるだろうな」

 

「う、うん! それで……ね?」

 

「うん」

 

「…………その……」

 

「うん」

 

「……お、大きくなったら言うね!」

 

「おお」

 

 それって何年後だよ、とは言えなかった。

 というか、露骨すぎて気付かないのが無理筋な分かりやすさだ。

 

「……大丈夫、俺がダンジョンで死ぬか早苗ちゃん達が引っ越すかしなきゃ俺がここを離れることは多分ないから」

 

「あはは、そっか……でも、前みたいに抱っこしたりしてくれないの?」

 

「まあそこは……なんかこう……うーん」

 

 自然と抱っこをしていた。

 

「こ、これはいいの?」

 

「ダメかも…………」

 

 日常(非日常)では苛烈な分、家ではぬるま湯に浸かっていたいのが加賀美明宏という男だった。そのぬるま湯を構成する一部である早苗と離れたくないという思いもまた強くーー

 

「なあ日向ぁ……やっぱさっきのあれフワフワしてなかったって」

 

 2回戦目が始まった。

 




最近ルビの振り方を知ったので、折を見て使ってます

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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