【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「へ〜……霊領でもやっぱり場所によって違うのね」
「私からしてみればここの方が変に感じます」
「確かにだいぶ違うものなのね」
山田家と秋川家。
両社を比べると、共通するところが服装くらいしか見つからなかった。美花が嫌がるロイスに持って来させたのは、いわゆる神職が身につける衣装。ヒナタが着ていたものとも似通った見た目をしている。
「私は女だからロイスのとちょっと意匠が違うけど……だいたいこんな感じだよ」
「私もそうです。でも、何で服装だけ同じなんだ? ……そこらへんはなんか記録とか残ってないんですか?」
「──もしかして」
美花は書斎の中にあった扉のノブに手をかけると中に入る。
「…………」
神妙な顔で持ってきたのはA4の紙を束ねたもの、数百枚にも及ぶそれは本にしても分厚すぎた。冗談のつもりで口にした日向はそれを見て目を丸くし、言葉も出ない。
「だいぶ傷んできたから、そろそろ書き写さないといけないのよね」
「……これ、第一期の?」
「ええ」
美花はそっと表紙を撫でる。ヒナタには読めないが、表題が大きく用紙の真ん中に書かれていた。お世辞にも上手いとは言えない絵が周りに描かれているのは、子供の落書きか。
「なんて書かれてるんですか?」
「……私のひいおばあちゃんに向けて書いてあるの」
「ひいおばあちゃん?」
「もう死んじゃったんだけどね。その時の当主が、当時生まれたばっかりだったひいおばあちゃんに向けて残したかったらしいの」
内容は文字で書き連ねてある。とても日向には読み解くことはできそうになかった。仮に絵で描かれていたならば多少は読み解くこともできただろうに。
「私も全部をスラスラ読めるわけじゃないんだけどね」
「…………」
現代を生きる者にとって、それは探索者の語る大仰な活躍劇よりもよほど遠い話だった。今、自分たちが生きる世界の前には別の文明があって、同じ星の上で同じように生活していた。彼らは自分たちよりもはるかに高い技術力があり、今では考えられないほど豊かに生活していたのだ。それを終わらせたのは大災害の数々で、ここにいる自分はそんな厄災から生き延びた奇跡の末裔だなんて。
「これは……コマちゃんが守ってくれたんですか?」
「分からないわ。あの方は私たちの呼びかけにはあまり応えてくださらないから」
「えっ」
「その反応……やっぱりそうなのね」
美花は困ったように頬を抑えた。
「神様の行動原理なんて推し量ることはできないけれど……アキヒロ君が気に入られた理由は何なのかしらね」
控えめに言って変人と評するのが相応しい男だが、そんな彼も当然のように行動原理が一般の価値観から乖離している。論理的に思考を巡らせればそこなのではないかと言いたいところだった。
「アキヒロって、この事を──」
「知らないっすよ」
部屋の隅で立っていたロイスは、組んでいる腕の上下を入れ替えながら断言した。
「何カッコつけてんのよ、思春期?」
「そんなカッコつけてねえだろ!」
大事なのはそこではない。
「でも、知ってたんでしょ? ヒナタちゃん」
「はい」
「私たちも直接言われたわけじゃないんだけど……こう、何となく圧がね」
そこらへんも含めて、あの犬が向けるモノが違った。秋川家に対しては何というか雑? 管理とかしてくれてるんだから良い顔してくれても──と思ったところで、自分たちの神様も大概碌でもなかったということに思い至る。信者に優しいだけが神様ではないということか。
「あんまり深く考えちゃダメよ?」
「え?」
「この世界は人の理解を超えたコトがうんと転がってるんだから。そういうのに一々目を奪われてたら……本当に自分がやりたいこと、分からなくなっちゃうかもよ?」
「……分かってます」
机に置かれている書物が、再び視線の集中する的となった。
「そこにお守りのことなんかは?」
「そういうのはないけど……今じゃ信じられないことなんかはいくらでも書いてあるわよ」
「…………何でですか?」
「?」
「他の本は、どこに行ったんですか?」
「……はあ…………そうね……」
ページを捲る。
ペラペラと進んだところで指を止めた。
一文に指を這わせ、口ずさむ。
「──すべて、押し流されていった」
「?」
「緑色の風、大地の津波、霧の壁、空を飛ぶ鮫の群れ」
「緑色の風……」
それだけは、高校でも聞いた覚えがあった。
はるか昔に世界を襲った災厄の一つだ。
あの日、あの瞬間、確かにこの目で見たモノ。
だけど他の三つは?
少なくともヒナタの記憶では聞いたことがないものだ。
「それだけじゃない。もっと多くの、信じられないような厄災が文明を丸ごと浄化してしまったの。信じられる? 第一期、人類は数十億人いたらしいわ」
数十億というのは、文字通り数十億だろうか。だとしたら人が立っていられるスペースすらないのではなかろうか。そもそもそんなに食料をどこから採取してくるのか。
ヒナタの想像する光景──ギュウギュウに集められた人々が空腹で泣き叫んでいる。
「結局、この本が残されていたのは私たちが庇護下にあったからに過ぎないのよ。ご先祖様も、助けてもらわなければ地面の裂け目に飲み込まれていたって」
「…………そんなものがあるなら、なんで公表しないんですか?」
「本来はこの紙束だって他の人間には教えちゃいけないモノだったの」
「なんでですか?」
「…………まだ、人類がそれを知るには早過ぎるって」
「私、人類じゃないんですか?」
確かに2種の神様に関わってしまったが、自分の身体に変なことが起きているという自覚はなかった。ケダモノに変なことはされているが。
「それが変なのよね。あの扉、人がいる時は決して開かないんだけど……日向ちゃんが人類じゃないか、もうそのタイミングが来たかのどっちかしら」
「私は人間なんで、多分タイミングの問題じゃないかなって」
「……ちょっと待って…………心の準備が出来てなかったわ」
一旦それは脇に置いておくことにして、本題のお守りの話だ。結局のところ話は単純だった。
「あのお守りについて聞くなら、アキヒロくんのお父さんしかないってわけね」
「ここにくる直前に連絡したけど繋がらなかったらしいです」
「仕事とか──」
「アイツのお父さん無職です」
「嘘でしょ……」
「なんか、とんでもないトラブル体質であちこちで問題が起こるから就職が上手くいかないって」
「…………世の中って、広いわね」
気になるのはお守りの出自そのものよりも、秋山家がそれほどあのお守りにこだわる理由だった。
「──そりゃあ、あれだけの穢れを吸収して変質してないのは異常だからよ」
「変質って……モンスターにでもなるんですか?」
「似たようなものね。でも、それ自体は明宏くんなら対処できるはず。逆に変質してないのがおかしいって話なのよ」
「対処……?」
「…………あなたは本当に、アレを見たことがないのね」
「どれですか?」
「穢れそのものよ」
「?」
それはどういう意味だろうか。
あの真っ黒な汚れのことだろうか。
「……ロイス」
「マジで? いや、流石にそれはまずいって!」
ロイスは大慌てで止めにかかった。
「コレを読めたのなら、きっと資格はあるわよ」
「いやいやいやいや、資格とかそういうのじゃなくて安全の問題でしょ!」
「見るだけよ、見るだけ」
「いやあ……」
2人が何を焦っているのか、日向にはさっぱり分からなかった。しかし、山田家が外部に秘匿していること──早苗の身体の秘密──のように軽々しく他人に言えないようなことであろうというのは察した。
そして、それが明宏に関わるかもしれないのであればこそ、覚悟を決めた。
──────
「森……」
夜。
神に仕える一家に森に連れ込まれる。
こんなに不安なこともあるだろうか。しかし、そこで退いてはプライドが許さない。そもそも体術だって修めているし、ロイスだって悪いやつじゃない。
この先に自分が知りたいことにつながる何かがあるのだろう。それならば行くしか選択肢はないのだ。
「すんません、うちの母が……」
「気にすんな」
「かっけえ〜……山田先輩怖いって言われてたけど、ファンクラブはあったんすよね」
「何だよそのフォローにすらなってないフォローは」
「クールでかっこいいって」
クネクネとシナを作る後輩に対して、露骨に嫌な顔をする。
「しょうもな」
「いやいやマジで誇って良いっすよ。先輩もアレでしたけど、山田先輩もちゃんと見てくれる人はいたんすから」
「誰も聞いてねえよ」
「いやー、懐かしいわ……こうやって2人で雑草むしりさせられましたもんね」
こうやってというが、今はロイスの母親もいるので2人きりではない上に草むしりもしていない。
「山田先輩も、文句言いながらでもちゃんと仕事してましたもんね」
「そんな文句言ってねえよ」
「いやいや! 文句たらたらでしたよ! 『ナンデワタシガコンナコト……』とかよく言ってましたから!」
「てめえ、あんまり調子乗んなよ」
「怖すぎるて」
昔話に花を咲かせつつ森を進むと、ヒナタは自分の体がおかしいことに気付いた。調子が悪いとか寒いとかではなく、なんだか周囲が暗い。
暗いというか黒い。
黒いし、毛穴から変な煙みたいなものが──
「うわあっ!?」
「え? ……んがっ!? か、母さん!」
ロイスは大きな声で助けを求めた。
「どうしたの!」
当然駆けつける
左手には剣が。
右手には白い焔が。
不可思議な状態の秋川美花。先程まではそんなもの持っていなかったはずなのに、いつの間に手にしていたのか。そも探索者ですらない彼女がなぜ剣などという物騒なものを持っているのか。
しかし、ヒナタも負けず劣らずだ。彼女の身体から出た黒いモヤがひとところに集まっていく。
「な、なんだこの黒いの! …………いや……これ、あの時と同じ……!?」
『────』
ユラユラと揺れる黒い霧玉。
不気味な予感が背筋を撫でていった。
「っ!」
ロイスは即座に日向の腕を引っ張り、距離を取らせる。
「なんだよあれ!」
「アレが……穢れだ!」
「穢れって動くのか!?」
その問いには答えず、ロイスは日向を庇う。
「母さん、頼んだぞ!」
美花が焔と剣を合わせると、剣が白い炎を纏って明るく光を放つ。彼女自身は熱を感じていないのか涼しい顔だが、モヤは苦しげに蠢き距離を取っている。
「アレでどうにかなんのか?」
「いや……あんなのは松明と変わんねえ。ただ熱くて痛いだけで、アイツらを倒すなんてのは無理だ。だからちゃんと儀式を──なっ……んで!?」
「っ…………ロイス! ヒナタちゃんを連れてアキヒロ君のところ行って!」
まだ始まりすら終わっていなかった。
ヒナタの身体から未だに発される黒モヤが地に降り立ち、先ほどの一体と彼らを挟むような位置で形を得ていく。
「な、なんだよこれ……」
「山田先輩! 行くぞ!」
肩を強く掴むと、足元を見ている暇などないと座敷の方へ走り出す。
「で、でも、お前のお母さんが──」
「そういうの良いから! 先輩呼ぶんだよ!」
日向1人であれば間違いなく迷っていただろう道のりを直走る最中も、ヒナタの身体から滲み出るようにして黒い霧なのかモヤなのか不明なモノが現れる。自分はおかしくなってしまったのかと、恐怖に飲み込まれそうになりながら走った。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない