【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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40_面目躍如

「なんか……外がうるさい気がする」

 

「そうか?」

 

 日向達が話をしに行って30分くらい経っただろうか。レイトがいきなりそんなことを言い出した。手を耳に当てる姿はコミカルだが、男の耳には何も入ってこなかった。

 

「…………何も聞こえないぞ」

 

「え? でも……ほら、ザワザワって聞こえますよ?」

 

 アキヒロの聴力がレイトのそれに劣っているというのは絶対にあり得ない。そこに対する理解あるので、レイトも聞き間違いかと耳を凝らす。

 

「──ううっ!?」

 

 突如として背筋を通り抜ける悪寒。

 ざわつきが鳴り止まず身体を抱きしめた。一人きりで寝ている時の耳鳴りに近い感覚が、根源的な不快感と恐怖を同時に呼び覚ましていく。

 

「う、ああ……!」

 

「──なんだってんだ?」

 

 シエルに目を向けると、そちらはそちらで顔が真っ青だった。さっきから静かで何かと思えばそんなことになっていたようだ。頭を両手で抑えて震えている。

 

「シエル、大丈夫か?」

 

「…………」

 

 プルプルと首を横に振る。

 こうなっては雨に震える子犬も同然だ。

 震えている同士でくっついていれば良いと、2人を寝室に運んだ後はロイス達を探しにいく。

 

「ったく……アイツら何やってんだ? いつまで話してんだよ」

 

 ロイスと日向は相性がいいはず。

 少なくとも生徒会にいたときは割と組ませていた。ロイスが話を進めて、日向にまとめさせる。そうすれば大抵のことはすんなり行った。それでダメなら吹雪にやらせればいい。

 

『ちょっと! 私のこと便利屋さんか何かだと思ってません!?』

 

『違う。思ってるんじゃなくてお前は便利屋さんだ』

 

『なんだとう!?』

 

 こんなやりとりを何度したことか。

 

「ふっ……」

 

 つい最近の出来事だ。

 本当につい最近の出来事。矢のように飛び去っていく時間の中でも、凸凹なヤツらといると少しだけ時間がゆっくりになる。

 それに、最近はもっとゆっくりだ。

 刺激があるからだろうか。死んでいたシナプスに電気が再び通り、活力が漲っていくような心地で過ごしていた。

 

「こんな歳になっても……か」

 

 しかし悦に浸っていられるのはほんの一瞬だけ。いい気分というのは雨後の虹のようなもので、得てしてすぐに消え去ってしまうのだ。

 わかっているからこそ、すでにナイフを構えていた。

 異能を覚醒させる気配が全くない自分(出涸らし)と違い、シエルやレイトには輝きがある。知らぬ異能によるものだとしても何らおかしくはなかった。

 単純な五感による感知機能を超えた先。

 彼らが2人揃って何かを感じ取ったとするなら、それはアキヒロの認知できる世界よりもきっと広い所の話なのだ。

 

「…………やっぱり何もなしか」

 

 庭をしばらく彷徨いてみたが、特に何かがあるわけではない。暗く茂る木立から今にも誰かが出てきそうな気配はあるものの、そもそも雷がうるさ過ぎて聞こえそうにない。

 はち割れんほどの雷鳴が空を貫き、あまりの太さと衝撃でアキヒロの身体が浮くほどの雷が神樹に落ちるまではそうだった。

 

「おいおい……なんだってんだ」

 

「──」

 

「!」

 

 即座に転身。

 森へ突っ込んだ。

 動線を邪魔する木立は全て吹き飛ばし、自らの五感を信じる。

 気配などという乱雑なものではなく、音をフルに活用した索敵のたどり着いた場所。蔦を切り払って飛び出した。

 

「──日向!」

 

「せんぱぁい!」

 

 2人とも地面にへたり込んでいる。

 更に奥からはまっくろくろすけが。

 

「何をしてんだお前らは!」

 

 心を締めた憤りは全て秋川家に対するもの。何故、素人をこんな場所に連れ込んだ。そもそも危ないことをするならばここにプロフェッショナルがいるにも関わらずの行動。

 あまりに迂闊だと言わざるを得ない。

 

 口から飛び出した怒号も順当と言えた。

 ロイスの首根っこを掴む。ついでに、近づいてきた黒モヤも掴んで消滅させた。

 

「ロイス……答えろ! なんで日向をこんなところに連れてきた!」

 

「や、やめろ! 私が行くって言ったんだよ!」

 

 慌てて止めに入ったヒナタの言葉を聞いても、苛立ちが消えて無くなるわけではない。むしろメラメラと、薪が追加されて火力が穏やかに増していくように瞳孔が開いていく。

 

「──そんなことよりロイスのお母さんが1人で残ってんだ!」

 

「ああ、もう……ソフィアの一件で何も学ばなかったのか!?」

 

「アキヒロ!」

 

「お前ら2人、後で説教だ!」

 

 指差した先。

 ブルドーザーが通った後のようにまっすぐと抜けた道。とても人間がやってきた道だとは思えない、惨状と言っても過ぎない状況。

 

「まずは帰れ!」

 

 それだけ言うと、猛烈に森を駆け抜けていった。

 

 

 ──────

 

 

「はぁ……バカしちゃったな」

 

 内心に募るのは、()に対する申し訳なさ。

 不在の時にこんな大失敗を起こすなんて。

 

 ──崖っぷちギリギリ。

 

 比喩表現ではなく、美花が現在いるところは本当の崖側だった。数を増していく穢れ達。最初は一体だけでも儀式がなければ祓えない悍ましきソレらに囲まれる前に逃げたのはよかった。

 息子や友達が逃げる時間は十分に稼げただろう。

 

 だが、それだけだ。

 何と非力。

 何と無力。

 アキヒロが余りにもあっさり退治してくれるから、気付かなかった。自分の身のうちに慢心が宿っていたことに。触れたら一瞬にして命が立ち消える絶死の呪いを前にしたならば、一族であろうとたちまち冥府に落とされる。

 

「本当……松明みたいなもんだよねコレ」

 

『──』

 

「っ……」

 

 落ち着いたフリをしても誤魔化せない。

 目の前にいる悍ましい存在が恐ろしかった。

 存在と呼んでいいのかすらわからない、正体不明の穢れ。少なくともここ以外で見たことのない彼らは、明確に人間を狙う。

 その身体から滲み出る呪詛は、何を言っているか聞き取れないのに聞くものを恐怖で絡めとる。秋川家は耐性があるが、ここまでの数に囲まれてしまえばなす術がなかった。

 

「……だったら」

 

 こいつらを崖下に落とせばもしかしたら死ぬかもしれない。試したことはないけど。

 他にできることもない。

 

『──』

 

 神剣を翳しても、一瞬怯むだけですぐに近づいて来る。引き付けて引き付けて、触れられる寸前に──

 

「──間に合った!」

 

「きゃあああああ!?」

 

 穢れから男の顔が突き出てきた。

 

「いやあ、本当に間に合って良かった」

 

 その顔は、完全にブチギレていた。

 大変お世話になっている相手だが、ここまで怒っていると話しかけるのも躊躇してしまう。

 

「叱る相手が減るところだ」

 

 彼が触れると穢れが霧散していく。

 何度見ても信じられない。

 そうあるのが自然だとでもいうように、彼は穢れを消滅させていった。

 

「──それで、一家揃って日向を殺そうとしたのはなんでだ?」

 

「本当に誤解なんです」

 

 土下座。

 それ以外の謝罪方法がなかった。

 彼も、私たちを止めなかった。そうするのは当たり前だと、椅子にふんぞり返っている。

 

「たまに、過程さえ良ければ結果がどうなろうと関係ないってやつがいる。特に言い訳の時にそういうやつが増えるって印象だな」

 

 静かな語り口が表すのは、冷え切った衝動。

 身体を動かして動的な怒りを発散した後に残るのは、冷静に他者を糾弾する理性だということがよくわかる。

 

「私が見たかったんだよ」

 

「…………」

 

「っ……お、お前が何と戦ってるのか知りたいって思って悪いのかよ!?」

 

「悪くない、なにも……それどころか正常な反応だ」

 

「だろ!?」

 

「だからって、実際に行動に起こすのは別」

 

「……」

 

「どうしてたんだ? 俺がこなかったら」

 

「そ、それは……死ぬしかないだろ」

 

「だから嫌なんだよ……」

 

 土下座をしている私にはその表情を実際に窺い知ることはできなかったけれど、弱い声だった。

 

「本当に……こういうのはやめてくれ」

 

 絞り出すように呟かれる言葉を受けて、どう返すのか。

 

「…………お前だってダンジョン潜ってんじゃねえか!」

 

「あいてっ」

 

 まさかの、そこから叛逆する道があった。

 殴りつけたような鈍い音の後。視線を上げると、アキヒロ君が首元をギリギリと締め上げられている。

 

「お前がダンジョン行ってる間、こっちだって心配してんだよ!」

 

「そ、それは今関係ない……」

 

「あるわ! 私のやることにケチつけんなら、まずはてめえから見直しやがれ!」

 

「俺は強いけどお前は弱いだろ……」

 

「その強い誰かさんは第235セクターで死にそうになってましたけどね!」

 

 それは初耳だった。

 

「先輩?」

 

 ロイスがゆっくり起き上がると、唖然として掴み掛かった。

 

「俺、聞いてないんですけど!?」

 

「探索者なんだから死にかけるのも当然だろ……というかお前はまだ土下座してろよ」

 

「あとでいくらでもしますよ! それより何なんすか!」

 

 出会ったあの日から、まるでお兄ちゃんみたいに見ているのは知っていた。懐いて、よく喋って、笑っているのだから、見ていればすぐにわかるようなことだった。

 

 仕方ない、あんな鮮烈な感情を刻んでしまったのだから。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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