【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「炎は神として崇められた…………どこで聞いたんだったかな」
眼前で忙しなく行われる準備は全て、俺が持ち込んだお守りを浄化するためのもの。昨夜のこともあり、本来よりも規模を上げるとのことだった。このちっこいものを何とかするためにこれだけの用意が必要なら、まっくろくろすけを倒すためにあれだけの準備が必要なのもわかる。
四方3mを囲うような組み木を、周りから見上げる。中心にはすでにお守りが収められていて視界にとらえることはできない。お焚き上げを行うにふさわしいだけの整いだ。
「お前……これ、どんだけ金かかるんだ?」
「さあ」
細かい金のことは気にしない。
それがうまく生きていくコツ。
「さあってお前、仮にも人にやってもらうんだからよお……」
「…………」
俺も無償だからな。
正規の話をすれば俺はレベルが上がっていくのでどんどん相場も上がっていく。あんまり突き詰めると無粋なところにしか繋がらないのでお口チャックさせた。
「それにしても、こんな朝早くからやる必要あんのか?」
「準備には時間かかるんだよ」
「ふーん……」
「それにただボーッとしてるように見える俺にも仕事がある」
「?」
「これをやってる最中って、あのモヤモヤが寄ってくるからな。今は暇だけどその時になったら──」
「え゛」
あのモヤモヤが現れると、普通の人間は恐怖に飲み込まれると聞いたことがあった。昨日それを体験した日向のこの反応もさもありなんといったところだ。
「俺は人間ハエ叩きとして活動する」
「こ、この屋敷は大丈夫なのか?」
「物を壊すんじゃなくて人間を狙ってくるからな。家を壊すなんてのは聞いたことがない──けど、詳しくはロイス達に聞いてくれ」
「教えてくれても良いじゃん」
「餅は餅屋ってこと」
「ああん?」
「俺も所詮は外部協力者だからな、あんま知らないんだ」
「ふぅん」
まだ朝、寝ていてもおかしくはない時間だ。しかし、昨日早めに寝たからか。
身だしなみの概念を布団の中に置き去りにしてきたかのような髪型で三船くんたちが玄関から姿を見せた。準備の音が屋内にいても聞こえるというのもあるだろう。
「おはよう2人とも」
「ざいます……」
「…………ょぅ」
シエルには意外と律儀なところがある。あの約束があったからか、普通に挨拶してくれた。これがいつもならチラッと視線を寄越すだけというところだ。
「音で起きた?」
「あい」
「……」
揃って上体が揺れている。水面に漂うクラゲを連想させるようなゆっくりとした動きで、脳みそがいかにCPUを働かせていないかということがわかる。
「んぅ……んぅ……」
眠気と覚醒の狭間で意識が争っているのだろう。
喉奥から呻きが漏れ出ていた。
「中でゆっくりしてれば?」
わざわざ一緒に見る必要もない。俺は自分が頼んだやつなのに一緒にいないのも変な話だからこうして突っ立ってるけど、2人は観光なんだから。
「見ます……」
「そか」
「一緒にいないと……見逃しそうだから…………」
「?」
「──はっ!?」
「お?」
「い、今のは何でも無いです……」
「お、おう」
寝ぼけた発言で目覚めたらしい。正直何のことだかよく分からないけど、なんかあると思ってるのかもしれない。
無いよ、何も。
「──いやあ、まさかこんなちっこいのの為に組むことになるなんて!」
「俺も適当に終わるかなって思ってたんで、ちょっとだけ申し訳ない気分です」
「ちょっとだけかい!」
顔馴染みの大工だ。
ここで儀式のための準備をするときは大抵この爺さんが頭をやっている。ハゲ頭に稲光が反射して青白く見えるので、海で見たらヒョウモンダコか何かと勘違いするかもしれない。
「おい失礼なこと考えてんだろ! 今、俺の頭見てたよなあ!」
「気のせいです。向こうの森見てたんですよ」
「ああん? …………チッ、空恐ろしいぜ。何だってあんな不気味な奴らがこの世にいるんかね」
それは俺が聞きたい。
本当にこの世のやつなのかも怪しいところだけどな。地獄の亡者だって言われても信じるぜ。
「今日は最後まで?」
「そもそも、この組み木がしっかりしてなきゃ儀式も成らんからな。自分の仕事には責任持ってってのは当たり前だろ?」
「まいりました」
「殊勝なやつだ」
「殊勝ついでにコレを」
「おっ! 珍しい、俺も貰えるなんてな!」
「今回は完全に俺の我儘ですから。みなさんに一応」
「分かってんねえ」
儀式自体は夜から。
場所を作ってはい直ぐにってわけにもいかないのはもどかしさもあるけど、やることやったらハイさよならってのは寂しいからな。コレくらいで良いのかも。
「先輩……朝早くない?」
組み木が半分くらいまで終わったところでロイスがやってきた。逆にまとめの立場にいるお前は遅いだろ、と突っ込むのは野暮か。そこら辺は当人同士でうまくやってるはずだ。
「──あっ! もしかして俺の方が遅いだけって思ってます? 違いますから!」
「そうか」
「本当ですからね!」
「疑ってねえよ」
「…………えっ」
思わず、と漏れたような声。
今度は何だと思ってロイスを見ると口元に手を当てている。視線は俺にではなく、日向と俺の背中辺りを行ったり来たり。
「なんだよ」
「えっ、えっ、えっ」
何だこいつ……
「せ、先輩……?」
「だから、なんだよ」
「その……えっ……気づいてない……? …………山田先輩……?」
俺と会話をしてくれ、我が後輩よ。
「ヒナタ、なんか言ってやってくれ」
「…………」
ヒナタの顔は、まさに紅顔極まれりといった様相だった。なして?
「あの……山田先輩……お、お楽しみでした?」
「うるせえ……」
「せ、先輩……?」
何だってんだよさっきから──と、返事をしようとして気付いた。そういえば、昨日……
「違うぞ? これは風呂で──」
「風呂で!?」
「お、おい、あんま大きな声で言うな」
「風呂でって……あの後ですよね!? めっちゃ仲良いなとは思いましたけど、人ん家の風呂でって凄いっすね!?」
「誤解だ」
「五回!? …………いち、に、さん、し……いや、五回じゃないでしょ!」
やめろその典型的な勘違い。
寝起きで脳みそ燻りすぎだろ。
「やめろやめろ、あんまり突っ込まんでくれ」
「うわ、先輩も顔赤くなってる! やっぱりそうなんだ!」
「なんでいなんでい、何の話してんだ? 楽しそうじゃねえか」
これ以上収拾がつかなくなったらもう拾いきれん!
「ちょっと街の様子を見てくるわ!」
「あ、逃げた」
──────
「っかああ、忘れてたわ……」
川面で確認すると、襟付きのシャツでも誤魔化せない位置についている。
「どしたよ兄ちゃん、そんなところで百面相なんて」
「ああいや……」
「うおっ、お盛んだねえ!」
「あー……はは」
誤解なんだけど誤解じゃないし、痕だけなんですよなんて説明したいわけもない。
「相手はあの嬢ちゃんか?」
「へ?」
「街で見かけたからな。昨日来たんだろ? 秋川んところによ」
「あー……はい」
「それに何度も来てる。ここ数年、たまーに見かけたからな。ここで釣りをしてるとほら、あっちの方に参道があるだろ?」
探偵かな?
「そんな身構えんなって。暇だとちょっとした変化でも気になるもんなんだよ」
「目、良いですね」
橋一本分の距離だ。
確かに俺は見えるけど、人間の肉眼で容易に見える距離じゃないを
「お察しの通り、元探索者だ」
「そうですか」
「これでも昔は結構動けたんだぜ。膝に矢を受けちまってからこの有様でな」
ズボンを捲り上げると、右膝に痛々しい痕が残っている。
「探索者って名前ができた頃にやってたんだ」
「古参ってやつですか」
私もまだこの世界が地球って呼ばれてた頃に生まれましてね。
「まあな……あの頃は良かったよ」
「縛りが緩かったんですか?」
「いや、ちょっと違うな」
「?」
「今ほど探索者と一般人が分断されてなかったんだよ。荒くれ者が〜なんて言われたりしねえし、みんなで一生懸命に街を守ろうと頑張ってた」
「…………」
「この街だって少しは探索者がいるんだぜ? あんまり放置しとくと周りをダンジョンで埋め尽くされちまうから、モンスターの間引きはしなきゃいけないしな。だからよ、少しくらい荒くれてようが──むしろ、あれくらいじゃねえと探索者なんて務まらねえんだよ」
そういう価値観の違いというモノを目の当たりにしたのは久しぶりだった。
「穏やかな街だからしょうがねえのかもしんねえけどよ……肩身狭そうにしてるの見ると可哀想ったらありゃしねえよ」
「…………変な団体は来てませんか?」
「変な団体? ……いや、来てねえな」
「エリュシオンとかいう団体らしいんですけど」
「エリュシオン? なんだ、どういう奴らなんだ?」
エリュシオン。
正確な意味は全く覚えていないけど、語感的に天国とかそういう意味なはずだ。
「世界が平和になりますようにって団体です」
「良いじゃねえか」
「そして、探索者と商工会を排斥しようとする団体です」
「おいマジかよ…………マジで言ってんのか?」
「俺もざっとこの街を見てみてそういう奴がいないのは確認してるんですけど……」
「…………というか、何で俺に?」
「釣りばっかしてるから、いつも通りすがる人と会話とかしてそうだなって」
「まあしてるっちゃあしてるが……そういう奴らがいるってことは一応伝えとくぜ」
「うちのセクターだと集団で行進とかしてるので、人伝に聞いてる人もいるかもしれませんね」
「…………そんなやつら、昔だったら全員に囲まれて袋叩きだったぜ」
そろそろ腹の虫もいい加減というタイミングで戻ると案の定、人はハケていた。ヒナタだけが蹲っている。
体調が悪いのかと思って近寄ると、顔を勢いよくあげた。
「お前のせいで中にいられねえよ!」
「ええ……」
震える指先で差した俺の首筋には、指の持ち主がつけた痕がいくつも見えていることだろう。
「そ、それ何で隠さねえんだよ……!」
指先どころか、唇まで震えている。顔全体が良く熟れたイチゴぐらい真っ赤で、目元にうっすらと水分が満ちているのは羞恥によるものか。
「ああ、もう……!」
一つだけ言うことがあるとするなら──
「だから言ったじゃん」
それに尽きた。
「…………っ!」
今の状況で凄まれても、可愛いなぁとしかならない。
「だいたい、朝起きた時になんで気づかねえんだよ!」
「お互い様では……?」
一緒に寝て起きたんだから、庭に来るまでに俺が気付いてないということは日向も気付いていなかったということの証明になってしまう。
勝ったな。
「いいからもどるぞ。雷に当たったらどうするんだ」
外にいる意味はない。
担ぎ上げて、強制移動だ。
「当たんねえよ! …………やーめーろー!」
「ははっ、それくらいなら心地いいぜ」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
-
いる
-
いらない