【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

318 / 571
43_白焔の舞

「ヒナタちゃん……色々とごたついてしまったけれど、昨日の続きの話よ」

 

「はい」

 

 朝食後。美花と2人、昨夜の続き。

 

「アレが、私たちが対処しなければならない敵。そしてアキヒロくんに任せている敵よ」

 

「穢れ……」

 

「決して相容れない、触れれば死ぬなんていう最悪の存在。アレが街に溢れかえったりしたらこの一帯は人が決して住めない場所になる。それに対処できるのは私たちか、彼か、あの方か」

 

「住む場所を変えるのは?」

 

「無理よ」

 

「無理?」

 

「正確に言えば、意味が無いの」

 

「…………もしかして」

 

 祈りに寄ってくるとするならば。

 

「そう。人が神に祈る限り、アレは場所を選ばずに出現する。それならばむしろ、私たちの敷地内にまとめていた方が管理しやすいの」

 

「そんな……」

 

 そんなことってあるだろうか。

 それが正しいならば、彼女たちは未来永劫この土地に縛られることになる。しかも、自分が送っている祈りの力──235セクターの人々の分も加算されて、あの怪物どもが出現する確率も上がっていく。

 

「──あなたも他人事じゃないわよ?」

 

 そうだ。

 自分の身体から出てきたアレは。

 

「一体、あれは何なんですか?」

 

「人の身体から起きるのは初めて見たけど、穢れが姿を表す時はあんな風に現れるわ。違うのは、地面から現れるってことね」

 

「私の身体は……」

 

「あなたの身体に穢れが溜まっていた。そう考えるのが普通かしら」

 

「…………」

 

「だけど、私たちが山に入ってもあんなことにはならない。別の神様に支えているから違いがあるのかもしれないわね」

 

「アレは……この土地以外でも起こるんですか?」

 

「……ごめんなさい、私にも分からないの。そもそも人の身体に穢れが貯まるなんていうのも初めて知ったし」

 

 アレがもしも街中で、買い物でもしている最中に起これば甚大な被害が起きる。

 

「探索者なら倒せたりしないんですか?」

 

「それならアキヒロ君にこんな迷惑はかけたりしないわよ」

 

「本当に?」

 

「レベル70の探索者が、糸の切れた操り人形みたいにフッとその場に倒れるなんて見たことある?」

 

 無い。

 あるわけが無い。

 70と言えば一級探索者だ。

 ただでさえお目にかかる機会は少ない一級探索者が死ぬ場面なんて、それこそ見ることは難しいだろう。

 

「アキヒロ君は私達のことを何でも知ってるプロフェッショナルみたいに言うでしょ」

 

「あ、はい」

 

「私たちは特別な力をいただいたからそうあるだけで、特殊な精神や卓越した知識によって成り立っているわけじゃない。つまり、この家に生まれれば誰でもいいのよ。儀式だって特別じゃない。手順を守れば秋川家の血筋なら誰でもできるもの」

 

「そうなると、代理って言ってるけど旦那さんって……」

 

 実際のところは力を使えるのは彼女だけということか。

 そういう趣旨の質問だった。

 

「兄よ」

 

「へぇっ!?」

 

 そうくるとは思わなかった。

 

「お父さんは違うけどね? だから私たちは夫婦のどっちも力を使えるの」

 

「あ、そ、そうなんですね……ちなみにどっちから?」

 

「あの人から」

 

 動揺しすぎて全く関係ない質問を続けてしまった。話が吹っ飛びかけたが、要は2人のうちのどちらかがいれば秋川家は滞りなく儀式を行えるということだ。

 

「とにかく、変なことがあったら連絡してね」

 

「は、はい…………えっと、ありがとうございます」

 

「いいのよ。それにしても──あんなことがあった後なのにお盛んなのね〜!」

 

 いきなりギャルが現れた。

 

「へうっ、いやっ、そのっ」

 

「けっこう独占欲強いんだ?」

 

 心底から愉快だと、下世話な話が続く。

 

「いいなー若いって〜、ロイスたちも早く子供使ってくれないかな〜。それにヒナタちゃんももう子供いてもおかしくないもんね」

 

「…………」

 

「っていう話は置いといて──お守りを浄化する時にはまた穢れが集まってくるけど、ヒナタちゃんはアキヒロ君から離れないでね」

 

 

 ──────

 

 

「な、なんだか物々しいです……!」

 

「嫌な気配」

 

 夕方。

 長波長の赤光が雷雲を橙色として際立たせている。

 組み木の正面を陣取った美花は昨夜と同じ衣装を身につけ、茣蓙の上に正座の状態から微動だにしない。まるで切腹の場のようだ。

 儀式を執り行う人間は顔に薄布をかけて、誰が誰か分かりづらくなっていた。参拝客も入れないように規制され、いるのは関係者だけ。

 厳かな雰囲気という言葉がピッタリだった。

 

「僕たちここにいていいのかな……」

 

「いいんだよ」

 

「そ、そりゃあ加賀美さんはそうでしょうけど……」

 

「こういうのは楽しんだ方がいいんだよ」

 

「…………わ、わかりました!」

 

「んふふ、声は抑えようか」

 

 レイト達か気になるところは、儀式でどんなことが行われるかということだ。その中でも殊更に注目している──ただの興味を超えた領域で真剣な眼差しを向けるのはハシュアー。

 

「ハシュアー、そんなに気になるの?」

 

「ん」

 

 端的な返し。

 レイトの方を向くことすらせず、組み木を注視している。

 そして雲からオレンジの成分がなくなり、世界の明かりから一つ主要な成分が今日も過ぎ去っていった瞬間。

 

 取り囲んでいた山伏様の男衆が木杖を地面に打ち鳴らした。

 

『──』

 

 重苦しく吐き出される言葉が何を意味するのか、彼らの口元で空気と混じって消え去っていくのみでわからない。しかし、最も目を引くのは美花が両手で剣を掲げている事だ。次いで脇に控えていた上山がその手に宿した白い炎を同じ様に掲げると、導火線でもあるかのように細く長く空に向かって伸びていく。

 

『…………』

 

『────』

 

 雷鳴の中において一糸乱れぬ発声、そして顔にかけられた薄布すらゆらめきを生み出さない。

 

「剣にやるんじゃないのか……?」

 

 森の中での美花の行動から炎を剣に移して何かをするものだとばかり思っていたヒナタは、その光景に違和感を覚えた。

 

「なあ、アキヒロ」

 

「俺も物を浄化するのを見るのは初めてだからわからない」

 

「──あ」

 

 男衆が片手を掲げた。それぞれが木杖を握っているのと反対の手で、その手には僅かな炎が宿っている。上山のそれと比べてだいぶ弱々しく、アレで何かをするには少々火種として心許ないような気になる。

 だが、その火種達も同じ様に空中に伸びると、組み木を鳥籠のように囲んだ。

 

「檻? …………うあっ」

 

 一瞬見間違いかと思って、もう一度見直せば確かに見えた。

 組み木の内側から迫り上がってきた黒いモヤが、意思を持っているかのように触手を白焔の檻にぶつけている。ここから出せ、と主張しているかのような動きだ。

 

『──ふぅ』

 

 ほんの小さな息遣い。

 掲げられた剣にはいつの間にか炎が宿っていた。

 スクッと立ち上がった美花は、自然体で檻に近付いていく。構えるでもなく、いまだに剣は天に向けて両手で掲げられていた。

 熱くないのか、というのは無粋だろう。

 

『始めます』

 

 ここに来てやっと、声らしい声を聞くことができた。あいも変わらず念仏のようなものを唱える男衆は、しかし既に玉のような汗をかいている。

 

「負担がでかいみたいだな」

 

「大丈夫かよ……」

 

「さて、俺もここいらで」

 

「あ、私も」

 

「…………」

 

「美花さんに言われたんだよ。一緒にいろって」

 

 直前まで美花と話していたので、アキヒロに対する情報伝達が最中になってしまった。

 

「ロイスのお母さんが……?」

 

「うん、だから──」

 

 万が一アキヒロがいないタイミングでアレが日向の身体から出てくれば、なすすべなくやられてしまう。

 物凄く他力本願だが、対処できるのが彼だけな以上はそうするしかない。

 

「分かった、離れるなよ」

 

「うん」

 

 

 ──────

 

 

 激しく舞っている。

 草木が風に揺れ、雨粒に打たれて首をもたげ、陽光を求めて伸びるように。どこまでも流麗で大胆な動きだ。

 腕が振られるたび、白焔の檻に差し込まれた剣が黒いモヤを切り取っていく。

 

『──!』

 

 切り取られて飛び出した黒い炎は、最初から世界に存在しなかったかのように見えなくなる。消え去ったのか、見えなくなっただけか、素人には判断がつかない。

 

「あ、あの黒い炎がこっち来たら……」

 

 レイトは戦々恐々でハシュアーの後ろに隠れていた。先ほどから全身を包み込む悪寒が、戦意というものを完全に奪い去ってしまったのだ。

 

「ださっ」

 

「し、シエルちゃんだって僕の後ろにいるじゃん!」

 

 年少者を矢面に立たせる最低のパーティーだった。しかし、肝心のハシュアーはどうなのか。

 

「…………」

 

 仲間から人心御供にされたような形の少年は一言も喋らない。あまりの恐怖に気絶してしまったのかもしれない。

 ──本当に? 

 

「違う」

 

 少年は口を開いた。

 

「やっぱり違う力だ」

 

「ハシュアー?」

 

「アレはイルファーレ様とは完全に違うね。もっと……普通だよ」

 

「イルファーレ様って、確かハシュアーの──」

 

「鍛治の神様さ。偉大なる母にして、俺たち鍛治師に祝福を授ける恩寵の主でもある」

 

 やけに語り口が大仰で、そしていつもよりも饒舌だった。

 

「何が違うの?」

 

「あの炎は……イルファーレ様とは関係ない」

 

「そ、そりゃあそうじゃないの?」

 

「違う……何だろう…………なんだ、この感じ……」

 

「あ…………ハシュアー……目が……!?」

 

「──目?」

 

 薄い緑の瞳が、濃く光り輝いていた。

 

 

 ──────

 

 

「ゾロゾロ来てやがんなあ」

 

「う、うああ……!?」

 

「……そういうことか」

 

 人間(ヒナタ)の身体からあの黒モヤが現れ、穢れとして形を成すなど。アキヒロの常識を幾度塗り潰せば済むのかわからない世界の有様だった。

 

「一つ一つ潰していく──つっても、俺の体は一つしかないのになあ」

 

 これまでに見たことがない数だった。あのお守りがそれほどに人の祈りとやらに関係するモノなのか。はたまた穢れの濃さに惹きつけられたのか。

 

『──!』

 

 男衆が動揺で身を震えさせるほどの威容。

 

「こんな数、あり得ねえ!」

 

「日向のそばにいるとかそういうレベルじゃなくなってきたな」

 

「あのお守り……やっぱり俺の目は間違っていなかったんだ!」

 

「どうする? 俺にはこれの止め方なんてわからねえぞ。組み木ぶっ壊すか?」

 

「そんなことしたらあの穢れが一気に解き放たれる! 本当にどうなるかわかんねえぞ!」

 

「……お前のオカンがアレを削り切るまで耐えれば勝ちってことか?」

 

「そ、それは……多分……」

 

「よし、任せろ!」

 

「先輩……」

 

 そもそもの発端は彼が持ってきたお守りだ。アレを目にした時のロイスの取り乱しようは凄まじかった。その時点でやめるべきだったのだ。

 私欲のためにそこを無視して話を進めたのはアキヒロだ。つまり、取るべき責任というものがあった。

 

「悪いなロイス。厄介ごとを持ち込んじまった」

 

「──!」

 

「ヒナタが危なくなる前に声をかけてくれ」

 

 何にせよ、役割をこなすだけだ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

  • いる
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。