【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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44_俺が理性的で良かったな

 

「つっても俺がやることって……」

 

 何をしているかと言えば、足を踏み出すと同時に反対の腕を振り出してバランスを取ることだ。高速で行われるそれを形容する言葉として最も正しいのは『ランニング』。

 

『──』

 

 霞に突っ込むが如し。

 身体があたれば手応えなく霧散するそれに対し武器など必要ない。座敷に向かって進み続ける彼らは格好の的でしかなかった。

 

「本当に……何だってんだ俺は」

 

 もちろん転生者だ。

 だが、それに何の意味がある。

 転生者であることに一体何のアドバンテージがあった。足が速くなるわけではない。頭が良くなるわけでもない。知識があろうが、この世界において本質的に何の役に立つ。

 

 異能。

 まさか、これがそれだというのか。

 何の実感も湧かない。

 このアンノウンどもに触れて死なないというのは彼にとってただの生まれつきで、それ以上のことはない。ただ、ロイスと出会った日に自分がそうであることに気付いただけだ。

 

「もっとなんか……都合良くいかないもんかね」

 

 探索者として考えればそこそこ上手くいっていると思う。キャリア的な話として。

 しかし厳しいことを言うとこれまでは入門編だ。攻撃と移動と索敵。全てをこなせることは最低限の、人間的な尺度で言えば呼吸と同じぐらい自然にしなければならないことだ。

 

「──!」

 

 考えを巡らせつつも脚は止めない。ただ殲滅するのではなく、儀式場にいる人間に危害が及ばないように場の周囲をグルグルと周り続けていた。

 足跡が地面に次々と刻まれ、さながら転圧作業をしているような有様になっていく。ひたすら体当たりで穢れをかき消すという地味な作業だが、必要なことだ。

 

「三船くん達は……落ち着きを取り戻したな」

 

 もしもパニックになって飛び出したりしていたら、それこそ取り返しのつかないことにつながる。意外なことにハシュアーが先頭で睨みを効かせていることも関係しているのかもしれない。

 

「ハシュアー、やっぱり俺が間違ってたよ」

 

 背の小さいドワーフは探索者に向いていない。

 その考え自体が間違っていたとは思わない。体格差というのは大きくハンデとして効いてくるのだから。

 だけど、肉体など関係なく生み出されるものがある。

 心の性質というものは、身体をどれだけ鍛えてもなかなか変えることは難しい。

 

「お前ならきっと…………」

 

 むしろ、自分の心配をしなければならなかった。レベル50というのは、水準から考えるとかなり高い位置にいる。だが、その過程でさまざまなことを体験しているはずだ。地形やモンスター、天候、人間。様々な出来事に対して、正しい異能や対処法を身につけることで乗り越えていく。

 そうあるべきなはずだ。

 

「羨ましいぜ、おい」

 

 一歩ずつクリアしていくはずが、20ものレベルをすっ飛ばして辿り着いてしまった。異能なんて一つもありやしない。穢れに触れても死なないなんていう、秋川家垂涎の力だけだ。

 空を飛べないと攻略できないダンジョンもあるし、海の上を歩けないとそもそも辿り着けないダンジョンもある。

 

 例えば『星の竜巻』と呼ばれるダンジョンは、隕石の落下地点とクレーターがダンジョン化したものだ。重力異常によって予期せぬ方向に飛ばされることもあるし、逆にモンスターが飛んでくることもある。飛べる探索者でないと、空中で永遠に漂い続ける羽目になることだってある。

 

 つまり、特定の異能前提のダンジョンというものがこの世にはあるのだ。挑まなければならない可能性が出てきた時に、力が無いから挑めませんではお話にならない。

 

 ──ヒナタの背後から穢れが10体ほど近寄ってきているのが目に入った。

 

「ヒナタ!」

 

「うゃんっ!」

 

「…………何だ今の声」

 

「う、うるせえ!」

 

 飛び込んで潰したはいいけど、聞いたことのない声だった。

 

「お前……こういうタイミングで結構アレな声出すんだな」

 

「う、ううううるせえっ! いいから続けろよ! しっしっ!」

 

「犬か俺は」

 

「そうだよ! いけ!」

 

「わんっ!」

 

 何時間かかったか、体感では全くわからない。だけど走り回ったことでかなりの体力を使ったのは間違いなかった。穢れの出現が落ち着き、組み木──もとい檻の様子も終局へ。

 

『──はぁっ!』

 

 最後の一突きが貫いた瞬間、パキンと音を立てて組み木が崩れていく。全てが燃え切って灰になっていた。

 

『くそっ、めちゃくちゃ辛かったぜ……!』

 

『うああ! やっべえ! 流石あの小僧の持ち物だ!』

 

『ちなみに褒めてねえ!』

 

『ちきしょーめ! 二度とやんねー!』

 

『美花様! これで今日は終わりですね!?』

 

『はい、みなさま本当にお疲れ様でした』

 

『いやいや! 美花様の方がよっぽど! 俺たちで片付けはやるんで、先に休んでてください!』

 

 一安心というところで三船くん達の元へ行くと、一つだけ異変があった。

 

「ハシュアー……お前、目どうした?」

 

 どう考えてもハシュアーの瞳が光り輝いている。

 

「分からない」

 

「…………はっ!?」

 

「え、なに?」

 

 聞き間違いかと思ったが、それは間違いなく意味のある言葉だった。緑に輝く瞳のハシュアーが俺と同じ言語を操っていた。

 

「こ、言葉がわかる!」

 

「え!?」

 

「お前……どういうことだ!?」

 

「いやこっちが知りたいよ! なんで!? ……今までも聞こえてたんじゃないだろうな!」

 

「し、知らん知らん! 本当に聞こえなかったんだって!」

 

 何度聞いてもハシュアーは人間の言葉を話している。

 思い当たることが一つだけあった。

 

「異能か!?」

 

「は?」

 

「コマちゃんもこうしていきなり話せるようになったんだ! きっと、それと同じでお前も異能が……いや、その瞳の力か!?」

 

「分かんないけど……本当に聞こえてるんだ?」

 

「だからそうだって!」

 

「…………そっちの異能じゃなくて?」

 

「いきなりそんな異能が生えるか!」

 

「俺もそうじゃない?」

 

「その緑の瞳からして状況的にそうだろうが! それとも何だ、俺はランニングしてたらいきなり異能が生えるのか!?」

 

「うん」

 

「うんじゃないが」

 

「それより、あの人……ミハナさん? が話したそうにしてるよ」

 

 疲れた顔ながら、こちらを見て何かを言いたそうにしていた。ロイスもそばにいる。その手に載っているものを見て即座に駆け寄った。

 

「──はい、これがお守りよ」

 

「おお! ありがとうございます! しっかりと綺麗になってる! やっぱり秋川さんを頼ってよかったです! いやー、これで親父にも見せられますよ!」

 

 仮に帰った時にまた汚れた状態で見せたら『ははっ、もしかして僕がいつも汚物まみれで帰ってくるのを揶揄してるのかな』とか言って、自分でツボって30分くらい会話できなくなるからな。

 あの人、母さんとイチャイチャしてる時を除いて基本的にふんわり狂ってるんだよ。

 

「それにしても……レベルが相当上がったのね」

 

「52ですから」

 

「!?」

 

「え? ああ、そういえば言ってませんでしたっけ」

 

「き、聞いてなかったわね……ロイスは? …………ロイス?」

 

「」

 

 ロイスは白目を剥いていた。

 何にもしてないのに、もう寝るのかい? 

 

「ロイスくん? 大丈夫?」

 

 ソフィアは男衆と何かしらやり取りをしていたが、頭を丁寧に下げるとこちらにやってきた。というよりロイスの元にやってきた。そのタイミングでロイスが壊れてしまったものだから、困った顔をしている。

 

「コノヒト、オカシイ」

 

「ほら、お風呂行きましょ」

 

「コノヒト、オカシイ」

 

「いっちに、いっちに」

 

「オカシイ」

 

「ロイスくんは私が預かっていきますね〜」

 

「お、おう……」

 

 ロイスの背中を押すソフィアは本当に幸せそうな顔をしていた。本当に、2人がくっついてくれたことは俺にとって感無量だ。大仕事だったからな。

 

「なあに、懐かしいことでも思い出してるの?」

 

「む……」

 

「顔に出てたわよ、モロに」

 

「ははっ……あの2人なら幸せな家族になれると思ってるだけですよ」

 

「あら、ヒナタちゃんのことは不幸にする気なの?」

 

「いやいや、そういうつもりではないんですけどね……手厳しい」

 

「うふふ」

 

 なにせ3人だ。

 いっそのこともっと広い家を買って3人と住めればいいんだけど……そうなると貯金消し飛ぶかも。それに、あんまり近過ぎると喧嘩の絶えない家になる可能性もあるからな。

 

「…………」

 

「うおっ、いつのまに」

 

「……」

 

「何だよその目」

 

「べっつに〜?」

 

 至近距離でジト目なんて、言いたいことがありますって暗に言っているようなものだ。

 

「言いたいことがあるなら言えよ」

 

「人の恋路はわかるくせに、自分のことはマジで何も分かんないもんなんだなって」

 

「…………いや、分かるし」

 

 鈍感な人間みたいに言われるのは心外だ。

 

「分かってたら今みたいになってねえだろ」

 

「あらあら、まだ何かあるの? 面白いことが」

 

 まだって言った! この人、俺のことを玉手箱かなんかだと思ってるよ! 

 

「こいつ、私以外にも女引っ掛けてるんです」

 

「まあ! 悪い男に捕まっちゃったのね!」

 

「そうです」

 

「ヒナタちゃんはそんな人でいいの?」

 

「…………いい、です」

 

 もうなんか、辛抱たまらんかった。

 

「ヒナタぁっ!」

 

「やめろよ」

 

「このっ、このっ! 可愛いやつめ!」

 

「やーめーろーよー」

 

 そうは言いつつ離れないのでこねくり回していると、無い尻尾がブンブンと揺れているような錯覚を覚えた。

 

「アキヒロ君って、アレなの? 今もモテモテなの?」

 

「いや……環境がたまたまバッティングしたみたいな……」

 

「ちなみにあとの2人って私も知ってる?」

 

「1人は」

 

「あ、じゃあ幼馴染のあの子だ!」

 

「…………」

 

 儀式が終わった後だってのにとんでもなく元気だった。他人の痴話ほど面白いものもないということだろうか。

 

 

 ──────

 

 

 夜半。

 裏庭から望むのは神樹と雷のコントラスト。

 周囲の漂結晶は、以前見た時はもう少し赤みを帯びていた。黒みが混ざっているのは、アレだけたくさんの穢れが放出されたからか。それとも時期的なものか。

 

「…………」

 

 寄せ合った肩に載る重みは2人きりだからこそ。これが他に人でもいればこうはいかない。恥ずかしがって、少し距離を空けて座るだろう。

 愛おしさが誤魔化しきれなくて、頭をさらに抱き寄せた。

 

「ん……」

 

 そのままするりと力が抜け、膝上に頭が落ちる。純朴な眼差しで見上げてくる日向を見ていると、やはり姉妹だなという感想が浮かんできた。

 早苗ちゃんとよく似た目元だ。

 

「……んぎ」

 

「他の女のこと考えてただろ」

 

 頬を躊躇なくつねられた。

 

「早苗ちゃんだよ」

 

「それもダメだ」

 

「……目元が似てるなって」

 

「それ言われて嬉しいやつなんかいねえよ」

 

「えっ……じゃあ……綺麗な目してるな」

 

「そんなとってつけたように言われても尚更嬉しくねえ」

 

 プイと顔を逸らしたヒナタの瞳に結晶の煌めきが反射して、思わず目を惹かれた。

 同じ方向に視線をやると、ちょうど雷が落ちてきた。

 

「ひゃああっ!」

 

 距離にして30mの大轟音。

 青光が四方に散って、辺りを一瞬照らした。

 雲間に見えたのは──

 

「サンダーバード……まさか本当に雲の中にいるなんてな。それとも霊領だからか?」

 

「か、雷当たるじゃん! 神樹燃えた!?」

 

「よく見ろ」

 

「…………あれ?」

 

 あの瞬間、確かに何かしらの斥力が雷を弾いていた。

 結果として神樹にも周囲にも被害は無い。これも霊領の中だからこそだろう。

 

「雷は?」

 

「神様に雷なんて効くわけないわな」

 

 神鳴。

 神の声が神そのものに危害を加えるなんてありえない。

 

「……中入らね?」

 

「もうちょっとのんびりしてようぜ、雷降る中で見る神樹ってのも乙だろ?」

 

「また落ちてきたらどうすんだよ」

 

「…………何だ、ビビってんのか?」

 

「ああ!? ビビってるわけねえだろ!」

 

 途端に膝上からググイと顔を起こすと、先ほどのかわいらしい『んひゃあっ! ♡』って雰囲気はどこかへいってしまった。

『んだらあっ!』って顔だ。

 

「一生ここにいてやらあ!」

 

「おお……その調子だ!」

 

「バカにしてんのか!」

 

「一生ってことは俺も一緒にいなきゃいけねえのかな……」

 

 仮にそうだとすると、ミツキやアリサもここに住むことになるのだろうか。秋川家に住むってことは家主に賃貸料も払わなきゃいけない。

 夢も諦めることになるな。

 

「冗談もわかんねえのかお前……?」

 

「分かってるよ」

 

「…………」

 

 しかし、この距離。

 ガンをつけるために近寄ってきたヒナタの上向きなまつ毛がくっきりと見える。

 

「ヒナタ、そのまま」

 

「な、なんだよ」

 

 添えた手から伝わってくる、ほんのりと色付いた頬の熱。2人でひっついていたから、冷えた夜空の下でも肌寒くなかった。

 昔はそういうのじゃなくて、もっと心の熱同士でぶつかり合っていた。今では身体の熱の同士でぶつかり合う仲だ。

 

「何でこうなっちゃったんだか」

 

「──はあ!? おまっ……お前っ……私の何が悪いってんだよ!」

 

「悪いとは言ってない」

 

「おま──!?」

 

 離れると、淑やかに濡れた唇の間からチラリと舌が見えた。

 

「お前…………やっぱスケベだ」

 

 口籠るように放たれた言葉は雷にかき消されて正直聞こえなかった。

 それでも、口元を抑える手が。

 節目がちな瞳が。

 柔らかくしなだれた腰が。

 彼女の想いを伝えてくれる。

 

「なんでこう、毎回毎回……」

 

「ヒナタ、こっち見て」

 

「っ……」

 

 何をされるか分かり切った顔で、期待まじりに目を瞑りながら。どうしてこんなにも欲しい反応をくれるのか。

 

「ん……ふっ……んん〜っ! まっ……やっ……んぁ……」

 

 反抗心を丸ごと絡めとるように、柔らかな唇と舌と指先を貪った。舌を進めるほど、指を絡めるほど、鼻息が甘く囁くように優しくなっていく。

 

「んっ……れろ……ちゅっ、ちゅっ、ん……」

 

 啄むようについては離れてを繰り返す。

 音が耳を刺激して、言葉が自然と出てきた。

 

「ヒナタ……可愛いよ」

 

「やめろよ、ばか……ちゅっ……」

 

 俺がもう少し若かったら(40歳くらい)間違いなくここでおっ始めていたけど……良かったなロイス、縁側が汚れなくて。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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