【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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45_愚かであれ

 ──このお守りの由来はどこなのか。

 

 俺が知るお守りそのもので、何も違和感なく受け入れることができた。だから当たり前のものだと思っていた。

 腕だけを布団から出して天井に掲げると、外から入ってくる稲光が白く映し出す。

 

「……寝ないのか?」

 

 小さく呟かれた問い。

 静かな寝室ではよく聞こえた。

 

「ヒナタ、お前こそ寝ないのか」

 

「ずっとお守り凝視してる奴がいるのに睡眠になんて集中できるかよ」

 

「悪うござんした」

 

 一旦脇に置く。睡眠に集中しようと思ったけど、今度はヒナタがこちらを見ていた。ヒナタは長髪だけど丁寧に整えられた髪は上にばらけることなく、布団の中に収まっている。髪を下ろすといつもよりも少しだけ大人びて見えるのもこの子の魅力だった。

 

「どうした?」

 

「んー? …………ふふ」

 

「なんだよ、変な奴だな」

 

 人の顔を見て笑うのは、変なことを考えている時と相場が決まっているのだ。

 

「お前、いつもこんなことしてるんだなって」

 

「……そうだな」

 

「飽きねえよな、そりゃあ」

 

「アキヒロだけにな」

 

「…………?」

 

「やめて?」

 

「よくわかんねえけど……楽しい?」

 

「人生?」

 

「うん」

 

「最高に楽しいよ」

 

「そっか」

 

 それを聞くだけで嬉しそうな顔をするなんて、親友甲斐のあるやつだ。

 

「いいなあ」

 

「なんだ、探索者に興味湧いてきたか?」

 

「うーん……別に探索者がやりたいわけじゃねえから」

 

「?」

 

 では何だというのか。

 

「秘密」

 

「ああ!?」

 

「お前、秘密ばっかなんだからこれくらいはいいだろ」

 

「秘密ばっかりなのはお前らなんですがそれは……俺は大抵のこと開示してるし……」

 

「その体質は? その性格は? 異能が生えないのは? トラブルに首突っ込んでばっかなのは? 焼肉は?」

 

「ははは」

 

 あんまりそういうぷらいべぇとなことにつっこむのはよくないとおもうな! ぼく! それに、ぼくもわかってないことばかりだから! 

 

「だからさ……」

 

「ああ」

 

「せめて、ちゃんと帰ってきてくれよ」

 

「ロイスにも似たようなこと言われたぞ」

 

「……あいつは言うだろな」

 

「なんだ、ロイスのこと俺より分かってるのか」

 

「振り回されたって境遇がまんま一緒だからな。同じような気持ちになってもおかしくねえよ」

 

 生徒会の奴らを振り回したかと言われると、大いに振り回した。だけど、部下を振り回すのは当然のことだからそこに対して罪悪感は全く湧かない。むしろ、それで団結感が生まれていたのなら、リーダーとしての役割をしっかりこなしていたということだ。

 

「で?」

 

「え?」

 

「返事は?」

 

「ちゃんと帰ってくるよ」

 

 何で俺はいわゆる死亡フラグビンビンな言葉を……

 

「……はあ、無理そうだな」

 

「何をもって無理だって言ったんだよ」

 

 そう改めて言われると反骨心だって湧くというものだ。

 

「勘」

 

 信用<勘

 

「嘘じゃなかったらバニー服でも着てもらうか」

 

「何だよその物騒な服」

 

「ふん、カルチャー後進国が」

 

「???」

 

 

 ──────

 

 

「また来てくださいね」

 

「ああ、ロイスのことをよろしくな」

 

「はい! 会長も、皆さんもお気を付けて! …………あと会長、ああいうことはせめてお部屋で……」

 

 耳元へヒソっと。

 

「え」

 

「その……割とあそこ、廊下から見えるんです……だからみんな見てたというか……」

 

「えええええ……」

 

「ほ、ほんとうはお茶でもどうですかって言おうと思って行っただけだったんです! でも……なんか……」

 

「分かった。うん、俺が悪かったからもうやめてくれ……」

 

 いたたまれない。

 最後までしていないとはいえ、俺とヒナタのアレやこれやが衆目に晒されてたとか恥ずかしすぎる。どんな顔して生きていけばいいんですか? 

 幸いなことにヒナタはこの会話に気付いていないので、恥ずか死する姿を見ずに済むということだ。

 

「いや……それはそれで……」

 

「会長、とにかくそういうことはちゃんと人目のつかないところでお願いします!」

 

 何とも締まらない別れだったけど、どうせそのうちまた会いに来るんだからこれくらい適当な方がいい。

 

「うおあ……治ってるな、クリクリだ」

 

「光ってたら目立つから治って良かったあ……」

 

 夜が明けたらハシュアーの瞳は元に戻っていたが、相変わらず俺とは話せるままだ。便利だけど、話せるようになった理由がわからないと素直に喜べない。また話せなくなるかもしれないからな。

 

 帰りの列車に揺られながら話を聞いていると、あの白い炎を見て何か違和感を感じていたらしい。

 

「あれはイルファーレ様の火とは全然違った」

 

「分かるのか?」

 

「わかるよ!」

 

「そうか……まあ鍛治師だもんな」

 

「そう!」

 

「んで、具体的に何が違ったんだ?」

 

「…………わかんない」

 

「そっか、じゃあしょうがないな」

 

「いいの?」

 

「いいよ、きっとそのうち分かるさ」

 

「……あっ! そうだ、お守りどうなったの?」

 

「えっと……ほれ、綺麗になったぞ」

 

「本当だ! 良かったね!」

 

「うん、ありがとう」

 

「ありがとうって……何もしてないよ俺」

 

「気にしてくれてたんだろ?」

 

「まあ……」

 

 列車はモンスターに襲われることもなく到着した。毎度のこと、乗客は緊張していた。便利と安全を引き換えにしたような乗り物だから仕方ないけど、うまくいかないもんかね。

 

 

 ──────

 

 

「まずは荷物片付けて、母さんに電話して、茜の話を聞いて、ミツキに──」

 

「…………」

 

「あ」

 

 ヒナタやハシュアー達と別れて帰ると早苗ちゃんが玄関前にいた。

 そばにはコマちゃんがいる。見守っててくれっていう言い付けをしっかり守ってくれたようだ。だけど俺を出迎えた表情はどこまでも呆れたような、侮蔑に近いものだった。

 

「わふ」

 

 お小言がわりに意味のない鳴き声を一つ。

 トコトコと早苗ちゃん達の家に向かって歩いて行った。

 何を怒られたのかはよく分からないけど、重要なことは飼い犬なんかじゃない。近づくほど、早苗ちゃんがくしゃりと表情を歪めていく。

 

「……っ」

 

「早苗ちゃん……」

 

 それは、20を超えた妙齢の女性が見せるにしては少々あどけなさ過ぎる表情だった。それに──赤くなった目元が指し示す意味がわからないわけではない。

 だけど、触れていいのかわからなかった。ヒナタから言われたことも、確かにと納得する俺の内心も、俺がこれまでしてきた行動を倫理観に照らし合わせても。答えは否としかならなかった。マトモであろうとする精神が、鎖となって絡み付いているようだった。

 

「嫌いじゃない、もん……」

 

 嫌いとは。

 出立前のあの言葉だろう。

 だけど早苗ちゃんが俺のことが嫌いじゃないというのはもちろん分かっていた。それだけに、なぜ彼女がここまで追い詰められたような表情をしているのかが分からない。

 

「あんなの嘘だもん……」

 

「……分かってるよ」

 

「だったら……なんで意地悪するの……!」

 

「っ……」

 

 涙がこぼれないようにと必死に食いしばりながら、途切れ途切れに言葉を繋げていく。そこに混じっているのは怒りだけではない。様々な負の感情が見え隠れして、思わず目を細めた。

 

 なにがこの突発的な感情の嵐を生み出しているのか、見極める事ができなかった。

 

「嫌なことが、終わって……これから楽しくなるんだって……思ってたのに……みんなと一緒に……いっぱい楽しいことがしたかったのに……」

 

 彼女の感情がそのまままろび出ていて、言っている意味を正しく捉えることはできない。フワフワと抽象的な言葉が並び、連なって、空中を漂って消えていく。整理されない言葉はそれだけ感情むき出しで、他者に正しく伝わることは難しい。

 

 しかし風に髪をたなびかせながら。

 

「やっぱり──」

 

 寂しげに、決定的なことを言った。

 

「私だけ、ずっとひとりぼっちでいろってこと?」

 

「っあ……!?」

 

 氷柱で背中から心臓まで貫かれたような衝撃だった。舌が詰まり、何とも言えない苦い味が喉奥まで広がっていく。冷たい感覚が思い出させるのは、二度と家族と会えないと気付いた時の絶望。

 

「ずっと独りでなきゃいけないの?」

 

 その瞳にあるのは、純粋な恐怖だった。

 

「コマちゃんに言われた」

 

 両腕で自らを抱きしめる。

 寒々しく青ざめた顔は、先ほどの泣きそうな顔とはまた違う負の感情に満ちていた。

 

「そ、それは……」

 

 この世界で1人取り残されたという恐怖は、狂気となって魂を蝕んでいく。ジワリジワリと、世界全てが俺という人格を消し去って『加賀美明弘』という肉体に押し込めようとする。

 それに抗うには、世界に立ち向かうための標が必要だった。地球を上書きして作り出された世界を、一部でも破壊して取り戻すための夢が。

 

 死など恐れない。

 すでに経験したものに対してそんなものは抱かない。

 だけど、孤独は別だ。

 

「──」

 

 コマちゃんに何を言われたかは分からない。だけどきっと、孤独の恐怖というものを教えられたのだろう。

 この世界に生きている早苗ちゃんには、自ら標を掲げることはできない。苦しみを共有できるようなアテもない彼女が、どれだけ不安だったか。

 俺だって狂いそうだったんだ。

 20歳だろうが30歳だろうが、不安になるに決まってるのに。

 

「ごめん! 早苗ちゃん!」

 

「…………」

 

 荷物を全て投げ捨てて、頭を抱えるように腕に収めた。

 

「ごめん!」

 

 我慢することはできなかった。

 浮気だと言われようが、ぶん殴られようが、この少女を放っておくことが正しいと裁定を下すことはできなかった。

 

「早苗ちゃんのこと、ちゃんと見てなかった! …………自分のことしか考えてなかった!」

 

 いつか、彼女を支えてくれる素晴らしい誰かが現れるかもしれない。それは明日かもしれないし、来年かもしれない。なんなら今日、眠る前に窓からいきなり飛び込んでくるかもしれない。

 だけど、それはいつの話だ。

 そんな白馬の王子様はいつやってくるんだ。孤独に喘ぐ少女を、いつ救い出してくれるんだ。俺は彼女が狂いそうになるのをただ見ていればいいのか。

 

「早苗ちゃんがお姉ちゃんだからって……蔑ろにしてた」

 

「うん」

 

 そんなわけがなかった。

 だって、関わってしまったのだから。

 

「…………表面しか見てなかったよ」

 

「分かってたよ……だって、結局私たちってヒナタちゃんがいないと関係が始まらなかったんだもんね」

 

 そんなことないと、返せたらどれだけいいか。

 

「あははっ、そこは嘘でも違うよって言うものなんじゃないの?」

 

「……」

 

「ごめんね? 意地悪言って」

 

 何でそんなに寂しそうな顔をするんだ。

 

「これからはちゃんとするから……うん、こうゆうのはもう終わりにするよ。私、お姉ちゃんだもん」

 

 そんな震え声で何がお姉ちゃんだ。

 

「早苗ちゃん」

 

「だいじょぶ! これでも私、年齢だけならアキヒロくんよりも上だからさ!」

 

「違う」

 

 より一層、俺は愚かで浅ましい存在なんだということを強く認識した。

 

「え? いや、歳は──」

 

「────」

 

「…………え?」

 

 

 ──────

 

 

「短かったけど……濃かったな」

 

 レイト達の部屋にわざわざ日向が来ていた。普段はあまり用事らしい用事も無いので来ないという事もあり、折角なら帰り際に寄って行ったのだ。

 

「ヒナタさんは加賀美さんと一緒に旅とかしたことないんですか?」

 

「旅? …………まあ、したことないって言ったら嘘になるけど……旅ってほど穏やかじゃあなかったな。それに私はあいつの事を最初から知ってたわけじゃないし」

 

「えー! 何があったんですか!?」

 

「……そうだな、私が知り合う前の話らしいけどーーソフィア、っていただろ?」

 

「はい、あの綺麗な人ですよね? ──いったあ!?」

 

 シエルが背負っている荷物が直撃した。

 

「手が滑った」

 

「手…………手……!?」

 

 飄々とした顔でそんなことを言うシエルとやや距離をとりながら、会話を再開する。

 

「あいつ、色々事情があってさ。氷の異能を持ってるんだよ」

 

「はあ」

 

「欲しくて手に入れたんじゃなくて、生まれた時から持ってたんだってさ」

 

「凄い……のかな」

 

 聞いたことがなさすぎて、凄いのかどうかすらわからなかった。

 

「問題はあいつがその異能を制御出来てなかったってことだ」

 

「異能を制御出来ない?」

 

 そもそも異能が無いのでピンと来なかった。

 

「ソフィア自身が異能のせいでずっと寒いんだよ」

 

「それは……イヤですね」

 

「だろ?」

 

「旅とどう関係してくるんですか?」

 

「治しに行ったんだよ」

 

「治るんですか!?」

 

「うん」

 

「ど、どうやって!?」

 

「それは話せないなあ」

 

「うー…………」

 

 胸の前に腕を持ってきて抗議のポーズを取る少年に対して、ニヤニヤと意地悪く笑う。

 

「私の問題じゃないからな。勝手に話していい事じゃねえんだよ」

 

「ヒナタさんのケチ!」

 

「誰がケチだ!」

 

「いひゃいいひゃい!」

 

 ぐにーんと、ゴムのように頬が伸びていく。

 

「うう……」

 

「アホなこと言うのが悪いんだぞ。さて、そろそろ帰ろうかな」

 

「あ、はい。1人で大丈夫ですか?」

 

「お前よかよっぽど頑丈だよ」

 

「そ、そういう話じゃ……」

 

 最近の治安を考えると、いくら師範代と言っても中々安心できるものではない。それに、彼女に万が一があればアキヒロがひどく悲しむだろう。

 

「大丈夫だっつの!」

 

「うーん……僕も──いてっ」

 

「いいからお前は荷物片付けろって」

 

 同じセクター内だ。家までそんなに距離は離れていない。レイトがまたグダグダと反論する前にさっさと帰宅した。

 

「ただいまー」

 

 帰宅を報せたが返事は無い。探しても姿は見当たらずコマちゃんもいない。買い物に行くにしてもサイフは起きっぱなしだ。

 一体どこに──そんなの一つしかなかった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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