【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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46_素人は黙ってなきゃいけないなんて誰が決めた

 

「おーい、姉ちゃん!」

 

 どこにいるかなんて決まっている。あのお転婆な姉がここにいなかったら、あとは素直に誘拐されたと考えるしかなかった。

 

「入るぞー!」

 

 先に帰ったアキヒロが一緒にいるはずだ。あのふわふわ何とかいう気持ち悪いことをしてたら姉ちゃんのケツを百叩きだ。アキヒロはどれだけ殴っても堪えないから姉ちゃんの方を懲らしめないと分からない。一度許可は出したけど、私のいないとこで始めたら普通に不倫と一緒だ。

 

「やっぱり二つ」

 

 靴が2人分。

 人が目を離せばすぐにイチャイチャしやがって……姉ちゃんじゃなかったらぶん殴ってやるところだ。

 

『──』

 

 案の定、リビングからは何やら声が聞こえてくる。また高い高いでもしてんのか。

 

『それでそれで!?』

 

「ん?」

 

 何やら興奮気味な声が聞こえてくる。

 姉ちゃんの興味をひくような話をしていたらしい。

 

『ねっ、ねっ、一つずつ聞きたい!』

 

『いや……ヒナタ!』

 

「!」

 

 姉ちゃんはともかく、玄関の扉を開けた時点で来ていることは気づかれていたらしい。

 

「来てるならコソコソしなきゃいいのに」

 

「コソコソ会ってるのはお前らだろ」

 

「いやいや、そういうのじゃないんだって!」

 

「ふーん?」

 

「本当だって! 見ろよこの顔!」

 

 満面の笑み。

 誰もが警戒を怠るような完璧な笑顔だ。程よくだらしなく、それでいて顔つきを完全に崩すことはない。

 

「お前は顔に出さないから信用ならない」

 

 姉ちゃんは顔にすぐ出る。身体に引っ張られていつまでも情緒だけはガキのまんまだからな。

 

「…………」

 

 覗き込んだ目が泳いでいた。

 だけど、いつもとは少し違うような……? 

 違和感の細かい部分にまで理解を及ばせることはできなかったけど、何となく違う気がした。

 

「ど、どうすかね……へへ……」

 

「まあ、許してやるよ」

 

「ありがたやー!」

 

「それムカつくからやめろ」

 

「…………」

 

「本当に……私だから許してるけど、これが四門やあのガキだったらどうなってるか分からないんだからな」

 

 これは本当にそうだと思う。

 姉ちゃんが一応身内だし前からこんな感じだからギリギリ許してやってるけど、普通は彼女ができたら他の女とあんな距離感で接するなんてありえない。

 はず。

 

「そ、それを言い出したら3人と付き合ってるのがもはや意味わからな──」

 

「ああ?」

 

「ごめん」

 

「いつまでもそんな話にマゴマゴしてんじゃねえよ。彼氏がそんなんじゃ私たちまで笑われちまう。ドンと構えてろ、ドンと」

 

「漢らしすぎんだろ……」

 

「ぶっ飛ばすぞ」

 

「でも本当に、やましさとかないから! 早苗ちゃんと俺は健全な仲だから!」

 

「……キスとかしてねえだろうな」

 

「してないしてない! さっきから言ってるだろう!?」

 

 相変わらず、信じるに値しないぐらい表情を大袈裟に作る。

 

「姉ちゃん」

 

「してないよ!」

 

 顔を真っ赤にしているあたり自覚はあるんだな。これで2人を1ヶ月くらい放置したら確実に関係が進んでしまうだろうという予感があった。そういう意味でも姉ちゃんと一緒に行動させるのは危ない。今度あの2人にも話してみるか。

 業腹だけど、最近のアキヒロに詳しいのはあっちだ。

 

「信用がねえよお〜」

 

「よしよし、慰めてやる」

 

「お前からの信用の話だよ!」

 

 

 ──────

 

 

「タマタマ取っちゃいます?」

 

「ひぇっ」

 

 日向から話が流れて行ったのか、大学であるにも関わらず激詰めされていた。というか彼氏に対して去勢を勧めないで欲しい。本当に怖い。

 

「というのは冗談で……早苗さんのことは聞いてます」

 

 お? 

 

「何でも、呪いで姿が変えられなくなってしまったとか」

 

「そ、そうそう子供のままなんだよ。だから変な気分にはならないというか──」

 

「その言い訳は、私を誑かしたヒロさんが言うには遅すぎましたね」

 

「そんなことしてないよね!? あ、いや、してないっていうと語弊があるかもしれないけど……そんな変なことしてないよな!?」

 

「してますね」

 

「ど、どんな……?」

 

「指輪をくれたじゃないですか」

 

 首元にチラリと見えるチェーンに繋がれた指輪。本当は指にしっかりはめて使って欲しいんだけど、普段はこうしている。

 

「指に嵌めてたら失くすかもしれないじゃないですか」

 

「大切にしてくれるのは嬉しいよ」

 

「──」

 

「な、なに……?」

 

 目がスゥと細くなった。

 ……攻撃直前の雰囲気!? 

 

「まさか他の人にもこんなことしてないですよね?」

 

「してねえよ! 脈絡もなく指輪なんか渡すわけないじゃん! 探索者として手伝ってもらうために渡したんだって!」

 

「……じゃあ、次はちゃんとした奴くれるってことですか?」

 

「うん」

 

 然るべき時が来たら。

 

「ふ、ふーん……待ってます」

 

「お、おう」

 

 くそっ! 女の子の趣味とかわかんねえ! 

 何渡せばいいんだよ! 

 

「とりあえず、私の目の前でひっついてたりしたら怒っちゃうかもしれませんから」

 

「わかった」

 

「……想像しただけでイライラしてきた」

 

「ええ……」

 

「あの2人だからいいですけど、普通はミツキさんだろうがヒナタさんだろうが邪魔なんですからね」

 

 湿度の極めて高い視線。

 頭の上の三角も心なしか責めるような気配を漂わせているし、尻尾に至ってはペンをバキバキに折っている。

 

「でもまあ、ヒロさんだから特別に許してあげます」

 

 許している人間はテーブルを尻尾でバッコバコにしたりしないんだ。

 

「ありがとうございます」

 

「何で敬語なんですか」

 

「なんとなく」

 

「…………なんで早苗さんなんですか?」

 

「え?」

 

「確かに早苗さんは可愛いけど……私の方が可愛いですよね?」

 

「うん」

 

 当然の話だった。

 早苗ちゃんに対する可愛いとアリサに対する可愛いは違う。

 

「ふふん」

 

「うん、可愛い」

 

「ふふん!」

 

「でも何の話だ?」

 

「あっ! ……まだ足りないんですけど」

 

「よしよしよしよし」

 

 誰もいないことを良いことに──なんて自分で言うのも微妙な気持ちだけど、言葉通りでしかない。学舎で2人きり、監視カメラもないので思う存分愛でた。

 

「アリサは本当に良い子だ! 勉強頑張ってるし探索者だってできるし友達も多いし可愛いし、何より可愛い!」

 

「へへへへ」

 

「でもアレだな……どうやったらこの耳と尻尾は治るんだろうな」

 

 ずーっと言いたかったことだった。

 ようやくタイミングが来た。

 早苗ちゃんと同じくこの世界に呪われた身体。

 治すにはどうすればいいのだろう。

 

「え? 治す?」

 

「うん」

 

「気付かないうちに怪我してました?」

 

 くるりくるりと身体を翻して、尻尾に瑕疵がないかを確認する。しかし、そもそもそういうことではなかった。

 

「アリサ。お前も早苗ちゃんと同じだろ?」

 

「?」

 

「ほら、尻尾と耳」

 

「うーん…………はっ!?」

 

「気付いたか」

 

「ヒロさん……まさか私がこれ治したがってると思ってたんですか!?」

 

「あぇ? 違うの? 治したいでしょ?」

 

「違いますよ!」

 

「…………ええっ!?」

 

 俺の思いは全て一人相撲でしかなかったということが明らかになった。まじかる。

 

「もー……そんなどうでもいいこと悩んでたんですかあ? バカだなあ〜」

 

「いやいや、普通に考えたら異生物の部位が自分についてるって嫌じゃないか!?」

 

「…………ヒロさんはコレ、嫌いですか?」

 

「好きだよ。触るのも嗅ぐのも食べるのも好きだけど、アリサは大変じゃないかなって」

 

「──だから偶にアンニュイな顔で見つめてたんですね!?」

 

「アンニュイだった?」

 

「アンニュイでした!」

 

「……まあ、アリサが嫌じゃないならいいか」

 

「もしかしてですけど、私と会ってからずっとそんなこと気にしてたんですか!?」

 

「うん」

 

「ええ……おかしいよぉこの人……」

 

 級が上の探索者を見るとどいつもこいつも肉体が変質している。レベル50くらいから露骨に人間の体を逸脱する奴が増えて、肘から先が2つに分かれてるとかいう例もあった。

 

「んいやまあそりゃあそこまでいったらアレでしょうけど……きらっ☆」

 

 腰をくねらせると尻尾も追従するように動き、俺の太ももをふわりと撫でていった。

 

「どうです」

 

「エロい」

 

「エロっ……え、エロくはないです!」

 

 プンプンだった。

 

「真面目な話をすると、そんな長いのが彷徨いてたら普通に弱点だよね」

 

「な、何でいきなり……」

 

「いやほら、コレからも探索者として戦うならそこら変大事だし」

 

「……それなんですけど……ヒロさんとだいぶレベル差が付いちゃったのどうしましょう」

 

「なあに、一緒に行けばすぐ上がるさ」

 

「手伝ってくれるんですか?」

 

 俺が手伝ってもらう側だけどな。

 

「行くべき場所はまだまだあるからな。次のメインターゲットはちょっと厳しいけど、それ以外なら」

 

「どこ行くんですか?」

 

「…………ちょうどいいか。会いに行こう」

 

 どうせ話をするんだから、大学に来ている今でもいいだろう。

 

 

 ──────

 

 

「ういっす」

 

「ういっす〜、アキくんこんにちは〜」

 

 ポヤポヤとした雰囲気が漂う部屋にやってきた。扉を開けた瞬間から、マーガレットの花が空中に浮かんでいるかのような錯覚を覚える。

 異能の類にも思えるが、実際は彼女の持つ強烈にマイペースな性格が部屋全体の内装にまで影響しているからだろう。

 

「……あれ〜? もしかして新人さん?」

 

「えっと……関根有紗です」

 

「広瀬風香です、よろしくねえ」

 

「あの、お餅サークルって看板があったんですけど」

 

「うん! ようこそお餅サークルへ!」

 

「……お餅とは?」

 

「それを探すサークルなのですよ〜」

 

「はあ」

 

 よく分からないという反応も仕方ない。

 同じように消された概念達と同じく、人類の中には基本的に存在しないものなのだから。誰かが解き放つか、あるいは過去の遺物から見つけ出さない限りは永遠に檻の中にあるのだろう。

 

「知りもしないものを探すって……どういうことですか?」

 

「うっふっふ……」

 

 嬉しそうだ。

 久しぶりの客人でテンションが上がっているのだろう。ガサゴソと書籍の山を漁り始めた。

 

「じゃーん!」

 

「……なんですか? これ」

 

「ダンジョンの歩き方、全編315ページ!」

 

「ダンジョンの歩き方」

 

「これを読めば、素人でもダンジョンを歩けるようになるのです!」

 

「はあ? ……貸してください」

 

「あっ」

 

 本をひったくると1ページ目を捲る。

 

「なになに……まずは、簡単なダンジョンに入ってみよう。もちろん最初は探索者を同伴して──って、最初からおかしいよコレ!」

 

「えっ」

 

「ちょっと待ってね……松明やライトなどを携帯することを忘れてはならない。暗闇においてもモンスターや探索者は活動できるが、我々一般人は目が慣れていない為アイテムは万全にしよう……まあ、コレはおかしくないか」

 

「ほっ……」

 

「武器は素人が持つと危ないから、そこは探索者に任せて──うん、ダメだコレ」

 

「ええ〜」

 

「あの……自殺が趣味ですか?」

 

「そ、そんな酷いこと言わないでよお……」

 

 真ん中あたりについた付箋をアリサが指差した。

 

「もしかしてここまで読んでたんですか?」

 

「あ、えっとね。そこは書いた人が二級ダンジョンに行った時の話なの」

 

「その人は探索者じゃないんですか?」

 

「そうらしいよ!」

 

「…………ヒロさん」

 

 見ての通り、最近はオカルトに脳みそが染まり始めている。一般人でもダンジョンに潜って生還できるなんて創作話を真面目に受け取っているのだ。

 

「うう……何でそんな目で見るの……」

 

「何でこんなになるまで放っといたんですか?」

 

「こ、こんなにって言うなあ……」

 

 2級ダンジョン『腐り果てた村』

 彼女のおばあさんが何かを残した場所。今も街の姿だけは残っているというそこへ入って、何かを取り戻したいのだ。

 

「実際に試したんですか?」

 

「ちょ、ちょっとだけ」

 

「ええっ」

 

「森に行ったんだけど、何かの鳴き声が聞こえて……」

 

「……良かったですね。進んでたら食われてましたよ」

 

「アキくんにも同じこと言われたよお」

 

 散々説教してやったので懲りたかと思ったけどめげずにこの本を読んでいるので、逆に感心してしまった。俺だったら一読してからゴミ箱行きだ。

 

「でも、私がダンジョンに行こうと思ったらこうするしかないし……お金だってないんだもん……」

 

「探索者やればいいのに」

 

「ぶ、武器なんて持てないよお」

 

「…………」

 

 露骨に顰めっ面をした。

 探索者の1人として思うところがあるのだろう。

 ダンジョンは、気を付ければ助かるとか、素人でも万全な準備さえあれば帰って来れるなんて優しい場所じゃ無い。気をつけても死ぬし、万全な準備をした探索者でも死ぬ。地形を破壊する力を持った一級探索者でもリヴァイアサンの前では藻屑同然に死ぬし、神と出会えば発狂して戻って来られなくなる。

 

 だけど、彼女もふざけているわけじゃない。

 

「絶対諦めたくないんだよ」

 

「なら、いつまでも同じ本に頼るんじゃ無理でしょ」

 

「…………」

 

 相変わらず、商工会に出している依頼は無視されているらしい。二級ダンジョンに行ける人間──それも、一級に程近い探索者に正規の依頼をするには必要な報酬額も莫大なはずだ。彼女の有り金程度で依頼しようなんてなったら、そりゃあ受けてくれるはずもない。フリーの依頼だとしても同じことだ。

 

「そこで俺だ」

 

「ダメですからね?」

 

「あれっ」

 

「レベル60のダンジョンなんて……ダメです」

 

「でもほら、俺って一応お餅サークルの一員でさ」

 

「そうなんですか!?」

 

 そりゃあ、そんな名前のサークルに入らないわけにはいかない。

 

「はぁ……面白そうだから入ったんでしょ?」

 

「正解!」

 

 それに、第一期の人間が残した何かならば強力な触媒になってお餅の神様とか出て来ないかなって思ってたりする。お餅の神様が何かは知らない。

 でも、神様が手に入る可能性を追うのは間違ってないはずだ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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