【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「わ、わわわわわ」
「バグるな、落ち着け、呼吸をしろ、何を言おうとしているのか整理しろ」
「私も行きます!」
「ダメです」
突撃、朝の広瀬風香。
いきなりうちにやってきて扉を朝っぱらからめちゃノックしたもんだから、コマちゃんが眠気でキレ散らかしそうになっていた。
「ダンジョン、行くんですよね!?」
常の緩さはどこかへ消えてしまった。必死の形相で俺の襟を引きちぎろうとしている。
「行くけど、広瀬さんには無理だよ」
探索者ですらない一般人がダンジョンに挑む。それは比喩や誇張抜きにただの自殺だった。
しかも1人で突っ込むならともかく今回は俺のダンジョン探索にくっついてきたいという話。
ダメです。
ダメです。
ダメです。
ひろしです。
方目さんがいいと言ったら俺が2人ともビンタします。今回はアリサや三船くんとは事情が違います。
あなたはあの適当な本に思考をジャックされているので、早くアルミホイルを巻いて洗脳を解除してください。あと、最低でも2時間は人類最速と同じスピードで流せるくらいになってきてから出直してきてください。
「で、でも……これは私の夢なんです!」
「俺は俺の夢のために行くんだ」
「それなら私も私の夢のために──」
「風香……ダメだよ」
ミツキが後ろから出てきた。さっきは穏やかな寝顔でベッドにいたのに、いつの間に。
「風香でもそれだけはダメ」
「ミツキ……」
「というか、どうやってウチまできたの?」
「アキくんが教えてくれた」
「アキ……?」
この場面でそういう言い方をされると重大な誤解が生まれかねないというか、今まさによくない顔をした幼馴染がこちらを見ているというか……
「話の流れでな?」
うん、それだけ。
「そうだよ〜」
「とにかく風香はダメ!」
「…………どうしてか教えて?」
「風香は探索者じゃないよね」
「うん」
「じゃあダメでしょ」
「……」
探索者じゃないから。
何故とかという問いに対する答えがその一言に込められていた。
「レベル60のダンジョンって、風香が思ってるような生易しい場所じゃないよ」
「……」
「それに、風香がついて行ったせいでアキが死んだりしたら私は風香を一生許さない。そうじゃなくても風香が死んじゃったりしたら嫌だよ」
「でも……ひいおばあちゃんの……」
「変な本に感化されて変なことをやるの自体はともかく、アキに迷惑かけないで」
「っ……」
ピリついた空気が流れた。
「遊びでやってるなら関わらないで」
「…………ごめんなさい、アキくん」
「ん、ああ……いや、まだなんもしてないからな」
項垂れて動かなくなってしまった。そのまま放置しておくのもかわいそうなのと、そもそも友達だ。
一旦家に入ってきてもらうことに。
「依頼してたのに、どうしてアキが行くってなった途端にこんなことしたの?」
「……ひいおばあちゃんの夢を見たんだ」
「どんな?」
「大事なことだったんだけど、うまくは思い出せなくて……」
「それで、なんで?」
「わかんない。ただ、急がなきゃって……何でだろう……何でこんなに……」
ミツキと目を合わせた。
たまたまこのタイミングで見た夢に感化されて俺の家に突撃してくるなんて、偶然にしては出来すぎていた。
「アキの夢みたいな感じかな」
「さあ」
俺の場合は夢云々は嘘なので一旦除外しておくとして、何かの力が働いた可能性はある。……何かの力って何?
そういうファンタジーな世界じゃない気がするんだけど。
ファンタジーはファンタジーだけど、夢の世界の精霊がどうとかいう感じではない──少なくとも俺が生きてきた範疇においては。
「私……どうかしてたのかなあ……」
「……風香、ごめんね酷いこと言って」
「ううん、私こそ。ミツキの言う通りだもん」
そんじゃあ、この場は若い者に任せて俺は行きますかね。
「……行くの?」
「うん」
「風香、ちょっと見送ってくるから待っててね」
「私も一緒にお見送りする〜」
「……いや、風香はそこで待ってて?」
「へ? でも……」
「いーから!」
「あ、うん……」
さっき叱られたばかりだから、シュンとなってしまった。
「悪いことしちゃったかな……」
「かもな」
「後で謝っとこっと…………ん」
差し出されたものを受け取ってから家を出た。温もりが消えるか消えないかぐらいのすぐにコマちゃんが合流する。こいつ、めんどくさいから外で待ってたな?
「家から見送ってくれる人がいるってのはいいな。これでいつ死んでも文句ない」
「わふ」
「なあに、今回もなんだかんだでなんとかなるだろ」
「わんっ」
「舐めてない。気持ちは常に強く、だよコマちゃん。本当は勝てる相手なのに、強いと見積もってビビってたら負けちまうからな」
「わん」
「まあワンコロにはわからんか」
「ガルルルル」
「あぶなっ!?」
股間を狙ったらアカーン!
──────
どこまでも赤く濁った視界。
地表面を覆う、これまた赤い液体。液体は透き通らず、ぐちゃぐちゃに潰されたブルーベリーのようなものが混ざっている。
『キー!』
液面に落ちた小動物がバチャバチャと苦しみの悲鳴をあげ、だんだんと動きを鈍らせ、最後には底に沈んでいった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
凄まじい勢いで移動している女は、そんな液面に小さな波紋を立てつつも全く沈む様子を見せずに駆け抜けて行く。
エリマキトカゲが脅威の足踏み速度により落ちないのと同じように、単純なる物理法則の力によっているのか。
──違った。
「くそっ!」
女は立ち止まる。
立ち止まった上で沈まずにその場に留まっていた。
「──こっちか!」
また駆け出す。
何故そんなに急いでいるのか。
それは彼女自身が明かしてくれた。
「待ってろよ! ミア! もうすぐ薬を届けてやるからな!」
何某かの薬をミアという人物に届けるのが目的らしい。
しかし、駆け出した女はまた立ち止まった。それだけにとどまらず、物陰に姿を隠す。物陰と言っても草や木は生えていない。赤く侵食された建物の扉を急いで丁寧に開けて、また丁寧に閉じて中に身を隠したのだ。
「こっちにもいやがるのか……!」
破れた窓から外の様子を伺い、すぐさま顔を下げた。
「っ……!」
息を殺し、気配を狭める。
彼女が恐れていたものがそこを進んでいたのだ。
『──アア、ヒガ』
ベシャリ。
ベシャリ。
濡れたタオルを地面に叩きつけるような音を立てて進む。彼女と同じように、その存在もまた沈まずに移動していた。
「…………」
神にでも祈るかのように手を合わせる。目すら瞑り、重要な情報が入ってくるのを拒絶してすら見るのを拒むのは何故か。
しかし、彼女の口が開くことはない。
『エレ……イツ……』
ゆっくりと移動する足音は、しばらくして遠ざかっていった。
「……」
気配がないことを確認して立ち上がると、窓から再び顔を覗かせる。
「よしっ」
扉をゆっくりと開けた。
左右を確認すると、先ほどの存在が進んできた方向へ体を向けた。
「急がなきゃ……!」
──────
『腐り果てた村』
レベルが上がるほどダンジョンの情報を得ることができないというのは通例通りだけど、ここに関してはガチのマジで何の情報もない。
前回のドラゴン村でお前は何を学んだん? って言われそうだ……でも、今回はちゃんと調べてこれだから。
というかフロストが商工会から口止めされたって言ってたからな。何かあるのは間違いない。
間違いないけど、口止めしなきゃいけないほどのものってつまり神では?
「そ、ん、な、わ、け、で…………やってはきたんだけど……」
草っ原だ。
廃駅までやってきたらすぐって話だったのに。
廃墟と化した駅に登って辺りを観察してみると、所々に建物の残骸が残っている。
「いや、そうか……もうダンジョンに入ってるのか」
「…………」
「何か感じるか?」
コマちゃんが鼻先を向けた方向には一つの建物が。
「……行ってみるか」
武器を構え、警戒を全開にしつつ進む。
ドラゴンに勝てないようじゃ厳しい。
単純に受け止めるなら、より強力なモンスターが出てくるということだ。
「前回のはノーカンだしな……うん」
俺も戦えば勝てたかもしれないから。
流石に知り合いの身内を殺すのは…………いや、無理だわ。黄金竜の爺さんとか絶対勝てない。
とはいえ、ドラゴンよりも強いからといって俺が勝てない道理はない。今回は特殊補助枠のコマちゃんもいるので意外とやれるはずだ。
──意外なことに、建物は壁や屋根に至るまでしっかりと形を保っていた。
「遠目にも見たけど……普通の家か?」
「わふ」
「ブリンクポイント? そんじゃあどっかに繋がってるってわけか」
そんな情報すら隠されてるとか、いよいよなんかあるなこれ。俺1人だったら絶対に辿り着けなかったぞ。
「……わう?」
「そりゃあ入るよ」
「…………」
「幸運の女神様にキスしてもらったから無敵だ。俺はな」
お前は知らん。
最近散歩してるのをよく見かける雑種の犬にキスでもしてもらえば?
「…………」
「なんだよ、なんか文句あるのか?」
「わふっ」
このあと大変なことになっても知らないぞって……
「ごめんやーん」
「わふ……」
「うそうそ、コマちゃんが一番可愛いよーん! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! 幸せのお裾分けしてあげりゅからにぇええ!」
「わふっ」
臭くねえよ。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
-
いる
-
いらない