【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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51_噂通り

 扉が勢いよく開け放たれた。

 

「ミライ!」

 

「あ……へえ、ちゃんと戻ってきたんだ」

 

 家の中にいたのは1人の女。

 明らかに容体の良くない顔色で壁にもたれている。軽口を叩くのは、敢えて安心させようという魂胆が見え見えだった。

 

「飲め!」

 

「んっ!? ……んぐっ、んぐっ……ふぅ……荷物、よく見つけられたね」

 

「頑張ったんだよ」

 

「…………だいぶマシになった」

 

「はぁ……」

 

 ヘナヘナとへたり込む。

 その理由は明らかだった。

 

「……義足しかないね」

 

 壁にもたれた女の左膝から先は無くなっている。巻かれた布に滲み出た赤が指し示す通り、負傷して現場で切断したのだ。

 

「命があるだけいいでしょ。ほらいくよ」

 

「……いや、この足じゃむりだから」

 

「当たり前でしょ」

 

 背中を向けてしゃがみ込んだ意図は明白だ。

 しかし、それを拒否する。

 

「もうさ、私だけ残していってよ」

 

「…………」

 

 冷たく響く声。

 声色は全くもって普通なのに、それを言った途端に室内な気温そのものが下がっていったような感覚に陥る。

 

「いいか、私たちは2人で帰る。二度と言うなそんなこと」

 

「……諦めが悪いのはメイの良いところだけど、今回は無理だよ」

 

「無理じゃない。何か方法があるはずだ」

 

「…………はあ」

 

 深いため息。

 

「あいつらから見つからずに動き回りながらあの家を目指すなんて……今の状態でできるわけないじゃん?」

 

「うっせえんだよ……それを考えるんだろうが!」

 

 牙をむき出しにしながら怒鳴りつける。そんな泣き言を言っている暇があったら方策を考えろということだった。

 

「私を背負ったまま戦えるわけ?」

 

「……やるしかない」

 

 怒鳴り散らしている彼女の主武器は弓。

 人を背負いながら扱えるようなものではない。しかし、脚をなくした彼女は剣を二つ持っている。

 

「それ寄越せ」

 

「……」

 

 そもそもの役割を分けている意味が無い──という顔をしたが、それでも渡すしかない。女2人でこんな場所に来てしまったのだから、やれることはそれだけだ。

 

「あんまり期待はしてないけど……いざとなったら捨ててね?」

 

「黙れ」

 

 装具と纏めて交換。

 矢などもを含めて丸ごと一つの荷物として背負った。

 

「行くぞ」

 

「…………」

 

「返事は」

 

「はいはい」

 

 仕方ないなあと声を作りながら、背負われた顔に浮かぶのは笑みだった。しかし、扉を開ければ赤い世界が待っている。

 途端に走る緊張。強張った顔が指し示すのはこの建物内に避難する以前に味わっていた恐怖だった。

 

「いないな……」

 

「まずは高いところから見ないと」

 

「…………あの塔を目指すぞ」

 

 移動はそれそのものがリスキーだ。緊張しながら、二級探索者とは思えないゆっくりとした速度で慎重に進んでいった。

 

「……20mくらいか?」

 

 塔と表現したが実際のところは櫓だ。簡易的に木で組まれたもので、年月を経ても不思議なくらいしっかりと立っている。

 

「うげえ……なんかついてる……」

 

 赤いグチャグチャとしたものが櫓を登るための梯子についていた。しかし、櫓に登れば他に高い建築物はないので全方角を見渡すことができる。

 

「ヒューイがいてくれれば……」

 

「いないもんを言ってもしょうがねえだろ。そもそも置いてきたの私たちだし」

 

 ヒョイヒョイと登り、高さ20mほどの櫓の一番上まであっという間に来た。

 そこで左脚をなくした女(ミライ)がとある方向を指差す。

 

「…………あっちに行けば戻れるはず」

 

「ひとっとびで行けるか?」

 

「流石にヤグラが持たないよ」

 

「ちっ……」

 

「それに、跳んでる途中であいつらに捕まったら元も子もない」

 

「しゃあねえか」

 

 櫓を降りようとしたまさにその時。

 

『──ァァァ!』

 

「っ!」

 

「…………あ、あいつだ」

 

「……叫んだってことは」

 

「誰かがいる?」

 

 急いで駆け出した。

 

 

 ──────

 

 

「ミライ達はどこに!」

 

「なんなんだよ知らねえって。落ち着いてくれよ、誰だよミライって」

 

 モンスターに追われてたから観察してみたら、俺たちのことに気付いて何故か向かってきやがった。普通にトレインしてて草も生えない。挙句の果てには、コマちゃんの上に乗ってるからってモンスターの仲間なんじゃないかという事実無根の疑いを向けてきた。なんなら槍も。

 焦りすぎて若干正気を失っている可能性がある。

 

「隠したのか!」

 

「俺があの蛆虫どもの仲間に見えるか? 赤いか? ウジュルウジュルしてるか?」

 

「…………してないっ!」

 

 穂先が下がっていく。

 

「落ち着いたか?」

 

「落ち着いた……ああ、2人を探さないと……」

 

「おい、待て」

 

「なんだ?」

 

「せっかくなら手伝ってやるよ」

 

「……なんのために?」

 

「ここにくるの初めてでさ。どんな場所か分かり切ってないんだ」

 

「…………わかった、着いてこい」

 

 俺が出会ったのはヒューイという名前の探索者。

 レベルは58。

 3人パーティーでこのダンジョンにやってきたが、ブリンクのタイミングがズレたせいで入る場所がバラバラになってしまったようだ。

 つまり……俺はあの水に直接落とされる可能性もあったってこと? 

 

「わふ」

 

「いや、本当に」

 

 コマちゃんと一生一緒リングでも作らなきゃあかんかもしれん。

 

「……そのモンスターと喋れるのか!?」

 

「これは俺の飼い犬のコマちゃん、大きいけど犬だ」

 

「ええ? ……いや、犬じゃないよ。確かに犬っぽい見た目だけどどう考えてもモンスターじゃん」

 

「どう考えてもモンスターだけど、犬なんだよ」

 

 そこは譲れない。

 家族だからな。

 俺たちが普段ぶち殺しているモンスターとは格が違うんだ。

 

「……まあ、そう思いたいなら好きにしろよ。喋れるのは異能か?」

 

「そうだな、コマちゃんの異能だ」

 

「モンスター……犬が異能を持つのか……」

 

「無生物にだって異能が宿るんだから、生きてる動物に異能がつかないわけないだろ」

 

 言われてみれば、とヒューイは天を見上げた。

 

「あんま考えたことなかったけど……犬だってモンスターになるんだから異能ぐらい持てるか」

 

「モンスターじゃねえって」

 

 ヒューイから得られた情報は思ったよりも浅かった。

 最初は仲間と逸れて1人でモンスターから逃げ回っていた。しかし、ある程度したら突然気配が消えて別の場所で大きな音が。向かってみたら誰も居なくて、代わりに仲間が使っているリュックが落ちていた。

 

 あのモンスターどもはやはり複数体いて、水面から現れると近付いてくる。膂力はレベル50相当だけど、触れるとそこから肉体や鎧が侵食されて赤い腐肉に置き換わっていく。

 

「仕方ねえだろ、誰に聞いても知らないってんだから……」

 

「俺と同じだ」

 

 情報統制の効果はしっかりと出ているようだ。しかし、高位探索者の命よりも優先すべき情報なんてどこにあるのやら。

 

「それにても……レベル50前半で来るって、見た目はともかく意外と狂ってるのか? お前」

 

「さっき槍を突きつけてた割には人を見る目があるんだな」

 

「ああ、まあな」

 

「…………」

 

「もうモンスターとは出会したのか?」

 

 切ったら逃げられたという話をすると、顔を顰めた。

 

「遅かったか……」

 

「うん?」

 

「腐っただろ?」

 

「…………いいや?」

 

「え? こんな感じになるだろ? ……ああ、溶けないやつ使ってんのね」

 

 ヒューイが取り出したのは、半ばまで溶けたナイフ。

 あのモンスターの首に刺したらこうなったそうだ。それってやっぱり酸性ってことなのか? 

 

「さあな。溶けるは溶けるけどこんなのは初めてだ」

 

 お互いがお互いに背を向けないように移動する。

 俺たちは探索者だ。

 お互いがお互いに対して致命的な攻撃を放つことが可能な戦闘技能を持ち、時には大地を破壊しながら拳を交えることもある。初対面でそこまで険悪ムードにならなかったのは一安心だが、だからといって『騙して悪いが……』が起きないとも限らない。

 

「探してる仲間達はどこにいるんだ?」

 

「……それが分かったら苦労はしねえ」

 

 とかくこの世界は赤一色で道を覚えるのが大変だ。だから、広瀬さんの地図はしっかりと役立ってくれる。所々おかしいのはダンジョン化の影響か単純な覚え間違いだろう。

 

「なんだよそれ、なんで地図なんか……」

 

「ここにひいおばあちゃんが住んでた子がいてな。家からあるものを持って帰らなきゃならねえんだ」

 

「あるものって?」

 

 目の色が変わった。

 

「金目のものじゃない。手紙だ」

 

「手紙……ひいおばあちゃんの?」

 

「そう」

 

「……わざわざこんなところに来るなんて、彼女か?」

 

「いや、サークルの部長だ」

 

「なんだサークルって」

 

「大学のクラブ活動だよ」

 

「…………大学の教授なのか!?」

 

「いや、学生だから」

 

「がくせいい!? じゃ、じゃあその見た目って年齢そのまんまってことか!?」

 

「そう」

 

「う、嘘だろ…………はっ!? なんか、聞いた覚えが……あっ! 最速のレベル50ってお前か!」

 

「知らん、なんだそれ」

 

 聞いたことのない話だった。

 なんだ最速のレベル50って、あんまりかっこよくないぞ。どうせならレベル100最速到達の方が称号として美味しい。レベル50に早く辿り着いたところでなんのメリットもないって事は身に染みてるからな。

 

「お前名前は!」

 

「加賀美明弘」

 

「うわ、聞いた通りだ!」

 

「なにが?」

 

「名前聞くとフルネームで答えるって!」

 

「なんだよそれ……」

 

 そんなくだらないことまで知られてるの、あまりにもおかしい。もうフルネーム答えるのやめようかな。

 偽名使う? 

 

「お前めっちゃ年下じゃん! 敬語使えよ!」

 

「20歳の時に自分がレベル幾つだったか言ってみな。それで俺を超えてたら敬語にするよ」

 

「…………」

 

 ぐうの音も出まい。

 これからはこうやって生きていこうかな。出会った探索者にレベル勝負仕掛けて買ったらお金をもらうっていう職業。

 

「というか、俺のことなんか気にしてる場合か?」

 

「……はっ!?」

 

「ああ、囲まれたよ」

 

 いつのまにか。

 音もなかった。

 気配もなかった。

 なぜこれほどの数が俺たちに気付かれずに接近できたのか、それはおそらく地表を埋め尽くす腐液が関係しているのだろう。

 

『グラシ……ア……』

 

『や……ばた……』

 

『ぶぶぶら、さけ……』

 

「こんな数……」

 

「戦うしかねえな」

 

「嘘だろオイ! 本当に溶けちまう!」

 

 嘘でもなんでも、ここは正念場だ。

 

「初対面に背中を預けるのは少々以上の不安が残るけど……」

 

「俺だってそうだわ!」

 

「頼んだぜ、おっさん」

 

「おっさ……まだわけえだろ!」

 

 初対面の人間と一緒に探索……たまにはこういうのも悪くないな! 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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