【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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54_家族のためならば

『さて、こんなものでいいかね』

 

「──そうですか」

 

『なんだいあんた、そんな…………何か、どこかに思い残しがあるんだね?』

 

 ある。

 あるともさ。

 無いわけがない。

 

「とにかく……風香さんへの手紙は確かに預かりました」

 

『ありがとね』

 

 彼女はどうなるのか。

 想像するだけでその残酷な未来がはっきりと想像された。

 

『わたしゃどうしようかねえ……外の世界はどうなってるんだい』

 

「おそらく、あなたが外に出たら肉体の腐敗が伝播していくでしょう」

 

『…………分かってはいたけど、本当にモンスターになっちまったんだね』

 

 彼女の認識の通りだ。それだけに、彼女がはっきりと自我を持っているのは驚異的だった。

 

「気休めにしかならないかもしれませんが……異能は進化します。あなたの肉体もレベルを上げていけばもしかしたら制御出来るようになるかも……」

 

『気休めだねえ……そんな戦う気概なんてありゃしないってのに』

 

「ここはレベル60のダンジョンです。そこにモンスターとして存在するあなたもそれ相応の存在ではあるでしょう」

 

 技量などはまた別の話だが、レベルというのはそれだけで大きな力になる。彼女が変わりたいと願うならば、きっと何かを起こせるのだろう。

 

「あなたが本当に願い、努力したならばきっと……道は拓ける筈です」

 

『随分と大仰な物言いをするヤツだね』

 

「性分なもので」

 

『でも──風香ちゃんにもう一度会えるのかい?』

 

「きっと」

 

『…………はあ……可愛いひ孫娘のためとあっちゃあ、この肉塊も頑張ってやらなくちゃね』

 

 腰を曲げて深く座り込んでいた腐人は、その老人のような体勢をピシリと直して立ち上がる。人間の動作そのものだった。

 

「外にいた彼らは……」

 

『知らないけどね、同じ姿をしてるってんなら村のみんなだろうさ』

 

 商工会の功罪。

 人間をダンジョンに閉じ込めてモンスターにさせるなど、表に出れば権威が一気に失墜しかねないようなゴシップ。まさかこんな事がきっかけで(部外者)の知るところになるとは思うまい。

 これを風香ちゃんに言うべきか……

 

『おお……確かに身体が軽いね。膝も腰も首も痛くないし、気付かなかったけど頭もスッキリだ』

 

 レベルの高い探索者ほど肉体は若々しい。鈴子さんのそれは人間とか生物とかを逸脱した形になってはいるけど、それでも高レベルらしく体は軽いのだろう。

 

「──うえっ」

 

『なんだいこのデクは、人の顔見るなりえずくなんて随分と偉そうじゃないか』

 

「わぅぅうおえ」

 

『……今、喋ったかい?』

 

 近付くなって言ってたな。

 

「何がそんなに気持ち悪いんだよ、変なもん食った?」

 

「…………」

 

「広瀬さんがどうした?」

 

 チラッと視線を向けたのは広瀬さん。

 

「匂い大丈夫じゃないのか?」

 

「…………」

 

「じゃあ帰るか?」

 

「…………」

 

 もはや話すことすら嫌なのか、鼻先と足でジェスチャーを行っている。

 

『そのモンスターはアレかい? あんたが飼ってるのかい?』

 

「ええ、コマちゃんです」

 

『コマちゃんかい。喋れるなら礼儀ぐらい教えときな』

 

「犬にそこらへんのモラルなんか教えたところであんまり意味ないですから。飼ってるっつっても半分くらい放し飼いですし」

 

『……なんだいこの水は』

 

「そこから腐人──元村人達が出てくるんです」

 

『……触ってると落ち着くね。家の中にいるような気分になるよ』

 

「実家のような安心感ってやつか」

 

『…………うん? その言い回し、どこかで──』

 

「あっちに向かうとダンジョンの出口がありますから行きましょう。なにせ兵は拙速を尊ぶと言いますし、コマちゃんもあまり長くここにはいたくないようですから」

 

『そ、そうかい』

 

 

 ──────

 

 

『なるほどね、こいつらが私の仲間──みんなってわけかい』

 

 俺たちは走っている。

 大群で迫ってくる腐人どもから逃げるのみで、戦闘という選択肢はあり得なかった。この数を相手にできるほどの力は俺にはない。武器を持っている個体もいる。おそらくは探索者達が落とした対腐敗の力を持つ武器なのだろう。

 

『不便だねえ、触れただけで腐っていくなんて』

 

「呑気なもんです、ねっ!」

 

 このままでは安心してブリンクポイントに到達する事ができない。一時、奴等を退散させるために身を翻した。

 当然広瀬さんは屋根上に身を隠している。ただの婆さんが一息に4mほどもジャンプできるわけがないので、やはりそういうことだ。

 

『あんた、その恐ろしい炎はなんだい』

 

「これが俺の力です!」

 

『黒い炎……あんまり良いものには見えないね』

 

 いつもの10倍増しの火力は先ほどから継続している。理屈のわからない力が、さらにわからない理由で威力を増大させるというのはとても良いことだ。何せ面白いからな。

 

「──多すぎる!」

 

 流石に無理だ。さっきのヒューイがいればまた話も変わったかもしれないけど、俺単騎──コマちゃんは脚に専念してるから攻撃できない──では、とてもじゃないけどこの状況を完全制圧することはできない。

 

「なんでいきなりこんなに数が……!」

 

『──ああ…………ああ、そうかい』

 

「!」

 

 彼女はいきなり、腐人達から何かを感じ取ったようだった。

 

『アンタ、みんなはこう言ってるよ』

 

「何が!?」

 

 間髪ない攻撃。

 高い身体能力にモノを言わせて奴らは俺たちの動きに食らいついてくる。全力で回避行動をとっているから追いつかれることはない。だけど無意味に、そして連続的に肉弾ロケットとして跳んでくる奴らを思えば気は抜けなかった。

 

 そんなタイミングで彼女はこう言った。

 

『逃がさない。俺たちからもう何も奪わせない、って』

 

「はあ? ……何も持ち出してないだろ!」

 

 完全な冤罪だ。

 まさか呼吸をしたからって大気持ち出し禁止みたいなことじゃないだろうな。仮にそうだとしたら理不尽過ぎるから審判をやり直して欲しい。

 

『いいや違うね、そういうのじゃない。みんなは……私はこう思ってるのさ。もうこの村から、商工会の奴らには何も奪わせないって』

 

「気持ちはわかるけど、それ俺じゃないからな!? それともまさか、探索者は商工会に属してるから同じみたいなことか!?」

 

『まともに自我も残ってないのに、人間一人一人の区別なんてできるわけないだろ。入ってきたヤツは皆同じ敵さ』

 

「おいおい……でも、それにしてはさっきまで随分緩かったぞおらっ!」

 

 コマちゃんの尻尾が触れられるところだった。

 あのきったねえ手に触れられたら溶けちゃうからな、綺麗な毛並みをべちゃべちゃにしていいのは俺だけだ。

 

「わうっ」

 

「飼い主なんだからいいだろ」

 

『──最初は様子見してるんだよ! 私たちは所詮ただの村人だからね! そんないきなり攻撃できるような野蛮人じゃないのさ!』

 

「いきなり攻撃できる野蛮人で悪うござんした……!」

 

『どうするんだい! キリなんかないよ! みんな……憎くて憎くて、世界を呪ってる! 戦ったところで終わりなんかないんだ!』

 

「…………仕方ねえ! このまま脱出するぞ!」

 

 こうなっては仕方ない。

 コマちゃんからむしり取っておいた毛を束ねて、細い縄にした。それを広瀬さんの腕にくくりつけて水面を疾走する。コマちゃんの全力、臭いものからさっさと逃げられるという必死感が出ていた。

 

『まったく、老人の扱いがなってない……』

 

 ボロ切れ同然の扱いで引っ張ってきたから文句タラタラだが、身体はモンスターらしく傷ひとつない。

 扱いの悪いには同意するけど、俺だってコマちゃんの背中に乗りながら無理な体勢で保持してたんだからおあいこだ。それに実質的には老人同士なので、老人の扱い云々に関しては無敵のバリアーを保有している。

 

『んで、ここが出口かい』

 

「覚えました?」

 

『一回で覚えられるほど要領は良くないんだよ』

 

 モンスターからはだいぶ距離を離す事ができた。この水面というやつが物理的な距離を無視するような特性を持っていればすぐに現れるだろうけど、今のところそんな気配はない。

 

『しばらくはこないだろうね』

 

「このダンジョンのことが分かるんですか?」

 

『……何でだろうね。ついさっきまでは私もノータリンでアーウー言ってるだけだったからかね』

 

 そこら辺は摩訶不思議な理屈というものがあるのだろう。それを考えるよりは、この先の話だ。

 

「広瀬さん、あなたがこの先に来ることを、今はまだ認められません」

 

『さっきも言ってたしね…………一回だけダメかい?』

 

「その一回で世界が無意味に滅ぶリスクってやつを俺は背負えないですね」

 

『…………せめて証拠なり出してもらえれば納得もできるもんなんだけどねえ』

 

「俺の手を触ってください」

 

『……その小瓶は何だい? まさか私を浄化する聖水とかじゃないだろうね』

 

「何ですかその微妙に偏った知識……ゲームの知識ってやつですか?」

 

『私は知らないよ。でもお母さんがそういう人だったらしいんだね』

 

 とかく、触られたら途端にその部分が赤く醜く変わり始めた。ジクジクと疼くような激痛が走り、その小片部分だけを切り飛ばして回復薬をぶっかける。

 モリモリと再生していく掌。

 

『……人間なら確かにダメみたいだね。でも、他の自然に対してはどうかわからないんじゃないかね?』

 

 ヘチマ村の民の恨みの根源にあるのは商工会の過ち──ひいては人間に向いている。草木や土、他の動物なら大丈夫なのではという気持ちは理解できた。

 しかし──

 

「入ってきたばかりの時、小鳥が侵入してきて水に触れた途端に苦しみながら死んでいきました」

 

『そうかい…………ああ、太陽が見たいねえ……』

 

「…………」

 

『レベルってやつは、どうやったらあげられるんだい?』

 

 困った。

 この世界にいるモンスターは彼女にとって全て家族も同然だ。そんな奴らを倒してレベルを上げろとは流石に言えない。そもそも、倒そうとしたら途端に水面下に逃げてしまう奴らをどうやって倒すのかという問題もある。このダンジョンに入ってきてから一度も魔石手に入れてないぞ、俺。

 

「あ、そっか」

 

『?』

 

「魔石を手に入れればいいんですよ」

 

『魔石……あれはでも、モンスターの腹を掻っ捌かないと手にはいないだろう? どうすりゃいいんだい。何度も言ってるけど私は探索者じゃないんだよ』

 

「そこは何とか……例えば入ってきた探索者の道案内……いや、無理だ。そんなことしたら商工会がやってくる」

 

『…………』

 

「ダメですよ、本当に敵にならないといけなくなる」

 

『何とかならないかい?』

 

「…………わかりました。そうしたら俺が魔石を届けます」

 

『!』

 

「世界が腐敗に飲み込まれるよりはよっぽどマシでしょう……それと、他の人が出てきても話せることは明かさないでください。ひ孫さんのことがあったから俺はこうして普通に話していますけど、他の探索者も同じように対話に応じるとは限りませんから」

 

 彼女の自我を目覚めさせたのは俺だ。

 俺にも責任はある。

 もちろん全ての元凶は商工会だけど、致し方あるまい。風香ちゃんのひいおばあさんを手ずから殺しといて、ちゃんと手紙を見つけてきたなんて堂々と言えるはずがない。言えるけど、気分が悪い。

 

『……アンタ、悪いやつじゃないみたいだね』

 

「口だけで実際は探索者の群れを連れてくるかもしれませんよ?」

 

『そうかい』

 

 肩をすくめると、やや硬めの雰囲気を纏ってこちらに向き直った。

 

『頼んだよ』

 

「まあ、ほどほどに期待してください。報酬もないんで後回しになるかもしれませんから」

 

『そういうのは言うもんじゃないよ』

 

「中途半端に期待させるのが嫌でして」

 

『なら……言葉にしたんだからちゃんとやり遂げておくれ』

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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