【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「加賀美明弘……」
「おやおや、久しぶりですねえ」
自分でも胡散臭いと思うようなセリフが、すんなりと喉元から出てきた。腐り果てたダンジョンから小型犬と一緒に出てきた俺を取り囲むように待ち構えていたのは、紛れもなく商工会の職員だ。
何が問題かと言えば、その中の頭らしきやつ。先頭に立っているのが見知った顔ということだ。
青い髪。
爽やかな顔立ち。
ヒナタのことを嗅ぎ回っていた男。
「高峰レオさん、何故あなたがここに?」
「貴方こそどうしてこちらに」
「探索者がダンジョンに来て何がおかしいんですか」
「……」
「商工会の人間に言っても仕方ないでしょうけど、中には価値のあるものなんてありませんよ」
「……荷物を見させていただいても?」
「ふうん? これまでに俺はそんな検分をされた事がないなあ」
「見られたらまずいものでも?」
「──煽りには乗らない。人の大事な家族をコソコソ嗅ぎ回ってた分際で正論を通せると思うな」
「家族……日向さんと血のつながりはないでしょう」
「血統至上主義か? 思想が透けるぞ」
「…………やめておきましょう。口では勝てそうもない」
武力なら勝てるとかそういう話だろうか。
「身構えないでください。多勢に無勢──探索者とはそういうものではないでしょう」
職員全員がレベル50代とかならそういう話になる。
10人も引き連れているのは流石にちゃんとした仕事であると願いたいけど、それにしても人の荷物を漁る権利なんてのは聞いた事がない。
そして高峰レオを除いた職員達はいずれも歳若く、なぜこんなところにいるのかがさっぱり分からなかった。
「副室長……あの方は?」
「以前ちょっとね」
「どうするんですか? 随分と気まずい雰囲気というか……戦うんですか?」
「まさか…………加賀美さん! ここはお互い穏やかに去りましょう!」
その提案は基本的に願ってもないものだけど、一つだけ気になることがあった。
「レベルの高くない人間……子供をこんなところに連れてきてどうするつもりです。中に入るのはやめておくことをお勧めしますよ、死人が出るだけでしょうから」
「残念ながらこれも仕事でして」
「……皆さん、ここが『腐り果てた村』だと知って来ているんですか?」
『え?』
「ここはレベル60のダンジョンです。俺は商工会にそこまで高レベルの探索者が多く属しているという話は聞いたことがない」
『60って…………第100セクターみたいな場所って聞いてたのに……』
『ふ、副室長……本当なんですか?』
「ほんの入口だけです。高難易度ダンジョンがどんな場所か、撤退が容易なここでなら体験させることができる。今から内容を話すつもりだったんですが……先んじて言われてしまいました」
「それなら、この中に浮遊、水上滑走系の異能を持つ人間はどれだけいる!」
『…………』
「あのダンジョンの地表を満たしている赤い水やモンスターに触れれば、即座に肉体を腐敗に侵食されて腐り溶ける。入口だろうが何だろうが一つ間違えれば死ぬぞ」
「私が抱えて入りますから」
「…………」
「…………」
顔色から何かを読み解くことはできなかった。
「好きにしてください」
「好きなことではありません。仕事に必要なことをするだけです」
個人的に嫌いなだけなのでそこまで踏み込む必要はない。しかし、何となく気になった。
「あの……どうして見てるんですか?」
「商工会がどのような人材育成を運用しているかが気になって」
「はあ」
高峰レオに抱えていかれた職員──おそらくは新人? 達は青ざめた顔をして戻ってくる。ブリンクから戻ってくるのに10分ほどインターバルがかかるのは、向こうで何かをしているからだろうか。
「君たちは新人さんなのかな?」
「は、はい。一応探索部の調査室に入りました」
「随分と大人数だな」
「それが、今年から採用が大幅に増えたらしくて……運良く入れました!」
「努力が実ったんだろうな」
「はい!」
おかしいな。
方目さんや角田さんの様子を見てるとそんな風には思えない。方目さん、この間もケツ触られてブチギレて早上がりして受付の人数足りなくなってボイコットが起きて支部閉まってたのに。本部だけの話だろうか。
「わふっ」
しばらく話していたけど、お腹が空いたという抗議が入ったので肉を焼こうとしたら、中に持って行った肉は全部腐って食べるどころじゃなかった。
飛んでいたモンスターを撃ち落として解体血抜き即調理。
「良い匂い……」
新入職員たちは肉の匂いが気になるのか周囲に集まってきた。
「モンスターの肉?」
「今落としてたのってモンスターですか?」
「お兄さん、もしかして結構レベルあるの?」
「さっきの銃見たーい」
いやこれ遠足だろ。
三船くんとかシエルぐらいの年齢の子供集めて何しようってんだよ商工会。
「そんな気緩めてると副室長に怒られちゃうぞ」
「でも、副室長そんな怒ったりしませんよ?」
「そもそも食べ物くらい持ってきてるんだろ。現地調達したものが安全かどうかなんて分からないんだから、ちゃんと自分の持ってきたもの食べな」
「え〜!」
ブーイングの嵐だった。
普通に舐められてますやん。
「お兄さんって探索者なんでしょ? レベルは?」
「あんまり人のレベルとか気にしないほうがいいよ」
「えー?」
象徴的なピンクの髪を後ろにまとめた少女は、目を細めて俺の周りをぐるぐると回る。
「もしかして……結構低いの?」
「まあ、全体から見れば」
無限に存在する数字の中で52なんて、無いも同然だしな。
嘘じゃない。
「でも、このダンジョンってレベル60なんでしょ? どうやって生き残ったの?」
「そこはほら、探索者の秘密だから」
『──うわあああん!』
1人の少女が、抱えられて泣きべそをかきながら戻ってきた。
「やれやれ……参りましたね」
「モンスターに出会しましたか」
「…………ええ、そうです」
「──探索者になってすらいない人間をこのダンジョンになんて正気じゃない。誰ですか、こんなことを考えついたのは」
「内部のことなので話せませんが……そうですね。上、とだけ」
「…………」
全部を全部見る必要はない。
肉も食べたし、何かおかしなことをするのでなければ殊更に干渉するつもりはない。すでに十分おかしいというところはあるけど、そこに関しては就職先がイカれていたという事で諸君は納得してくれ。
──────
「…………あの人って何だったんですか?」
「さっきも言ったとおり、昔ちょっと揉めただけさ。商工会として調べる必要のあることがあって、結果的には関係なかったけど彼の身内を──家族を調べなきゃいけなかった」
「だからあんなに副室長のことを睨んでたんですね」
アキヒロのいなくなったフィールドで、ああでもないこうでもないと話が続いている。先ほどのアキヒロの話を受けて一時は不信感のようなものが流れていたが、改めて説明を受けたことでピリピリとした空気は流れ終わった。
「ご、ごわがっだよおお!!」
「よしよし」
泣き叫ぶ新入職員がいる一方で、落ち着いて宥める者も。ダンジョンから受けた恐怖というものは一様ではなかった。
「緊張したねー」
「副室長、あれってどんなモンスターなんですか?」
「危険なモンスターだよ。今回は先に見つけたからブリンクポイントから帰ってくることができまたけど、離れた位置で先に見つけられた場合はなす術なくやられる」
「……あんなのばっかなんですか?」
醜い見た目だった。
人間のような大きさで、シルエットだけで言えば人間のようなといってもギリギリ誤魔化せるのに、実際の見た目はゾンビの極まった存在のようなものだ。
「アレと戦えって言われたらどうする?」
「む、無理無理無理!」
「だよな」
「副室長は戦ったことあるんですか?」
「あるけど、武器がすぐダメになっちゃうからあんまり長くは戦えなかったな」
「そんなところ連れてこないでくださいよー!」
「まあまあ、室長からもちゃんと許可はとってるから」
「…………そういえば」
ざわりと雰囲気が変わった。
「室長とすんごく仲良いですよね」
「昔馴染みだからあんなもんだよ」
「でもでも、ご飯食べに行ったり一緒に帰ったりしてますよね! 室長すっごく若いし……実は付き合ってたり……?」
「ご想像にお任せします」
「きゃ〜!」
やれやれ、とレオは首を振るのも仕方ない。
どうにも緊張感のない空間になってしまった。その一助となっているのが──
「よくあの短時間でこんなに丁寧に窯を組んだな……」
「私たちもこれくらいできるようになれば良いんですか?」
「窯の話だけならそうだけど、あの人は良いお手本じゃないから真似しない方がいい」
「え? でもいい人そうでしたけど……」
「人間性じゃなくて、そもそもああいう探索者になっちゃダメだよって話」
「どういう探索者なんですか?」
「1人で探索する探索者」
「へえ〜、それで?」
「……君たちには1人じゃなくてパーティーを組んで仕事をしてもらうから、そもそも1人で活動している探索者を真似られるわけがないんだよね」
「それもアレですか? 会長が最初の時に言ってた話のことですか?」
「そう」
「ふーん……商工会の戦力増強ってこういうことなんだあ……残ってるお肉もらっちゃお」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない