【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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56_閃きは突然に

「ただいま」

 

「くさーい!」

 

 帰るなりニオイに言及するとは、なかなかですね。

 

「お風呂お風呂!」

 

「はい」

 

 帰る時間は連絡してたので、先んじて沸かしてくれていたらしい。ホカホカのご飯と熱々のお風呂、ついでにもう一つ選択肢があるのが世の常だけど……臭すぎたらしい。

 

「もう一つの選択肢?」

 

「いやほら、ご飯、お風呂ときたら…………」

 

「…………はっ!?」

 

 自分の身体を抱きしめると、柔らかかった目つきがジトリとしたそれに変わった。

 

「えっち」

 

「……このまま抱きしめてやろうかあー!」

 

「きゃー! 臭いおじさんが追いかけてくるー!」

 

「何だとこの!」

 

「やー! 臭い臭い!」

 

 くっさいおじさんと風呂に入る刑に処した。

 

「はあ……元気過ぎ……」

 

「今回は探索が一日以内だったし、全力戦闘も一回だけだからな! 余裕だったよ!」

 

「……この調子だと、いっぱい食べなきゃ痩せちゃいそう」

 

 それは困る。

 ミツキの今の体型はとても良い。

 太過ぎず細過ぎず、前から変わらぬ抱きしめ心地だ。

 

「意外と簡単だったの?」

 

「前提条件が難しいというか……コマちゃんがいなかったら死んでたけど、コマちゃんがいたから余裕だった」

 

「どうゆうこと?」

 

「────」

 

「!」

 

 説明すると、ご飯などどうでも良いと怒り心頭になってしまった。俺が悪かったからお皿を振り上げるのはやめてください。

 

「だから言ってるじゃん、危ないことはやめてって! ……そもそも何で商工会は情報を教えてくれないの! それでアキが死んでたらどうするの!」

 

 俺に怒ってるのか商工会に怒ってるのか微妙にわかりづらいな……

 

「どっちともに決まってるでしょ! ああ、もう!」

 

 怒ってますと横顔が真に表していて、何と言い訳をすれば良いのか困った。言い訳っつっても悪い事はしてないんだけど。

 

「何度目なの、もう……」

 

「俺も好きで危ないことしてるわけじゃないから、一応気を付けてるんだぞ」

 

「うそ」

 

「本当だよ。安全な方法があるんだったらそっち選ぶけど、こういう世界なんだから仕方ないじゃん?」

 

「…………」

 

 この幼馴染は幾つになっても俺の振る舞いに慣れてくれる気配がない。そこが良いところで、厄介なところで、何とも愛おしかった。

 心配してくれるミツキに甘えているというのは、自分でも分かっている。このやりとりをすることで自分が大切にされていると確認しているのだと、自分自身でも自覚している。

 だからこそ安心してミツキのところに帰って来れる。

 

「ごめんな」

 

「ふんっ……どうせ私の言うことなんか話半分なんだし……言っても無駄だよね」

 

「そんなことない」

 

「行動に表してほしいもんだね!」

 

「…………」

 

「……ふんだ。そんなので許したりしないもんね」

 

 抱きしめた瞬間から柔らかくて細い指が腕を撫でているのだから、その言葉がフリでしかないことはわかっていた。

 

「ごめん、気を付ける」

 

「ふん……」

 

「明日は一緒に出かけよっか」

 

「ふ、ふん……」

 

「甘いもの食べて、ようふ──服を見て……」

 

「ふーん……?」

 

「何かして欲しいことがあれば、言ってくれれば何でもするからさ」

 

「ふぅ〜ん……」

 

「だから機嫌直してくれよ。ミツキが怒ってると寂しいんだ」

 

「ふぅー……ふぅー……」

 

「…………ダメ?」

 

「それ……やめてよ……」

 

「どれ? …………これ?」

 

 真っ赤になった耳元へ息を吹きかけると、ビクッと震えて息を荒くしていく。ブルリと一つ震えると、腕の中から出ようともがき始めた。

 

「あー、もう! ダメ! そういうの反則だから!」

 

「ちぇー」

 

「ちぇーじゃない! ……探し物は見つかったの!?」

 

「手紙ならな」

 

「ど、どんな内容だったの?」

 

「人のプライバシーに関わるんだから教えられるわけないだろ」

 

「確かにそれもそっか……風香にはいつ渡すの?」

 

「次に大学行った時かな」

 

「ひいおばあちゃんなんて会ったこともないや」

 

「この前おばあちゃんには会いに行ったんだろ?」

 

「うん、もう目もあんまり見えてないみたいだった」

 

「そっか」

 

「…………ねえ、死ぬのって怖いの?」

 

「ああ、もちろんすごく怖かった。でも……この苦しみがやっと終わるのかって嬉しさが強かったな」

 

「病気だったの?」

 

「そうだな」

 

「ふーん……おばあちゃんもそうなのかな」

 

 まだ死んでないのにそんな事を考えるのは少し早いような気も……おばあちゃんがそれ聞いたら微妙な気持ちになるぞ。

 

「苦しくないのかな……」

 

「死と生の境目なんて一瞬でしかないから、気にしても無駄だぞ」

 

「…………」

 

「少なくとも俺は死んだと思ったら赤ん坊になってたしな」

 

「…………お母さんのおっぱい、どんな気分で吸ってたの?」

 

 コイツまさか、実の母親に欲情してないよな……? みたいな顔をやめろ。考えてることなんてすぐ分かるんだからな。

 

「ジジイに赤ちゃんプレイを強要するイカれ女に監禁されたのかと思ったよ、最初は。体も上手く動かんし、状況が把握できなかったからな」

 

「赤ちゃんプレイってなに?」

 

「あ゛」

 

 まずい。

 変な単語を覚えさせてしまった。

 しかし意味まで流通させなければ何の問題もない。それっぽいので誤魔化そう。

 

「赤ちゃんプレイってのは、赤ちゃんみたいに──じゃなくて……」

 

「うん?」

 

 あれ、赤ちゃんプレイという単語から赤ちゃんプレイ以外の意味ってどうやってこじつければ良いんだ? 上手いこと思いつかんな。

 

「プレイ……ま、まさかエッチな意味だったり……?」

 

「いや普通の意味だけど」

 

「…………嘘だね」

 

「え?」

 

「嘘言ってる時のアキだ」

 

 そんなところで鋭くなくて良いんだよお! 

 

「アキってさ、隠してるだけですごく変態さんだよね」

 

「男はみんなそんなもんだろ」

 

「…………」

 

 先ほどのジトッとした目を超えて、物凄く湿度の高い視線が俺の網膜にシメジをお届けした。

 

「奥さんとしたんだ……いっぱい……変なこと……私がいるのに…………」

 

 いないよ!? 

 

「浮気だよねこれ……」

 

「い、いやあ……はは……」

 

「アリサちゃんとヒナタちゃんにも言ってやろうかな……」

 

「おおい! 無闇に広めるのはやめてくれよ! 頭おかしいって思われんだろ!」

 

「…………頭がちょっとアレなのはみんなの共通認識だからあんまり変わらないと思うよ。それよりも、ちゃんと話してあげた方が事情とか理解しやすいと思うんだけど」

 

 何でそこで正論に繋がるんだ! 

 

「それに……私だけ知ってるって、罪悪感あるんだよ?」

 

「罪悪感?」

 

「話してくれたのは嬉しいけど、これで良いのかなって」

 

 漠然としていたが、なんとなく言いたい事はわかるような気もした。

 

「上手く言えないけど、そっちの方がいいんじゃないかな……あ、勿論アキの気持ちのほうが大事だよ? でも、私はそっちの方が良いなってだけ」

 

 モミモミと手を捏ねるミツキの顔を見ていると、従ったほうがいいような気がしてきた。ヒナタとアリサなら他の人間にイタズラに漏らすことはしないだろうし、四門家とあと1人だけに教えているというのは露骨に順列をつけているようでもある。

 しかし、そうなるとこれも話しておかなくては。

 

「実は早苗ちゃんにも教えてるんだよね」

 

「…………今なんて言った!?」

 

「早苗ちゃんにもぶべっ」

 

「なんでっ、そういうっ、意味不明なっ、ことをっ、しちゃうのっ!」

 

 ほっぺた腫れるかと思った。

 

 

 ──────

 

 

「ああ…………」

 

 その手紙の書き出しを読んだ瞬間から表情がクシャクシャになってしまった。

 

「ひいおばあちゃんだ……こんなこと言うの、ひいおばあちゃんしかいないもん……」

 

 どこか懐かしそうに、そして嬉しそうに言ったかと思えば、目尻に溜まったものを拭って再び視線を落とす。

 

「うん…………うん…………うん…………」

 

 何度も頷きながら。拭っても拭ってもキリがないものを気に掛けることは諦めて垂れ流しのままに読み進めていく。

 

「はぁぁぁ……うぅぅぅぅ……」

 

 鼻水が垂れてくるのも構わないので布を貸した。

 

「何で忘れてたんだろう、こんなすぐに思い出せたのに……ごめんね……ごめんね、ひいおばあちゃん……思い出したよ、私……!」

 

「風香……」

 

 膝が崩れてしゃがみ込んだ風香の背中をミツキがさする。

 

「そうだよ……お餅って食べ物だよね……当たり前じゃん……お米作ってたもんね」

 

 鏡餅。

 もう古くてひび割れて、食べられそうもないそれを撫でた。

 

「年の初めに、神様をお迎えする為の儀式なんだね……そうだよ。何度も願ってもらったじゃん……私、バカだなあ」

 

 ! 

 

「そうか……何でこんなことを忘れてたんだ……!」

 

「アキ? 今ちょっとそういう空気じゃないから黙っててね」

 

 我慢した。

 

「お餅があるってことはコメがあるってことだ……少なくとも当時はあったってことだ!」

 

 餅米だけど、野菜を継続的に栽培する習慣があったってことだ。そして餅米があるならばうるち米だってあるに決まっている。無いわけないんだけど、どこにも見当たらなかった。

 

「思い出したって言ったな! 米のことは何か思い出したか!?」

 

 あの手紙は俺が言われた通りに書いただけなので、そこに書かれていないのは理解している。

 あるとしたら、彼女の薄れていた──あるいは閉ざされていた記憶の中にこそあるものだろう。

 

「…………お米は確かにヘチマ村で作ってたよ」

 

「それで?」

 

「それだけ、かな」

 

「……」

 

「私、その時ってまだ10歳になってないし……米があったことくらいしか覚えてないよ……」

 

「ひいおばあさんなら分かるか?」

 

「え、そりゃあ分かると思うけど……でも……」

 

「そうだ、何で俺はそんなことを気にもせずにあそこにいたんだ! …………いや、仕方ないな。興奮してたし」

 

 鈴子さんが仲間(地殻変動前の世界からの人間)なんじゃないかと熱が脳みそをダメにしていた。

 今考えれば、そうじゃないと分かる。

 

「価値はあるか」

 

「アキくん……さっきから何を言っているの?」

 

「風香ちゃん、いいか。理を書き換えられるのは神様だけだ」

 

「ちゃん付け!?」

 

 思考が回転しているのが分かった。

 

「霊領を築けばソコは、新造された世界とも異なる法則に支配された土地になる。いわばバリアーで守られたフィールドだ」

 

「えと……?」

 

「もっとわかりやすく言うぞ。神様がいればモンスターすら手出しできない安全な空間が出来上がる」

 

「ええっ!? そ、それってナントカって先生から聞いた話〜?」

 

「そう!」

 

「す、すごいなぁ。研究すっごい進んでたんだね!」

 

「ヘチマ村で米を安定的に作ってたんなら、神様がそこには存在するはずだ」

 

「……そうなのぉ?」

 

「そうなんじゃないかって仮定しないと話が進まないから」

 

「あ、うん」

 

「ひいおばあさんなら、きっとその神様の存在も知ってるはずだ」

 

「あの……私、そんな話聞いたことない気がするんだけどー……」

 

「…………マジ?」

 

「適当だったらごめんね? でも私は覚えてないかもです」

 

「……何かを祀るための建物みたいなのってあった?」

 

「うーん……流石にそんなに細かくは覚えてないかも」

 

「今はもういないのは間違いない……けど……くそ、永井先生なら何か知っていたかもしれねえのに……!」

 

「永井先生が何を知ってるの?」

 

「あ、いや……」

 

 あの村で起きた事実については、知るだけでジョーカーになりうるような手札だ。たとえひいおばあさんの事だとしても──ひいおばあさんの事だからこそ、俺から伝えるのは違う気がした。

 

「アキくん……?」

 

「アキ…………また何かを隠してるんだね」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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