【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「また彼ですか?」
「ええ」
「……例の如く険悪なムードになってはいないですよね?」
「そこは上手くやりました」
「それにしても……新人をいきなりレベル60のダンジョンになんて、会長は本当に何を考えているのかしら」
商工会のトップたる会長は、今年から商工会の戦略を根本から増強するという案を打ち出していた。そのために新採を大幅に増やし、探索者と同様に育成することを求められている。
しかし、実際のところかなり難しい話だ。
任せられているのは探索部全体だが、一際現場に出ることが多い調査室ですら真の上澄みであるレベル60以上の人間は1人もいない。
会長が求めているのはそのレベルで、それはつまり彼らをどんどん死地に送り込めと言っているのと同じだった。
「あちらもこちらも忙しくて、本当に気が休まりませんね」
「…………もう、あんなのは懲り懲り」
下水での追いかけっこ。
正体不明の人物は結局見つけることができず、下からスライム達が上がってこないように完全に蓋をして元通りの道に直した。つまり、何も無かったのと同じことになったのだ。
部長報告だけはあげたが、まさか第1セクターに対して破壊工作を行うような人間がいるとは誰も思っていなかった為、なかなか受け入れられなかった。
説明は難航しかけたが、彼女の言葉を支持する者がいた。
『なぜ彼女の言葉を否定する? 起きたことを述べているならばまずはそれを受け入れるのが先だろう。信じるも信じないもない、精査したいなら自分たちでしろ』
部長に報告中、後からやってきた。
『敵がいるならば、それに備えなければならないだろう。何故敵の存在そのものを透明化しようとするんだ、貴様は』
熱い援護のおかげで部長報告は円滑に終わり、それと同時にある話を与えられた。
『私は商工会に戦力が不足していると考えている』
『探索者の、ということでしょうか?』
『商工会そのものの武力だ』
意図を掴みかねた手鞠は、田辺の顔を見つめることしかできなかった。
『外敵も、内憂も、全て商工会単独で対処できなければならない』
『人員を増やすというお話で……?』
『そうだ。戦える人間を増やす』
『……探索者の数も限られます。容易に雇えるものでは──』
『我々が手ずから育てるのだよ』
『はい?』
『商工会内部における探索者育成のノウハウをしっかりと作る』
『…………』
『部長にも後で伝えるから任せたぞ』
かくして、商工会 どきどき☆ワクワク育成バランサーズが始まった。
探索者として育成するというのは商工会の事業として各支部や本部の受付において一部事務として行われていることではある。しかし、内部的なものとして行うとなればまた話が変わってくるのだ。
早く育てる。
死なせない。
この二つを両立するというのは、ただの理想論でしかない。
早く育てるということはそれだけ多くの回数ダンジョンに潜ってモンスター達を殺し、魔素を肉体に吸収させるということである。そしてダンジョンに入ること自体にリスクが付きまとう。戦っている最中に死ぬかもしれないし、ダンジョンの環境にやられて死ぬかもしれない。道に迷って孤独に餓死する可能性だってある。
しかも商工会に入れる程度のお行儀がある人間にとって、ダンジョンというのは日常とはかけ離れた場所であることが多い。適正──肉体的な素養ではなく、精神的な──が足りていないというのは、探索者になるような人間と比べると大いにあり得る話だった。
『どうしよう……』
『どうしましょうね』
元探索者であっても、こんな無謀な話は聞いたことがない。室長と副室長は大いに悩んだ。しかしやらないわけにもいかない。
とりあえず採用し、どんな人間かを直接確かめるしか無かった。その上で、2人ともが情けない顔つきで昼飯を食べる羽目になった。
『探索者になれるのかしら……あの子達』
『そこはもう、運ですね』
『仕方ないですね……頼みましたよ? 副室長。あなたの手腕こそこういう時に発揮されるんですから』
『人使いが荒いですね』
『昨晩はあれだけ手荒く人のことを扱ったくせに、自分は逃げるおつもりですか』
『……これは参った』
『参ったって言ってもやめなかったくせに自分は逃げられると?』
『…………勤務中なので私語は程々にしておきましょうか』
育成するにあたって、まず必要なのは何かという話になる。
武器の選択か。
ダンジョンに慣れることか。
走り込みか。
もちろん全てやらなければならないことだが、その中で何が一番効果的かを見極める必要がある。
『まずはダンジョンというものに対する認識を正しく持たせておくように。そうだな……あそこがいいだろう』
会長直々の指示として『腐り果てた村』に行くことが選ばれたというわけだ。ダンジョンがどれほど恐ろしいかということは教えられたような気もするが、だからなんだということもある。
恐怖のみを知ってしまえば、踏み出せたはずの足が踏み出せなくなってしまう可能性もある。
──手鞠はふと思った。
「副室長」
「なんでしょう」
「その、彼──加賀美明弘は1人でレベル50に到達していますよね?」
「ええ」
「まだ20歳という若さですから、最速ですよね。実力の程はさておき、そこに関して間違いはない」
「……まあ、そうですね」
レオには既に、彼女が言いたいことの大体が理解できていた。
「彼に教えてもらうのがいいのでは?」
「…………」
「誰が最も効率的かという話になれば、間違いなく彼の名前があがります」
「ふむ」
「会って話をしてもらう事はできますか?」
「もちろん話だけならできるでしょうが……話を聞いてもらえるか、そして飲み込んでもらえるかはまた別の話な気もしますね。そもそも私は嫌われていますから、仮にそれを行うとしたら別の人間に任せたほうが……それこそミスズに──」
「は?」
「はい?」
「は?」
「……何かおかしなことを言いましたか?」
「は?」
「なんでしょうか」
「は?」
「はあ……」
正解を見つけるまではこの調子だろうと溜息をついた。胡乱な瞳でレオを睨んでいる手鞠の望む答えは何か。なんでいきなり機嫌が悪くなったのか。思い当たる節を一つ一つ探り──
「降参します」
「なにが?」
仕事中にも関わらずここまで彼女をキレさせたのは、久しぶりだった。そもそもなんの話かさっぱりわからない。
「別に私なんも言ってなくない?」
仕事中とは思えないぶっきらぼうな口調。
これは相当に酷い。
「……そうですね、言ってはないですね」
ひたすらに面倒臭い。
「じゃあなんで謝ったの?」
「……」
これを何も知らない人間が聞けば、普通にパワハラをされている現場だと思うだろう。
実際は違う。
「もう少し距離を取ってもらえると……ほら、職場だし」
「は? 嫌ってこと?」
レオは壁ドンされていた。
性別故の身長差がある為に歪な感じの壁ドンになってはいるが、間違いなく壁ドンだった。しかし、余人が憧れるようなロマンチックな雰囲気はどこにもない。
「もうわかったから……」
「何がわかったか言ってみてよ。ほら、分かったんでしょ」
構う時間が減ったのがよくなかったのかもしれないと、最近の自らの振る舞いを省みる。しかし仕事なのだからどうしようもないことだ。
ここは一つ、突破口を作り出すしかない。
「室長、人に見られたらなんて言われるかわかりませんよ?」
「だから?」
「……」
ダメだこりゃ、と片目を閉じる。このままでは仕事中に淫行をしたとしてあらぬ嫌疑をかけられてしまうかもしれない。なんなら室長自ら広めていく可能性すら……?
『──中村デス、失礼してもよろしーでしょうか」』
コンコン、とノックの音が響いた。
手鞠もレオもあわてて身だしなみを整え、元の位置へ。
本当に人が来るとは思わないじゃないか!
「どうぞ」
「失礼しま──す」
あ、レオ先輩だー! と一瞬で表情が喜色に満ちた。しかしそこは仕事中。すぐ手鞠に向き直り、報告書を提出する。
「探索班の装備の一括受注ができたので、その報告です」
「そうですか。あとはこちらでやっておきますので」
「お願いしまーす」
手鞠と話している間もウィンクをしたり手を小さく振ったりとアピールに隙がなかった。
『失礼しました!』
「…………随分と仲が良いようですね?」
なんの香りかと言われれば、焼けた餅の香りだ。
「後輩達に嫌われないように私も必死ですから」
「それなら軽い挨拶程度で良いのでは? きっと適切な距離感を保つのに役立ってくれますよ」
暗に、透けてるぞと忠告していた。
「勘弁してくれ……」
「…………」
「手なんか出してないし、ちゃんと距離感は保ってるよ……だけど部下だからあんまり遠ざけてもやりにくいんだって」
「配置換えしようかな……」
あまりにも私情過ぎる発言。聞くものが聞けば糾弾の嵐だろう。しかしここは閉ざされた部屋、2人きりで何を言おうが広まる事はない。
「あんまり無茶苦茶な事するなよ」
「…………」
「そんな顔してもダメなものはダメだ。ちゃんと仕事しろ」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない