【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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59_ワームを倒そう!1

「うう……やっと倒した……」

 

 黎人一行のパーティー(妖精のとまり木)は、一つの死骸の前にへたりこんでいた。

 

「ごへええ、死ぬかと思った……」

 

 メイスを取り落としたハシュアーは何とも情けない体勢で地面に突っ伏し、その冷たさに身を預けている。ダンジョンでそのような体勢をとることは迂闊だ。しかし、いつもなら注意をするレイトも大の字で寝転がっている。

 

「はぁ…………はぁ……」

 

 常は平静を崩さないシエルも大きく肩で息をしている。周囲への警戒などとてもじゃないが出来そうもなかった。

 

 3人ともが疲労困憊。このタイミングで次のモンスターが来れば、間違いなく全員が胃の中に収まるだろう。

 

「魔石の……回収しなきゃ……」

 

 それでもリーダーらしく気力で立ち上がったレイトは、ナイフをモンスターの腹に突き刺した。

 

「んしょ……んぎっ! ……んぎぎぎぎ……! ……ハシュアー」

 

「だからちゃんと手入れしろっていつも言ってんのに……これ使って」

 

「つ、次から気をつけるから」

 

「これだから素人は……」

 

 ハシュアー謹製かつ手入れの行き届いたナイフを使ってみれば──あらビックリ! さっきまでは皮に引っかかって切れなかったのにスーッと刃が通っていくではありませんか! 

 

「すごいねハシュアー」

 

「へんっ、こんぐらいなんでもないやい」

 

 スイスイと皮を切り、肉を切り、内臓を掻き分けて。

 巨大な身体の中心へと上半身を潜り込ませたレイトはしばらくモゾモゾと動いていたが、やがて臭い体内から戻ってきた。

 

「──あった!」

 

「っし! 戻って報告しようぜ!」

 

「うん」

 

「レイトさんは身体洗ってからな」

 

 

 ──────

 

 

 レベル15相当のモンスター、ワームの討伐。それはひとまずの目標として掲げていたことだ。そして人間など容易く丸呑みにしてしまう奴らと対等にやりあうには、奇襲されないことが前提となる。

 探索者はまず彼らの移動の痕跡を探す必要がある。ミミズから進化したと考えられている彼らだが、その痕跡もミミズと同じだ。

 振動を敏感に探知し、移動する。

 ミミズと違うのは、彼らが明確に肉食だということ。大きくなる陸棲生物というのは植物食であるというのが通常の動物界における基本的な法則だが、モンスターはそんな常識など通用しない。

 肉を食ったほうが美味えに決まってんだろ! と肉を食らうのだ。

 

 そんなわけで、肉食クソデカヤツメウナギと評するのが正確なワームはレイト達を大いに苦しめた。土から飛び出たかと思えばまた土に飛び込み、ぐるぐると回転しながら高速で潜っていく。

 回転するものには近づくな。

 工業における鉄則だが、探索者においてもそこはあまり変わらない。触れれば万力が如き威力で腕を持っていかれ、最悪は体全てが土中ですり潰されるだろう。

 

 それを防ぐためには回転などしない状態にするか単純に暴力で止める必要がある。3人にはまだどうにかできるだけの膂力が備わっていない。

 頼ったのは、いわゆるアイテムと呼ばれるものだ。

 回復薬に代表される、一般人は使用しない摩訶不思議な物品。

 高い。

 しかし効果が約束されている。

 モンスターの血肉や羽、胆石や脳みそ、自生している植物や空から降ってくる煌めく砂など、様々なものから作り出されるそれらのアイテムは種類が多岐にわたる。その工程からして化学というよりも錬金術と称した方が様子は似ている。

 なんでかは分からないけど、とにかく作れるんだから使うのが正解だ。生き残れるのだから。

 しかし高い。

 

 高いが効果はある。

 効果はあるが高い。

 

 捉え方は人それぞれだが、探索者であるならばそれを使わない手はない。武具などよりも活発に取引されるそれらは街中で普通に売られている。鍛治冶金と違って一般人でも扱うことができるからだ。

 必然、同じものを作るにしても目分量やらなので効果はまちまち。安いのにとんでもない効果を持っているかと思えば、高いのに微妙な効果しかないこともある。

 

 だが、工房さえ拵えて仕舞えば安定して稼ぐことはできる。探索者は危険で野蛮で近寄りがたいが、確かに市場を回してはいるのだ。

 

「──あああったあ……!」

 

 ハシュアーが手に取ったのは、地下性のモンスターに対して広く有効であると言われている音響爆弾。

 

「た、たかい……!」

 

「この前の報酬の3分の1が吹っ飛ぶ……」

 

「嫌なら買わなくて良いんだぞ」

 

 32セクターの市場程度では、そこに無かったら無いですねが余裕であり得るのだ。探せど探せど見つからなくて、3日連続坊主を乗り越えてやっと入荷されたと思ったらコレ。店前に並べているのは別のセクターからやってきた商人だった。

 

「輸送だって移動だって安くない。本当に納得できねえなら別のセクターに行って探しゃいいじゃねえか。まあ……マトモな探索者なら金なんか気にしねえだろうがよ」

 

「ぐぬぬ……」

 

「足元見てる」

 

「見てるとも」

 

 飄々としたものだった。

 可愛らしい少年少女3人組ということで完全に舐められていた。

 

「そっちの嬢ちゃんが1日デートでもしてくれるってんなら安くしてやってもいいけどな」

 

「……ぅ」

 

 すらっとした生足に這い回る蛇のような視線。

 シエルは一つ身震いをした。小さな口から漏れるのは気持ち悪さから構成された呻き。キュッと、音を立てて右拳が握られた。

 

「どうする? 買うか、俺と1日楽しくやるか」

 

「……シエルちゃん、行こう」

 

「あっ」

 

 撤退は早かった。

 レイトはシエルの手を握り取ると、反論などする隙すら与えず足早にその場を離れる。

 

「…………」

 

 ハシュアーがリーダーの顔をさりげなく覗くと、明らかに眉が寄っていた。シエルは無言でレイトについていくだけだし、アイテムはどうすんだよと言える雰囲気でも無い。

 頭の後ろで腕を組みながら、つかずはなれずで後ろを歩いた。

 

「ったく……」

 

 しょうがねえなあ、とボヤきながら。

 

 

 ──────

 

 

「レイト」

 

「…………」

 

「レイト、ちょっと速い」

 

「あ、ごめんね」

 

 ムッツリと黙り込んで、何も聞こえていないのかと思えばしっかりと聞こえている。子供じみた感情が言葉を放つことを止めさせていただけだったのだ。

 

「……ごめん」

 

「…………」

 

 何に対して謝っているのか。

 

「でも……仲間が変な目で見られるのは嫌なんだ」

 

「はぁ」

 

「っ……」

 

「私が1日我慢すれば良かっただけなのに」

 

「そ、それはちが──」

 

「でも……ありがと」

 

「し、シエルちゃん!」

 

 嬉しそうに、シエルの右手を両手で包み込んだ。

 心底から感動したと言った様子だ。

 しかしシエルは自分で言っておきながら、表情を見せまいと必死に顔を逸らしている。

 

「かーっ! ぺっ!!」

 

 反吐、極まれり。

 なんだいなんだい、鍛治師は火でもくべてろってんですかい。どうせドワーフは仲間はずれですよとハシュアーは串焼きを半ば奪い取るように買って噛みちぎった。

 

 ハシュアーは色恋などまだ分からぬ。

 女神像を見ていると何か湧き上がるものがあるが、誰か特定の人間を見て心臓が止まるような感覚になったことがなかった。

 だが、目の前のヒューマン2人がなにやら照れ照れと慎ましく触れ合っているのを見るととてつもなく甘ったるいものが口の中を満たす。

 即座に吐き出さなければやっていられないほどだ。

 

 あの異常者(アキヒロ)もよく女達と仲良くやっているが、あれはなんというか別のカテゴリのような気がした。少なくとも、パーティーメンバー2人のそれを見る時のようなフワフワした気配は無い。

 

「あ、ハシュアー君だ!」

 

「んお? ……アオイちゃんじゃん」

 

 非番だろうかと思ったら付き添いのお姉さん(方目 七緒)も一緒だった。

 

「ハシュアー君、こんなところで何してるの?」

 

「何って、見ての通り……」

 

 見ての通り、と説明するには市場から離れていた。その言を持ち出すならば、手を握り合ったまま固まっている2人の方が相応しいだろう。

 人に見られたと思ったのか、距離を取った少年少女は視線をお互いに逸らしている。

 なんだか甘酸っぱいぞ? 

 

「私の人生って……」

 

 ナナオの目は死んだ。

 

「音爆弾どうすっかなーって感じ」

 

「──え? 音爆弾売ってないの? 最近はそんな品薄みたいな話聞かないけど……もしかしてなんかあったのかな」

 

「違うって。売ってはいたんだけどさあ……」

 

 ちら、と視線を向ければ2人はビクつく。

 

 ハシュアーからしても、あの代価というのはあまりにも過ぎていたと思うのでレイトの判断にケチをつける気はないが、それはそれとしてどうするのかということだった。

 

「色々あんの」

 

「色々ねえ……まあ、あるよね。探索者だもん」

 

「そうそう。俺も鍛治したいけど全然金貯まんねえから炉がさあ……はあ〜……」

 

 切実な問題だった。

 毎日同じことやってんなあ、と嫌いにはならないまでも食傷気味だった鍛治。離れてみれば、どれほど自分が恵まれた環境にいたかというのがありありと分からされた。

 ハンマーを振いたい。

 今はメイスを振るうことでその欲を発散しているが、爆発したら自分はどうなってしまうのだろうと空恐ろしい気持ちになる。とにかく、ドワーフというのは魂の芯まで鍛治が染み付いているのだと理解したこの頃だった。

 

「──ハシュアー君!」

 

 最初の挨拶以降は放置されていたアオイが、小学生くらい元気に手を挙げながら割り込んできた。

 

「はえ?」

 

「これ、食べる!?」

 

「んお……いいの?」

 

「うん!」

 

「あ、ありがとう……なんか元気だねアオイちゃん」

 

「そうかなあ!」

 

「うん」

 

 ハシュアーとアオイは馬が合う。

 歳が近く、なりたての新人同士でもある。境遇として似たようなものなので親近感が強く働いたのだろう。

 

「アオイちゃん、貰っといてなんだけど…………またこのパン買ってるんだ」

 

「うん! だって美味しいから!」

 

「お肉も食べな? 美味いよ、肉」

 

「お肉は苦手……だって脂っこいし……」

 

「人工肉だろそれって。モンスターの肉は意外と引き締まってて味も面白いぞ」

 

「……」

 

「でも高いんだっけ? じゃあ今度食べさせてあげるよ」

 

「えー」

 

「嫌ならいいけど……俺は全部食えるし」

 

 しつこく誘う気もなかった。

 あと、今はそんなこと(アオイがどうとか)よりもワームの対策を考えないといけない。

 

「じゃあ行くから」

 

「あ、うん……」

 

「おーい2人とも、そろそろ市場にもどろーぜー! ……ってあれ!? どこいっ──何してんだよお!」

 

 2人揃って囲まれていた。

 

「ねえ、ちょっとだけじゃん」

 

「僕たちやることがあるので……」

 

「奢るよ? 美味しいご飯」

 

「大丈夫です」

 

「そんなこと言わずに──」

 

 小さな影が差した。

 

「──うおらあっ!」

 

「うわあああっ!?」

 

 ハシュアーは道に向けてメイスを振り下ろした。

 

「い、いかれてんのか!」

 

「パーティーメンバー引き抜きはやめてもらおうじゃんよ!」

 

 地面にめり込んだメイスを引き抜いて肩に担ぐ。相手の言葉など一切考慮せず、言いたいことだけをぶちまけた。

 

「もし続けるんならもう1発──」

 

 ブンブンと振り回し始めたところで若者達は消えていた。道端で武器を振り回すようなイカれには探索者も一般人も等しく関わりたくないのだ。

 

「ふぅ……なんで2人ともちゃんと言わないんだよ! 断らないからあんな感じになるんだろ! いつも!」

 

 お上りさんがそれを言うという皮肉。

 

「ごめぇん……」 

 

「ごめん」

 

 許して許してと瞳を潤ませながら謝られてはそれ以上何も言えない。むしろ責めた側が悪くなるだろう。

 

「ったく、俺がいないと2人はほんとダメだな!」

 

 自分がしっかりしなければこのパーティーは立ち行かないと、ハシュアーは確認していた。

 

「ほら! 戻るよ!」

 

「え?」

 

「市場に行くぞって!」

 

「…………今日はいかない」

 

「えああんっ!?」

 

「今日は……ちょっとね」

 

「…………ふぅ」

 

 少年は、少年らしくない重みのある息を吐いた。

 

「分かった」

 

「ごめんね」

 

「俺ちょっと寄るとこあるから、2人は先に帰ってて」

 

「うん、じゃあ夕飯の材料だけ買ってから帰る。行こっかシエルちゃん」

 

 一行は二手に分かれた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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