【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「これを……ここは違う……」
「ほええ」
薄い鉄板を叩いて曲げ、組み合わせ、時折止まって考え込むとまた組み合わせる。ハシュアーは草原から帰ってきて早々、興味深そうに覗き込むレイトの目の前で何かを作っていた。
そしてテーブルの上を整然と素材が占めているものだから、日向達との買い物から帰ってきたシエルも同じようにハシュアーのやることを見る。
「…………気が散るんだけど」
「まあまあ」
「まあまあ」
口を揃えてまあまあと宥める。
しかしそれはやられている側が気にするなということで言うものであって、やっている人間が主張するものではない。
「俺の気が散るんだよ! 2人じゃなくて!」
「でも鍛治師が仕事してるところ見るなんてあんまりないから……」
「ケチ」
「け、ケチって……俺悪くねえし……!」
「ねっ、お願い」
「……」
カチャカチャと小さいながらも確かな音が部屋の中で鳴り続け、組み上がっていく円筒状の物体。2人は奇跡を目にしているかのような驚きを瞳に
「な、何がどうやったらあの板がこうなるの?」
「…………」
疑問には答えず、難しい顔で作業を続ける。どんどんと額の険が深まって、最後には手先がありえない速度で動いて完成させた。
「おわ、ったあああ……」
両手足を投げ出すと、椅子にだらんともたれかかる。
「こういうのあんまりやらないからすごい疲れた」
「お疲れ」
机の上には手のひらサイズよりやや大きめな円筒が。
「この中に虫を入れるの?」
「うん、使う時にこの紐を引けばバネで押しつぶされてネムシが音出すはずだよ」
「ふーん……よくわかんないけど、こういうの作ったことあるの?」
「だから、ないよ」
「初めてでこれ作ったの?」
「正直、急いでなきゃもっと丁寧に使ったんだけど」
「…………いや十分すぎるよ。僕じゃ絶対に作れなかった」
「うーん……やっぱ納得いかねー」
「おしまいおしまい! ほら、片付けるよ!」
作ったものをナナオに見せた。
「──これをハシュアー君が?」
「うん、作ってくれたんです」
「…………りありー?」
手にとって、シゲシゲと見つめる。
目がまんまるになっていた。
「その紐を引くと動いちゃうので気を付けてください」
「はえ〜……最近の子ってすごいのね」
「最近のっていうか……」
視線が集まった。
「でへへ」
自分、照れてもいっすか? と露骨に表情が出ている。大人のお姉さん方に可愛いやら初々しくて好きやら言われても全く表情が変わらないハシュアーが、デロンデロンに溶けている。
「そんなに褒めんなよ〜」
「その割には照れてるじゃない」
「へへへへ」
「ドワーフってやっぱり変ね」
「変じゃねーよ! じゃあナナオさんは可愛いって言われて嬉しくねーのかよ!」
「……もう! ハシュアーったら!」
「え?」
「私のこと可愛いって思ってたんだ!」
「お、思ってない! 例えだから!」
「そんな否定しなくても……」
ひったくるように取り戻すと、レイトを促した。
「ほら!」
「そうだね。ナナオさん、ワームの討伐を受注します」
低レベルモンスターの討伐依頼、討伐業務など定常的にあるものだ。一々ボードを確認する必要すらない。ナナオは処理を進めつつハシュアーを意味深にチラリと見た。
「ワームを受注するのはいいけど、ぶっつけ本番なの?」
「?」
「試験的に使ったりとか……」
「ダメだったら普通にネムシを殺せばいいだけだし」
「それって耳がやられない? すごい音大きいじゃんアレ。3人ともまだ身体強くないでしょ」
「なんとかします!」
──────
「今日は静かだね」
ダンジョンというのは、中にいると何処からともなく微かに音が聞こえてくるものだ。パイプ状の穴がどこまでも繋がっているから壁を反射して遠くまで音が届く。しかし、今日はそれがない。
極端に少ない。
「なんで?」
なりたてのハシュアーには、はたと思いつくものがなかった。多少なりとも先輩である2人にその理由を尋ねる。だが、そのどちらも首を傾げるばかりで答えは出てこない。
「なんでだろ……僕もわかんないや。シエルちゃんはわかる?」
「知らない」
「こういう事もあるのかもね」
「うん、いこ」
さて、一行はすでにダンジョンに入り込んで時間が経っている。いまだにワームが移動した痕跡を見つけられていないのは何故なのか。
「なんか……静かだと不気味だね」
自分たちの足音がはっきりと、モンスターにだって良く聞こえてしまうような気がした。いつもよりも慎重に、かつ、迷わないように細々と地図を確認しながら進む。
「…………」
「こんな時間かけてたら見つかるもんも見つからないんじゃね?」
「ハシュアー、帰れなかったら見つけても意味がないんだよ」
彼にしてはやや強めの物言いで意見を跳ね除けて、進む方向と進んできた方向をしっかり確認しながら。
「シエルはどう思う?」
「別に」
「でも疲れない?」
「うるさい」
「……うるさくねえし」
同じことを何度も聞くなと冷たく尖った目で咎めるのもシエルの特徴だった。
「レイトが……リーダーがやるって決めたことにケチつけるの?」
「…………ごめんなさい」
「許す」
「うぐぐぐぐ……!」
「ダンジョンで騒がないで」
「まだ騒いでない……!」
「あっそ」
「相手は女……相手は女……!」
「……ふっ」
拳をフーフーして耐えるハシュアーを見て、シエルは鼻で笑った。それを受けてとんでもない形にへし曲がった口からひーふーと息を漏らす。
「体術も私の方が上だから」
「今度わからせてやる……どっちが上か……!」
「──2人とも」
肩をポンと叩くような冷風が通り抜けて行った。
お叱りの言葉が入る程度には集中を切らしていた二人は、レイトの真面目な顔を見て意識を切り替えた。
少しだけ怒っているように見えたからだ。
普段怒らない人物が怒るのが一番怖いというのは知られた話だが、実際目の前にするとふざける気が全く起きない。
「あった」
そうしてレイトのマッピング能力頼りで進むこと暫し、ようやく痕跡を見つけた。
本来ならば固められて平らなはずの地面が盛り上がり、崩れて穴が開いている。二箇所。
「……こっちだね」
より盛り上がり方が穏やかな方へ進む。
パラパラと壁面から土埃が落ちる音が細かく鳴り始め、場の空気が戦闘直前の緊張を孕んだものになった。
「ハシュアー」
「うん」
走って移動する3名はどんどんと近づく異音に顔を強張らせながらも、戦う意欲は強く見える。先頭はハシュアーに入れ替わり、武器ではなく音爆弾を握っていた。
「くるよ!」
「まだ……まだ……」
上、横、足元。
掘削音はあらゆる方向から聞こえ、振動も同じく彼らを立体音響で包み込む。
追いついた。
あとはタイミングの問題だ。
縦横無尽に進み続けるワームは、土中を進みながらも洞窟の本道から離れて移動する気はないようだ。常に洞窟の通路を取り囲むように進み続けるワームの軌道は螺旋に近い。時折体の一部が見え隠れし、崩れた岩壁の一部が彼らの背後へ落下する。
現場ネコ一直線な状態であっても、怯んで立ち止まることはできない。そんなことをすれば崩壊に巻き込まれ、陽の光を拝む未来は2度とやってこない。
「ハシュアー! このままってわけにもいかないよ!」
「…………」
ハシュアーは音の根源──ワームの移動経路から目を離さなかった。そして、土を丸ごと飲み込み、エラから吐き出す悍ましい頭部が出てきた瞬間。
「──今!」
「!」
紐を引き、勢いよく前方に放り投げた音爆弾。
シエルの目にはハッキリと、機構が作動していく様子が見て取れた。
『──ギギアアアアア!!』
音の爆弾。
空気を揺らす、虫の死音。
放物線を描き、プチュッという特徴的な音が鳴った後に他の音全てを掻き消すような爆音が打ち鳴らされた。
ただの音のみで洞窟を鳴動させ、敏感なモノであればソレはもう確実に悶絶するだろう。
『──!』
移動していたワームは、今や崩落した天井部分とともに地面の上でビタンビタンとのたうっている。
狙い通りだ。
「はあっ!」
レイトは渾身の力を込めて突き刺した。
胴体など狙わない。
逃走させる隙など与えない。
先手必殺。
一方的にうちのめし、そのまま実績の一つにしてやろう。
しかし──
「硬い……!」
滑らかな胴体に比べ、頭部は顎やトゲなど随分と鋭角な印象を受ける。刃が当たった部分に生えているヒゲは何の意味があるのかわからないが、ともかく一本は切り落とすことができた。
「るああ!」
音爆弾を投げた直後、その起動を見届けようと硬直していた為にレイトに追い抜かされたハシュアー。やや遅れる形となって飛び出し、メイスを振り下ろす。硬い相手と柔らかい相手、扱い人間のみならず、武器によっても根本的な得手不得手というものが存在する。
硬い頭部に対してメイスは有効だった。
衝撃が骨格を大きく歪ませ、牙が幾本か砕けて抜け落ちる
『ギイイ!』
流石に顔面をぶん殴られればそちらに気がいくのかと思えば、いまだに苦しんでいる。どうやら音による攻撃の威力というのは事前の想定よりも遥かに大きなモノだったらしい。
「やあっ!」
剣先を向けるべき箇所を誤ったことに気付いたレイトは胴体へと狙いを変えた。そこに向けて突っ込み、切り開いていこうとする力に反発するのは頑丈で柔軟性を持ち合わせた外皮。
「ううあああ!」
必死だった。
手を止めれば待つのは
恐怖と焦燥に包まれそうな自分を誤魔化すように大声を出し、渾身の力を込める。
「──!」
ハシュアーはもっと酷かった。
自分を丸ごと飲み込めるような円口。内部にはびっしりと歯が生え、苦悶の呻きは地獄から這い上がってきたカラスのような悍ましさ。
そんなものが間近1m以内にあるのだから。
叩きつけるメイスが頼りなく感じられる彼我のサイズ差をなんとかしようと、一撃一撃で仕留める気持ちを忘れない。
「…………」
シエルはといえば、することがなかった。
彼女の弓では巨体を有するワームの肉体に対して有効打を与えることができない。かといって、ナイフで攻撃するのはもっと無意味だ。だが、何もしていないわけでもない。極めて近い場所にいる二人では分からないナニカに気付く為に全体を観察している。
特に、口元にいるハシュアーは何かあれば一番危険な立ち位置だ。矢を番え、その始動を見逃すまいとしている。
──その時が来た
「ハシュアー!」
「っ!」
高い声を耳にした瞬間、ハシュアーは咄嗟に後ろへ身体を大きく傾けた。体勢が崩れ、そのまま転げそうな状態から猫のように身を翻して距離を取ろうとする。
『!』
だがモンスターの動きも速かった。胴体を激しくくねらせ、うねりあげる海波のように不規則な動きを見せる。周りに蠢く小虫を潰そうという明確な意思。その動きの激しさは、少々距離を離した程度で逃れられるモノではなかった。
「ぐっ!」
「──うあっ!」
引っ掛けるように胴体に当たった牙が小さな身体を容易く吹き飛ばす。人間がこれほど綺麗に宙を舞うのかというほどにハシュアーは飛ばされ、シエルがソレを受け止めた。運動エネルギーを完全に殺すことはできず、二人は諸共倒れ込む。
「ハシュアー! 退いて!」
「う……」
「レイトと一緒に戦って!」
「痛い……」
「…………!」
脇腹が抉られていた。着けている鎧など関係ないと言わんばかりに丸ごと消失し、赤黒い中身が見える。
「うああああ!」
叫ぶ。
先ほどのワームと同様にのたうち回る。
そんな意思はないだろうが、ワームはざまあみろとでも言わんばかりに鎌首をもたげ、ハシュアーを見ている。
「はああっ! ……ううう!」
肉を抉られる痛み。
骨が削られる痛み。
中と外が繋がる痛み。
かつて味わったことのないモノだった。
「ハシュアー!」
「自分を気にして!」
「っ……うん!」
強く握り直した剣をワームに向け、吶喊する。
「こっちだ!」
耳が良いワームはそれに引き付けられる。顔を向け、二つの振動が自分に向けて近づいて来るのをハッキリと認識した。違う方向ではやかましく喚く肉塊が血の匂いを撒き散らしているが、同時に嫌な匂いも香っていた。
「回復薬」
取り出したシエルは、躊躇せずそれをハシュアーの傷口にかけた。赤と水色が触れ合った瞬間、結合と再生が始まる。
しかし、より一層大きな苦悶が生じるということでもあった。
「痛い痛い痛い! やめて!」
「黙って!」
レイトが一人でワームを相手し続けるのは──もちろん彼らの中の誰であっても同じはずだが──不可能だ。
近いうちにシールドマシンのような口に吸い込まれ、削られて胃の中に収まってしまうだろう。
「うあああああ!」
「っ!」
跳ね上がる身体を押さえ込んだ。ハシュアーの脇腹は
「うわっ!」
何がどうしてそうなったのか。
地面に潜り込んでいる最中のワームの上を、レイトはランニングマシンかのように尾に向けて走っていた。
「わわっ! ほっ! よっ!」
地面に全て潜り込んだワーム。
ゴゴゴと地響きを鳴らしながら周囲を移動しているのが聞こえる。それが続けば──
「く、崩れちゃう! シエルちゃん!」
「逃げよう」
まだ喚いている最中のハシュアーを担いで走り出した。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない