【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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63_ワームを倒そう!5

「うわっ! わっ!」

 

 崩れゆく洞窟。

 長延長の全体に影響を及ぼすことなど決してあり得ない。それでも、通り過ぎた後は崩落によって少しの間は通行不可能になるだろう。

 二人は大慌てで逃げていく。

 必死にマッピングした道を思い返し、レイトが先を行く。痛みで気絶したハシュアーを担ぐのはシエルで、重みに顔を顰めつつもしっかりと保持していた。

 

「次は左!」

 

「……!」

 

 しかし、話す余裕はない。

 探索者は人間よりも速く走れるが、全力に近いほど消耗が早いというのは変わらない。加えて、数十キロのものを担いでいればそれだけの負荷と疲労が肉体に蓄積される。

 

「シエルちゃん! 替わるよ!」

 

「……いい、前見て」

 

「わかっ──いっ!?」

 

 パターンが変わった。

 洞窟の壁面を削り取るだけだったワームが、口腔に溜め込んだ土石を飛ばし始めた。眼前に着弾し、破片を周囲へ撒き散らす様は爆弾と何ら変わりない。直撃すればその部位が消し飛ぶ。

 

「うわわわ!」

 

 右へ左へ。

 単純な直線疾走ではなく、なるべく弾道がブレるようにしながら駆け抜ける。

 

「ハシュアー! ハシュアー起きて!」

 

 レイトは最初の選択こそミスしたが、胴体への攻撃は効果を表していた。動き回るワームの肉体からは紫の液体がこぼれ出して周囲を汚していく。だが、まだ足りない。時間が足りない。

 モンスターとの戦いは、直前まで彼が考えていたように頭を狙えばすぐ終わるという単純な話ではない。

 強靭な肉体と回復能力。

 レベルのいったモンスターを通常の銃火器で殺すのが難しいという時点でわかるだろう。

 

 故に、長期戦になると見込んだ時点でなるべく多くの傷を与える必要がある。失血させれば時間経過により体力消耗が起きるからだ。

 多少の傷ではすぐに塞がってしまうし、再生能力持ちの相手には通用しない手であるという点以外は何の問題も無いプランだった。

 

「…………」

 

「ハシュアー!」

 

 逆に、負った傷による失神を経験したことがあるレイトだが──それでもハシュアーには目を覚ましてもらわないと困る。暗くて冷たい地面の下で眠るわけにはいかない。

 

「どうすればいいんだ……」

 

 逃げ惑い、打つ手も無い。

 焦燥感に満ちた心中を落ち着かせるのは難しくて──指先にカサリと何かが触れた。

 

「──!」

 

 閃きがやって来るのは、決まってそういう時だ。

 

「…………シエルちゃん! この先でアイツを落として!」

 

 今も重荷を背負っている相手に頼むのは酷なことだが、そうするしかなかった。

 

「……どうやって?」

 

「行けばわかる!」

 

 やがて、ヌタヌタと足のはまる空間に辿り着いた。

 

「元の道から外れちゃったよ」

 

「うん!」

 

 壁も、天井も、触れると指が沈み込むような軟性の状態になっている。

 

「ここがいい! きっと! ──くるっ!」

 

『グギャアアアア! …………!?』

 

 怒り狂っていたワームは、その軟性の土に驚いたようだった。しかし、落ちることはない。土中で棲息しているだけあり、こういう状態でも移動できるような肉体になっているのだ。

 

「だけど……さっきよりは見やすい!」

 

「…………」

 

 細めた瞳。

 強く引き絞った矢が狙うのは、柔らかな土を撒き散らしながら突っ込もうと口を開けているワーム。

 目はないにも関わらずその狙いは正確だ。

 だが、目がないモンスターの顔面における弱点とはどこか──

 

「口を狙って!」

 

「わかって──るっ」

 

 放たれた矢は、口腔粘膜に深々と突き刺さった。

 

『ギッ!?』

 

 飛び出すため力んでいた胴体部分が、土から半ば飛び出た瞬間の出来事。バランスを崩し、音爆弾を投げた時と同様に地面に落下した。

 続いて落ちて来た土が胴体の周囲を埋める。

 

「今!」

 

「うん!」

 

 常は叫ばぬシエルの必死な声。それが耳に届くか届かぬかのうちに、ハシュアーを地面に置いたレイトは飛び出していた。

 

「──!」

 

 狙うは先ほど切り開けた傷。脈動に従うように規則的に体液を噴出させるそこへ更に剣を突き込んだ。運が良ければ心臓を、悪くても直接体内にダメージを入れることができる。欠点として吹き出す体液によって身体が汚れるということがあるが、既に汚れているので問題ない。

 

「これで!」

 

 貫いた剣先。

 更に引き切っていく。

 

「倒れて!」

 

『──!!!』

 

「!」

 

 突然に、強く、急加速で跳ね動いた胴体。

 強靭な筋肉が人間の膂力など遥かに超えてしなる。巨大な街の如く迫りながら、巻き上げた土埃がレイトの姿を覆い隠した。

 

「レイト!」

 

 潰されたのか。

 食われたのか。

 飛ばされたのか。

 あの一撃は剣士に止められるものではない。

 

「大丈夫!」

 

 安心させるように帰ってきた答え。

 しかし姿はいまだに見えない。

 この状況で援護射撃はできなかった。

 

 土煙の中からは、巨大物が土を這いずる音とザクザク斬りつける音が響いている。だが、それも長く続かない。

 

「うあああ!」

 

 弾き飛ばされたレイトがすっころびながら出てきた。かと思えば、すぐに起き上がって必死の形相でシエルの元へ。

 

『スウウウウウ──』

 

 唐突に、嫌な音がした。

 シエルはそれを話に聞いていた攻撃だと判断した。

 しかし隠れる場所がない。土煙のせいで起こりも見えない。ハシュアーを背負って全力疾走していたから、疲労で逃げることもおそらくできない。

 

「っ!」

 

「レイト……?」

 

 レイトが飛び込んできて、シエルを押し倒した。頭を、背中を、全身を身の内に隠すように抱きしめる。

 泣きそうな顔で。

 

『ボ──』

 

 凄まじい勢いで発射された土流が、ビームのように土煙を突き抜けていくのが見えた。ドンピシャの一撃では無いのは、異常な地質のせいで音がうまく聞き取れないのだろう。

 

「ぅ……」

 

 しかし、その威容を目にして反射的に声を漏らし、少年の体にしがみつく。ビームは壁に衝突し、ワームそのものと同じような勢いで削っていくのだ。恐ろしくないわけがない。

 

『ボボボボボ』

 

 凡そまともに生きていたら聞かないような音。

 横薙ぎに動くビームは、そこにあるもの全てを刈り取ろうとしているのがわかるような──そして、ビームは光線ではない。土塊の集まりが飛ばされているだけに過ぎないからこそ、やや放射状に撒き散らされている。

 

 それで壁を削っているのだから凄まじいが、問題はそこではない。直上を通過すれば、飛散物が彼らにも襲い掛かるのが確実という恐ろしい未来が待っているのだ。

 このまま待っていれば二人はおろし金にかけられた大根のようになるだろう。

 

 ──ガシャンと、明らかに金属の音が鳴った。

 

 倒れ伏している二人には何が起きているのか把握できなかった。だが、変わらない。何か少し違うことが起ころうと、予定調和のようにすりおろされるだけだ。

 しかもシエルはハッキリと見てしまった。胸当と地面に挟まれた視界の中で、迫り来る土塊の奔流を。

 だが、逃げられるものではない。

 目を瞑り──

 

「づあああああ!!」

 

 声と共に、自分達の足元の方から激しい衝突音が聞こえた。連続的で、何かが硬いものに当たり続ける音だ。

 

「ううううううう!」

 

 二人は顔を見合わせた。

 ハシュアーは持ってきた盾を──それだけでは足りないと鎧まで重ね、土砂流を防いでいた。もちろん完全に防げているわけではないが、致命的な攻撃として作用することは免れていた。

 

 ──二人に対しては。

 

「あああああ!!」

 

 左腕が容赦なく折れていた。圧倒的な圧力を前にして、多少レベルが高いだけの一般人の腕力など無意味だと言わんばかりの現実。

 しかしハシュアーは折れたまま、右腕で左腕を押さえつけて必死に堪えていた。堪えて、雄叫びで誤魔化していた。

 

「ハシュアー……!?」

 

「はぁぁぁぁあああ!」

 

 呆然と見つめる。

 

 ──だってまだ、探索者になって2ヶ月の少年だ。ずっと年下で、背も小さくて、いきなり地底世界からやってきたばかりの子供だ。

 13歳なんて自分は何をしていただろう。お腹が空いたな、なんて思いながらぼんやりと空を見ていたかもしれない。それがこんな、腕を折ってまで誰かを助けようとしている。

 

 呆気に取られるしかなかった。

 驚愕しかあり得なかった。

 

『ボ──』

 

 そして攻撃が止んだ。いまだ土煙で視界は最悪の状況だが、確かに二人は無傷でやり過ごすことができた。レイトはすぐに起き上がり、駆け寄ろうとした。

 

「ハシュアー!」

 

「いけぇ……」

 

 少年は脂汗をかきながら、顔を真っ青にしながら、小さく呻いた。

 

「っ!」

 

 隣を通り抜けた。

 もう、相手も余裕はないはず。

 あれだけ腹を掻っ捌いて、頭を殴って、それでまともな生命活動を存続していられるほど余裕綽々じゃないはずだ。

 駆けながらシエルへ指示を出した。

 

「ハシュアーに! ありったけの回復薬!」

 

 土埃に突っ込むと途端に息がしづらくなる。咳き込むのを必死に堪えながら走ると、熱量がそこにあるのを感じ取ることができた。

 

「ふぅぅぅ……!」

 

 ハシュアーが作り出した隙を決して逃してはならないと、肩に力が入っていた。

 

『ギギギ……』

 

 小さく唸っている。

 先ほどの攻撃による消耗か。

 垂れていた頭は無視し、再度腹へ。

 

『ギ──』

 

 刺さった剣を引き切ろうとしたが、疲れでうまくいかない。

 

「っ!」

 

 抜いては刺し、抜いては刺し、動かないワームを無惨な刺し傷だらけにしていく。腕が重いのを無視して、ハシュアーに報いる為にも刺し続けた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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