【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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64_ゆっくりレイトだぜ

「──大丈夫!? 真っ青だよ!?」

 

 3人が商工会に入って来るなりアオイがすっ飛んできた。給仕の仕事中だったのに完全に放り投げている。奥で睨んでいるシェフから後でお叱りが入ることだろう。

 

「アオイちゃん……よっす」

 

「ハシュアーはすごく頑張ってくれたんだ」

 

「めっちゃ頑張ったよ……」

 

 リーダーの背中で疲労困憊の様子を見せるハシュアーは、怪我こそほとんどしていないがいつもに比べて血の気が引いたような顔をしていた。それを見てアオイはすっ飛んできたというわけだった。

 怪我をしていない理由は、つまり回復薬で強制的に治したからでしかない。失われた血も、痛みによる精神的な苦痛も癒やされるものではない。今日はもう動けないだろう。

 

「……頑張ったんだね〜」

 

「うん……」

 

 酒場で女の子に優しく撫でられるという、一般の探索者としては恥に近いことをされながらハシュアーは反応が薄かった。

 

「疲れた?」

 

「うん……」

 

 このまま気を抜けばすぐにでも寝てしまいそうだ。

 あと、何故か少し臭う。

 

「なんかちょっと臭い気がするんだけど……」

 

「それは僕かも」

 

 地下水で体を洗ってはいたが、いかんせん血の匂いというものは皮膚だけでなく服にも染み込むものだ。本格的に洗わないとしばらくは消えないだろう。

 

「報告だけしたらすぐ帰るから、先に受付行ってもいい?」

 

「ごめんなさい邪魔しちゃって」

 

「ううん、むしろ……いつもハシュアーと仲良くしてくれてありがとう」

 

「!」

 

「これからも仲良くしてあげてね」

 

「…………」

 

 小さく頷いた少女は、給仕の仕事へと戻っていった。背中に収まる少年は黙りこくっている。

 

「ハシュアー、良い友達を見つけたね」

 

「…………恥ずかしいんだけど」

 

「あはは」

 

 受付では、一部始終を見ていたナナオが待ち受けていた。いつも通りだけど、どこか雰囲気が違う。

 

「やったみたいね」

 

「──はい!」

 

「そっか…………そっかあ……」

 

 優しい瞳だった。

 見守るような瞳とでも言えばいいか、レイトはむず痒くて仕方がない。しかし、そこで目を逸らすのは失礼にあたるような気がした。しっかりと見つめ返すも、口元がムニムニとひとりでに動き出す。

 

「……ぷっ」

 

 何がおかしいのかわからないのに、笑ってしまう。そんな様子を見てナナオの口元が緩やかに三日月を描く。

 

「余計なお世話だと思ってたけど……うん、やっぱり私は正しかった」

 

「?」

 

「なんでもないよ。今日はお疲れ様! 報酬は振り込んでおくからね!」

 

「はい!」

 

 疲れもピークということで、ちゃっちゃと三人は出ていった。

 

「寂しいような気もするけど……これでいいんだよね」

 

 レイトの後ろ姿を見つめながら、ナナオは頬杖をついていた。

 

「確かに信じてはいたけど、本当にキッチリやってくれたなあ」

 

「あの……受付の仕事してくんない?」

 

 仕事中ですよ! 

 

「そっち空いてますよ〜」

 

「そんな寂しいこと言わないで相手してくれよ」

 

「もう少しイケメンになってから出直してきてくださいね」

 

「これでも結構イケメンで通ってるぞ!?」

 

「風俗ででしょ」

 

「…………そうじゃねえ! 仕事がねえんだけど!?」

 

「何ででしょうね」

 

 雑魚っぱのモンスター討伐業務がない。

 綺麗さっぱり。

 レイト達が出るまでは普通にあったのに、新規のものが入ってこない。高レベルの依頼は増えているのに、一般層の探索者が受けられるものが極端に減っていた。

 

「こんな……ドラゴン討伐がこんな増えても誰が受けられるんだよ! こんなんじゃ商売あがったりだ!」

 

「そうですね」

 

「なんとかしてくれよ!」

 

「お仕事増えろ〜、なんて商工会の立場として言えるわけないでしょ。減ってくれた方がみんな安心して暮らせるんですよ」

 

「だけど、こんなんじゃ二級や一級だって困るだろ!」

 

「そう言われても……無いものはお出しできないので。あ、ほら、これなんてどうです? 下水清掃業務」

 

「やんねーよ!」

 

「受けてくれたらかっこいいのにな〜」

 

「受けます」

 

「ありがと」

 

 また一人、増えすぎたスライムを減らす為に下水にぶち込むことに成功した。しかし仕事がないというのは本当の話だ。どうしたものかと突っ伏す。

 

「はああ……どうなってるのよお」

 

 異常事態なのは明らかだった。

 

 

 ──────

 

 

「動けまてん」

 

「しょうがないよね、昨日はあんだけ無理したんだから」

 

 盾として、間違いなく二人を守り切った。

 尋常ではない覚悟だった。

 一歩間違えれば三人とも一緒に赤いジュースになっていたかもしれないのに、躊躇せず二人の前に立ち塞がっていた。

 

「ゆっくりしててね」

 

「あい」

 

 起き上がることもできずに布団の中で呻く姿は可愛げすらあるが、昨日の負傷を考えるとそういう話に収まらない。腹を抉られて急速回復した後に腕が小枝のようにグシャグシャに折れたのだ。レイトとお揃いになるところだったことを思えば、治っただけありがたい。

 

「シエルちゃんはそろそろ起きても良いんじゃないかな」

 

「ん……」

 

 反応はするが、布団の中に顔が潜り込んでいく。

 このままでは布団つむりになってしまうと無理やりひっぺがした。

 

「あんまり寝てちゃダメ──」

 

 しかし、布団の中というのは秘密の花園も当然である。寝ている時というのは霰もない格好を晒していることが多々あるものだ。シエルはそのタイプだったようで、服が胸元まで捲れ上がっている。しかも暑かったのか、下も半脱ぎだ。

 

「!!」

 

 大慌てで元に戻し、部屋を出た。

 

「はぁぁぁぁ……」

 

 扉にもたれかかってズリズリと落ちていく身体。残像のように、光景が目から離れてくれなかった。

 

「もう……だから別々の部屋にしようって言ってるのに……」

 

 誤魔化すような呟きすら震えている。激しく打つ鼓動が鳴り止むのは一体いつになるのか、このまま永遠に早鐘のままで生きていくことになるかもしれないと逃避気味にレイトは考えた。

 

「忘れる……忘れる……忘れる…………うぅあ」

 

 忘れようと思えば思うほどに、強く想起される。脳のメカニズムとは厄介なものだ。最早、おとなしく先ほどの光景を甘受するのが正解なのだとしか思えないぐらいハッキリと、絹肌につるりとした質感が思い出されていた。

 

 悶々とする少年の背中に、軽い物理的衝撃が走る。

 

「あっ」

 

 開こうとした扉が背中に当たっていた。

 

『開かない……なんで……』

 

「ご、ご、ごめん!」

 

 どうやら、都合の悪いタイミングで目を覚ましてしまったらしい。

 

「……なにしてんの」

 

「い、いや……あはは……」

 

「?」

 

 ボソボソと喋るシエルに対して気まずさマックスで顔を逸らす。そんなことをすれば怪しさもマックスになるというものだ。シエルはレイトの顔をじっと見つめると──何故か頬を僅かに染めて通り過ぎた。

 

「えっ」

 

「…………」

 

「し、シエルちゃん……?」

 

 以前もこんなことがあったような──と思い出している間にもシエルはスタスタと歩いて行く。寝起きにしては機敏な足取りだ。まるで何かから、誰かから離れようとしているかのような。

 

「──はっ!?」

 

 稲妻が脳裏に走った。

 まさか、先ほどは寝ぼけ眼の状態で分かっていなかっただけで、実際は起きていたのか。それで、いま目を覚ましてハッキリと思い出してしまったのかもしれはい。

 

「し、シエルちゃん! 違うんだよ!」

 

「何も言ってない」

 

「っ……そ、そうだね」

 

 そっちがそう来るなら、こちらもそれに乗っかるしかない。粛々と後ろをついて行く。

 

「……顔洗うだけだよ」

 

「そっか……うん、じゃあ先に朝ごはんの準備してるね」

 

「うん」

 

 気を取り直して作った朝ごはんをハシュアーの寝床へ。

 

「持ってきたよー」

 

「あいあとー……」

 

 芋虫みたいにモゾモゾと動くばかりで起きあがろうとしない彼を見て誰が責められようか。特に左腕を庇う動きをしている。幻肢痛に悩まされたレイトとしてはその気持ちが大いに理解できた。だが、食べないことには回復もしない。

 

「食べられる?」

 

「ふぅ…………右手だけなら……動かせるよう」

 

 辛そうに体を起こすと右手をプラプラと動かした。いつも槌を振るっていたからか、レイトと比べて明らかに鍛えられている。

 

「レベル、僕のほうが上なんだけどなあ……」

 

 自分がレベル9の時に──ハシュアーはレベルをふたつ挙げていた──あんな風にモンスターからの攻撃を防げていただろうか。

 絶対に無理だ。

 腕が折れた時点で心も一緒に持っていかれていただろう。

 

 ハシュアーは鼻を鳴らした。

 

「へっ……職人舐めんなってことだよ」

 

「そういう話なのかなあ」

 

 明らかに異常な精神力だった。

 

「ドワーフってみんなそうなの?」

 

「うん! 俺たちは──うぎゃああああ!?」

 

「あ、ごめんね」

 

 興奮して腕を振り上げようとして痛みに悶絶していた。

 この場にいてはまた同じことを繰り返すかもしれないと、座り込んでいたベッドの端から立ち上がる。

 

「ゆっくりしていてね」

 

 去り際、頭だけ隙間から出して、勝手に動き回らないように釘を刺した。ただでさえ子供なことに加え、バイタリティという点では他の追随を──一人を除いて許さないハシュアーが外に出ないようにとの意を込めて。

 

「いだいよお……」

 

「…………ふふ」

 

 この様子なら大丈夫そうだと、扉を静かに閉めた。

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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