【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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66_お前何ができるん?

「早苗ちゃーん!」

 

「はーい! …………?」

 

 呼び出せば飛んでくる、それが山田早苗という少女だ。

 嬉しそうに扉を押し開けた彼女の瞳に映ったのは、しかし想像していたのとチョッピリ違う光景。

 

「何してるの?」

 

「お褒めの言葉を預かりに来た」

 

「お褒め? ……よくわかんないけど、上がってくんだよね?」

 

「うん」

 

 肩に少年二人をくくりつけたまま人の家に上がるという暴挙。早苗は短い廊下を歩く間にも何度か振り返ってその奇妙な状態を瞳に映した。

 

「……なんで肩に担いでるの?」

 

「神輿だ」

 

「みこし」

 

「凄い事を成し遂げたら、それを褒めるってプロセスが必ず世の中には必要だからな」

 

「なんか言葉がゴチャゴチャしてるね……モンスター倒したって話だよね?」

 

「俺が二人の歳の時は、とてもこんなこと出来なかったからな」

 

「え? でも明宏くん高2の時に探索者になってたよね? 今のレイトくんと同年代の時じゃない? …………あっ! そ、そういうことかあ!」

 

「そういうことだ」

 

「そっかそっかー! それは褒めてあげなくちゃねー!」

 

 肩から垂れ下がった頭を撫でようと手を伸ばし、レイトの後頭部に触れる。

 

「よく出来ました! 先生は誇らしいです!」

 

「……あの、おろしてください」

 

 流石にこんな体勢で褒められてもおふざけにしかならない。二人はやっとこさ肩から下ろされると、早苗の前で屈んだ。

 

「よしよし」

 

「ありがとうございます」

 

「んふふ〜、レイトくん頑張ってたもんね!」

 

「……はい」

 

 早苗と日向にしばかれたあの1ヶ月のことは、あまりにもインパクトが強すぎて目を瞑らずとも仔細に至るまで思い出すことができる。最後にどでかい花火も打ち上がっていたので尚更だ。

 あそこにいた人間の全員がそうだろう。

 ──一人を除いて。

 

「そろそろ雷季も折り返しか……」

 

 男は空を見てそんなことを呟くと、視線をあちこちへ忙しなく散らした。

 

「そっかー、レイトくんも立派な探索者になったんだねー」

 

「はい、早苗さんが教えてくれたおかげです」

 

「そうかな? そうだと嬉しいなっ!」

 

「…………本当に、早苗さん達のおかげなんです」

 

「そっか…………じゃあお姉ちゃんって呼んでくれてもいいよ!」

 

「ええっ!?」

 

「私はアキヒロ君とイチレンタクショー? だからね! ほぼ同じみたいな感じだから!」

 

 いきなり謎理論を展開し始めた。

 その理論でいくとアキヒロは兄ということになってしまう。

 

「それに歳も上だし! ほらほら! 呼んでみてよ!」

 

「え、ええ〜……恥ずかしいですよ、そんないきなり……」

 

 ご褒美はどこへ行ったのか、羞恥の試練がいきなり現れた。

 

「今日は豪華な夕飯にしちゃうから!」

 

「そ、それは……」

 

 早苗の作る食事は普段でさえ頬が落ちるかと思うほどの出来栄えなのに、豪華にするなんて言われたら期待も膨らむというものだ。食事とプライドが天秤にかけられ、勝利したのは──

 

「お、お姉ちゃん……ありがとう」

 

「〜〜〜〜〜!」

 

 無言の絶叫。

 赤面して項垂れたレイトを指差し、興奮極まるとでも示すようにアキヒロの腕を叩く。

 

「聞いた!? 聞いた!?」

 

「聞いたよ」

 

「お姉ちゃんって! おを付けて! ひ、ひさしぶりに呼ばれた!」

 

「落ち着いてね。ほら、ひっひっふー」

 

「ひっひっふー……ひっひっふー……んふひっ」

 

「早苗ちゃん?」

 

「ご、ごめん。ちょっと嬉しすぎて……」

 

 そりゃあ、あの妹からお姉ちゃんなどと呼ばれるのは相当なことがない限りありえないだろう。しかし、あの妹に到達する前には世間一般が想像するような絶世の妹だったに違いない。どれだけの間「お姉ちゃん」と呼ばれていなかったのか。

 

「もう6年くらい呼ばれてなかったから……感動しちゃった……」

 

「…………」

 

 アキヒロの脳内に現れたイマジナリー妹。

 

『お兄ちゃん! お金ちょーだい!』

 

 現実はコレだが。

 

『にいちゃん! カネ!』

 

『アキヒロ〜おかね〜』

 

 こうなるという訳だ。

 

「……良かったね早苗ちゃん」

 

「うん!」

 

 可愛げというものが消え失せ、自分のことをカネとしか見なくなった妹というのものが現れた時、自分がどうするかは分かっていた。お兄様の偉大さが分かるまで体に教え込むだけだ。

 

「レイト君が弟だ〜!」

 

 ルンルン気分でレイトの手を取ると、レイトを支柱がわりに回りだした。

 

「あはは! あはははは!」

 

「転ぶぞー」

 

「レイト君が弟〜! ──あっ」

 

「おっと」

 

「……ありがと」

 

 何故、人は転ぶと分かっていても回ってしまうのか。腕の中にすっぽりとおさまった早苗を立たせると、照れ照れとした心情を誤魔化しきれていないしぐさを見せる。触れたところが気になって仕方ないようだった。

 

「…………あたっ」

 

 おしゃまな口で見上げる早苗に弱くデコピンをした。

 

「やめなって言ったでしょ」

 

「うう〜……」

 

 額を抑える早苗は無視してレイトに真面目な顔を向けた。ギアチェンジはお手のものだ。

 

「うがー! ……うわー!」

 

 無視されて怒った早苗が飛びかかり、ポイポイとお手玉のように弄ばれる。

 

「三船くん、そういえば商工会の話は聞いたか?」

 

「…………ええと、なんでしたっけ」

 

 冗談みたいな光景が目の前に広がると、人の集中力というのは極限まで落ちる。商工会の話がどうとか以前に、何かを聞かれていることすらほぼ認識していなかった。

 

「低レベルのモンスターが減っているって話だよ」

 

「…………あ、それは聞いたかも」

 

「どうする?」

 

「え?」

 

「この調子が続くと無駄に時間が過ぎるだけな気がするんだよな。そもそも、なんか変だ。ドラゴンがあんな……雲の中にまでいるなんて」

 

「!」

 

「気付いてなかっただろ?」

 

「は、はい」

 

 早苗はいつの間にか腕の中に収まり、グルグルと目を回している。三半規管をやられたのか喋る気力すら奪われていた。

 

「俺も外で一度見ただけだから仕方ない。実際街中では見てないからな。だけど……異常だ」

 

 そっと彼女の口元にかかった髪をどける。

 

「異常っていうのは……」

 

「俺が知る限り、ドラゴンが空を自由に飛び回っていた時期ってのは相当前の話だ。こんな状況になるには何か理由があるはず……スカイレイピアから降りて来たのか?」

 

「スカイレイピアって……」

 

 スカイレイピア(天まで続くビル群)

 第3セクターの端で厳重に監視されているそこには多くのコモンドラゴンが住み着いている。更に、上層に行けば行くほど多様な種が見られるようになる。

 ドラゴンが多く生息しているにも関わらず竜の接頭辞を冠することがないのは、ドラゴンなどよりもよほどその存在そのものが異質だからだ。

 

 残された神話の一部。

 旧世界の遺跡。

 グリーンウィンドに持ち去られなかった奇跡。

 

 その最果てにあるのはブリンクポイント。ドラゴンがまだ住み着いていなかった時代に辿り着いた先人がいた。便宜的に探検隊と呼ばれることが多い彼らのうちのリーダーは歪みをくぐり、そして、2度と帰ってくることはなかった。

 

「ドラゴンがどこでも現れたら、人類なんて簡単に滅びちゃうんじゃ……」

 

「アキヒロさんドラゴン倒せないの? ……あ、でも失敗したんだっけ」

 

「ちょ、ハシュアー! そんなこと言っちゃダメだよ!」

 

 庇われるとむしろアキヒロの立場が惨めになるだけである。まるで本人が気にしているような流れがそこにいきなり生じてしまうからだ。

 レイトは腰に手を当てた。

 

「もう! ハシュアー!」

 

「な、なんだよ……そんな怒らなくてもいいじゃん。アキヒロさんだって気にしてないんだから」

 

「そういう問題じゃないでしょ!」

 

「……シャー!」

 

「!」

 

 二人が可愛らしく威嚇し合っている間にアキヒロは空を見上げる。流石にドラゴンが雲間に見えるなんてことはなかったが、仮に現れたらどうするのか。今、このタイミングで現れたら剣を持って勇ましく飛び出せるのか。

 

 空飛べない。

 斬撃飛ばない。

 火の玉飛ばせない。

 水の上に浮かべない。

 探索系の異能ない。

 バリアも使えない。

 しかも1人で活動してる。

 

 お前何ができるん? 

 

「なんもできねえな、ドラゴン来たら」

 

「そうなんですか?」

 

「地面に降りて来てくれたらなんとかするつもりではあるけど……飛んでるやつには俺、なんもできないんだ」

 

「あの銃は?」

 

「どうなんだろうな」

 

 単純な威力で考えた時に、この空気銃が通用するとはとても考えられないことだった。空気銃のくせに音速を遥かに超えた速度の弾丸を撃ち出せるということを考慮しても、ドラゴンを倒すには威力が不足しているとしか思えない。強靭な外殻を有するドラゴンの中で比較的柔らかい腹部分などを狙うにしても、地上にいる時であれば近接で攻撃した方がよほど信頼性が高い。

 

「投石器なんて作ったところで効かないしなあ」

 

「無理そ?」

 

「高位探索者になると空を飛ぶとか水に浮くって必須技能なんだよな……欲しいとか欲しくないじゃなくて、持ってないとそもそも地形に殺されたり一方的な嬲り殺しされるだけ」

 

「ドラゴンとか関係なく?」

 

「関係ない」

 

「え? じゃあどうすんの? ドラゴンは実際にいるんでしょ?」

 

「どんぐりロケットでも買おうかな…………」

 

「なにそれ」

 

 どんぐりロケットとは、ガス噴射で空を飛ぶモンスター、カガリバチのお尻を加工して作る一度きりの飛行装置もといアイテムである。ランドセルのように背負って飛ぶのだが、その形状がどんぐりに似ていることからこう呼ばれていた。

 意外と高く飛べるので、おふざけアイテムとして宴会芸に使われることが多い。

 

「先がペンみたいになったやつ…………そんな形のやつが市場で売ってたような……」

 

 少なくとも、真面目に活用するようなアイテムではないのは確かである。

 

「どうやって使うんですか?」

 

「背負って紐を引く」

 

「簡単なんですね。どんななのかな……」

 

「市場に見に行くか?」

 

「そうします!」

 

「高いから買えないとは思うけど」

 

「そ、そんなに? 僕たちも飛べるようにならなかったらカガミさんみたいに買わないといけないのかな……」

 

「そもそもまだ使うとは決まってない……結局、嵩張るんだよアレ」

 

 いつまでも山田家にいては目的も達せない。

 一行は中心街区へ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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