【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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68_我らと共に

 

「言ったほうがいいのかな……」

 

 蹴り上げた石がコロコロと転がっていく。

 転がり、跳ね、やがて誰かの足先で止まった。

 

「ん?」

 

「…………」

 

「お前……いつも女の後ろにいるやつ!」

 

 フードを被った謎の男が、相変わらず素顔の見えない姿でハシュアーの眼前に立っていた。

 名前も分からぬ相手。

 しかも得体の知れぬ異能らしき力を操る。

 レイジとアキヒロが共通して警戒している人間でもある。

 

『アイツらには近づくな』

 

『アレはいつかきっと……』

 

 意見も揃い、さらに全く違うタイミングであるにも関わらず示し合わせたように両者が鋭い目で睨んでいた男が目の前に。誰かに言われずとも理解していた。

 こいつから離れなければ。

 しかし、身構えた瞬間だった。

 

「っ……!」

 

 魂まで底冷えするような、圧倒的な悪意が少年の全身を包み込んだ。

 

「な、なんだよ……! こっちくんな……!」

 

「…………」

 

 フードから覗く口元は小さく動いている。

 いても立ってもいられなくて、その場から離れようとした。

 

「──うわっ!?」

 

 だが、無理だった。

 

「何だこれ……なんだよ……!?」

 

 いつのまにか、イバラの檻が作られていた。2人を丸ごと同じ空間に閉じ込めて、どこにもいけなくしている。

 

「くっ! このっ!」

 

 メイスを叩きつけるも、ミシミシと音が鳴る程度で壊れる気配は一向にない。

 

「──」

 

「っ!」

 

 背後に距離を詰めてきた男に、咄嗟にメイスを振った。

 

「お前っ……!」

 

 容易く受け止められ、それにとどまらずビクとも動かせなくなってしまった。メイスを軸に拙い蹴りや殴打を繰り出すが、それも当然のように効果がない。

 纏っている外套に当たるたび、重いカーテンを殴るような感触だけがハシュアーの身体に反作用として伝わってくるのみだ。

 

「何なんだよ! 何の用があんだよ!」

 

「──全ては、エリュシオンが為」

 

「う……あ……」

 

 差し向けた指の先。

 天が渦巻き、雷発生の予兆である青い点滅の感覚が短くなっていく。

 

「なんで……」

 

 声が震える。

 おおよそまともじゃない事態にも関わらず、頼れる仲間はいなかった

 

「完全なる世界と共に在る為」

 

 極限に達した雷雲の中心から迸った光が、ハシュアーの目を焼いた。

 

「うわああああ!」

 

 自然雷の威力は地上に出てきてから始めて知った。

 エンチャントとして武器に付与するものなどよりも遥かに強力で、家にあたれば弾け飛ぶ。それが落ちてきたのだから、ハシュアーの身体など千に分かれてしまうだろう。

 

「……?」

 

 しかし、咄嗟に構えた腕を貫通してやってくると思っていた痛みが一向に来ない。

 恐る恐ると目を開けたハシュアーの目の前には柔らかそうな丸み──状況が掴めない。助かったのか?

 

「ダメですよ」

 

 もう1人の煽動者。

 フードの女が立ちはだかり、男の腕を掴んでいた。

 

「無意味に力を使っては叱られてしまいます」

 

『どけ』

 

「もしかしたら取り上げられてしまうやも……」

 

 女は振り返った。

 優しい口元で、優しい口調で、しゃがみ込んだ拍子に見える谷間がウブな心をドギマギさせる。

 

「申し訳ございません、怖い思いをさせてしまって」

 

「…………」

 

 しかし全く安心できなかった。

 何せ、自分を男の攻撃から庇ったこの女こそ探索者と商工会を世界の敵と喧伝している危険人物なのだから。先ほどの偉いおっさんとのやりとりを見ても、ハシュアーの心に浮かぶ感情は変わらない。

 

「そんな怖い顔をなさらないでください。危害を加えるつもりはありませんから」

 

「…………じゃあ、それが本当ならこの草をどけてよ」

 

「ええ」

 

 女がアイコンタクトにより男に何かを指示すると、周囲を囲んでいたイバラはボロボロと崩れ去った。

 

「…………」

 

 ジリジリと距離を取る。あのタイミングで、出られないイバラの外からどうやってか入ってきた。少なくとも助けられたのは事実だが、全く信用できなかった。

 女は頬に手を当て、悲しげに口を開いた。

 

「はあ…………そんな露骨に怯えられると流石に悲しいですね」

 

「…………」

 

 今すぐにも走り去りたかった。暖かい布団に包まれ、レイトが作ったご飯をガツガツと貪りたかった。

 しかし、この圧力から逃げられるとは到底思えない。

 男はネバネバと広がるアメーバのような気配で、女は蛇のようにまとわりつく気配だった。

 どちらもクソで、どちらも恐ろしくて、指先まですら動かすことが躊躇われた。

 

「っ……!」

 

 息が上手くできているのか、ハシュアーには自信が無かった。

 

「ああ……ドワーフの申し子よ。そのように怯えては話せるものも話せません。もう少し落ち着いてください」

 

「!」

 

「まさか、自分がドワーフであると気付かれていないとでも? それに……ドワーフなのだからあなただって薄々勘付いていたのでしょう?」

 

「お、俺のこと……どうするつもりだ!」

 

「うふふ、その愚鈍さも子供らしくて可愛いですね。純粋で、染まっていなくて、まだ穢れのない美しさ……」

 

 褒められているはずなのに、ゾワゾワとした気持ち悪さがが背筋を駆け上っていった。

 

「歪み、腐り、閉ざされた檻の中で熟成されていく膿み。ああ……こんなにも無垢な子供ですら軈ては下らない憧れに消費されてしまうのですね……」

 

「はあ? な、何言って……」

 

「分からないのも仕方ありません。環境とはそれだけ重要な要素であり、時に残酷な結果をもたらすのは必然なのでしょう。ああ……願わくば彼にこそ祝福を……」

 

「わけわかんねえよ!」

 

「だからこそ──エリュシオンにお入りなさい」

 

「っ…………」

 

「あの少年も連れてかまいません。我らと共に世界を導くのです」

 

 得体の知れない不気味さが足元からゆっくりと体を飲み込んでいく。気がおかしくなりそうな恐怖というものを生まれて初めてハシュアーは味わっていた。

 最後まで飲み込まれてしまえばまともに動くことは叶わなくなる予感に、何をどうすることも出来ない。

 

「──さあ」

 

 伸ばされた手は、触れれば悍ましく全てを終わらせる予感がした。それなのにとてつもなく魅力的に見えて…………どうしようもなく抗いようがなかった。

 

「や、やめて……」

 

「──さあ」

 

 抗おうとすら思えない。

 

「うあ……」

 

「──さあ」

 

 顔をしっかりと掴み──

 

「さあ、栄光のあゆみを──」

 

「女ぁ!!!」

 

 被せるように。

 声が。

 雷にすら負けぬ怒りが滲み出ていた。

 

「…………あら」

 

「そいつを離せ」

 

「あらあらあらあらあら」

 

「ウチはなあ。宗教、勧誘、チラシ、マルチ全部お断りなんだよ」

 

「あなたに興味はありません。特異な力を持ち合わせようが言葉すら解さぬケモノなど、組み入れたところで何の役に立ちましょうか」

 

「ピーチクパーチク言ってやがるな、相変わらず……念仏唱えてるだけならまだしも誘拐未遂ってのは見過ごせない。なにせ俺の幼馴染も誘拐されかけたことがあってな、そういう輩は対話の余地がないって流石に温室育ち魂の俺でもわかったんだ」

 

「…………不快ですね」

 

「──」

 

 フードの男が前に出た。

 右腕を掲げると青く弾ける雷が空中に留まり、槍の形を取る。殺意に満ち満ちた行動に、アキヒロはなにもしない。

 

「滅するべし」

 

 穂先は当然、アキハを狙っている。

 

「目標を掲げる、大いに結構。人を誘うのも大いに結構。何かを為す為には力が必要だからな…………だけど、お前らからは正道の空気なんて1ミリたりとも感じ取れないんだよ」

 

「いざ」

 

「だから──」

 

 ハシュアーの目の前でフードの男が駆け出そうとするような体勢を取った、その時だった。

 

『あー! エリュシオンの人だー!』

 

「!」

 

『こんにちはー!』

 

「時間稼ぎをさせてもらった」

 

 純朴な子供の声。

 ハシュアーよりもよほど幼い子の声だ。

 馴染みもない。

 誰かと疑問に思うよりも先に、その声が近付いてくる。

 

「こんにちはー!」

 

「え、ええ……こんにちは」

 

「今日はもうお話ないんですか!?」

 

「ごめんなさいね、商工会のおじさん達に意地悪されちゃったから」

 

「そっかー……あのおじさん達は何してるんですか?」

 

「あれは…………久しぶりに会ったから挨拶をしてたの」

 

「そーなんだー」

 

 ハシュアーは、その隙に脱兎の如く駆け出した。場を包み込んでいたドロドロと澱む空気が一気に晴れた気がしたのだ。

 

「ハシュアー!」

 

 アキヒロはハシュアーを背後に隠した。

 フードの男も女の後ろへ戻り、もはや二人に興味はないとそっぽを向いている。

 

「帰るぞ」

 

「っ!」

 

 置いていかれないように渾身の力で腕にしがみついた。アキヒロも、それを止めなかった。

 

 

 ──────

 

 

「うぁぁ……」

 

 家の中に入った瞬間にハシュアーは崩れ落ちた。全く気付いていなかったが、全身が汗でびっしょりだ。

 収まらぬ震えに身体を抱きしめ、何度も押し寄せる恐怖に吐き気すら。

 

「はぁ……はぁ……うぅ……」

 

「ハシュアー!?」

 

 顔を覗かせたレイトは、心底から驚いた表情で駆け寄ってきた。

 

「何があったんですか?」

 

「襲われた」

 

「…………えっ!?」

 

「まさかハシュアーをピンポイントで狙ってくるなんてな……狙われるのは心当たりしかねえけど、強引過ぎだろ」

 

「ハシュアー……とりあえず、お風呂入ろう? そのままだと風邪ひいちゃうよ」

 

 何が何だか分からないので、取り敢えずアタリマエの提案というやつをするレイト。ややデリカシーに欠けると言えないこともないが、この場においてソレは正解の選択肢だった。

 

『う゛〜』

 

 風呂場から聞こえるくぐもったうめき声をそっと後にして、状況の把握に努める。

 

「何があったんですか?」

 

 先ほどと同じ質問。

 誰が、何のために。

 

「エリュシオンだ」

 

「──はっ!?」

 

「俺も何で狙われたのかは知らない。ただ、気配を感じて近付いてみたら──ってわけだ。後もう少しで何かやべえ事をしてたかもしれない」

 

「エリュシオンって……あの女の人ですか?」

 

 あの可憐な女性がそんなことをするなど、信じがたいことだった。

 

「そう、あの女達だ。何言ってるかよくわからん奴ら2人」

 

「…………どうしよう」

 

 彼らは普通に街中に現れる。

 商工会が集会を禁止したとはいえ、街から出ていけとまでは──少なくとも明言はしていない。仮にこれからも出くわすことがあったら──

 

「あ──ミ、ミツキさん達は大丈夫なんですか!?」

 

 ヒナタやミツキ、早苗ら彼の大事な少女達は無力な只人でしかない。山田姉妹も多少の戦闘能力は備えているが、それでも真正面から探索者に太刀打ちできるほどではない。

 

「コマちゃんとコウキさんに任せた」

 

「アリサさんは?」

 

「アリサは今日はいないから、連絡だけしておいた」

 

「は、早いですね……」

 

「こっち来ながらな」

 

 なんにせよ、レイトが心配するべきは自分たちの身であるということがわかった。

 

「僕たち……」

 

「そんな顔すんなって」

 

「…………」

 

 訳がわからなかった。

 軌道に乗ってきたはずなのに、モンスターがそもそもいないし変な奴らは現れるし。

 

「ちゃんと商工会に報告するからさ」

 

「でも……」

 

「だーいじょうぶだって! ちゃんと固まって行動すれば警戒して出てこねーから」

 

「…………」

 

「ところでシエルはどこ行ってんだ?」

 

「シ、シエルちゃん! ……は、家にいます」

 

 寝室を覗くと、ベッドでグゥタラしていた。レイトの服のほつれたところを無限に引っ張っているようだ。そんなタイミングで顔を見せたアキヒロへぶっきらぼうに言い放つ。

 

「なに」

 

「エリュシオンの奴らにハシュアーが襲われたから気をつけろよって言いにきた」

 

「!」

 

「うおっ」

 

「本当に?」

 

「本当だよ、だから三船くんと一緒に──って……おいおい」

 

「…………これって……?」

 

 2人の端末から同じく浮かび上がる文字。

 この地にいる限り決して逃れることができないモノがやってきた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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