【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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69_守護者

 

 海が黒く染まっている。

 

 魚影か。

 雲か。

 海洋汚染か。

 

 どれも違う。

 

 海域そのものを黒く変える現象とはなんだ。

 

 海流──黒潮と呼ばれるものはある。

 

 だが、やはり違った。

 

『────』

 

「きたきたきたぁ!」

 

「最近の異常事象、やっぱアンタだよねえ」

 

「早えんだよ……もう少し寝てえのに」

 

「ネブクロ! まーだそんなこと言ってんのかい!」

 

「ネブクロゆうなっつーの、だせえんだから……エインズワースでいいっつってんだろ」

 

「顔と合ってねーよ!」

 

 海が破れた。

 莫大な水量が持ち上げられ、持ち上げられ──まだ持ち上げられる。船などいたら巻き込まれて跡形もなく粉砕されるだろう。数百mもの高さまで持ち上がった海水は下に落ちる頃には風によって細分化され、途中で落ちてきた海水が瀑布として彼らの眼前に広がっていた。

 

「やりますか……」

 

 ネブクロと呼ばれた男が、身の丈ほどもある巨大な大剣に手をやる。アメジストをそのまま剣としたような見た目のそれは、男が触れた瞬間から輝きを放ち始めた。

 

「いっちょ、盛り上げとくれ!」

 

「うるせえなさっきから、殺すぞ」

 

「後でね!」

 

「ちっ……ぬんっ!」

 

 腰溜めに構えた大剣を勢いよく振り抜いた瞬間に前方の大気が圧縮され、加速音を放ちながら灼光が海水を蒸発させた。風圧か、あるいは爆熱による影響か、歪んだ大気が海水を爆散させて進み続ける。

 

 それはあくまで余波。

 

 本命は刃から滲み出るように現れた。

 派手な爆発や音など出さず、静かに空間を進み続ける。

 

「いけっ! いけっ! いけっ!」

 

 放った本人はなにやら拳を振り上げて鼓舞していた。あまりの巨大さに遠近感が狂うほどの(現れたモノ)に到達するまでの数秒間、ぬるりと空間を通り抜けていく光月。

 

「喰らえ!」

 

 そして到達した。

 まばゆい光が、余波の爆熱など霞ませるほどに辺りを照らし出す。

 

『…………』

 

 直径100m以内の海水はすべてプラズマ化し、えげつない匂いが辺りを漂った。

 しかし──それだけだ。

 夜空にぱっと咲く蛍火のように、サイズ差から鑑みるとあまりに小規模と言わざるを得ない閃光は無言で見下ろす存在に痛痒を感じさせているようには見えなかった。

 

「ダメだったねー」

 

「あががが……」

 

「もうラリってんのかよ」

 

『──ォ』

 

「!」

 

 微かに身体を動かすだけで音が生じ、それに反応した全員が散開した。人外と呼ぶに値する異形の肉体を有する彼らは、その見た目通り人外の速度で突っ込んでいく。彼ら自身の耳に聞こえるのはおそらく、風切り音のみだろう。人間の耳がその速度帯でまともに物を聞き取れる筈はないが、駆け行く間にもコミュニケーションをとっているような仕草がある。

 どこまでも、人外だった。

 そんな彼らは立ち上る柱(どこまでも忌々しい目の上のたんこぶ)を見上げ、さらにその奥へ視線を向ける。

 

 ──突然に、雷雲を切り裂いて流星が現れた。

 

 先ほどと同様、圧縮された大気が火花を散らしながら流れ落ちるソレは第一セクターからも見られる。

 

『ママー、あれなにー?』

 

『あれは……お星様よ?』

 

 しかし実のところ、ソレは流星ではない。

 寄って見ればその正体がわかる。

 

「狂え! 滅びろ! 地に堕ちろぉ!」

 

 泡を吹いている女だ。

 血走った四つの眼。

 ネジくれた指に柄を包み込まれた短槍。

 左脚は鱗に覆われ、細く刺々しい。

 金属光沢の柔らかく靡く衣服が、火花の中でも燃え散らばる事なく彼女を包み込んでいる。

 

「貴様がこれほどに短いスパンで現れるのだ! 何かあろう! …………だが、関係ない! 貴様はここで私が屠る!」

 

『グルオオオ……』

 

 視線は交錯した。

 

 低く、重く、深く、もはや低周波としてしか人間には認識できない周波による発声を聞いて、彼女はさらに口を激しく歪めた。

 

「神だと世界だと宣うな! 何を言おうとも貴様は所詮、我らが生きる場所を破壊した殺戮者だ!」

 

『すぅぅぅぅぅ──』

 

 吸い込まれた空気。音を伝播する物質が減少し、彼女を覆う火花が勢いを弱めた。

 

「来──」

 

 音が消えた。

 空気が消失した訳ではない。

 空高く、流星として降ってきた彼女に対して、海面から長い胴体をもたげたリヴァイアサン(最強)が熱球を放った結果だ。

 釘付けになる視線と意識は、他の音を捉える事を許さなかった。

 

「マジかよ! 初っ端からか!」

 

 海面を征く者達は驚きに包まれたが、こんな短いスパンで現れたのだからそういうこともあるのだとすぐに切り替えた。

 

「うおああああああ!うっーー」

 

 流星と熱球が衝突し、爆光によって空が明るく照らし出される。拮抗したように見えたが、それはあくまで一瞬の話だった。

 炎の中から何かが飛び出してきた。

 

「かはっ……!」

 

 砕けた両手足。

 内臓が露出し、即死していないのが不思議な様相で落下していく。だが──

 

「──!!」

 

 ギョロリと、瞳が動いた。

 

「まだ……だ……!」

 

 急速に修正されていく肉体。

 四つの瞳はそれぞれ淡い輝きを見せると、水晶体の中心から光条を迸らせた。

 

「なんの……つもりか……知らぬが……! 貴様が……ここで、出来ることは……大人しく──帰ることだけだぁあ!」

 

 ひとところに集まった光は波や粒子としてお互いをすり抜けるのではなく、有形の物質であるかのように収束していく。

 

「ああああああ!」

 

 人間とは思えない在り方。

 戦うために血肉を利用するケダモノ。

 見るものによっては嫌悪すら覚えるであろう、人間の規格を超えた戦い方。収束した光が大きく膨れ上がり、先ほどの熱球に対する意趣返しのように曳光した。

 

『──』

 

 数億年という歴史を丸ごと形にしたように燦然と輝く鱗。いわゆるコズミン鱗が、あまりに細かく刻まれた年輪によって周囲からやってくる光を構造的に反射させているのだ。

 そんな、芸術品としての価値すらありそうな鱗に、極光が激突した。仮にこれが一般的なドラゴンであれば、鱗や外殻など意味をなさずに肉体を穿たれていただろう。

 しかし、彼らの目の前にいるのはそんな生半可な相手ではない。

 

「ぐっ……!」

 

 焦げつき、確かに傷付いた。

 ソレが精一杯だった。

 鱗はひび割れ、次の衝撃が加われば剥がれ落ちるかもしれない。

 

 ──数枚のみの話だ。

 

 鱗の一枚の大きさは、人間が大の字になったくらいのものだ。それを割ったのだから大したものだ。2kmにも及ぶ肉体のうちの数mを破壊できたのだから。

 

「くそ……アレさえ喰らっていなければ……」

 

 彼女の肉体は再生していくが、辛そうに顔を歪めていた。未だ治りきらぬ左脚に目をやり、そのまま落下した。そんな女を放っておくばかりなのか、探索者達は。

 

「ガギヤア!」

 

 人型の骨の怪物としか思えない容貌の存在が、瞳に狂気を宿したまま彼女へ飛ぶ。相棒たる探索者を置いての行動──彼はいつだってこうなのだ。

 

「バアアアア!」

 

 骨の翼はさらなる加速をもたらし、海面に落ちる前に掬い上げた。辛そうに顔を歪める女の額に手を置くと、骨がその身を包んでいく。

 

『──!!!!!』

 

 絶音。

 音のエネルギーとは波のエネルギー。

 極大に達すればそれはすなわち、分子結合すらも大きく巻き込んで振動させた。

 

「泡立ってやがる……」

 

 波も立たぬのに白波が。

 ただの音にも関わらず、過剰なエネルギーを与えられた海からの反応だった。

 

『ルオオオオオ……』

 

 このモンスターの鳴き声はどこまでも間延びしている。低すぎるが故だ。そして見据えるのは周りに集まった一級探索者(小蠅)ども。

 

『…………』

 

 真っ先に近付いてきて身体にまとわりついた小蠅は一層鬱陶しい。

 鱗を逆立たせ、一枚一枚から細く洗練されたビームを射出した。

 

「──無駄だ!」

 

 シンプルであればあるほど異能の操作は容易だ。肉体の強化などは特に。

 

「よっ、ほっ、はあっ」

 

 両目が消失している代わりに、彼女の右肘から伸びた夜空のベールが映し出した光景を肘へと送り込んでいく。そこに目的のものがない事を愚痴った。

 

「シニスターはなにしてるんだ……」

 

 リヴァイアサンの体表は離れた場所からだと滑らかな表面に見えるが、近づいて見ると凹凸が多い。人間程度のサイズの生き物であれば足場として活用できるような突起が数多く存在していた。

 そこを八艘飛び。

 身を包む白いモヤは彼女から発される湯気、運動量の多さによって生理的な現象として汗が生じ、さらに体熱の高さによってすぐさま蒸発していく。

 

「エッチだ……」

 

 その横を垂直に走る女はそんな事を言う。飛び交うレーザーを回避しながら、汗によってテカる彼女を前に舌なめずりを一回。

 

「ババアが色気立つな!」

 

「ババアじゃないもんっ!」

 

「もんをつけるな!」

 

「心はいつでも乙女だゆ……っ!?」

 

 ふざけている2人に対して向けられたのは戦慄の塊。自らを強者と勘違いしたうつけ者に対して容赦の必要などないと、瞳も向けずに視線が殺意をラッピングしてお届け。

 

「これが……こいつの殺意……!」

 

「ふざけてる場合じゃ…………ないってことか……!」

 

 なぜ2人が壁のような肉体を登っているか。

 

「本当はもっと顔に近付いてからやりたかった」

 

「今回はなんか違うんだよね……」

 

 それぞれが全く違う動作で、全く違う異能を発動した。狙いは一つ。

 

「ぶっちぎってやる!」

 

「胴体から切り離されたら生きてられんでしょ!」

 

 身体強化の真骨頂は、ただでさえ高い出力をさらに押し上げる事。頑丈という言葉すら生ぬるい強度の鱗から筋肉まで丸ごとぶち抜こうというわけだ。

 だが、そんな気配を察することができないほど愚かな生物は頂点に君臨できない。君子は常に身の回りの危険に敏感なものだ。

 

 集中の時間に入った彼女の四方八方から、退路も先進も許さぬという密度のレーザーが迫り来る。

 

「──」

 

 しかし、柄から手を離すことはない。

 その程度は折り込み済みだった。

 

「ほいっと」

 

 外界と隔絶された空間。

 2人は球体の中で穏やかな時間を過ごしている。

 

「流石に学習してほしいなあ。そんなビーム、何度見てきたと思って──」

 

『────』

 

 瞳が彼女のことを見ていた。

 

「やばっ──あがあああああああ!?」

 

 これまでに感じたことのない圧力。

 自らの肉体と同期した強力なバリアが、押し潰されそうになっていた。あまりに強力で、彼女の肉体を魔素が侵食して意識を塗りつぶしていく。

 

「いやだ……いやだ……!」

 

 涎を垂らしながら耐えようとするが、火勢はあまりにも強い。

 

「ぶがぎぎぎぎ!! ──あっ」

 

 瞳が黒く染まった。

 

「うげぎゃひわたしはあ、あるこーるのなかでもそうやってたくましさとともに、にっ、にっ、二回の変貌を経て──」

 

 口から意味のない言語の羅列を垂れ流しながら、自らのバリアを吹き飛ばして飛び出す。当然、防御の要がいなくなれば攻撃に集中なんてのは難しい。

 微動だにせず溜めを作っていた状態を放棄し、回避・防御への専念が急務となった。

 

「はっ! やっ!」

 

 飽和攻撃と切り結ぶ。一撃一撃の重さに顔を顰め、これには叶わないと声を上げた。

 

「シニスター!」

 

「…………」

 

 呼びかけに答えるかの様に、黒い影がその場に現れた。

 

「なんとかして!」

 

「…………」

 

「あがっ……!?」

 

 相分かったと女の腹を蹴り飛ばす。無様に落下していく姿を見届けた後、翼を広げた鷲のような構えを取る。しかしその手に武器は無い。

 無手のままで何が出来るのか。

 

「……!」

 

 巨大な鉤爪が現れた。

 その数16。

 シニスターと呼ばれた探索者の指の数と同じだ。

 振り抜かれれば、甚大な被害が肉体に生じるかもしれないそれを前にした反応は──

 

『…………』

 

「!?」

 

 もはや、視線すら向けていなかった。

 その向く先は第1セクター。

 高速でゆらめく瞳は、何かを捕捉しようとする機械眼のようにも思える。あまりにもいつもと違う宿敵の様子──自分たちのことをまるで気にしていない様子に一級探索者達は不満を抱きつつも、何をするのか目が離せなかった。

 

 ──それはつまり、終わりということだった。

 

『ブォォォォォ』

 

 リヴァイアサンの喉から汽笛のような音が鳴り響き、小さな村を丸ごと飲み込めるような口がガパリと開けられた。

 

「──!」

 

 彼らがその場で出せる最大火力が瞬時に展開された。

 後のことなど考えない、なりふり構わない展開攻撃だ。それをさせてはならないと、狂気の中で人間性を保とうとしている異形達の乾坤一擲。

 凡百のモンスターであれば、ダンジョンの主クラスであってもダンジョンごと滅殺される威力。

 

 しかし──

 

『フォンッ』

 

 一筋の光が放たれた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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