【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「真面目な話だ」
「はあ」
「商工会から連絡があった」
このタイミングで、ということは一つしか考えられない。
「リヴァイアサンですか?」
「そうだ」
「復帰すんの?」
「しない」
「そうなんだ」
復帰するとか言ってたら逆に詰めるところだ。
「だけど、何もしないわけじゃねえ」
「ほう」
「……職員育成に手を貸して欲しいって言われた」
「そうか」
ありそうな話だ。
在野の人間の中では間違いなく最強なのだから、これをただ放置する選択肢はない。俺が商工会の人間だとしてもそうする。
「それと、誰か推薦できる人間はいないかって」
「へえ」
いくらでもいそうだ。
一級探索者に限らず、世界の深淵に辿り着いている彼ならば多くの伝手を持っているのは間違いない。
「間違えてお前の名前出しちゃった」
「何してんの?」
「勢いで……」
「俺、忙しいんだけど」
「知ってるよ。でも向こうはお前のこと最初から狙ってたっぽいな」
「はあ? ……まさかナナオさんか?」
「あ? 誰だよ」
「受付の女の子」
「知らん、そんな話は聞いてねえ。俺が話したのは探索部門の部長と調査室の人間と会長だ」
「田辺、でしたね」
「ああ。野郎、俺の眼にガンガン視線ぶつけてきやがった。ありゃあ欲望でどこまでもいけるタイプの人間だ」
「ん? ……つまり、商工会で仕事の一部を消化するってのは会長の案なんですか」
「そういうこった。誰かの発案とかじゃなくて、文字通りアイツが思い付いて通したんだ。とんだバケモンが生まれちまったよ」
世界を変えようとしている。
落ち着き、平穏の中でゆっくり進もうとしていた世界を再び激しい世界に戻そうとしている。
「そんなタイミングでリヴァイアサンってのは……ちと運が悪いですね」
「いんや、むしろそこはプラスに捉えてたな。反対する奴が減ったって」
そんなことまで外部の人間に漏らすのか。
──違うな。
一級探索者だからだ。ある程度心のうちを話すことで親密度を勝ち取ろうとしているのだろう。
「聞かれたぜ」
「?」
「お前がどんな人間なのかを」
「なんで」
「最速でレベル50に到達した人間に会長はご執心ってわけだ」
「なるほどね……」
「お前にもそのうち直接話が来るかもな」
「…………」
「それにしても、あのヘビ……マジでやりやがったな」
落ち着きなく貧乏ゆすりをしている。呼び方から考えても、浅からぬ因縁というやつがあるのだろう。
「くそ……俺がいればあんなことには……」
呼び出されて第1セクターに行ってきた以上は、あの惨状を見てきたのだろう。
俺も職務を片付けた後に急行した。
隕石が至近を通った後のように薙ぎ倒された建物の数々。探索者達によって掘り起こされた瓦礫の下から現れる亡骸。そのそばで啜り泣く子供達。
火の手も上がったという話だが、俺が行った時には消えていたからわからなかった。
昨年訪れた時とは比べるべくもない、陰鬱な空気が街全体を覆っていた。
どこを見ても笑顔なんてない。職員ですらが疲弊し、ダンジョン対策などとてもできる状況でもなかった。
すでに逃げ出せるものは列車に乗って避難し、残っているのはそうするわけにはいかない人間達だ。
治安の悪化が急速に進むだろうということを肌で感じることができた。
そんな状況で、仕事の一部を──とか訳のわからないことを宣うのでキレてしまったということです。
「だから受けたんですね」
「そうだ」
「良いと思います」
純粋な社会貢献だ。
尊敬こそすれ、その選択を侮る理由などどこにもない。
しかし、当の本人は難しい顔のままで俺からのお褒めの言葉に顔をピクリともさせない。
「わからねえんだ」
「なにが?」
「何でアイツはセクターを壊したんだ?」
「?」
「……そうか…………そうだったな。お前はまだ理解してないんだったな」
「何の話かさっぱりですけど」
「つい勘違いしそうになるんだよ、お前は何でも話が通じるってな」
「…………なんの話だか全く掴めないんですけれども、説明はしてもらえるんですかね」
「アイツは……リヴァイアサンは、俺たちに対してこう名乗るんだ。『守護者』ってな」
「…………つまり、なんですか。モンスターがコウキさん達と意思疎通が可能ってことですか?」
「そうだ」
「すげえや」
「……驚いてるようには見えねえな」
「これでも驚愕への耐性はかなりあるんですよ」
「異能持ってないくせにな」
はい、お前に孫の顔は見せませーん。
一生ぐぬぬしててくださーい。
「それは反則だろ!」
「反則かどうかは俺が決める」
「…………できたの?」
「さあ」
わからない。
妊娠検査薬なんてないから。
だけど、やる事をやっていればできるのが子供だ。
「三人も孕ませたら一気に大変になるんじゃねえか? ──って話は…………いいんだよ」
「守護者ってのは、つまるところ何かを守ってるって話ですけど──何を守ってるんですかね」
順当に考えると、ダンジョンを守っているということになる。リヴァイアサンのねぐらであると言われている
故に、想像世界なのだ。
そして、そこの守護者というのであればそれは納得しかない。
知能があるのであれば、何か宝を守っている可能性もある。生き物である以上は、自らの子供を守っているという説も不自然ではない。
「さあな、聞くと決まって返ってくるんだよ」
「……」
「それ以外は大して教えてくんねえけどな……お前、何かわかんねえか?」
「何かって言われても……材料が少なすぎますね。その単語だけで推測するのはむしろ危ないと思います。当てずっぽうに近い感じになりますから」
そもそも、俺が何かを推測して、それが仮に当たっていたところで進展があるとも思えない。当たるとも思えない。
「流石に無理か……」
「分かったところで、どうするんです?」
「パーティーメンバーに教えてやるんだよ。アイツらはまだリヴァイアサンを倒そうと考えてるからな」
「流石に言葉遊びで倒せるような相手じゃないと思いますけど」
「少しでも情報が増えるならそれで良いんだよ」
どうやら、元とはいえパーティーメンバーとは仲が良好のようだ。喧嘩別れではないという事は聞いていたが、しっかり連絡もとっているらしい。
「本部に呼ばれてくとたまにいるしな」
「なるほど」
「…………あのヘビが街を壊したのにはきっとワケがあるはずなんだ」
モンスターが街を破壊するのに理由を求めるというのはナンセンス──という意見そのものがナンセンスだろう。何せ彼は元一級探索者。レベルだけ考えれば今すぐにでも第一線に戻ることができるだろう。
積み上げてきた探索者としての知識が、直感的に彼に何かを伝えているのだ。
しかし、その場に居合わせなかった彼にそれ以上洞察を深める事は難しいだろう。
「……お前はあんな光景をこれまでに見たことあるか?」
「ありますよ」
「…………夢、か」
呟くと同時、俯いていた頭をゆっくりと天井に向けていく。
「モンスターがいなくても、俺の生きた世界には多くの災害がありました。もちろん頻繁に起きる訳じゃないけど、それでも何度かは」
「……だから慣れてるってか?」
「冷たい言い方をすればそうなりますね」
「そうかよ」
吐き捨てるような言葉だった。
しかし、よく分からない。探索者というのは死と隣り合わせで、名前も知らないような街の人間なんかよりもよほど距離の近い仲間がその憂き目に遭うことがある。何故そこまで揺れているのか。
「……街が壊されるなんて、見たこともねえよ」
「過去には何度もあったはずです」
「だからなんだよ!」
「?」
「クソっ……」
公衆の面前であればイカれたのか、と思われるような行動。頭をガンガンと殴り、顔を顰める。そんな仕草を見てピンときた。
「あんなのありかよ……」
情報の伝達速度と正確さ、情報量。
確かにテレビやらはあるがそれもあくまで限定的だ。snsなどですぐに動画や画像が拡散されたあの世界と違って、こちらの人間は自分の視界外で起きたことに対する解像度が低い。
一定量のサンプルに触れることで全く経験したことのないことでも想像による補完をすることができるが、この世界はサンプルに関しても薄い。きっとコウキさんは、実際に街が破壊されたらどうなるかというところに考えが深くは及んでいなかったのだ。
仕方ない。
何せ平和な時代なのだから。
基本的に復興事業というのは最初の人間達が最も苦労して、後に現れた奴らはそれをチューチューするというのが鉄則だ。俺もそう。
平和っつっても一歩間違えたらすぐ滅びるとかいうアホみたいな世界ではあるけど、少なくとも過去に比べればという話。
俺の感覚では理解できない話だが──単純な話として、そんなことはあり得ないだろうということに対して、人間はどこまでも無知でしかないということだ。
「あんなのねえよ……」
酷い状態なのは間違いなかった。
「子供が……子供がたくさん死んでたんだ」
「…………」
「お前、子供好きだよな? なんでそんなケロッとしてられるんだ? 子供もいたんだよな?孫だって……もっとお前なら……てっきり……」
「俺は……」
答えを返そうとして口を開けた。
だけど何も出てこなかった。
返すべき言葉が、彼を心から納得させられるだけの材料が俺の中には無かった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない