【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
『────』
『──!』
「仲良いなあ」
何やら難しい話をしている
──想い人の彼女の母親がにこやかに笑んでいた。
「あ、あの……?」
笑顔とは本来威嚇を意味するとは、誰に聞いた話だったか。そんな事を思い出しながらこめかみを伝う冷や汗を無視する。
「ごめんね、2人の時間を邪魔しちゃって」
「トンデモナイデス」
「本当の話よ」
「…………」
「せっかく2人でいたのに、アキヒロは先約があるからってこっちに来たんでしょ? ……それで、あなたは無理やりついてきた感じかしらね」
「!?」
「当たりかしら?」
「は、はい……」
優しい笑顔で、穏やかな声音で、口元を緩やかにカーブさせて自分に語りかける女性──四門美那を見て、アリサは何故か無性に恥ずかしくなった。身から溢れる光沢とでも言うべきか、何か神々しいオーラが彼女を儚く照らし出しているように感じた。真正面から見ると煌めく宝石のような洗練された美しさが視界を直接刺激するので、同じ女として恥ずかしくなってくる。
「でも、あの人はアキヒロの事を本当に友人として頼っているのよ。だから許してあげて欲しいの」
「お、怒ったりなんかしてません!」
「そう? ……ありがとう」
「…………!」
夫の代わりに謝るとは、なんとできた女性かと戦慄した。自分に果たしてこれができるか、とつむじを見せるミナに対して爪を噛む。
「あ、あの……今日はミツキさんは?」
「ミツキはアキヒロの家に掃除しに行ったわよ」
「そうなんだ、ですね」
「もうアレは趣味ね。昔から一緒だったから、何かにつけて理由を作って家に行くのよ」
「2人が出会ったのって確か小学生の時ですよね? その頃からそうなんですか?」
アリサは2人の馴れ初めというものを詳しく聞いたことがなかった。
「うーん、2人が小学生の時は…………知ってから改めて考えると色々と納得が……アレもそれもって感じだ……」
「?」
「あ、ううん。ミツキは引っ込み思案じゃない? だから最初の頃はちょっといじめられてたのよ」
「それは聞いたことがあるような……髪の色の話でしたっけ?」
「そう、アキヒロだけが普通に接してくれたのよ。綺麗な髪だって褒めてくれたって……あの時のミツキの顔、今でも思い出せるわ」
「…………」
イジメられたという経験は無い。だけど、そういうコトを目にしたことがないわけでも無い。その対象がミツキだったというのは、彼女が定義上恋敵であるとしても腹の奥に言いようのない気持ち悪さが渦を生じさせる──義憤が湧いてくる。
黙っているとミナは話を続けた。
「家族以外の誰かから恋されるよりも先に、あの子は愛される事を知った。だから歪んじゃったのね……本当にしょうがない男よ」
「恋よりも先の愛……」
言っていることは分からなくて、だけど少しだけわかるような気がした。
「貴方はきっと教えてもらったのね? アキヒロのコトを」
「…………」
こくりと一つ、頷いた。
そう尋ねてくるということは彼女もまた知っているのだ。隠す意味も無い。
「──最近やっと教えてもらったって……本当に用心深い男ね」
ため息を一つ。
「好きな女の子にくらいもっと早く教えてくれたって良いのにね?」
「そうですよね!?」
それはその通り過ぎる。
その程度のことで自分たちが見限るとでも思っていたのかと何度も言った。今だって思っている。
「でも、その気持ちも少しだけわかる気がするの」
「どうしてですか?」
「愛が深いのよ、あの男は」
「はい」
「夢の中でのお嫁さんに操を立てて、本当は死ぬまで1人でいるつもりだった……ってのは聞いた?」
「そこまでは…………そうだったんだ」
「ありゃ、ちょっと悪いことしちゃったかしら」
視線を男2人に戻すと、アキヒロがモヒカンの前で顔を険しくしている。モヒカンも頭を抱えて苦しげに何かを吐露していた。
ミナは唐突に話題を変え、夫の話を。
「あの人はレベルが高まるにつれて人間性が少しずつ乖離していったの。知ってる? 高位探索者は人格が分離して、時折意識が無くなるのよ」
「初めて知りました」
「夜も別人みたいで──これは真面目な話ね? 昼間も時折どこか遠くを見ているみたいになって、娘のミツキの状態すらマトモに認識できる様子じゃなくなったの」
「それは……」
アリサの目から見ると普通に──色々と言いたいことはあるが、それでも普通に見える。今は大丈夫なのだろうか。
「子供だと思っていて、その子が平然と接してくれたからなのよね……気は持ちようってやつかしら」
「?」
「なんでもないって笑ってくれたから、あの人は今もああして人間として振る舞えている。でも、他の一級探索者はもうマトモな人間としては生きられない奴らばかりだって言ってたわ」
言いたいことを言っている、という感じだ。夫に関することだからだろうか。アリサが理解できるような話の組み立て方ではなかった。
「アキヒロにとって、普通の人間らしい悩みなんてのはとっくに通り過ぎてるんでしょうね」
「そうですか? よく『女の子わかんないよ〜』って言ってますよ」
「自分で訳わからない状況にしてるだけじゃない」
「ふふっ、そうかも」
「でも……だから危ういのよね」
「…………」
「きっとアキヒロも自分で分かってるからこそ貴方たちを選んだのよ」
その通りだと思った。
あの時話したこと。
小難しい話で理解が及ばないところはあったけど、彼は自ら白状した。
「私たちが自分の人生を歩むことがヒロさんの目標に繋がるって言ってました」
「それ!」
「え?」
「本質的にアキヒロは他者を必要としてない! 誰にでも優しいのがその証拠!」
「……おお!?」
なんだかわからないけど、確かに彼女のいう通りだ! きっと!
「頭の中は焼き肉だけで、人の縁を使ってそこに到達することを考えてる卑怯者! 人の成果に横乗りしようとしてる怠け者!」
「おお!!」
「そのくせ真面目だから、ギャップで女の子を落としてる!」
「許せません!」
「ほっといたら増やすわよ!」
「もうダメです! 許しません、絶対に!」
「繋ぎ止めるのよ! 三人で!」
「うーん……」
「あれっ」
「私たちって根本的に相性が悪くて……ミツキさんだけならまだギリギリいけるんですけど、アイt──ヒナタさんも一緒ってなるとメチャクチャというか…………ぶっちゃけると無理です」
「やっぱりそうよね……女の子三人だもんね……」
「殴り合いになっちゃうし」
「そんなに!?」
アリサはよく自覚していた。
自分とヒナタが似たもの同士だということに。
日常に嫌気が差してか、はたまた別の原因でか──少なくとも自分では覚えていないが、グレたのは些細なことからだった気がした。
「ほら、私とヒナタさんって元々不良なので」
「そ、そういえばそうだったわね……」
「私もヒナタさんもヒロさんに1発は殴られてるのでそこら辺も同じなんですよね」
「やっぱりゴミね」
ミナの目は真冬の吹雪もかくやという冷たさを持っていた。
「でもほら、そのおかげで出会えたので感謝してるというか……えへへ」
鼻柱をさする。
あの時の灼熱から全てが始まった。
痛みと血、熱が人生を変えてくれた。暴力そのものは良いことではないとしても、強烈な思い出だった。
「や、やっぱり変なやつに寄ってくるのは変なのばっかりなのね……」
「どんな過去があっても──結婚していたとしても、今は私のヒロさんですから。それにどんな未来を目指していても、最後までついて行く自信があります!」
「…………若いって……勢いってこうだったわね」
「それにほら、これ!」
「──噂に聞いてた指輪、ミツキはそれ聞いてだいぶ悔しがってたわよ」
「あの時はそういうのじゃなかったらしいんですけどね」
気恥ずかしくて尻尾がゆらめく。
いつまで経っても自由に操れない不便さ──しかしそれもまた自分の体だった。
「そういうのじゃないクセに指輪を渡すのがもうおかしいというか……人生二周目のくせに何を考えてたのかしらね」
「これのおかげで色々と吹っ切れたので……むしろ良かったのかもしれない、です」
「好きじゃない男から指輪なんかもらっても寒いだけだし、逆に好きな人から女の子がもらったら舞い上がるのなんて当然なんだから選択肢としてあり得ないのに……これって普通の思考よね?」
あまりにイカれすぎていて、ミナも不安げな顔でアリサに質問をする始末だった。誰がどう考えてもおかしいことを『人生一周してますからぁ!』とか言った男がやっている──本当に納得がいかずに睨みつける。
当の本人はやはり難しげな顔でコウキを見ている。先ほどからあまり進展はないようだ。
「第1セクターに行って帰ってきてから難しい顔してるから呼んだんだけど……難しそうね」
「ヒロさんも行ったって聞きました」
「……そろそろ退学になったりしない?」
「さあ……ヒロさんは大丈夫そうな顔してますけど」
「アキヒロ、嘘つくの得意だから信じちゃダメよ」
「でも私に嘘ついたことないですよ?」
「……はあ」
「な、なんですか」
「なんでも…………ところで」
「はい」
「結婚はいつするの?」
「へえっ!? あ、そ、それは……えと……うあ……」
結婚という言葉を聞いた途端、ゾワリという感覚が尻尾の先から頭の先まだを撫でていった。思考が乱れて、言葉がまとまらなくて、どうしようもなく視線が惹きつけられる。
『──?』
『──』
『────』
モヒカンの肩を叩いてなにやら励ましている様子の彼の顔に眼がピタリとハマってしまった。左に行けば視線もそっちへ。右に行けばそちらへ。
眼だけが糸で引っ張られているように追従して、自分の意思で止めることはできなかった。居ても立っても居られなくなって──
「──ん? ──ちゃん? アリサちゃん?」
「ひゃぃっ!」
「聞いてる?」
「あ、いや、あの」
「焦らせる気はないけど……探索者なんだから、早く考えないとダメよ? あと真面目に、放っといたらどんどん増える気が……貴方たちが枷外しちゃったわけだし」
「──」
気分の温度差がすごい。
これ以上増えるのは本当にごめんなので、そういう意味では彼女の言に素直に従うのが良いのだろう。
しかし、そうじゃない。
──アキヒロから言い出して欲しい。
そう思うのは1人の乙女として何ら変なことじゃないはずだ。ワガママにすら入らない、当然の権利。
「気持ちはわかるけど、アキヒロから言い出すのかしら…………甲斐性が……甲斐性はあるけど意気地無しだから」
また視線が吸い寄せられる。
あの日のように、また指輪がもらいたい。それを指に嵌めてもらいたい。
今度はちゃんと、そういう意味として。
「──でも、貴方1人だけじゃないわよ?」
「え?」
「ミツキとヒナタちゃんも同じだから、貴方だけを贔屓ってわけにはいかないの」
極めて公平で、公正な話だった。
「それにミツキはもちろん娘だけど、アキヒロも息子みたいなものだから……ちゃんと納得して進めて欲しいのよ」
「息子……お爺さんなのに?」
「アキヒロがそう振る舞わない以上は、そういう事じゃないの」
「…………ですね」
「でしょ? あくまでそういう知識があるってだけで、全てがおじいさんってわけじゃないから」
感覚的な話で、それを言語化するのは難しかった。だけど彼のあり方を思うと確かに、周りに──同年代に多少は馴染もうとしているような気もしないことない。少なくとも振る舞いから老人であると推測するのは難しかった。
変人なだけだ。
「ともかく、話してみて?」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない