【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「っ……!」
時折、ほんの少しだけ荒くなった息遣いが空気越しに感じられた。
どちらかではない。
どちら側とも肌熱がさまざまに変化していく。気温は冬に比べて多少マシになっているが、雪が降らないだけで暖かいわけではない。それなのにジットリと汗ばみ、それが服を貫通して俺の肌にまで届くのはやはり、この光景のせいだろう。
「あ……あの子…………え?」
「……」
アリサが思わずといった様子で伸ばした手を抑え込んだ。同じく尻尾も。
そんな彼女の視線の先にいるのは1人の子供。
「アリサ」
「な、なんで?」
「ダメだ」
「……あっ!」
何かを言いたそうに動かした口を望むままに開くよりも先に、奥の方で新たに建物が崩れた。彼女の言いたかったことはおそらく霧散し、その瞳の奥に映るものがより破滅的な状況へ変じていく。
「こんなの……人の住む場所じゃない」
リヴァイアサンの一撃は海岸から駅前までを一直線に破壊していた。極めて視界の通りが良くなったおかげで──というのはあまりにも皮肉めいているか。とにかく、駅から出てまっすぐに前を見れば、商工会の本部がランドマークとしてかつてよりも強く感じられる。
以前、三船君を連れてきた時にあった店も、広場も、噴水も。そこにあったものは跡形もない。
もちろん、柔らかい皮に包まれた肉袋も。
「…………」
ミツキは無言だが、ギュウウと音が鳴りそうなほどに強く俺の腕を握っている。この光景を見て人が受ける印象というのはそれぞれ違うだろう。
悲劇、痕跡、怪物、残骸、無惨、悔恨。
プラスの感情をこれに対して抱くというのは、おおよそまともな感性ではない。そしてミツキも、アリサも、2人ともがまともな感性を持っているはずだ。
「……行くぞ」
「う……」
足踏みをする2人を引っ張って歩く。
『うう……』
『何でこんなことに……』
呻き声があちこちからーーどこから、と思う必要がないくらいに環境音として機能する中で進む道、いまだに瓦礫は多い。
俺は災害直後にもやってきたが、その時から状況は全く進んでいなかった。これが湾岸にもっと近づけばあるいは変わるのかもしれない。
どこから片付けるか。
誰が片付けるか。
さまざまな問題が折り重なって放置されているのだろう。
「あ──」
そして、問題の一端を目にした。
『お母さん! お母さん! お母さん!』
『──待ってろ! 今出してやるからな!』
そんな中で最も闊達に動いているのは、当然と言えば当然で、意外と言えば意外な連中──探索者だった。有り余る体力と腕力、時には異能をすら駆使して倒壊した家屋をこじ開ける。そうして中に閉じ込められた人間を救出する。
しかし既に日にちが経っているせいで、事切れている者も少なくない。
最も探索者の数が多いこのセクターですら手が追い付いていなかった。
だからある意味で当たり前のことも起きている。
『お願いします……お願いします……』
『……だれか』
「…………!」
アリサが先ほど手を伸ばしたのと同じように、物乞いをしている子供がいた。子供だけではなく大人もどんよりと沈んだ表情で、譫言のように乞い願うばかり。
視界に収めるのが辛いと、アリサは顔を逸らした。対してミツキは哀しそうにしながらも真っ直ぐに見つめている。
「こっちだ」
そのどれもを無視して、先へ進んだ。
──────
進むにつれて、状況は変わっていった。
良いか悪いかは分からないが。
先ほどまでは瓦礫の上を歩いているというのが何の誇張もない表現として正解だった、それが、少しは片付けらて所々に地面が見えている。
『…………』
そこにぼんやりと佇む人々。
無気力に、雷の音にすら無頓着に居るだけ。
ミツキとアリサは時折顔を上げ、俺のことを見る。しかしソレ以上はない。
「流石に直ってないか」
半壊した本部にまでやってきた。布が張られて上層が見えないようにはなっているが、遠目にも何となく分かっていた通り、状態はそのままだ。
『──こっちだ! いくぞ!』
探索者…………いや、違う。
少し雰囲気の違う三人組だ。
商工会のバッジを身につけている。
だけど、その格好は探索者の装いそのもの。
『待て!』
その三人組を追いかけて1人の女が出てきた。
レベルがそこそこありそうな動きで瓦礫を乗り越えて、すぐに3人の前へ立ち塞がる。しかし、三人組の中で先頭にいた少年は口を開いた。
『こんな時に動けないなら商工会にいる意味ねえんだよ!』
少年は青を基調としたシンプルな胸当てや小手を身につけている。見てて涼しくなるような色彩だ。
『偉そうなこと言う前にレベル上げろ!』
『俺たちが探索者かどうかの話なんかしてない! 動くべき時に動けないで、何のために俺たちが商工会に入ったと思ってんだ!』
『お前らに何ができるんだ!』
『知らねえよ! そんな考えて動けねえよ! だからとにかく動くんだろ!』
『っ……このバカが!』
『殴るなら殴れ! そしたら俺はいくぜ!』
『──!』
半壊した本部の前を曲がり、また進んだ。
破壊の幅は数十mにも及んでいる。
少しの間は瓦礫を踏み越え続け、やがて落ち着いた場所に辿りついた。
「…………」
「…………」
そんな場所だからかミツキとアリサは立ち止まって、お互いの手を握り合っている。ウマの合わないタイミングの多い2人だが、今回に関してはその思いを共有しているようだった。
かつての世界に比べると災害らしい災害というのが少ないこの世界。ニュース以外で情報の拡散が起こるのは極めて遅いのに加え、その正確性や情報量も微々たるものというコトがある。
コウキさんと同じで、2人もショックを受けたのだろう──勿論全てはオレの想像ありきだが。
そしてココは建物が一部崩れたり窓という窓のガラスが割れていたりと罹災はしているものの『比較的』落ち着いている。先ほどのように物乞いが──ということはゼロではないもののほぼ見られなかった。
しかし、倒壊の具合とは別の理由で雰囲気が黒く濁っているのがこの付近だった。
『……』
「み、みられて、る……?」
「ミツキさん、下向かないで堂々としてください」
「……こ、こう?」
堂々というよりも、ただ胸を突き出しているだけの格好。アリサの意図通りにはいかなかったようだ。そもそもミツキの辞書に堂々などという文字は載っていない。
そして、そんなしおらしい態度と女2人(男はどうでもいい)を見ればイキリ立つ奴らもいる。なにせ今この時は負の感情が溜まりやすい環境だ。
よそ者というだけでよくない目で見られるのも理解できた。
それはそれとして、ということでもある。
「ヒロさん……どうするんですか?」
「ちょっと離れててな」
瓦礫にやると破片が周囲に飛び散って危険なので、しっかりと地面を踏み締めた。
──────
俺たち探索者は人間を遥かに超えた能力を持っている。賢いとか凄いとかそういうフワッとしたものではなく、身体能力がまず比較にならない。レベル30手前の時点で、俺の認識が間違っていなければ重機くらいの出力を出すことが可能だった。そして当然のように、肉体の強度も出力に耐えうるものになる。
肝となるのが、そのどちらも上がってしまうことだ。
最大出力で常に生きていたら、カトラリーも服も家も──そして人も、何から何まで壊してしまうのは自明だ。軽く走ろうと思っただけで服と靴と地面が弾け飛び、器を掴めば粉々に砕け散る。
しかしそうはならない。
俺たちは出力を調整することができる。やろうと思わなければ全力は出ない。
だから、普段ミツキたちと触れ合う時はかがみあきひろくんにじゅっさいだし、モンスターと戦う時は加賀美明宏20歳だ。
故に、暗殺は普通に有効となる。
「よお、色男」
今、こうして迫ってきている不埒者どもと相対するに相応しいのは加賀美明弘20歳なので、出力を引き上げた。
「有り金全部と──」
「うらああっ!!」
「うわああっ!」
肉体のレベルを引き上げると、通常の地面などは豆腐に等しくなる。殴ったら、土であれば腕がズッポリ埋まる。石であれば粉砕して撒き散らす。
ソレを何度も繰り返してから、一人一人の目を見た。
戦慄し、明らかな怯えがその奥には見てとれた。
何ならミツキとアリサにも。
……いいもん!
「俺たちはレベル50だ! 体の一部を無くす覚悟があるやつだけ来い!」
「ひっ……ば、ばけものども……!」
蜘蛛の子を散らすように。
間近にまで迫っていたボス格らしきやつに至っては漏らしながら逃げていった。ああいう三下も、らしいといえばらしいのかもしれない。察知能力は鈍いようだが、危機回避能力はちゃんと持っているのだからちゃんとチンピラをやっているのだろう。
「うわあ……地面砕けてる……」
「ミンチより酷い……」
2人して地面にしゃがみ込み、俺が殴った痕を見てヒソヒソと陰口を叩いているようだ。最も平和的な方法だったんですけどね!
それともなんだい? 本当にミンチになっても良かったってのか?
「そりゃあ助かりましたけど……やっぱレベチですね」
「レベチ……なんだ? レベチ……ああ、レベルね」
いきなり言われると、既知の単語のはずなのに全く頭に入ってこなかった。
「おじいちゃんしっかりして!」
「おじいちゃん言うな」
おじいちゃん
「ここら辺は……まだマシですね」
「うん」
マシ、と言いながらその顔を覆う曇天は晴れない。
今こうして移動している間にも、災害の被害者達は苦しんでいる。そのことに思いを馳せているのだろう。
「……あとで説明してくれるんだよね?」
「納得はしてもらえないと思うけどな」
「…………」
パワーを見せたからか、ソレ以降はトラブルもなく進むことができた。もちろん不穏な奴らはチラホラと見え隠れしているけど俺たちに関わらないなら何でもいい。
そもそも……いったん荒れたからって出過ぎだろ。膿が。
もうちょっと自浄作用をちゃんと働かせてほしい……
「見られてますね」
アリサは気付いていた。
さすが鋭敏な耳を持っているだけはある。
力を示すと注目もとい監視対象になるのは何処の世も同じようだ。とはいえ今回やったのは舗装をぶっ壊すだけなので、そこまで深刻でも無い。レベル20くらいになればみんなできるからな。
レベル50だぞ! って言ったのが影響して──それじゃん。
くそっ! やっぱりテンションで動くとこうなっちゃうんだ!
「ほえ?」
ミツキは先ほどの件とは打って変わって、図太さを見せていた。
「これくらいなら普通じゃない? お父さんといる時こんなもんじゃないよ?」
「……」
そういわれてしまっては俺も何も返すことができない。しかし、それはコウキさんありきの平和だということをわかってほしい。お前が1人で歩いたらどうなるかなんて、誘拐されかけて分かっただろ?
「もちろん怖いけど、そんなじゃないよ」
「感覚が麻痺してるだけですね」
そもそもコイツ、本当に見られてるって分かってんのか?
「アキが何とかしてくれるんでしょ?」
「まあ……」
流石にこの状況で現地解散! 2人は自由にしてください! なんて言うわけない。そばから離れません。
そこの信頼には応えますよ。
そこのね。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない