【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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78_現地の声がこちらです

 

「ふーっ!」

 

 ツヤツヤとテカるアリサの額。

 一方で俺はナニカがすり減ったような気分だ。

 別に変なことはないんですけどね、ええ。

 

「アキいる〜? ……アリサちゃん早っ!」

 

「ふふん」

 

「…………んー?」

 

「なんですかあ?」

 

「……」

 

 そんな見られても知りません。

 俺は荷物整理をしています。

 

「…………」

 

 そ、そんな至近距離で見るもんでねえ! 

 

「あー忙し忙し……荷物整理忙し……」

 

「むぅぅ……!」

 

「痛い痛い痛い」

 

 不条理な攻撃に必死に耐えながら荷物整理を終えると、2人はまじめくさった顔でベッドに座り込んでいた。一瞬前まであんなふざけた態度だったのに……

 

「この切り替えの速さはヒロさんから学びました」

 

「どうしようもないことは一旦脇に置いておくんだって、ね?」

 

 それで、示し合わせたのではないにも関わらず2人が部屋に集まった理由は──

 

「それは話とは関係ないです」

 

「うん、普通に」

 

 関係ないなら2人ともせめて入る時はノックとか……

 

「?」

 

「?」

 

 そんな概念は無いらしい。

 

「たまたま集まったからさ。このタイミングなのかなってだけだよ」

 

 なんのタイミングかといえば──

 

「ねえアキ、さっきのこと」

 

 さっき。

 

「なんで助けちゃダメなの?」

 

 至って真剣な顔つきでミツキはそう口に出し、アリサも頷いた。彼女らにとってはあの機械などよりもよほど重要で逼迫した問題なのだ。

 ──半ば、わかってはいた。

 

「少なくとも、俺の優しさとかそういうこじゃないとだけ言っておく」

 

「……ヒロさん、あそこには子供がいました。子供がいて、苦しんでいて、どうにかしてあげたいと思ったんです。ヒロさんが私を助けてくれたから、私も…………なのに、なんでダメなんですか?」

 

「アリサ……キミが最初に手を伸ばした子は物乞いだった」

 

「そうです、だから──」

 

「何ができるんだ?」

 

「なにがって……ご飯をあげたり…………その……」

 

 ご飯。

 それを言った後は口籠る。

 自信なさげに俯いて、最初の勢いと瞳の輝きはすぐに失われてしまっていた。その代わり、彼女の言いたいことを俺が引き継いだ。

 

「ご飯──確かに食事を取ることは大事だ。食べられなきゃ明日も明後日もないからな」

 

「は、はい! そうです!」

 

「ところで今日持っている食料は?」

 

「え?」

 

「あの子に渡せる食料は?」

 

「………………です」

 

「ん?」

 

「……なにもないです」

 

「なら、あの子に食べさせるにはどこかに買いに行く必要があるな?」

 

「……はい」

 

「ここは営業している宿屋だから、多分食料もあるのかな? だけどこういう非常事態では──そうだな、実際に行ってみようか」

 

「え? どこへ?」

 

 宿の主人に挨拶だけして向かった先。

 2人を連れてきたのは、騒がしい場所だ。

 

『おおい! どけよ!』

 

『道開けろ!』

 

『俺が先だ!』

 

『店開けてくれ!』

 

「な、なにこれ……」

 

「人がいっぱい……」

 

 俺たちは少し離れた場所から見ているから巻き込まれていないけど、近付けば人混みから抜け出すことは難しいだろう。観光客が全く来なくなったと宿の主人が嘆いていたのに、随分と賑やかな場所だった。

 それもそのはず。

 何せ──

 

『食料、もう無いってよ』

 

『はああ……次だ! 次行くぞ!』

 

「…………うわっ!」

 

 民衆は、散り散りに走っていく。ここは通りの途中でニ方向しかないので、当然そのどちらかへ向かう選択肢となり半分ほどがあちらへ、もう半分がこちらへ。

 その波に引っ掛けられそうになったミツキを背中に隠した。満員電車のような密度と勢いで過ぎ去っていく人波を耐え忍ぶと、アリサがこぼした。

 

「お店……」

 

 覗くと、すっからかん。

 店主は番台に肘を付いて憮然としていた。

 

「どうも」

 

「遅かったね。残念だけどもう何もないよ、見ての通り」

 

「何かを買いに来たわけじゃないんです」

 

「?」

 

「これを」

 

 リュックから至玉の一品を取り出した。

 

「少し聞きたいことがありまして」

 

「…………わかってるじゃないか」

 

 誰も来ない店先。ほのかにアルコールの匂いが外にまで漂い始めた頃、ふわりふわりと言葉をぶつけた。

 

「やはり、リヴァイアサンが来る前と街の様子はだいぶ違いますか?」

 

「違うも同じもあったもんじゃないよ……ここが第1セクターだなんて、数週間前の私に話しても信じないだろうね。みーんな、目が血走ってからに」

 

「さっきの感じだと在庫もはけ切った感じですか?」

 

「まあね…………アンタは本当に買う気がなさそうだから言うけど、自分ちの食い分以外はなんもないよ」

 

「そうでしょうね」

 

「だけど余裕があるねアンタは。目も変じゃない」

 

「俺たちは知り合いに呼ばれて別のセクターから来ただけなんですよ。用事が終わったらすぐに帰ります」

 

「ああ、なるほど……私は店があるせいでどこかに行きたくても行けないからね。こんな時は羨ましくなるよ」

 

「輸送は死んでますか?」

 

「死んでなんかないさ。アンタだって列車に乗ってきたんだろう? 来てるはずだね、いつも通りに」

 

「だけど在庫は無い」

 

「……アンタ、結構知ってるんだね」

 

「皆、買い貯めてるんですね」

 

「はぁ……そうだよ。そんなに貯めても結局腐っちまうだけなのに……誰かから聞いた話だってみんなが言うんだよ。誰がこんなことを言い出したんだか……しかも、噂では直接運び屋から買うバカがいるんだと。そのせいで届く商品は半分以下なんだよ」

 

「──あ、あの!」

 

 そこに響いたのは、上擦ったような声。

 店主と話していたのは俺だが、この場にいるのは俺と店主だけじゃない。当然2人も同じように座っていた。

 

「なんだい? お嬢ちゃん」

 

「……っ!」

 

 アリサは意を決したように口を開いた。

 

「そのっ! …………子供達が苦しんでるのに、誰も助けてあげないんですか?」

 

「…………」

 

「今の話……食べ物はちゃんと届いてるんですよね? 子供がいっぱい、倒れてて……みんな、何もしないんですか? いっぱい食べ物もあるのに……誰も…………?」

 

「…………はぁ」

 

「っ……」

 

「悪い男だね」

 

 強めに睨まれるのも当然のことだった。

 

「まあいいさ、美味しい酒を貰っちまったからね」

 

 スリスリと酒瓶を撫でると、店主はアリサに向き直った。

 

「なんで子供を助けないかって?」

 

「はい! そうです!」

 

「自分の子供と知らない子供を比較して、知らない子供を助ける奴がどこにいるんだい?」

 

「…………で、でも!」

 

「もっと言うと、どこまでやれば助けたことになるんだい? 食べ物をあげればいいのかい? お母さんたちを見つけるのかい? 家を直すまで? それとも家に住まわせる? 何をすればその子は助けられるんだい? どこまでやればアンタは満足するんだい?」

 

「せ、せめてご飯だけでも!」

 

「あのね……どれだけの大人が──どれだけの人間が死んだと思ってるんだい? 答えは……分からない、だよ」

 

 怒りすらこもっていた。

 俺へはもちろん、俺以外へも。

 

「あのデカブツのせいで苦しんでるのがあの子供達だけだと思ったかい? 私だって店を襲われかけて、たまたま探索者が助けてくれたからなんとかなっただけなんだよ」

 

「襲われた……」

 

 アリサは、そこに思うところがあるようだった。

 

「みんながみんな余裕があるわけじゃない。家が壊された子達は可哀想だけどね……そもそも食料をあげるったって、私だってお金を出して商品を買ってる。それを買った人間も同じで、他人に分け与えていたらいくら金があってもキリがないのさ」

 

「子供が死んじゃうのに?」

 

「見た目通り……新しい世代だね」

 

「え?」

 

「人なんてすぐ死ぬんだよ。二十年前はそうだった。今が少し安全になっただけで、列車に乗って移動するのだって本当はすごく危険なんだ」

 

 また、俺に対して強い視線を向けてきた。

 

「1人なら助けるだろうね。誰か優しい人間が……だけど、数えられないくらいに増えたら誰がそこに手を出せるんだい?」

 

「み、みんなでやれば……」

 

「まず手を挙げるのは誰だい?」

 

「…………」

 

「私が手を挙げて、みんな着いてくるのかい? ──どうぞって。全部あなた1人でやってねって、そうなるだけじゃないか」

 

「そんなことは……」

 

「それが信じられないから、アンタは1人で手を挙げなかったんだろう?」

 

「わ、私はやろうとしました! でも、ヒロさんが……」

 

「ヒロさん? ……アンタ、ヒロって名前なんだね」

 

 訂正するのもなんなので、曖昧に頷いた。

 

「ヒロさんがやめろって言って、そうしたらなんでやめるんだい?」

 

「そ、それは……ヒロさんがやめろって言ったから……」

 

「なんだいそりゃ。お話にならないね」

 

 呆れた雰囲気だった。

 顔も、まさにバカを見たという様に眉を顰めている。

 

「やりたいなら誰がどう言ったってやれば良いのに、この男にちょんと肩を叩かれたらやめるんじゃあ……別に心の底から助けたいと思ったわけじゃないんだろう? 可哀想だったから、見ていられなくなったから助けたくなったんだろう?」

 

「それは……その二つは何が違うんですか?」

 

「さあね。でも何か違うだろ? 全部が全部私だって言葉にできるわけじゃないんだから、そんなの自分で考えな」

 

 そこで酒を一口。

 

「流石に話しすぎたよ。酒のせいだね、こりゃ。言うつもりなかったことまで言っちまった……」

 

「…………」

 

「色々言ったけど、助けたいなら助けりゃ良いのさ。そこの引率面してる男なんか無視してね」

 

 

 ──────

 

 

「私……考えナシでした」

 

 アリサは、肩を落としていた。

 見ただけで落ち込んでいるとわかる様子で歩きながら、自分の考えを省みている。

 

「本当に子供を助けたかったのか、わかんなくなっちゃった…………自分が気分よくなりたかっただけなのかな……」

 

「そこは気にしなくていいと思うよ?」

 

「……ミツキさん?」

 

「そんなこと言ったら、アキの人助けなんて全部自己満足だからね? やりたいからやってるだけで、人の気持ちとか全然考えてない」

 

「…………」

 

「っていうか、アキなんも喋ってないじゃん! 全部あのおばさんに話させてダンマリじゃん! ズルだよ!」

 

 そのツッコミを待っていた。

 

「俺が同じことを言ったとするじゃん」

 

「うん」

 

「それって実感無いじゃん。俺はリヴァイアサンが攻撃した時にここにいなかったんだし、このセクターに住んでるわけでもないんだから」

 

「それで?」

 

「俺じゃなくて──実際に生活している人がどう感じて、どう考えているかの方が明らかに意味のある発言じゃん」

 

「……だから?」

 

「え?」

 

「たったあれだけの理由でアリサちゃんを止めたの?」

 

「まあ……そうだな」

 

「……なんかカッコ悪いよ、アキ」

 

「…………」

 

「助けたいから助けるじゃ、ダメなの?」

 

 助けられるならそれが一番良い。そのことは疑いようのない真実で、純然たる正しさが柱としてそこには立ち上がっている。それでも……『助けたいから助ける』には、見える場所に限界が存在した。それを言えるのは、『助ける能力を有した人間』だけだ。

 

「アキは……お金がない時も、いつだって助けてくれたじゃん」

 

 根本的な問題の性質が違う。個人間の問題であれば俺の付け入る隙はあるけど、これはもはや公共の福祉の問題だ。個人が公共の福祉と同じサービスを提供するのは現実的に不可能で、擬似的にするにしても選別が必要になってくる。そうなればサービスを享受できた人間とできなかった人間の間に格差が生まれ、問題の深刻化を招く恐れもあった。

 

 ──そういう問題ではないというのは、俺だってわかってる。

 

「目の前の人を一人一人助けてくのが、結局一番早いんじゃないの?」

 

「ううむ…………」

 

「というか、ばか」

 

「え?」

 

「行こう?」

 

 手を掴まれた。

 

「ほらアリサちゃんも」

 

「あ…………」

 

 アリサと目を見合わせた。

 行こう、と言われて思い付くのはあの崩壊したライン上だ。実際、そちらの方向へ歩いて行ったわけだが、目的地はそこではなかった。

 

「ここは──」

 

「本部?」

 

 半壊した本部。

 怒号が上の方から聞こえてくるここに一体何の用が? 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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