【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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高校一年生の章
1_加賀美明弘、初めての都会に湧く


 

「おお! これが第一セクターか!」

 

 それは、俺が1人で第一セクターに行った時のことだ。貯めた金のうちから工面して、この世界における大都会とはどんなものかを学ぶための旅行。季節柄、霧に包まれていて視界は悪いが、列車から降りたところで確かに感じ取った。

 

「活気だ……これは活気だぞ!」

 

 周囲からはお上りさんを笑う笑いが漏れていた。だけどらそれが気にならないくらいに興奮していた。荷を背負って歩みを進めると、すれ違う人の数がどんどんと増していく。

 人、モノ、店。

 その全てが高水準であることが明らかだった。

 

「探索者もたくさんいる……!」

 

 ミツキからは休み中ずっと一緒にいろなどと言われたが、流石にそれは──ねえ? 俺も一応やりたいことはあるし……何とか褒めて宥めて抱きしめて、納得してもらいましたよ。

 それでも拗ねるもんだからミナさんに何とかしてもらった。

 

 同級生からも誘われたけど、ミツキの言葉を蹴っておいてそちらを選ぶわけがない。丁重にお断りした。……嫌味とかじゃないぞ? ちゃんと、優しくな? 

 

 それにしても、第1セクター! 

 

「すごいな……来てよかった……」

 

 列車で繋がっている以上はこれからも何度だって来ることはできる。だけど、こうして初めて訪れる時の感動というのはいつだって変え難いものなんだ。車なんてウチには無いし、金持ちだってそうそう持ってない。移動距離の範囲というのが俺の前世に比べてはるかに狭いこの世界では、こうして第1セクターに来るだけでも旅行と呼ぶにふさわしいものになる。

 

「これは……」

 

「お上りさんか?」

 

「ええ、これ何の肉です? 見た感じサソリっぽいですけど」

 

 屋台に寄ると、謎の串焼きが売られていた。この世界の食べ物というのは俺には理解できない。見た目と名前がうまく結びつかないというのか、知っている食べ物も知らん名前にされていることがあるし、知らん食べ物が知らん名前で売られていることもある。もうグチャグチャで、覚えてられんよ。

 

「シートーチの若芽だよ。海岸にしか生えてないから食べたことないんじゃないかね?」

 

「なるほど、一本ください」

 

「毎度!」

 

 パリパリの外皮を噛み砕くと、シャクリとした水気の強い味わいが溢れてくる。繊維質で、縦にどこまでも裂けそうな感覚があったが硬いわけでもない。

 

「…………塩辛いアスパラ、か」

 

 一言でまとめるとそんな感じだ。

 外皮がパリパリなので塩辛さと絶妙にマッチしている。視線と酒に手が伸びそうだ。あったらなあ……

 

「美味いだろ?」

 

「ええ」

 

「兄ちゃんガタイ良いし、もう一本食ってきなよ!」

 

「はは! サービスしてくれるなら!」

 

 ガヤガヤと人の声が常に聞こえてくる。これはすごい。

 俺は正直、この世界で巨大な社会的コミュニティーというものを築くことは不可能なのではと思っていた。しかし、人間というのは適応力が高い。魔素などものともせずにこうして都市を築き上げてしまった。

 

 ……適応力が高いの一言で片付けてしまっていいのだろうか。最近少しずつ勉強しているのだが、どうやら人口の密集度合いとダンジョンやモンスターの出現する可能性というのは相関関係があるようなのだ。

 このセクターはそこら辺どうしているのかね。

 

「服……武器……」

 

 うろちょろと見て回ると、存在する店の業種構成自体は何もおかしいことはない。だけど、何度見ても武器などは今の俺にはとても手が出せない値段だ……買う気はそもそもないけど。

 

 実家周りに比べると二段ぐらい高い印象を受けた。

 居着いている人間の気位も高そうだ──というのは良くないか。

 

「うーん……ミツキが着てたやつだ」

 

 お高い店の先に並んでいたフリルのついたワンピース。少し前はお気に入りで何度も着ていだと思う。ちなみに、これ一着でうちの4人家族が1ヶ月は生活できる。深刻な格差社会やめろ。

 

「高いな」

 

 第1セクターは規格外──みたいな話を幾度か聞いたことがあったけど、実際に見てみると差というものがはっきり分かる。

 まず、パッと見た時の建物の絢爛さからして違う。

 軒先に吊るされた細工物が風に揺られて少しずつ回転し、霧をかき分けてさまざまな表情を表通りに晒け出したかと思えば。霧の不明瞭さすらねじ伏せるほどに輝ける鎧を身につけた戦士が道のど真ん中を闊歩する。美しい女──おそらくは彼女も探索者だろう──がその後ろにしずしずと付き従い、戦士は一片の捩れすらない視線を道の先へと向けていた。

 田舎者なら1発で惚れ込むだろう洗練度合いだ。

 

「探索者か……」

 

 探索者。

 尋常ならざる存在にして、人類を守る壁にして、荒くれとして忌避の視線は免れない者たち。コウキさんも元は高位の探索者で、最近辞めたばかりだ。

 世界の未知に最も多く触れる存在。

 …………今、少しだけ気になっている職業でもある。

 

「でもまあ、今日は関係ないな」

 

 とにかく今回の目的は、世界に対する見聞を広めること。焼肉を手に入れるためには金が必要だ。そのためにはより多くの収入を効率よく稼ぎ出さなければならない。この都市ならば、それに繋がるキッカケが転がっているかもしれない。地元にいるだけでは中々、幸運というのは降ってこない。自ら当たりに行くぐらいの気持ちじゃないと何も始まらないんだよ。

 

 そんなわけで、俺は第1セクターを探索した。

 

 探索者でもないのに探索とはこれいかに。

 広がる街を隅から隅までというのは時間がかかる割に得られるものが少なくいので、メイン通りを中心にして目ぼしいところをな。

 

 

 ──────

 

 

 巡り合いというものはやはり存在する。

 霧の中、1人で面白くなさそうにしていた少女がいた、何をそんなにつまらなさそうにするのか──人生なんてコレからなのに、そんな顔をしていたら勿体無いぜ! 

 取り敢えず話しかけると目を輝かせた。

 

「こんにちは」

 

「なあに!?」

 

 人懐こい笑みは、先ほどまでの影のある寂しげな表情からは想像もできない。

 

「お兄ちゃん、どこから来たの!?」

 

「お兄さんは36セクターってところから来たんだよ」

 

「どこ!?」

 

「ここからずっとあっちの方に行けばあるよ」

 

「あっち! あっち!」

 

 あきゃあきゃと、先ほどまで座り込んでいたのが嘘のように楽しそうだ。

 

「ほら、コレとかうちのセクターでよく作られてる服」

 

「茶色だ!」

 

 貧乏暮らしでねえ。同じような色合いでゴワゴワで着心地の悪い服を大量に持ってるんです。

 少女の服装は過度に豪華というわけではないが、少なくとも加賀美家と同等の貧乏さではないだろうことがわかる程度の服だった。

 

「ここら辺に住んでるの?」

 

「うん! こっち! ……でも、連れてかない!」

 

「そっか」

 

「何しにきたの?」

 

「旅行だね」

 

「ガッコーは? 辞めたの? ……もしかしてふりょー!?」

 

 何故か期待するように笑っている。

 

「はは、残念ながらふりょーじゃないよ。ちゃんとお休みの日に来てるのさ」

 

「ちぇー……おばあさまはふりょーに近付くなってうるさいの! 私だってもう大人なのに、いつまでも子供扱いなんだよ!」

 

「それは酷いなあ。もう立派なお姉さんなのにな?」

 

「そーだよ! まったくもー……」

 

 ふりょーといえば、うちの高校には何やらスケバンがいることを思い出した。

 

「あっ、そだ! はいはい! わたしはコユキ! お兄ちゃんは?!」

 

「俺はアキヒロ」

 

「アキヒロ……アキヒロ……アキヒロね!」

 

 呟くように繰り返す少女の声は喜色に満ちている。そんなに人の名前が面白いのか、というのは陳腐な疑問だ。箸が転んでも笑う年頃なのだろう。

 それだけに、あれほどつまらなさそうにしていたのが不思議に思われる。

 

「ね、あのさ! アキヒロはどれくらいここにいるの!?」

 

 もうアキヒロ呼びとは──子供のコミュニケーション能力というものは大人のそれを遥かに凌駕しているとまたも思い知らされた。

 

「今日含めて3日間だな」

 

 何せ俺は高校生なのだ。

 バイトで貯めた金から崩して、食料を買う分は持ってきた。なんなら食料もある程度は保存食を作ってきたけど、やはり第1セクターの物価は第35セクターに比べて相応に高い傾向にある。

 嗜好品に限らず食料もだ。

 

「何するの?」

 

「良い稼ぎ口が無いか探してるんだ」

 

「なんで?」

 

「お金が必要なんだ」

 

「おかね? そんなのいっぱいあるじゃん」

 

「おほっ」

 

 やべー金持ちの匂いがしてきたぞっ! 

 

「何でほしーの?」

 

「俺、夢があるからさ。それを成し遂げるために必要なんだ」

 

「どんな夢?」

 

「牛の焼肉を食べたい」

 

「…………うし?」

 

「うん、簡単に食べられないのが許せないんだ」

 

「よくわかんないけど……うちに来れば食べられるよ!」

 

「そうなんだ」

 

 やはりこの子は良いところのお嬢様らしい。それも、牛を好きなタイミングで食せる程度には。

 

「食べたい?」

 

「いいや、大丈夫」

 

「え」

 

「俺自身の力で食べられるようにならなきゃ意味が無いんだよ」

 

「えー!」

 

「でもありがとう、気持ちは嬉しかったよ」

 

「…………う、うん」

 

「それにしても、なんでこんなところに座ってたんだ? 霧で迷っちゃったのか?」

 

「…………」

 

「言いたくない?」

 

「…………ん」

 

「そっか……じゃあ、屋台で何か食べる?」

 

「!」

 

 顔を挙げるたコユキちゃんは困惑と驚きが半々だった。返事を待つとゆっくりと視線を彷徨わせる。やがて、おずおずとした上目遣いで両の人差し指を突き合わせた。

 

「……いいの?」

 

「うん、まだお金に余裕はあるからな」

 

「じゃあ……食べたい」

 

「お! 乗り気だな? ──じゃあ行こう!」

 

「うわっ!?」

 

 コユキちゃんの手を引いて屋台の多かった場所へ戻ってきた。ここに来るまでの間、最初に食べたシートーチの若芽以外は買ってない。

 何故なら、俺は金持ちじゃねえからだ! 

 テンションが上がって財布の紐が緩くなるのは割とあるけど、一瞬で正気に戻れてよかった。我慢すればこうして誰かと一緒に食べられるんだもんよ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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