【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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3_金なら無い

「おじゃましましたー!」

 

「またの起こしを」

 

 結局、何事もなく店を脱出した。一流の服屋というのは一流の宝石も扱えなければならないということを知ることができた。たぶん今後一生使わない知識だ。

 

「きれいだったでしょ?」

 

「うん、綺麗だった」

 

「水色も見たい?」

 

「──」

 

 その顔に浮かんでいる内心を察することはあまりにも容易かった。

 

「それはやめておく」

 

「…………」

 

 すぐさま現れる落胆は、コチラは何も悪くないのに申し訳ないという気持ちが自然と湧いてくるような少女性の強いメッセージだった。

 

「本当はお父さんやおばあさんに言われてるんじゃないか? 知らない人について行っちゃダメって」

 

「……うん」

 

「じゃあ、約束は守らなきゃ。コユキちゃんのお父さん達もイジワルで言ってるわけじゃないと思うよ?」

 

「でも……なんでもかんでも言う通りなんておかしいって……」

 

「それは学校の友達に言われた?」

 

「…………」

 

 金持ちは金持ちなりに苦悩もあるということだ。

 とはいえ、俺が彼女の家にお邪魔することを彼女の家族が受け入れないだろうというのは確定的な事項でしかない。

 

「食べたいものも食べたし、そろそろお別れの時間だな」

 

「んーん……もうちょっと」

 

「──霧が黒く沈み始めてる。夜の合図だよ」

 

 霧季は空に準じた色に霧が色付く。

 朝と夕方は茜色。

 昼間は空色。

 夜は漆黒。

 絵の具を垂らしたような世界で、見える景色を構成する色味が時間によって刻一刻と変わる。こうしている間にも、色はどんどん黒くなっていく。

 

「早く家に帰らないとミストウォーカーに捕まっちゃうぞ?」

 

「……」

 

「ほら、知らないお兄さんよりもちゃんと家族を大事にしなさい。家にちゃんと帰らないと悪い子って叱られちゃうからね」

 

「…………べー!」

 

「ははは!」

 

 あっかんべーを報酬に貰えるなんて、俺は随分と徳の高いことをしていたらしい。

 

「さて……俺も寝泊まりの場所を見つけるか」

 

 そのための道具は持ってきた。街が完全に暗くなる前に出よう。

 ……はい? 

 宿ですか? 

 泊まりませんよ? 

 言ってるでしょ高いって。

 高校生がバイトで貯めた金なんて大したものじゃないし、家計にもだいぶ消えてるからな。

 宿なんて泊まろうものなら母さんが絶望すること間違いなし。それでも、息子が稼いだ金を息子がどうやって使っても自由だよね──みたいに納得はするんだろうけど、可哀想だ。

 

「そういうわけで外に出るんです」

 

「そ、そう……」

 

 外周部を見回っている商工会の職員に呼び止められたので事情を説明したら、そう! というイキの良い返事が返って来た。応援してくれるらしい。

 ほな……

 

「ちょっ……なんでそのまま行こうとしてるの!?」

 

「夜になったら寝る場所作れなくなっちゃうんで」

 

「い、いやいや……本気なの!?」

 

「本気ってほど気持ち入れてないですよ。慣れてるんで」

 

「そういうことじゃないって! ……慣れてる? 探索者なの?」

 

「いえ?」

 

 お金がなくて食料を買えないので良く狩りに出掛けるだけですが何か? 

 ちなみにミツキはそれを聞くとうるさいので教えてない。

 

「じゃあダメだよ! 子供がそんなことしちゃ!」

 

「どっか無料で泊まれるところあるんです?」

 

「…………あっ!」

 

「お?」

 

「──うーん……いや、でもなあ……」

 

「別に代替案を出せって言ってるわけじゃないんで、失礼します」

 

 あと30分も経たないうちに真っ暗になるだろう。それまでに街の外に出て、良い感じの場所を確保しないと。

 街の外は安全とは言えないけど、そこまで離れなければ襲われることなんてない。

 

 はよいかねば! 

 

「あ……」

 

 無視して進むこと10分、良い感じの場所を見つけた。

 毒性の実を付けるイバラが生え盛っている場所だ。他の場所に比べて虫は少なく、自作の虫除けに火をつければすぐに逃げる。これなら寝ている間に刺されることもないだろう。

 

「うーん……本当はもうちょい早めにテントを作っておきたかったな」

 

 寝床に転がって呟いた。

 

 もう少し早ければ、今日あった出来事を紙にまとめることもできたはずだ。頭の中で整理する時間は大事だけど、大抵は次の日になったらリセットされるので物として残しておくのはすごく大事だ。

 

「魔石かあ……既存の商売に横入りしてもなあ……」

 

 すでに魔素が現れて100年ほど。

 魔石という単語も世界に馴染んでいる。その販路や使い道は既に開拓されて、高値をつけるのはやはり宝石として扱う場合だろう。

 

 欲する人間との間に立ってマージンを──というのは誰でも思いつく。しかしその為には探索者とのパイプ、そして欲しがっている金持ちとのパイプが必要になってくる。

 そのパイプというのは貧乏人──ましてや俺みたいな若造がいきなり得られるものではない。

 現実的ではなかった。

 

 しかし現実的ではないのは俺の存在そのものなので、諦める理由としては薄い。実際にやるとしたら、まずはコユキちゃんみたいな外周から堀を埋めていくというのが現実的な話だな──などと考えているうちに寝落ちした。

 

「──」

 

 気が付いたら朝だった。

 霧が白んでいるのでおそらくは早朝。ミツキがウニョウニョ言いながら寝相悪く布団の中を這っている時間帯だ。

 

「ああ……バキバキだ」

 

 伸びをすると関節が鳴る。

 多少慣れているとはいえ、土の上で寝るというのは人間の身体には全く合っていない行動だ。

 

「朝飯食うか」

 

 弾ける火の粉に肉を翳して温める。汚染の少ない清らかな空気が鼻先をくすぐる朝から焚き火というのは、なんとも乙なものだ。

 

 ──チッチッチ。

 

 小鳥が囀る。

 ゆっくりと終えた朝食の後は、これまたのんびりと世界を味わっていた。

 

「聞こえる……」

 

 目を瞑ると、さまざまな音がかすかながら耳に入ってくる。

 話し声。

 歩行音。

 金属の擦れる音。

 これほどに聴力がいいのは、魔素が肉体に入っていることが関係あるのだろう。

 

「よし、行くか」

 

 人々がどうしているのか、興味が極大に達したところで腰を上げた。手早く野営地を畳んで背負えば、すぐに昨日と同じ体勢だ! 

 

「──あ、ちゃんと戻って来た」

 

「お? ……ああ、昨日の」

 

 街の外れに戻ってくると、昨日心配してくれた商工会の職員が立っていた。どうやら心配して見に来てくれたようだ。

 

「ご迷惑をおかけしました」

 

「そうやってちゃんと謝れるなら、次はしっかりとしところに泊まって欲しいかなあ……」

 

「ええ、お金があれば!」

 

「なんて良い笑顔……ダメだこりゃ」

 

 それにしても、出勤後にわざわざこんなところまで見に来る暇が社会人にあるとは思えない。

 

「もしかして近くに住んでらっしゃるんですか?」

 

「うん」

 

「1人で?」

 

「え? うん」

 

「女性が1人で住むのは危なくないですか?」

 

「……あ、あの……私もうちょっと年上の方が好みだから……気持ちは嬉しいんだけ──」

 

「あっはっはっはっは!」

 

「!?」

 

「あはっ! ひーっひっひっひっひ!」

 

「そ、そんな爆笑することじゃないよ!?」

 

「いやいやなかなか! はっはっは!」

 

「な、なんなのよ……」

 

 朝っぱらから幸せにしてもらった。

 しかし、年長者として一つアドバイスしておこう。

 

「男の子はね、こうやってわざわざ女の子に気にかけて貰えるとすぐ好きになっちゃうものなんです」

 

「そうなの?」

 

「男の子に話しかけるのは告白だと思って接してください」

 

「こっ……!」

 

「まあそれは冗談ですけど……コレは気にかけてくれたお礼です」

 

「おにく」

 

 紫色の肉を手渡されてすぐに食べられる人間はそうはいない。彼女も固まってしまった。

 

「地元で採れたソラゲッコウのもも肉を干したものです。クセになりますよ」

 

「…………」

 

「では失礼します」

 

 良いことをすると気分がいい。

 きっと、いいめぐりあいがあることだろう! 

 

「そううまくはいかないか……」

 

 大外れだ。

 というのも、天気が大荒れ。

 霧が集まって巨大な水球となり空を漂う霧垂(きりだれ)と呼ばれる状態になってしまった。こうなると水球の間を通って移動しないとびしょ濡れになってしまう。

 あるいは──

 

「ちょっと! 今押したでしょ!」

 

「あ? 知らねえよ」

 

「濡れちゃったじゃない! どうしてくれんのよ!」

 

「いや……だから知らねえって」

 

「高いのよ!? 知らないですむわけ──」

 

「知らねえって言ってんのが聞こえねえのか」

 

 探索者に突っかかって水球に顔面を突っ込まれることになりかねない。職員がすぐに駆けつけてなんとかなったけど、第1セクターでも起こるんだなこういう事。

 

「おっと失礼……おっと」

 

 初めて見た時は感動したけど、一緒に生活するとなれば別問題だ。今日の俺は荷物を背に乗せて歩くお上りさん。いつもよりも多い人混み&水球のタッグアタックに若干の苦戦だ。

 

「おっと! ……おお」

 

 やはりどこか荷物を置ける場所を見つけるべきだったか。そんな後悔は先に立たず。

 いつの間にやら商工会本部の前にまで来てしまった。

 

「デカい」

 

 100mはあろうかという城。

 周囲の建物に比べて明らかに一つだけ抜けているさこは、今もひっきりなしに探索者たちが出入りしているところだ。俺もビルを見たことがなければ白痴のように口を大きく開けていたことだろう。

 

「中は……探索者だらけだな」

 

 足を踏み入れると、そこは36セクターにあるような酒場とはまるで違う。

 

 まず足元! 

 向こうは土間なのに、こちらは板張りだ。武器を引きずった細い傷や補修痕がそこかしこにあるが、泥染みや剥離がない。掃除している探索者がいるので、それ自体も仕事として見られているのだろう。

 

 次にカウンター! 

 ……これは普通だな。

 顔は良いけどやる気がない受付嬢。

 新人のお嬢ちゃん。

 人気のおっさん。

 どこでも大差ないな。

 

 そして探索者! 

 凄いぞ。

 目つきが違う。

 ギラギラしていて、武器だけじゃなく宝飾品にも散々金をかけているのが見て取れる。鍛治師と呼ばれる特殊職であれば、ここでたんまり稼ぐことができるだろう。

 他の支部であれば中堅を担うであろう壮年期が多いのもここの特徴か。

 別のセクターである程度レベルというやつが上がるまで探索者を続けて、自信を身につけた人間がここには集まるのだろう。

 

 勝者と敗者の違いが露骨にわかりやすいのが探索者という職業だった。

 

「さて……次は何を見ようかしら」

 

 商工会は通常の企業と違って中に入ろうと思えば仕事場に容易く入れるので、仕事の雰囲気を掴みやすい。就活市場的な話で言えば、ミスマッチが起こりにくい職業とも言える。そもそもなりたくてなる人間がいないということを除けば。

 

「宝石だ、そうしよう」

 

 昨日、あの少女──コユキちゃんに見せてもらった宝石は随分と単価が高かった。流通経路はある程度読めているので、どのように仕事をしているかというのをしっかりと見させてもらうか。

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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