【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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5_路地裏で、出会う

 

 まあね、俺もただのバカじゃない。

 時にはバカなことだってやるけどそれは全て将来のためだ。ミツキやコウキさん、母さんやアカネ、先生たちには色々言われることもあるけど、考え無しに何かをやっているわけがないだろ? 

 何事も経験が大事だからな。同じような世界で同じような事をしても違う結果に辿り着くことっていうのは往々にしてあるんだよ。

 

 だからこそ、ちゃんと学校に通ってる。

 

 品行方正を心掛けることで、自分のモラルや倫理観が変化していないかを認識する試みはある程度の成功を収めていた。例えば──ミツキが誘拐されそうにでもならない限りは危ないことに手を出したりしない、子供の喧嘩は行きすぎない限り手を出さない、いじめは撲滅する、茜がちゃんと育つようにご飯は取ってくる──俺が普通の子供だったら投げ出すようなことでも、俺ならば我慢できる。

 我慢といっても、大人として当然のことだから心理的なストレスを感じているわけじゃない。

 

 心の中でこれほどまでにクダを巻いている理由は明白だった。

 

「ぅ…………」

 

 倒れている女の子をどう扱ったものか測りかねていたからた。

 

 路地裏に足を踏み込むと、そこはひとっ子1人通らない道だった。路地裏ってそういうもんじゃん……というツッコミは置いといて、人が1人もいなかった。気配もない。とにかく俺は進んだ──なんだろうね? なんか妙な感じがあった。俺は第六感という能力がこの世界にあるということ自体は知っているけど、俺にそれが備わっているとは思っていない。

 だから、何で自分がそこに足を踏み入れたのか理由を求めることはできなかった。

 

『こっちだな?』

 

 進めば進むほどに闇は深くなり、妙な感覚はより強く心と身体を刺激していく。近付くだけで寒さすら伴うような、悍ましい何かがこの先にあるんじゃないかという怖気をすら感じながら俺は進んだ。

 

『──!』

 

 そして進んだ俺が見たのは、白い冷気を身に纏って倒れている女の子だった。

 一瞬にして空白と化した脳みそとは裏腹に、俺の肉体は意外と動いてくれた。すぐさま近寄るのではなく、周囲の確認──といっても路地裏なので前後と上しか見るべき方向はない。

 すぐに確認は終えた。

 

「冷たい……なんだこれ……!?」

 

「あ……う……」

 

「!」

 

 分からない。

 何故倒れているのか。

 何故身体から冷気が出ているように見えるのか。

 何故そのような状態で1人なのか。

 全てが分からなかった。

 

 だが──

 

「ぐっ……!」

 

 1人で倒れている女の子を見捨てるというのは選択肢としてあり得なかった。

 見つけてしまったものを見捨てるということは、俺がこの世界に持ち込んだものの中で最も価値のあるモノ──すなわち俺の倫理観に反することであり、わざわざ俺という人格が残った意味が半分くらい消失する。

 故に俺は彼女を助ける。

 理由がなければ助けない、とも取れるが……そんなことを考えていたら自己矛盾でおかしくなる。無視だ。

 しかし彼女を助けるにあたって喫緊かつ無視できない問題が一つあった。

 

「キンッキンに冷えてやがる……!」

 

 布を貫通して肌を突き刺すほどの冷気。

 液体窒素の中に24時間浸かっていたのだろうかというほどで、とても耐えられるものではない。

 

「……ダメだ! これじゃあ背負えねえ!」

 

 彼女をもう一度地面に横たえた。

 俺が持ってきた荷物の中から替えの服と替えの服と替えの服と寝袋を取り出して被せる。それでもどんどん冷えていく服を見てさすがに顔の筋肉が引き攣るのを感じた。

 

「燃やすか!? ……いや……燃やしたら死ぬだろ! それか割れる!?」

 

 一度関わることを考えるとなかなか冷静さを保つのは難しかった。

 

「表に出したとして……こんな子がいたら目立って仕方がない……! しかも俺には金がねえ! 匿う場所は……見つからねえ!」

 

 旅には慣れているつもりだった。

 だが、金の無さばかりはどうしようもない。自分1人なら誤魔化せるが、病人? 1人増えただけでこうして大慌てで騒ぎ立てることしかできない程度の人間なのだ、俺は。

 

「問題ないか? いけるか? 探索者なら冷凍庫みたいな異能を持っている可能性が……見たことは…………ない……! だが、おそらくいるはずだ! 俺が知っている以上のモノを彼らはきっと手に入れているはずだ! ……何で俺みたいなガキがそんな子を背負ってるんだ! ──そもそも、なんでこんな子供が異能を持っているんだ!?」

 

「ぅぅ……」

 

 顔を見る。

 間違いなく幼い顔つきだ。

 探索者というのは若いやつが多いが、子供と間違えられるようなのは見たことがない。

 

「くそっ!」

 

 仮に探索者であるならば傍迷惑な話だが、彼女はおそらく子供だ。そう仮定するしかない。

 

「ごは……」

 

「──え!?」

 

 少女が何かを口走ったのに、頭抱えてアホみたく背を向けていたからうまく聞き取れなかった。もんどり打つぐらいの勢いでそばに寄り……そして気付いた。

 

「意識があるのか!」

 

 とんでもなく冷たいことに加えて苦しげにうめいているから半ば意識を失っているモノだと思い込んでいただけで、彼女は実は意識があったのだ。

 

「なあ! どうすれば良い!」

 

 助けを求める人間に対して最も大事なこと。それはどうやって助ければ良いのかを本人から教えてもらうことだ。

 ぱっと見でわかるモノならばともかく、基本的に救助方法というのは要救助者が最も分かっている。溺れそうだから浮き輪を投げるのか、落ちそうだから引き上げるのか、お腹が痛いからトイレを使わせてあげるのか。

 

「どうすれば君を助けられる! どうすればその冷気を止められる! どうすればいいんだ!」

 

「──を……」

 

「なんだ!」

 

「たべ…………もの……」

 

「分かった!」

 

 取り出したのは干し肉。

 食べさせようとして一つ問題が。

 

「おい! 食べられるのかこれ! 口の中に入れたら凍り付くとかないか!?」

 

「…………」

 

「……ええい!」

 

 眼が、それでもと語っていた。

 ナイフの石突で何度も肉を叩いて柔らかくした上で、抱き起こした少女の口に小さく入れる。

 

「食べられるか……!?」

 

「……んぐ」

 

 口を微かに動かして、咀嚼する音が聞こえた。どうやらそこは問題ない──こともない。

 咀嚼音がシャリシャリと鳴っている。

 冷凍みかん食ってんのか。

 しかし、少女はそれでも何とか飲み込んだ。

 

「う……」

 

「…………仕方ねえ!」

 

 これしかない。

 緊急用にと買ってあった滋養薬。

 回復薬と違って直接に傷を治すことはできないが、エネルギー補給と体力回復の効果がある。

 虎の子を手放すことは苦しいが、これも一種の緊急用だと割り切った。

 

「ありがとう……ございました」

 

 しばらくして、体力が回復した少女は伏し目がちに感謝を述べた。そこから感じるのは申し訳なさ。

 先ほどに比べると漏れ出る冷気は微量になったと言っていい。大量の布が巻き付いていれば寒さもないようだ。

 

「気にしないでいいよ」

 

「でも……貴重なお薬を……」

 

「そうだな」

 

「っ……」

 

「だから交換ってわけじゃないけど──っつーか、もうあげちゃったから半分くらい強制で申し訳ないけど……聞かせてくれ」

 

「……え?」

 

「君の歳は?」

 

「ええと……15歳です」

 

「誕生日はもう来た?」

 

「は、はい」

 

 そうなると、やはり探索者という線はないだろう。この受け答えの拙い様子からしても子供だという感覚は裏切らない。

 

「俺は加賀美明弘、歳は一つ上の16歳だ。君の名前は?」

 

「……ソフィア・エメリッヒです」

 

「洋名か」

 

「よ……?」

 

「いや、なんでも」

 

 次に聞くべきことは……

 

「どこに住んでるんだ?」

 

「……」

 

 答え辛いか。

 そりゃあそうだろう。

 いきなり出会ったばかりの男に住んでる場所を教えるのは俺も怖い。

 

「質問を変えよう。帰る場所はあるか?」

 

「っ……」

 

 明確な返答は無い。

 だがその態度は何よりも雄弁に事実を物語っていた。

 

「これまでどうやって暮らしてきたんだ?」

 

「……お父さんが……お金、送ってくれて」

 

「そのお父さんはどこに?」

 

「わかんない、です……」

 

 ますますわけがわからない。

 

「お金を送ってくれなくなったのか?」

 

「…………」

 

「頼む、教えてくれ」

 

「……私の力が抑えきれなくなって、それで……借りていた家を追い出されたんです」

 

「…………君は生まれつきその異能を持っていた──ということで合ってる?」

 

「はい」

 

「抑えきれないってことは、前は抑えられていたんだね?」

 

「そうです」

 

「逆に、抑えきれなくなった理由はわかる?」

 

「…………」

 

「お腹が空くと抑えきれないのか?」

 

「眠かったりしても……」

 

「エネルギーを食うのと、脳みその制御が肝心ってことか……家を追い出されて、ちゃんと眠れなかったんだな?」

 

「お、男の人に追いかけられて……」

 

「そうか」

 

 言われてみれば、ソフィア・エメリッヒは若干俺のことを警戒しているような体勢を取っていた。

 

 彼女の容姿は整っている。

 腰まで届く銀髪。

 白磁の如き肌に、色を薄く添えるような水色の瞳。

 細い手足に反するように胸は遺伝子の豊かさを証明していた。

 深窓の令嬢だと説明されてもすんなり納得するだろう容姿レベルの女の子がほっつき歩いていれば、変な気を起こしても仕方がない。無論、許されるわけでは無いが。

 

「ふぅ……どうするんだ? これから」

 

「…………」

 

「学校には行ってたのか?」

 

「行ってないです。これを見られたら大変なことになると思って……」

 

 そう言いながら、左手を空に翳すと氷の結晶を拡大したものが現れた。それに収まらず、これまでに見たのであろう食べ物が次々と空中に象られていく。

 

「学校に行っている身として言わせてもらうけど、間違いなく大事(おおごと)になるだろうな」

 

「…………」

 

「出会ってすぐの俺が言うことじゃないけど、君はいくつかの選択肢から選ばなければならない」

 

「せんたくし?」

 

「その異能を制御する方法を確立する。制御せずに生きていく方法を見つける。野垂れ死ぬ。当然だけど、この3つの中にしか選択肢はない」

 

「!」

 

 自らの身を抱きしめると虚な瞳で震え出した。

 

 何が効いたかと言えば、野垂れ死ぬということだろう。すでに恐ろしい目に遭いかけて、そして助かってしまった彼女からしてみれば、再び同じ目を味わうというのは何よりも避けたいことのはずだ。

 

「いやです…………いやです……!」

 

「つまり……制御して慎ましく生きるか、そのまま生きるかのどちらかを選ぶんだな?」

 

「…………無理です……抑えれるわけ、ないんです……」

 

 途端に無くなった意気は、彼女が15年という短い人生において歩んできた道のりをそのまま物語っている。

 

「じゃあ、その冷気をポジティブに活用しよう」

 

「……私だって、寒いのに?」

 

「そうかあ……はぁぁぁ……」

 

 冷凍倉庫業とかどうかなあ!? って提案しようと思ってただけに、丸々潰された形となった。異能の力が自ら肉体にまで塁を及ぼしているというのならば、上手く使うのも無理だ。

 

「…………」

 

 瞳を揺らして、俺のことを見上げていた。

 これは──責任だ。

 

 選択肢を提案した。

 

 相談に乗った。

 

 目を見て話した。

 

 だから彼女は、俺のことを()()()()だと思ってしまった。

 

 溺れるものが掴んだものが藁であるとは限らない。

 石ころがたまたま水面に波紋を打ち立てただけで、単体ですら浮かぶ力を持たないものの可能性だってある。

 しかし、そんなもの溺れている人間には分からない。

 たった一つしか歳が違わないという事実は既に思考の片隅に追いやられ、彼女は口を開けて待つ雛のように答えを望んでいるのだ。

 

「ひとまず──場所を変えよう」

 

「?」

 

「こんな暗いところにいたんじゃ、思い付くものも思い付かないからな」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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