【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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6_ただ、背負う

「あの……」

 

「え?」

 

「何で食事を……」

 

 屋台で売ってた焼き芋を2人分買って分け与えたところ、理解できないと首を傾げていた。

 

「まだお腹は空いてるだろ?」

 

「はい、でもあんな高いものをもう……」

 

「あんなのはその場しのぎでしかないんだから! 結局大事なのはお腹を満たすこと!」

 

「そ、それならちゃんとお金は返します!」

 

「おう、どこにあるんだ金は」

 

「お金は……」

 

 親父さんからの仕送りが本当に届いているのならば、その金で宿を借りるなりご飯を食べるなり出来るはずだが。

 

「逃げていた時に、銀行のお金の紙とか色々……」

 

「…………まあ、そういうわけなんだから大人しく食っとけって! 美味いぞ? ……うん、ホクホクで柔らかい! 昆陽先生に感謝だな!」

 

「……あむっ」

 

 いっぱいいっぱいで、何が何やら自分でも良くわかってないんだろう。こういう時は親父さんがそばにいてやるのが道理だと思うんだけど……何してるんだか。

 金を稼がないけど家にいる父親と、金は稼ぐけど全く家にいない父親。どちらが良いのかは難しいと思っていたが圧倒的に前者の方がいいとわかった。勿論、人格はそれなりであることが前提だ。

 

「むぐっ、ふぐっ」

 

 姿を見られないように外套を着させている。フードを深く被っているのでその表情を拝むことはできないが、口元を一生懸命に動かしているのは分かった。

 

 広場に設けられていたベンチに腰をかけて芋をムシャムシャとしながら、あらためて思考を巡らせる。隣からヒタヒタとやってくる冷気は我慢だ。

 

「整理しよう。まずは……あー……家だ。家……っすー……活動拠点だな! 活動拠点がいる!」

 

「んぐ……」

 

 なんにせよ、彼女が自らの身の安全を確保できる場所を確保するのは急務だ。俺だって実家があるから野宿になるわけで──ホームレスの女性は悲惨な末路を辿るものだ。

 

「あとは……そう! 衣食住だからな! あとは服と食べ物だ。食べ物は良い、金があれば手に入るから。問題は服だな」

 

「……」

 

「零下で問題なく保温能力を発揮する服……体温前提だから、必要なのは自分で発熱してくれる服?」

 

「あ、あの……」

 

「そんな服を手に入れるためには──」

 

「あの!」

 

「ん?」

 

「私……大丈夫です」

 

「はあん?」

 

「私、1人でも……大丈夫です」

 

「あ、そう」

 

 やはり探索者が扱うような装備というものが前提になってくるだろうか。正直、そこら辺の相場はまだ気にしたことがない。しかし、云十万レベルであれば彼女でも用意はできる。桁が一つ上がれば無理だな。

 そこの金を用意するまでに死ぬだろう。

 

「…………あの……?」

 

「うん」

 

「私、大丈夫で……」

 

「悪い。今色々考えてるから、そういうのは解決してからにしてくれるかな」

 

「え、あ、いや……その、だから大丈夫って……」

 

「うん」

 

「…………」

 

「今更だ」

 

 

 ──────

 

 

「ん……」

 

 芋を腹に収めたは良いが、今度は猛烈に眠くなってきたようだ。歩行速度が落ちて、先ほどと同様の速さでもいつのまにか後方に置いていってしまう。それならば……

 

「…………」

 

 拒否すらすることなく背負われたソフィアの身体から滲み出る冷気は、路地裏で見つけた時ほどではない。しかし彼女が言っていた通りだった。寝ている間は制御が効かなくなるようで首筋に冷たいものが……これでも服を着込ませてるからだいぶマシなはずだ。

 

 さて、やるべきことはひとつ。

 俺の大荷物を置く場所兼ソフィアの泊まる場所を探して邁進だ。こういう時に若い容姿が役立ってくれる。可哀想な兄妹を装えば、同情を引けるはずだ。

 

「──すまないね」

 

「そうですか……」

 

 一つ一つ、目星をつけて訪ねていく。

 その一つ一つに断られること2時間ほど──

 

「つ、疲れた……!」

 

 そこそこ体力はある。少なくとも中学校の体力試験では一位以外をとったことがない。それもその筈。武器(ナイフとナタ)を取って元気に草原を駆け回っているのだから。

 ……貧乏だからねえ!? 

 そんな俺でも、軽いとはいえ人間の身一つを背負って活動し続けるのはかなり厳しいものがあった。

 

「苦しいな!」

 

 しかし、やり甲斐はある。

 これをやり遂げればまた一つ素晴らしい縁が生まれる可能性もあるのだから、高揚しないわけもなかった。

 

「さて、次だ」

 

 最初は中心近くから始まり、螺旋を描くように外へ向かいながら住居探しを続けた。理想は老夫婦の家に女中なりの立場で雇ってもらうのが良い。若い男がいるようなところに預けたらどうなるか分からないからな。

 しかし、そういった手を求めている世帯では既に仕事のできる人間を雇っていることが多い。

 

「もう少し早ければ雇ってあげたかもしれないんだけどねえ……生憎ともう埋まってるんだよ」

 

「まあそうですよね……ちなみに、手を増やそうとかは……」

 

「今のところは考えてないねえ」

 

「……失礼しました」

 

「ああ、ちょっと待ちな」

 

 そりゃあそうだ。老人だって自分達の体がもうすぐ動かなくなることくらいよく分かっている。そうなる前に先に探しておくなんてのは、ここら辺に住む教養高い人間であれば想像は容易いだろう。

 

「ほら、これ! 雇ってあげるのは無理だけど、クッキーくらいならあげるよ」

 

「──ありがとうございます!」

 

「妹さんを大事にするんだよ?」

 

「はい!」

 

 反抗期気味の妹が聞いたら嫌な顔をするだろう。

 

「クッキーか……金持ちだな」

 

 小麦なんてどこで手に入るんだかね。

 店で見たことは一度もないぞ。

 

「……とりあえずしまっておこう」

 

 クッキーはしまうのに向いていないは常識だ。

 常識だよな? 

 ポケットに入れたら砕けちまう。

 本当はこの場で食べるのが良いのだろうけど、ソフィアが寝ているので後だ! 

 

「あ゛〜……もうマジで疲れた……」

 

 スタミナを消費した量に対する収穫は、クッキーが2枚とビスケットが2枚、汚いものを見る目で投げ渡された銀貨が一枚、罵倒が10ほど。

 

「あーあ、アラブ首長国連邦ならなあ……」

 

 などと愚痴っても仕方がない。

 もう結果は出ているのだ。

 流石にいきなりやってきた身元不明のガキを雇おうなんて酔狂な輩はいなかった。俺も同じ立場ならそうするので、しゃあないと思う。

 

「うーん……金があれば衣食住の問題は解決するんだけどなあ……」

 

「…………」

 

 幸いなことに、彼女はずっと寝息を立てていたので罵倒やらを聞くことはなかった。

 

「お金の紙……手形か何かの形で持ってたのか」

 

 貨幣の形で持ってたら重いから持ち運びに困るので、それ自体は特におかしなことではない。ただ、失くさないでいてくれれば良かったのに……というか、失くさなかったらここまで追い詰められることもなかっただろう。

 

「無いもんは無いんだもんなあ」

 

 まだ夜になるまでは時間がある。それまでに何とかして見つけなければ──! 

 

 

 ──────

 

 

「うおお……だめだあ……」

 

「あ、あの、もう十分です……これ以上は悪いです……」

 

「俺には住居をひとつ確保することすらできないのか……! 社会的信用のなさが憎い! 身なりがもう少しマトモであればチャンスがあったかもしれないのに! できるはずなのに!」

 

「…………仮に空き家を借りられても、また追い出されるだけです」

 

「そこは気合いで何とかするのが人間だろうが……!」

 

 ここで諦めては、何のためにあの路地裏から連れ出したかが分からない。というか、この程度の事すらできないとか元社会人としてあまりにも情けない。まさか、月日が流れた事で俺のスキルが大きく目減りしている? ……嫌だ、認めたくない! 

 

「気合いって……さっきはすごくわかりやすく説明してくれたのに……」

 

「…………俺にとっては君を助ける合理的な理由はある。だけど、それ以外の人間──さっきから俺の要求を断ってきたみんなにとっては、君を助ける理由なんて何一つない」

 

「……はい」

 

「そんな中でどうやったら説得できると思う? ちゃんとした理屈もないのに、どうやったら納得してもらえると思う?」

 

「……わからないです」

 

「勘違いさせるか、情に訴えるかしかない」

 

「そんな……」

 

「文字に起こして機械に判定させたりメールでゆっくり内容を整理させたらダメって言われることでも、口頭なら何とかなる場合があるんだ」

 

 ほぼ詐欺。

 しかし有効だ。

 では先ほどから通っていない理由は何かといえば、彼らとの関係値がゼロだからに他ならない。

 

「だけど……今日は少し疲れた」

 

 目がシパシパする。

 街灯が霧に反射してほのかに道を明るくしてくれているとはいえ、流石の俺でももう動き回ることはできない。

 

「…………」

 

「ソフィア──って呼んでも良いか?」

 

「……はい」

 

「ありがとう…………じゃあソフィア、次だ」

 

「──」

 

 不意打ちを喰らったように目を瞬かせる少女へたたみかけた。

 

「疲れたけどまだやれることはある」

 

「やれる、こと?」

 

「──とりあえず今日は野宿だ!」

 

「!?」

 

 重たい足を引き摺る。

 

「あの……荷物私も持ちます」

 

「いい、大丈夫だ」

 

「で、でも……昼間、おぶってもらったし……」

 

「これは男の仕事だ」

 

「…………」

 

 正直重たいし投げ出したい。

 だけど、重い荷物を持つのは女にやらせるようなことじゃない。それに冷気で何かが壊れる可能性も一応ある。

 昨日と同じ場所に向かった。

 

「はい、ストップ!」

 

「あ」

 

「待ってました! もう!昨日に引き続き──んなあああ!?」

 

 彼女がいた。

 誰って? 

 そう、初日の彼女だ。

 飛び上がるほどに驚いていた。

 

「お、女あ!」

 

 女はお前だ。

 

「女の子連れてくの!? ダメだよ!? お姉さんそれは見逃せないよ!? 野宿だよね!?」

 

 元気過ぎるだろ……

 

「あの、俺疲れてるんですけど……色々あったんで」

 

「ダメダメ! 誤魔化し効きません! 君1人ならともかく、女の子は通りませんよ!」

 

「……あっ、そうだ」

 

「え?」

 

 いいのみーっけ! 

 

「──うわーん! 何で巻き込まれてるの私!」

 

 ゲヘヘ、丁度いいところに住んでるでヤンスね! ここは今日からあっしらの拠点にさせていただくでヤンス! 

 

「何その口調気持ち悪い! 何で出会って2日目なのにこんな馴れ馴れしいの! ──あ、えっと……あなたはこっちで手洗ってね」

 

「は、はい……」

 

「全くもう、女の子を野宿に連れ込むとか本当に──名前なんだっけ?」

 

「あの人の名前、知らないんですか?」

 

「うん! だって昨日初めて会ったもん」

 

「…………!?」

 

 お、鍋……きったねっ!? はあ!? 掃除しろよ! 

 シャツも下着も放り投げてあるぞ! 

 

「ちょちょちょちょ! さ、さすがに! さすがに!」

 

 おっ? 一丁前に恥ずかしがってら。

 

「当たり前じゃん!? ……ねえ、名前教えて?」

 

「加賀美明弘です」

 

「…………かがみ、あきひろ、ね」

 

「彼女はソフィアエメリッヒ、道端で倒れてたので拾いました。あの冷気は生まれつきだけど最近制御が効かなくなって家から追い出されたんだそうです。それを治すためにこれから動こうという段階です」

 

「はっ、えっ、あっ!?」

 

「明日また迎えに来るんで、失礼します」

 

「ほあっ!?」

 

 伝えるべきことは全て伝えたということだ……

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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