【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「あ、あの……ソフィア・エメリッヒです」
「う、うん……
少年がいなくなって暫く固まっていたが、2人はどちらともなく自己紹介を始めた。
始めざるを得なかったとも言う。
「あの……何だっけ、あの子……」
「えっと……加賀美さん、です?」
「そう」
「…………」
「ど、どういう関係?」
「分かんないです……」
「……今朝までは一緒にいなかったよね?」
「その──」
ソフィアの話を一通り聞いて、ぽつりとこぼす。
「なにが?」
「あはは……」
「いや、本当になにが?」
明宏が去り際、口早に言っていたことが本当だったというのは分かったがそれは起きた出来事だけだ。ソフィアを保護するに至った経緯の部分がスッポリと抜け落ちていた。
「そこは正直私もよくわかりません……ぅ……」
「大丈夫? その異能……」
「は、はい……大丈夫です」
ヒエヒエ〜と今も冷気を放ってはいるが、アキヒロが貸した防寒期のおかげでだいぶ和らいでいる。しかし、いきなりやってきた見知らぬ少女を外に放り投げないだけの甘さというものをネルは持ちあわせていた。
「スープでも作るよ」
「…………すみません」
「文句はあの子に言うから!」
台所に向かい、無言で料理を始める。いささかの気まずさというものが2人の間から消えない中、温かくて良い匂いのするスープが出来上がった。
「!」
目の前に置かれた、とても美味しそうな料理。
確かにお腹が空いている。
気を抜けばその瞬間には手を伸ばして口に運んでしまうだろう。
ネルは肘をつくと、やや気怠げに言った。
「もうさ、なんかよく分かんないけど大変なんでしょ? ちゃんとお家見つかるまではいいよ」
「…………」
「ああもう、ほら! 泣かないの! 女の子が泣くのは男を転がす時だけ!」
「ふふ……」
「これマジだから! ……どう?」
「……ふぅ…………とても美味しいです」
「そっか。久しぶりにちゃんと作ったけど意外と私もやれるもんだね」
「──」
そういえば、と部屋を見回すと乱雑な景色が広がっている。片付けをする時間が無かったのだろうか。
「商工会って意外と忙しいのよ。だからこうして掃除も出来ずに…………男の子に養ってもらいたいよお……」
ネルは泣き出した。
「私も結婚して早くお仕事辞めたいのに、全然みちゅからないの……」
「綺麗なのに……」
「キレイなのに……みんなバカ! 玉無し! 見る目無し!」
腕を振り上げると怒りを吐露した。
ソフィアはやや恥ずかしそうに顔を伏せるが、怒気に満ちたネルはそんなこと気にする余地も無い。
「そもそも何で私が事務作業もやらなきゃいけないのよ! そんな話聞いてないもん最初は! それなのに入ったらハイこれやってハイこっちもやってって……私を何だと思ってんのよ!」
叩きつけられた拳。
ビックリした少女。
テーブルに乗っていたコップがタップダンスと洒落込んで床に落ちた。
乱雑だった床はさらに乱雑さを増し、中に入っていた液体がなすすべなくひろがっていく。
「あー!」
甲高い悲鳴と同時に伸ばした手。放置された下着に向かって液体が魔の手を差し伸べているのを阻止しようとしたのだ。
「──」
「!?」
しかし、そんな2種類の手は同時に動きを止めた。
ピタリと止まった二つ。
ネルは驚きに満ちた瞳で、起きた出来事を咀嚼しようと何度も目を瞬かせる。
「これ……これが、あなたの力?」
「…………」
「あ、ありがとう?」
「いえ……」
ソフィアは少しだけ裾から手を出し、冷気を液体に向けて放っていた。その先で液体は凍りつき、これ以上動くことなどできないようになっている。
威力も位置も高い精度にて行われた一幕。
当の本人はそれを誇ることもせずに顔を俯かせるのみで、その暗い表情に対して言及することは歳上だとしても容易では無かった。
「……誰にも言わないから」
「…………」
「信じられないかもしれないけど……誰にも、言わないよ」
「…………」
無言のままソフィアはうんともすんとも言わない。
当然だろう。いきなりが連続して、何を信じれば良いのか少女に判断できるはずもなかった。
いいや、同じ状況であれば大人にだって正しい判断などしようもない。
「お腹に物も入ったし、お風呂にしたら寝よっか」
さて、問題となるのはそのお風呂だ。
「お風呂凍らないよね?」
「はい。でも、冷えちゃうかもです」
「……私先に入って良い?」
「そ、それは……もちろんです。私の家じゃありませんから」
「そんなこと言わないで──なんて言っても薄っぺらいね。それじゃあ先に入ってくるから」
1人残されたソフィアはぼんやりと部屋の中を眺めた。
「これから……どうなるんだろう」
──────
「うみやあああああ!?」
朝、凄まじい寒気と腹痛と共に目を覚ましたネルが目撃したのはソファーに投棄された凍死体。そして、カチンコチンに凍りついた部屋。ドアノブですらパッキパキに凍り、入っただけで息が白くなる。
「な、なにこれえ!?」
眠気だって覚める。
お腹の痛さも吹き飛びそうだ。
「──と、トイレ!」
辛うじて凍っていなかったトイレに入り、腹の痛みをやり過ごした後に再びリビングに戻ると、凍死体はソフィアであることに気づいた。真っ青だった顔が、さらに真っ青になる。
「ちょっと……え、し、死んでないよね!?」
半分くらい腰が抜けかけていた。
「やだ、ねえ、ソフィアちゃん!?」
「…………う……?」
急速に弱まっていく冷気。
真っ白だったソフィアの肌に少々の紅が差したような気がした。
「──はっ!?」
勢いよく目を開けたソフィアは、周囲の状況を把握したかと思うと唇を震わせた。
「わ、私、また……」
制御下を外れた彼女の異能の脅威を目の前にして、ネルは戦慄せずにはいられなかった。鳥肌が全身を覆う。
落ち着いて声をかけた。
「ソフィアちゃん……」
「ご、ごめんなさっ! こんなつもりじゃなくて、あの、その、私は……!」
「分かってるよ。大丈夫」
しかし、大丈夫なのはネルだけだった。
少女はそんな言葉を聞いても表情が崩れたままだし、玄関の扉を叩く音が聞こえる。
『おーい! どうなってんだこりゃ!』
『大丈夫か!? モンスターとかいないよな!?』
『呼んだほうがいいか? 商工会』
「──ちょっと行ってくるから待っててね」
ネルは、部屋着に一枚羽織ると外に向かった。
「…………」
ソフィアは暫く──それこそネルが戻ってくるまでの間、微動だにしなかった。その視界に入っているのは、凍り付いた家主の持ち物の数々。仮にネルがここで寝ていたら死んでいただろう。
「いやー、アイテムが暴走したって言ったらみんな納得してくれたよ! 危ない危ない!」
「…………ごめんなさい、迷惑かけて」
「そんな謝られてばっかだと、逆にちょっと気分悪いよ?」
「……ありがとう、ございます」
「うんうん! それじゃあ朝飯にし──たかったんだけど…………火つくかな」
手こずりながら何度か試すと、ようやく火がついた。
「まさか火をつけるだけでこんなに大変だなんて……」
「……」
「ああごめんごめん! そうじゃないよ! 嫌味じゃないよ!」
──────
「──ごめんね!」
ネルは家を飛び出した。
なぜならば、家を出ないと本部への出勤の時間がギリギリになってしまうからだ。彼女は服や残飯こそほったらかしだが、仕事に対しては生真面目な性格だった。
いつもならもっと余裕を持って出るのに、なぜこんな切羽詰まったような状態で駆けているのか。
「なんで来ないのよ!」
そう、明弘を待っていたからだ。
昨夜の彼の言葉を思い出そう。
『明日また迎えに来るんで』
その言葉を信じて待っていたのだ。
しかし一向に現れないから、こんな時間になってしまった。
「まさか、留守を狙ってあんなことしてるんじゃ……」
少なくとも、ソフィアが苦しんでいるという話は信じていた。あんな光景を見てしまえば、心なく疑うことはとてもできやしない。
しかし、あの少年は別。
よく分からない動機から彼女を確保した彼が、一体何を考えているのか分からなかった。仮に自分が不在の時に家をどうにかしようと狙っているのだとしたら、相当な策士だ。
「あーもう……私は保母さんじゃないのに!」
約束を守らないガキンチョに怒りを滲ませつつ商工会に到着すると、何気なく確認した留置所に見覚えのある顔がいた気がした。
「…………気のせいだよね?」
気のせいと口に出しつつ、嫌な予感がしたので仕事中に立ち寄った。そうしてマジマジと見つめた彼女の視線の先ては、確かに昨晩も出会った顔が檻の中に閉じ込められていた。他にいるのは探索者が主だが、目付きが鋭いので意外と違和感は無い。
「……何してるの?」
「怪しいからって捕まりました」
「…………はぁ」
残念でもなく当然だったが、約束を故意に破ったわけではないという事がわかった。
「あの……」
「おや、どうされました?」
屈強な看守に話しかけると、穏やかに言葉が返ってくる。見た目とのギャップがすごい。
「あの男の子なんですけど……」
「ああ、さっき入ってきたばかりの新入りですね」
新入りとは、すでに犯罪者のような扱いだった。
商工会の思わぬ仕事の早さにショックを覚えつつ、ネルは続ける。
「あの子、一応知り合いで……悪い子じゃないので、出してあげてもらえませんか?」
「おやそうでしたか。では、申し訳ないのですが手続きはあちらでお願いします」
何故自分がこんな事を、という顔で書類に記入した。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
-
いる
-
いらない