【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「バカなの?」
アキヒロを牢屋から出して一言目がそれだった。
「いやあ、まさかいきなり牢屋にぶち込まれるとは。レベルが微妙に高いのが良くなかったのかもしれない」
野宿してるからだろうが! そう叫びそうになったが、ここはまだ留置所の中と言っていい。それに仕事中なので、早く戻らないといけないのだ。本部の外にまで連れ出したところで、道の先を指差す。
「もういいから早くソフィアちゃんのところ行って?」
「せっかく商工会に来てて、しかも…………失礼、名前なんでしたっけ」
「ネル! 目白ネル! 聞かずに帰ったもんね!」
「せっかくメジロさんが職員なんだから、調べたい事があったんですけど」
「そんなの後! とりあえず一旦はうちに戻って!」
「そう言われても……家にいるならひとまずあの子は安全じゃないですか。少しやりたいこともあるもんで」
「ソフィアちゃん悲しそうだったよ」
「え? ……多分それは気のせいですね。出会って1日の男に会えなくて悲しい人間はいませんから」
「……自分で言ってて悲しくならない?」
「なにが?」
「…………とりあえず! うち! かえる! いけ!」
「異能について調べたかったんですけどね」
「異能?」
「──これも縁か…………あの氷の力、過去に例はありませんか? 内部の人間なら調べられるでしょう?」
「図々しすぎない!? 出会ってまだ1日経ってないよ!?」
「だけど、貴方はやってくれるじゃないですか」
「──っ……?」
背筋を登る冷たさ。
ソフィアの力によってもたらされる直接的なそれとは違う、軽く撫でられたような君の悪い感覚。目の前にいる少年の容姿から得るはずの印象とはまるで違う、ナニカを感じとった気がした。
「あなたは良い人です」
「……悪い大人かもよ?」
「出会ったばかりの子供が街の外に出るとか出ないとか──そんな事を気にする必要なんてないのに、それでも貴方は気にかけてくれた。人の善性というのは、思わぬところで露呈するものなんですよ」
「…………うるさーい! うるさいうるさい! 早くいけー!」
「それじゃあ、頼みました」
「──くそお! ぼっち女をバカにして!」
熱くなった気がする顔を手で軽く扇ぎながら、内部に戻った。
「ねえ! 今の子、誰!? 彼氏!?」
瞬間的にやってきたのは同僚。男運が無いどころか枯れている彼女の近くに若い男がいるということで、すかさず肩を掴んだのだ。
「違う」
「え〜? じゃあ狙ってるだけ?」
「違う」
「……親戚?」
「違う」
「誰?」
「分かんない」
「何で一緒にいたの!?」
「成り行きで」
「成り行きで? …………じゃあチャンスじゃん!」
「そういうんじゃないし」
気のない顔をしている。
「またまた〜、顔は別に悪くないじゃん」
「そういう問題じゃないから」
席に着いても話は続く──かと思われたが、デスクを見て顔色が変わった。
デスクに乗った紙束は昨夜のうちに受付からまとめて送られてきたものだ。どの探索者が業務を受注して、どれだけの探索者が仕事を完遂してきたか。どれだけの探索者が土塊になったかを取りまとめるのが彼女の仕事だ。
下っ端の仕事である。
「あら、いっぱい! おほほほ〜っ!」
絡んでいた彼女は、一部でも押し付けられる前に逃げていった。
「はぁ……異能、かあ」
どこで調べられるかという事から先輩に聞かないといけないな、なんて思いながら仕事に取り掛かった。
──────
「悪い、牢屋に入れられてた」
「え……?」
言っている意味がわからなくてソフィアの反応は遅れたが、悪い事をしたわけではないと理解したのかアキヒロに向けられた不審な瞳の色は消えた。
「…………おお、綺麗になってるじゃん。やっぱ社会人なんだからやればできるよな、ハハ」
アキヒロが室内を見回すと、その乱れ具合は昨夜とは雲泥の差。床に放り投げられた下着類はその姿をどこかへ隠したようだ。
「それとも──キミがやったのかな?」
「……せめてコレくらいはしないと」
「そっか」
「……」
多くを喋ろうとは思わないのか、ソフィアは口をキュッときつめに結んでいる。座り込んで顔を膝に埋める姿のどこにも、未来を夢見るのが仕事の筈の幼くてキラキラとした若さは見えなかった。
「カーテンなんて閉めて……太陽浴びなきゃ骨密度が落ちちまうよ。なんなら、外でも出ようや」
「…………」
「一晩寝たら何か思いついた?」
「…………」
時雨ではないが、外では霧が濃くなったり薄くなったりを繰り返している。そんな中でソフィアが歩けば、白く薄い道が空中に出来上がるのは当然のことだった。
「目立つなあ」
ロングトレーンのように尾を引く白さは、すれ違う人々の目を奪って噂させる。
「こりゃあ……時期が悪いとしか言いようがねえや。みーんなこっち見てんだもんよ」
振り返った時に、ソフィアの歩いた軌跡を辿るように白いベールが降りていればそんな感想も出てこようものだ。しかし、それでも歩みは止めない。進むべき方向へ足を動かし続ける。
「どこに向かってるんですか?」
「海岸さ」
「海岸?」
「良いもんがありそうじゃないか?」
「……よくわかりません」
海岸にはカニがいる。
普遍的な事象だが、アキヒロは生きたままの海棲の蟹というものを生まれて初めて見た。しかも、深海でもないのに大きくてトゲトゲとしている。
「でっけえ……カンジャンケジャン何人分だ?」
「カン……?」
「でも素人がやると腹壊すからやめた方がいいな、うん」
「あの……何で海に?」
「磯風の匂いだ……ああ……懐かしいな、世界の7割はこの匂いで埋め尽くされているのに、懐かしさを覚える日が来るなんて」
会話にならなかった。
ここに来ている理由がそもそもわからない。
ソフィアにとって、海というのは思い入れの深い場所ではない。明宏も言っていることの意味はともかくとして、かなり前に来たことがあるだけのようだ。
しかし、連れてきたのであればせめて説明が欲しい。
「あの!」
「…………ここに来たことに意味はないよ。強いて言えば、俺が来たかったからだね」
「来たことがあるんですか?」
「あるといえばあるし、ないといえばない」
「…………」
「冗談だ」
面白い冗談ではなかった。
「海岸に来る人間はあまりいないらしい。そこら辺は地元民の君の方が詳しいかもしれないけど……モンスターが出ることもあるから、ということで合ってる?」
「聞いたことはあります、お父さんも何か言ってたような……」
「流れ着いたものとかないかな、なんて思ってな」
「なにがですか?」
「海はあらゆるものを運ぶ。風よりも、川よりも多くのものをどんぶらこどんぶらこって…………夢の見過ぎだな」
「…………」
「だけど……この世界なら、もしかしたら何かがあるかもしれない。そう思ったら来ずにはいられないだろう?」
憂いを帯びた瞳で海の彼方を見つめる少年を見て、まるで詩人のようだという感想を抱いてしまうのも当然だった。
「意味のない事に付き合わせてごめんな」
「いえ……」
「そんな硬くならなくていいよ。どうせ歳なんて一つしか変わらないんだからタメ口で十分だ」
「…………」
「俺は君に何も強制しない。もし……本当にどこかへ行ってしまいたいなら止めたりしない。だけどそうじゃないなら、付き合ってくれると嬉しいな」
「……はい」
「そうか! 良かった! 俺の身近なサンプルってやつが変なのしかいなくてな、どうにも普通の人間のあり方ってのがよくわからなくなるんだ」
これだから探索者は……とぼやく少年を尻目に、ソフィアは何となく指先を海に浸した。
「…………」
「おお」
触れたところからどんどんと潮水が凍りついていく。大海の果てしない懐でもその侵食を止めることはできないのか。同心円に広がる地獄が、白波の形をそのままに時を止めさせた。
立ち上がったソフィアは、悲しげに問いかける。
「これは……異能なんですか?」
「……わからない。俺はそこまで異能やらに詳しいわけじゃないからね…………もう一度聞くけど、君は探索者じゃないんだよな?」
「はい」
「異能ってのはどれもそんなに強力なもんなのかね」
「……お父さんは火の力を使うことができました」
「!」
「お母さんは…………確か氷、だった気がします」
「真逆だな」
「これって関係あるんですか?」
「さあ。だけどネルさんにも伝えた方がいいかもな」
「…………」
「そんな警戒しなくていいよ、あの人はいい人──いや待て…………ははは! 俺も2日目だった!」
出会って2日目の明宏と1日目のネル。
ネルに対する信用判定をソフィアに押し付けるには、そもそも自分自身の信用度が足りていないという事実に思い至り、笑いがこみあげて止まらなくなった。
「ああ、バカだな俺って!」
放っておいても勝手に楽しくなるのだから、安上がりな男だ。
「アテがない! 知識もない! なんてまっさらなんだ、俺は!」
「──」
「これじゃあ本当に普通の少年みたいだ! なあ!」
先行きに対する不安など抱いていないとでも言うように笑っている。しかもソフィアに向けた眼差しの強さたるや、彼女の冷え付きすら溶かして肉を焦がしそうだ。
「久しぶりの難題だからな……もしかしたら留年かもしれないな!」
「え」
「使えるものをフルで使うぞ!」
端末を片手に、どこかへと連絡を取り出した。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない