【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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10_学校は!?

 

「いや学校は!?」

 

 ミツキは驚きに満ちた声で突っ込んだ。もちろん、ツッコミの対象はこの場にはいない。加賀美邸(ボロ屋)明宏室(ボロ部屋)で部屋の持ち主が帰ってくるのを楽しみに待っていた挙句に寝落ちして目を覚ました彼女が放った一言だった。

 

「……朝だよ」

 

 気だるげに壁をノックする(アカネ)は絶賛反抗期で、父親(エリック)にも母親(明美)にも(明宏)に対してもナイフを尖らせているが、ミツキだけには多少柔らかかった。

 小心者のミツキは妹分からナイフが飛んでこないことを喜びつつも、まだ家族判定じゃないことに若干の寂しさを覚える。

 

「……帰って来ないじゃん、やっぱり」

 

 ──最初から嫌な予感がしてたんだよ! 連休だっていうのにハイパープリチー幼馴染こと私の言葉を蹴って第一セクターなんぞに観光と洒落込むっていうんだから! その挙句、予定日になっても帰って来ないし! 

 

「おはよー……」

 

「あら、おはようミツキちゃん」

 

「ミツキちゃんおはよう。ちゃんと眠れたかい?」

 

 狭くてボロいリビングでは優しい義母と義父(予定)が朝ごはんを準備してくれていた。硬くて味のしない素朴なパン、とってきたばかりのベリー、噛んでも噛み切れない野草、ジューシーで油の滴るお肉(どっかの誰かさんが取ってきた獣の肉)

 普段食べるものとはまるで違う加賀美家の朝食が、ミツキは大好きだった。

 

「ごめんね、いつもこんなものしか出せなくて」

 

「ううん! ありがと!」

 

 少しだけ頬のこけた明美と、少しだけ頬のこけたエリック。瞳の色は母親譲りだが、その奥を覗き込んでもアキヒロのようなギラギラとしたモノは感じられない。とても血が繋がっているとは信じられないが、アキヒロ自身は間違いなく自分の両親だと宣言していた。

 

 パンを噛むと、パサパサとした食感が水分を奪っていく。自生している穀物の実から作ったという。これまた自生しているベリーから作った大して甘くないジャムを塗ると多少はマシになるが、ソレでも飲み込むのは一苦労だ。

 

「み、みず……」

 

 アカネは隣で死にそうになっている。

 

「はい」

 

「んぐ……んぐ……!」

 

 水を渡すと必死に飲み干す。

 兄弟のいないミツキにとってアカネは妹のような存在だった。アキヒロは兄みたいなものだが、兄になってほしいわけではないのでそこはいいだろう。

 

「このままミツキちゃんがうちの子になってくれればいいのにねえ」

 

「えへへ、なっちゃおうかな」

 

「……ねえアナタ、本当にあのバカと交換しない?」

 

「コウキ君がなんて言うかな」

 

「勝手にもらっちゃいましょうよ」

 

 ご飯を食べ終えると高校に向かわなければならない。当たり前だ、15歳なのだから。

 

「はあ……嫌だなあ……」

 

 寝巻きを放り投げ、掛けてあった制服に着替える。

 鏡を見て気に食わない寝癖と格闘すること30分、ようやく納得がいく状態に収まった。

 

「……うん、大丈夫」

 

 これだけ貧乏なのにアキヒロの服には皺ひとつない。

 よく分からない鉄製の器具に熱した石を入れて服に押し当てるという作業を好んでおり、実際やるとシワが消えるのだ。本人はソレを当たり前の常識だと語っていた。

 

『──んああっ!』

 

 彼の前で服のシワを見せれば、即座にシワを消される。これがマジックだ。

 

「ふぅ……」

 

「無理して行かなくていいんじゃない? アキヒロも言ってたよ、めんどくさかったら家にいりゃえーねんって」

 

「なにそれ……」

 

 気を重くしていたところにアケミがやってきた。

 

「行かないならコウキさんに連絡だけしておいてね」

 

 それじゃあ、とアケミは川へ洗濯に向かった。

 家にいるのはエリックのみ。

 アカネは既に家を出て学校に向かっている。違うセクターにあるので列車必須だ。

 

「おや、まだいたんだね」

 

 エリックがメガネを傾けながらノッソリと歩いている。常に痺れているという左脚を庇って歩くせいで、モサモサとした動きになっていた。

 

「エリックさんはまた会社潰れたんだっけ?」

 

「あっはっは……なかなか思い通りには運ばないね、人生は」

 

「……アキ、帰って来ないけど良いんですか?」

 

「第1セクターにいるってわかってるから十分さ」

 

「…………」

 

 雰囲気の尖り方はまるで違うが、加賀美エリックという男は、その心の落ち着き方の大海が如き様が息子に受け継がれているようだった。

 

「心配してくれる人間が1人、シッカリといてくれるだけで男ってのは落ち着くんだよ」

 

「ふーん?」

 

「それに……アキヒロは僕が止められるようなやつじゃない。止める気も無いし」

 

「心配じゃないの?」

 

「学校は大丈夫かい?」

 

「……あ!」

 

 遅刻です。

 

 

 ────―

 

 

「はぁ……うぅ……」

 

 校舎にはたどり着いた。

 既に閑散とした敷地内の空気と、窓から覗く生徒たちの顔。幾人かはこちらを見下ろしている。

 しかしここまで来ておいて、ミツキは帰りたくなった。

 

「うー……」

 

 足が踏み出せない。

 教室までどうやって歩いて行っていたかすら、ハッキリとは思い出せなかった。

 そうやって足踏みをしている彼女の横を誰かがすり抜けて行った。

 

「ぴっ……!」

 

「…………」

 

 驚きからミツキが漏らした声に反応して立ち止まる。

 

「は、はわわわわ……」

 

「ちっ」

 

 不快そうに眉根を寄せてチラ見すると、ひとつ舌打ちをした。

 

「ヨツカドのお嬢様が遅刻かよ」

 

「──」

 

 捨て台詞を聞いて頭が真っ白になったミツキが正気に戻る頃には、既にその姿はなかった。

 

「じ、自分だって遅刻してるくせにぃ……!」

 

 ブツクサ言いながら教室に向かう。結果的に、悪態をつかれたことに対する憤りで恐怖は無くなっていた。

 

「……し、しちゅれーします……っ!」

 

 しかし、扉を潜るときには既に元通りのミジンコに戻っていた。誰にも気付かれませんようにと祈りながら部屋に入るが、当然のように視線は彼女に集中する。

 

 それも、すぐに離散した。

 

「ほっ……」

 

 そそくさと席に座る。

 何の授業をしているのか。

 

『はい、ドラゴンです』

 

 生物基礎だ。

 ドラゴンの挿絵が描かれたページを開いて、皆が食い入るように見ている。

 

『皆さんがお目にかかる機会はおそらくないでしょうが、仮に尻尾だけでも見る機会があれば命はないものと思ってください』

 

 ドラゴンに限らず、モンスターに出会したら人は死ぬ。ミツキはその事を父親からよく言い聞かされていた。幼馴染も同じはずだが、そんなの関係ねえ! と外に飛び出すのが趣味なのだ。

 

『これはコモドドラゴンの絵です。歴史の授業でも習ったでしょうが──ビル、つまり第一期の建造物群が浮かび上がって形成された遺跡でもあるスカイレイピアにコモドドラゴンが多く生息しているというのは、良く知られた話ですね』

 

 そこで、先生がミツキに薄く視線を向けた。

 

『勘違いする人が多いので言っておきますが……コモドドラゴンは数が多い事で有名なだけで、決して弱いモンスターではありません。商工会が作った指標であるレベル──覚えていますね?』

 

『あ、はい……あれですよね? なんか数が大きいほど危ないやつ』

 

『……まあ、概ね間違ってはないので良いでしょう。ですが後でちゃんと魔素学の復習をするように』

 

『えー……』

 

『コモドドラゴンのレベルはおおよそ50と言われています』

 

 50という数字を聞いて、多くの学生がピンと来ていない顔をしている。

 

『この数字の意味が分かる人は意外と少ない。そこで今日は、レベルの正しい意味というものを改めて説明しましょう。生物学とは少々ズレているんですけどね……まあ、そこは見逃してください』

 

 黒板に向かうと、カッカッと小気味のいい音を立てながら文字を書く。

 

『レベル0〜5が一般人、レベル6〜10が研修生、11〜20は初級、21〜40は3級、41〜60が2級で61から先は1級という区分になっています』

 

 レベル0〜5 :一般人

 レベル6〜10 : 研修生

 レベル11〜20 :初級

 レベル21〜40:3級 

 レベル41〜60:2級

 レベル61〜99:1級

 

『皆さんはこの一番最初の、一般人という括りにいるわけです』

 

 ソレを聞いて、数人は不満げに眉を顰める。

 

『レベルというのは、その人間や生物がどれだけ魔素を肉体に取り込んだかで決まります。なので、レベルが低いからといって人間として才能が欠けているとかそういうことではないですので、そんな顰めっ面をしないように』

 

『──はい!』

 

『どうぞ』

 

『魔素って確か空中にあるんですよね? そしたら、息をしてたら勝手にレベルが上がるんですか?』

 

『そうですね……上がるというのが定説ですが、街の中で普通に生活していて一生に取り込む量の上限値くらいなんじゃないかと考えられているのがレベル10、研修生という位置です』

 

『私って今いくつなんですか?』

 

『それは商工会の受付で測ることができます。探索者以外は使用料を取られますが誰でも測ってもらえますよ。ちなみに私は12です、フィールドワークも多少やるからかもしれませんね』

 

『商工会かあ……じゃあいーや』

 

『このレベル0というのはつまり、魔素を取り込まない純粋な物体である事を意味しています』

 

『そんなのあるんですか?』

 

『先生は見たことがないです。なので、アナタたちが大学に進んで見つけてください』

 

 ミツキは、全ての物体をレベル0にすればダンジョンやモンスターが消えるから牧場がどうのこうのと幼馴染が言っていた事を思い出した。

 

『大学かよー』

 

『大学は金持ちしか行かねーもんな』

 

『俺は行くよ?』

 

『ギャハハハ! せめて勉強しろよ!』

 

 ざわつく室内を暫く見ていた老先生は、再び教科書に目を落とす。

 

『えー、それではもう一度47ページを開いてください。レベルと魔素、というものと生物の結びつきが描いてあると思います』

 

 魚だ。

 鱗が刺々しくなり、足が強靭になり、地上での呼吸が可能になり、口から炎を噴くようになり、と変化していく様が描かれている。

 

『ここに描いてあるのはあくまでイメージなので、実際にこのようにして変化していくわけではありません。どういうことかというと、生物の変化というのは画一的ではないんですね。途中まではある程度の幅の中で変化をするんですが、レベルが高くなると異常変異とも呼べるような大きな変化を起こすことがよくあります。そのせいで、人類の予測もつかないような変化を起こしてしまうんですね』

 

 ──ミノタウロスは牛から派生しているのは間違いないけど、絶対に牛の味じゃない! あいつら普通に肉とか食うんだろ! 

 

 父親(光輝)幼馴染(明宏)に対して牛が食べたいなら牛系のモンスター狩りまくればいいと言った時の話を思い出した。

 

『この絵というのは概ねレベル30〜40程度までの変化じゃないかなと思いますね』

 

『90とか60とかのモンスターはなんで描いてないんですか?』

 

『さっきも言った通り、高レベルのモンスターというのは想像がつかないんですよ。これを描いた人も同じように考えたんじゃないですかね』

 

 改めてドラゴンのところへ話が戻る。

 

『ドラゴンのレベル50という数字は、私たち人間の尺度で考えればあり得ないくらいの量の魔素を取り込んだ結果です。例えば、身近なモンスターとしては空を浮かぶアーチボルト(電気ナマズ)がいますね。アレのレベルは40前後ですが、その理由としては上空の強烈な風によって凄まじい勢いで空気とそれに混じった魔素がぶつかるからだと言われています』

 

 小難しい話が続いていく。

 

『残念なことに、現代においては実証実験と呼ばれるものを行うのは極めて難易度が高いという現実があります。第一期ではあらゆる実験をいかなる時でもいかなる人間でも行えたという話が伝わっていますが──』

 

 小難しい話に促されて、意識がだんだん奥へと沈んでいった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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